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ネコ・ログ #70 [c a t a l o g]

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  • たまたま近所の散策の途次、野良猫の孤児を見つけ、餌をやるようになったのが、ほとんど唯一の生あるものとのぬくもりを伴う触れ合いになった。ペット禁止のマンションに暮らすので住まいにもちこむわけにはいかなかったが、猫が家族以上の家族になるという意味は、遅まきながら、このような異常事態になって初めて、身に沁みて感得できるところとなった気がした。/ 野良猫への餌やりに加え、ボナールと猫について考え、書くことは、コロナ禍のなかを生きぬく支えにもなった。/ ウィルスに対抗するのはワクチンかもしれないが、コロナ禍に起因する精神的ダメージに抗するには、猫のこと、猫にまつわる絵画が、ひどく力になってくれるのだ。そうしたことを、本来ならば、真っ先に猫姫に会って告白したいところだったが、猫姫との間も音信不通に近い状態が続き、ともかくも、ボナールの猫絵についてまとめる私の文章が猫姫にとっても慰藉になることを祈りつつ、筆を進めたのだった。
    多胡 吉郎 「猫は 「超家族」! あなたなしには生きられない」


  • #622│ゴト│飼い猫 ── ずっとお線路で暮らしてる
    ジュディス・ロビンソンは「シャーリー・ジャクスンの独特な閉塞感がただよう小説『ずっとお城で暮らしてる』のなかで、純粋に無垢な存在は猫のジョナスしかいない」と『名作には猫がいる』(原書房 2022)の中で解説している。メリキャットが修行中の魔女ならば、ジョナスは使い魔の役どころだが、妹に寄り添うリアル・キャットとして描かれている。「短歌ムック ねむらない樹 vol.7」(書肆侃侃房 2021)で、「偏愛の20冊」 に選出した幻想小説の若き騎士・川野芽生は《この世という生き地獄を幻想の力で乗り越えていく者は、共同体から狂人として追われようと構わない。悪意に満ちた外界に背を向け、姉妹が閉じ籠るお城の世界は、誰が何と言おうと幸福で美しい》と書いている。キャット・ウーマンのような黒マスクの三毛ちゃんもジョナスのように本来のネコらしく、ずっと沿線(東京さくらトラム都電A**川線)で暮らしています。女飼主にだけは「お手」をするそうですが。

    #623│ミス│飼い猫 ── スコちゃんおいで
    民家の窓辺で、レースのカーテンの狭間から三毛ネコ(スコティッシュ・フォールド)が外を眺めていた。スコと目が合って、暫し見つめ合う。呼びかけて手招きするも微動だにしない。相手を容貌で視認しているのかもしれないと気づいてマスクを外す。少し逡巡していた後、横を向いて窓から姿を消す。飼い主が玄関ドアを開けるとネコが出て来た。スコちゃんの跡を追うように「チビ三毛」も跳び出て来る。30分ほど三毛ネコたちと戯れて写真を撮った。まだ馴れていないチビ三毛を隣家の鉄扉越しに撮っているうちに、スコちゃんの姿が消えた。向いの民家(数年前、ノラネコを撮っている時に、バックの外壁を撮るなと言われた鬼門)の裏に入り込み、コの字型に家屋の右奥へ回り込んで鉄扉の前で立ち往生していた。細い隙間を塞いでいる鉢植えを横にずらすと、スルリと通り抜けて帰途に着く。最近は滅多に外に出なくなったのに珍しいと、玄関前で女飼主が近所の住人に話していた。

    #624│ピノ│飼い猫 ── 引っ込みじにゃん
    ハリー&ヘレン・ハンター夫妻に飼われているスーパー仔猫ガミッチ(Gummitch)は2人のことを 「馬肉のせんせい」 「ネコちゃんおいで」 というニックネームで呼んでいる。ハリーが馬肉を食べさせてくれる先生(Old Horsemeat)だから、ヘレンがガミッチを 「Kitty-Come-Here」 と呼ぶことから。久々にミスちゃんとチビ三毛ピノの写真が撮れた。レースのカーテンの狭間から外を眺めているミスちゃんと目が合ったので、マスクを外して、「スコちゃんおいで」 と手招きすると暫し逡巡した後、玄関ドアから外へ出て来た。ミスの後を追うように、引っ込み思案のピノも跳び出て来る。まだ馴れていないけれど、隣家の鉄扉越しなので安心しているのか逃げない。ネコが視覚や聴覚で対象を識別して行動を起こすのは過去に会った人のことを憶えているから。数カ月も会っていなかったのに、ちゃんと記憶しているのだ。その時の行動を判断する基準(行く、無視する、逃げる)は一体どこにあるのだろうか。人嫌いのノラネコは対面するや否や走って逃げ去る、人懐っこい飼いネコならば初対面でも跳んて来るけれど。

