ダーク・ウィンド [c o m i c]
「忍法十番勝負」 解説
熊笹吉右衛門は「大殿さまと鷹丸さまを殺した真の下手人は鷲丸さま」だと言う。十数年前に奥方は双子の男子・鷹丸と鷲丸を産み落とした。母君は出産2日後に産褥死。お庭番頭速手の五臓が鷲丸を処分する下知を受けたが、2度と城には戻らなかった。五臓が死に際に出生の秘密を鷲丸に告白し、復讐を誓ったというのが熊笹の見立てだった。それでも身代わりを頼んだのは大殿が申請した城の後継ぎを認可する書状を子息自らが江戸へ拝受しなければならなかったからだ。白滝城三万五千石の存亡をかけて、城主になって欲しいという家老の願いを鷲丸は一笑する。大殿の逝去。鷲丸は馬を疾駆させて城から脱出する。後を追った熊笹は鷹丸の墓に脱ぎ捨てた若殿の衣を発見する。忍者たちが鷲丸に襲いかかり、小さい頃からの仲間、大岩、小岩、霞(五臓の娘)が加勢する。逃げる忍び者から催眠術で黒幕の名前を聞き出した荒鷲(鷲丸)は霞姉さんや熊笹に説得されて、白滝城に戻ることを決断する。
鷲丸は額に弓矢が刺さった鷹丸の生首に扮した仕掛けで家臣・二木弾正の悪事を暴こうとする。含み針で目を潰された弾正も毒を盛ろうとした腰元と同じく、投げ短剣で刺殺されてしまう。弾正は黒幕ではなかった。鷲丸は熊笹に懇願されて、花嫁候補の奈美姫とデートすることになる。彼女を抱いて馬で遠乗りし、大滝へ行く。木陰で休んでいる2人に二木弾正の娘しのが短剣で襲う。父上の仇討ちだった。鷲丸は「自害したら殺すぞ」と脅かして放免する。小岩の密偵にもかかわらず、真の黒幕の正体は掴めない。鷲丸は駕籠に乗って、参勤交代の行列のように飛騨から一路江戸へ向かう。崖から大きな岩石が多数落下して、駕籠は潰れてしまうが、そもそも若殿は乗っていなかった。行列から離れた荒鷲は大岩、小岩、霞と共に江戸を目指す。病身の母上に武者修行から呼び戻された二木剣之助は妹しのと父・弾正の恨みを晴らすために行列を見張っていた。仇討ちの助っ人をしたいという男が「鷹丸は行列の中にはいない、振袖袴の小姓姿で’中山道を一人旅している」と剣之助に吹き込む。
二木の若造を焚きつけた野狐の権次が黒幕と思しき死面妖鬼と茶屋で落ち合う。死面は3人の素浪人を金で雇って、旅の女を斬って欲しいと頼む。鷲丸が辻斬りから逃げる女を救い、3人を斬り捨てる。一人旅が怖いという女に懇願されて、鷲丸は江戸までの道中を女と同行することになる。宿の露天風呂で入浴中、2人の刺客に水中弓で襲われる。大岩と小岩が加勢し、1人を捕らえて部屋に戻った鷲丸は毒の粉を混ぜたロウソクの火で倒れる。ところが旅の女(くの一)が留めを刺した男は鷲丸ではなく、恋人の雄鹿だった。逃走する父ふくろうと娘を大岩と小岩が待ち構える。大岩の大斧が父親の首を刎ねる。憎悪に燃えた娘ヒグミの目に動揺を隠せない鷲丸。権次が二木剣之助と妹しのを手引きする。飛騨街道から中山道へ続く橋の上で待ち伏せしていた人足たちが霞を足止めする。二木兄妹の仇討ち。鷲丸の飛鳥剣が剣之助の右眼を斬る。娘の目を見て憐れんだ鷲丸は2人を斬り捨てられなかった。
野狐の権次が二木剣之助と妹しのの仇討ち失敗を死面妖鬼に報せる。そして2人は権次の跡を尾けて来た大岩・小岩と対決することになる。小岩の八方縄クモ縛りは死面の鬼火殺法冥土送りに敗死し、野狐は大岩に刺殺される。鷹丸の死を確認する役目の使者2人が死面の暗殺失敗を咎める。死面の放った新たな刺客・三匹の猿(見ザル、聞かザル、言わザル)と鷲丸、大岩、霞が決闘する。ミザルの忍法煙じめが霞、キカザルの無音関節はずしが大岩、イワザルの霧火車が鷲丸を襲うが、唐天竺からの流れ者の秘術を見切った3人が死闘に勝利する。イワザルの腹に巻き込んでいた皮袋の毒液を浴びた鷲丸は意識を失う。雨と谷川の水が毒液を洗い流す。父親を殺されたヒグミと剣之助が協力して仇討ちの機会を待つ。手負いのミザルとキカザルが大岩と霞を誘き出し、瀕死のイワザルがヒグミと剣之助に「鷲丸を殺るのは今だ」と助言する。再度の仇討ちだったが、鷲丸は2人を斬らずに刀背打ちにした。
死面妖鬼の奸計で鷲丸と大岩、霞の3人を民宿に誘い込む。閉じ込められた部屋の天井から岩が落ちて来る。そこは手裏剣、落とし穴、飛び槍、巻びし、串刺し壁挟みなど、カラクリ仕掛け満載の忍者屋敷だった。土蜘蛛七人衆が火を放って屋敷を全焼させるが、焼け跡を一晩調べ回っても鷲丸たちの焼死体が見つからない。仮死状態で地中に潜んでいた大岩が刀を突き上げて七人衆の1人を刺殺し、大斧で2人目の首を刈る。鳥の大群に襲われた鷲丸が3人目を斬り、羽蟻の攻撃から沼に逃れて水中で4人目を倒す(渦巻く水流が鷲丸の刀を巻き込み、自らの水中術で自滅した)。その死体を身代わりにして水中から脱出して、樹上で5人目を居合斬りする。1人を殺ったという霞が突然背後から鷲丸に襲いかかる。6人目の忍者が変身の術で霞姉さんに化けていたのだ。土蜘蛛七人衆のラスボス死面との最終決戦。鬼火殺法(幻視の術)の応酬。鷲丸と死面は術を使わず、真剣で決着をつける。顔面を割られて素顔が露わになった死面の正体とは? 鷲丸も読者も仰天する驚天動地の結末が待っていた!
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「忍法十番勝負」 の解説では触れられていないが、少年マンガやTVドラマの 「大忍者ブーム」 の裏には60年代にベストセラーとなった山田風太郎の 「忍法帖シリーズ」 があった。敵対する忍者たちが巻物(大阪城の抜け穴の絵図面)を奪い合うというストーリは伊賀・甲賀各10人の名前を記した2つの巻物を争奪する忍法帖シリーズ第1作 「甲賀忍法帖」(1959)の発端そのものである。横山光輝の 「伊賀の影丸」(1961-66)は 「風太郎忍法帖」 から、その後の青年マンガ(劇画)の重要なテーマとなる卑猥なセックスと血腥いヴァイオレンスを払拭して、子供向けに翻案した少年マンガだった。忍法十番勝負 「九番勝負」(冒険王 1964)から5年後、少年マンガ誌に連載された 「闇の風」(週刊少年サンデー 1969)の画力には目を瞠る。登場人物の表情、斬新なコマ割り、立体的なアングル、アクション描写などで飛躍的な向上を遂げているからだ。惜しむらくは1年前同誌に連載されていたSF・オカルト・コミック 「ブルーゾーン」(1968)と同じく、未完で終わってしまったことである。
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- 「石ノ森章太郎萬画大全集 4-11・12」(角川書店 2006)をテクストに使いました
- 「忍法十番勝負」(秋田書店 1966)の中では 「七番勝負」(白土三平)が出色です^^
- 黒幕(二木弾正)の黒幕(死面妖鬼)の黒幕は?‥‥実行役→仲介役→指示役みたいな
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- 著者:堀江 卓 / 藤子 不二雄 A / 松本 零士 / 古城 武司 / 桑田 次郎 / 一峰 大ニ / 白土 三平 / 小沢 さとる / 石ノ森 章太郎 / 横山 光輝
- 出版社:秋田書店
- 発売日:1966/09/26
- メディア:コミック(サンデーコミックス)
- 内容:徳川家康の大阪城総攻撃を前に、影の存在たる忍者たちが徳川方も豊臣方も入り乱れ、とある巻物の壮絶な争奪戦を展開する活劇コミックス。その巻物には攻め手側、守り手側いずれにとっても戦いの勝敗を左右する大阪城の抜け穴が絵図面として記されていたのだ
2024-05-01 00:06
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