    #625│サブ│飼い猫 ── 喧嘩上等にゃん
    A**遊園バラ花壇で出合った少年に案内してもらった猫屋敷。東京さくらトラム(都電A**川線)を跨いだ向こうに20匹ものネコたちを飼っているという家を再訪した。「猫屋敷のネコ」 として撮った2匹の外ネコ(セヴとアル)のどちらかと思ったけれど、画像データ(SDカード)をに取り込んだノートブック(MacBook Pro)で確認したら別猫28号だった。口元を歪ませて眼(ガン)を飛ばす好戦的な表情はルイス・ウェインの描いた意地悪そうなネコを想わせる。伝記映画 「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」(The Electrical Life of Louis Wain 2021)に主演したベネディクト・カンバーバッチは画集『ルイス・ウ ェインのネコたち』(青土社 2023)の序文で《まず、彼はわれわれの猫の見方を変えた。彼の作品と猫に対する献身によって、たんなる鼠捕りと見なされていた猫は、たぐいまれで謎めき、おもしろく、凶暴でいて愛情深く、独立心が強いなど、じつにさまざまな面をもつ猫科の友となり、いまもその地位を保っている》と綴っている。

    #626│ミロ│地域猫 ── サンシャイン・キャット 1
    〈ネコ・ログ #59〉で紹介したように、サンシャイン・シティ裏の「H**中央公園」に数匹のネコたちが棲息している。飼いネコではないのに皆さん首輪をして、固有の名前で呼ばれている。自由気ままなネコたちの立ち振る舞いから、毎日ヴォランティアが手厚く世話をしている様子が窺える。この公園に行けば確実にネコ写真が撮れるので、酷暑の夏や厳寒の冬場などのネコ枯れ時季に頼れる数少ない「ネコ・スポット」である。茶トラやサバトラ、白黒ハチワレなど、毛並みも多彩で見飽きない。その中でも黒ネコのミロちゃんは一番馴れていて、毛並みを撫でられても大人しくしている。先日出会った時は怪我をしたのか、頭部を保護するための白いフードを被っていた。白と黒のコントラストがヘッドドレス(ホワイトブリム)を着けた可愛い「猫メイド」のように見えなくもない。

    #627│アサ│地域猫 ── サンシャイン・キャット 2
    中央公園のネコたちはヒトに付かず離れず、適当な間合いを取っているので撮りやすい。目が合うや否や逃げ出す用心深いネコはもちろん、逆に足許に纏わり着いて来る人懐っこいネコも意外に撮り難かったりする。馴染みのヴォランティアには抱かれるネコもいるけれど、段差の高い植え込みの中に隠れてしまうネコもいる。「サンシャイン・キティ 3」 に、《サンシャイン・シティ裏手のH**中央公園は高い樹木が林立し、奥にあるカスケード風の池の水は抜かれている。東京拘置所跡地という場所柄が心理的にも影響しているのか、鬱蒼とした公園は「サンシャイン」という明るいイメージからは隔絶されている》と書いたが、ネコたちにとっては「聖地」なのかもしれない。植え込みの陰に隠れていた白猫のアサちゃんを撮った。吊り目なのに口が「ヘの字」なので、相殺されて穏やかな表情に見える。「ネコの福笑い」 みたいで可笑しい。

    #628│マロ│地域猫 ── サンシャイン・キャット 3
    白黒ハチワレのマロちゃんはチョコチョコと動き回る活発なネコ。公園の石畳を徘徊し、植え込みの奥に消え去ったかと思うと、暫くして思わぬところから姿を現わす。落ち着きがないのは好奇心旺盛だから。まだ若い子猫なのだろうか。サイドバーで愛嬌を振り撒いている 「サンシャイン・キティ」(Sunshine Kitty)はトーヴ・ロー(Tove Lo)さまのヴァーチャル・ペット。明るく暖かい陽光を思わせる黄色い子猫である。「T**区立図書館」 のイメージ・キャラクターは駒込(馬)、巣鴨(地蔵)、池袋(汽車)、目白(メジロ)、千早(キツネ)、雑司が谷(ゾウ)のように、名称や地域に由来するものになっているのだが、サンシャイン・シティと地下通路で繋がっているT**区立中央図書館のキャラがコアラなのは謎である。旧中央図書館が都電向原駅近くにあったことからの駄洒落(むこうはら→むこあら?)ではないかと思われる。サンシャイン・シティの傍に移転したのだから、Y**分室の黒ネコ「やんにゃん」を見習って、「サン・キティ」 に変更したらどうかしら?

    #629│ニジュ│ノラ猫 ── 新二重面相にゃんこ
    I**駅前公園で暮らすネコたち。その中でも顔面が左右、茶色と黒に分かれた三毛は「イチゴ」ちゃん以来の二重面相にゃんこである。モンドリアンの抽象画のように幾何学・直線的な模様になっているところに惹かれるが、仲間のネコたちはニジュの容姿を面白がって揶揄ったりはしない。ヒトが自分の肌や髪の色を気にするように、ネコは毛色や配色に頓着したりしない。モノトーンの灰ネコがカラフルな三毛になりたいとか、黒ネコが白い肌(毛並み)に憧れたり、青い目が欲しいなどとは決して思わないのだ。駅前公園のネコの目と鼻の先にある映画館「新文芸坐」が配布しているパンフレット 「しねまんすりい」 の表紙に駅前公園のネコが載っていた。「I**の猫18」 とあるので、シリーズ化していると思われる。ちなみに 「しねまんすりい」(2023年6月)の表紙は膝乗り三毛のアンちゃんが飾っている。

    #630│モネ│ノラ猫 ── ネット越しのネコ
    4月某日、K区立中央公園に暮らすネコたちを世話している夫妻に同行して、広い園内のどこにネコが棲息しているのか案内してもらった。夕食時間を知らせる鈴を鳴らすと、どこからともなくネコが姿を現わす。グラウンド裏にいた2匹の黒茶縞ネコは初対面なので警戒していたが、鷹揚な茶トラを何とか撮れた。『ネコはここまで考えている』(慶應義塾大学出版会 2022)によると、ネコは重力があることを体感的に理解しているらしい。テーブルの上の食パンが下に落ちること(「ジャムつきトースト・パンの落下に関する考察」 参照)や自分の躰が高所から落下することは分かっているという。それだからこそ空中で我が身を翻して見事に着地出来るのだろう。対象との一定の距離を保って警戒しているネコも両者の間に障害物があると近づいても後退しないのはネコには潜れてもヒトには通れないことを視認しているからではないか。重力と距離、縦と横の空間をネコなりに掌握しているのだ。グラウンド内に入り込んだモネちゃんをバックネット越し(薄緑色の斜帯は前ボケのネットフェンス)に撮った。アップで撮れるくらいまで近づいても安全地帯から逃げ出したりしない。

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    各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第70集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。今までに延べ630匹のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。第70集の常連ネコはスコ三毛のミスちゃんとピノちゃん。『猫を描く』(現代書館 2022)は古今東西の名画の中に描かれた猫を探す「猫画集」だが、その種のネコ本とは一線を劃す。某誌に美術エッセイを連載している著者(私)の見解を猫に関しては博覧強記の「猫姫」と称する女性が補完する構成になっているのだから。絵画、エッセイ、小説(猫姫は架空人物?)が混然一体となった1冊で三度愉しめる猫本なのだ。ルーヴェンスやフェデリコ ・バロッチなど泰西名画の 「受胎告知」、猫画家ルイス・ウェイン、江戸の猫絵師・歌川国芳や歌川広重、「源氏物語」 など浮世絵の美人画、「吾輩は猫である」 の挿絵、ルノアールやボナールの描いた猫たちも登場する。

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    • 記事タイトルの右に一覧リストのリンク・ボタン(黒猫アイコン)を付けました^^

    • オリジナル写真の縦横比は2:3ですが、サムネイルは3:4にトリミングしました

    • 「9分割ナンバー表」 の背景画像を白黒からカラー(写真の左上部分)に変更しました

    • 「701匹ニャンちゃん大行進!」 のリンク・ボタンを「肉球アイコン」に変更しました
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    猫を描く 古今東西、画家たちの猫愛の物語

    猫を描く 古今東西、画家たちの猫愛の物語

    • 著者:多胡 吉郎
    • 出版社:現代書館
    • 発売日:2022/11/30
    • メディア:単行本
    • 目次:『受胎告知』に猫がいる! 泰西名画の猫探し / 生きた、愛した、描いた。猫に殉じた男 / ええじゃないか! 猫づくしの大奮闘 / 江戸流も韓流も、東アジアは猫だらけ / 二十二匹の猫が大集合!『吾輩は猫である』の秘密 /「史上最強の猫絵!」スウィート・ホームには猫がよく似合う / 猫は 「超家族」! あなたなしには生きられない

    名作には猫がいる

    名作には猫がいる

    • 著者:ジュディス・ロビンソン(Judith Robinson)/ スコット・パック(Scott Pack)
    • 出版社:原書房
    • 発売日:2022/12/20
    • メディア:単行本(ソフトカヴァ)
    • 目次:はじめに / 有名な猫 / 古典の猫 / 詩の猫 / 児童文学の猫 / しゃべる猫 / 作家とその猫 / SFの猫 / ノンフィクションの猫 / 英米文学以外の猫 / おわりに / 訳者あとがき / 注 / 参考文献 / 索引

    ずっとお城で暮らしてる

    ずっとお城で暮らしてる

    • 著者:シャーリィ・ジャクスン(Jackson Shirley)/ 市田 泉(訳)
    • 出版社:東京創元社
    • 発売日:2007/08/25
    • メディア:文庫(創元推理文庫)
    • 内容:あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄チャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人...

    ネコはここまで考えている 動物心理学から読み解く心の進化

    ネコはここまで考えている 動物心理学から読み解く心の進化

    • 著者:高木佐保
    • 出版社:慶應義塾大学出版会
    • 発売日: 2022/09/17
    • メディア:単行本
    • 目次:動物はどのように考えるのか / ネコはどこまで物理法則を理解しているのか / ネコは "声" から "顔" を思い浮かべるのか / ネコは "どこに" "何が" を思い出せるのか / ネコの思考能力はどのように進化したのか / あとがき / 初出一覧 / 参考文献 / 注・巻末図版 / 索引

    跳躍者の時空

    跳躍者の時空

    • 著者:フリッツ・ライバー(Fritz Leiber)/ 中村 融・朝倉 久志・深町 眞理子(訳)
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日:2010/01/21
    • メディア:単行本
    • 目次:跳躍者の時空 / 猫の創造性 / 猫たちの揺りかご / キャット・ホテル / 三倍ぶち猫 /『ハムレット』の四人の亡霊 / 骨のダイスを転がそう / 冬の蠅 / 王侯の死 / 春の祝祭 / 編者あとがき──ライバーの魔法

    ルイス・ウェインのネコたち

    ルイス・ウェインのネコたち

    • 著者:クリス・ビートルズ
    • 出版社:青土社
    • 発売日:2023/02/16
    • メディア:大型本
    • 目次:ルイスになって / ルイス・ウェイン序論 / キャットランド / ルイス・ウェインの初期の名声 / 「犬のようにして崇高」 / わたしの猫の描き方 / ペットの世界 / 動物たちは自分の見た目をどう考えているか / ルイス・ウェイン年鑑 / ルイス ・ウェインと音楽 / ルイス・ウェインと法と秩序 / ルイス・ウェインと政治 / ...

    新文芸坐

    新文芸坐

    • 旧名称:文芸坐
    • 開館:2000/12/12
    • 所在地:東京都豊島区東池袋1-43-5 マルハン池袋ビル3F
    • 座席数:266(車椅子2)
    • 音響設備:7.1ch/Dolby SRD-EX

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