ネコ・ログ #58 [c a t a l o g]
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横尾 忠則 「タダノリ君へ」
#514│マジ│飼い猫 ── ネコと地蔵
ネコを撮るにはロケーションも重要な要素である。岩合さんが都会の雑踏を避けて、日本国内の農村や漁港、イタリアやギリシャなど、海外の観光地まで出向いてネコを撮るのは何故なのか?‥‥現地の人に「お前の国にネコはいないのか?」と不思議がられても、海外の風光明媚なロケーションで撮る意味がある。ネコは同じでも、風景は異なるからだ。飲食店が建て込んだ駅前の繁華街、同じようなマンションや民家が並ぶ住宅地、ケバケバしい看板や変わり映えの民家の塀などはネコを引き立たせるどころか埋没させてしまう。目障りな背景はボカすだけでなく、フレームから綺麗に消し去ってしまいたいとさえ思う。民家の塀の前に水の入ったペットボトルが置かれている一劃にキジトラがいた。たまにしか出合わないネコなのだが、奥まった民家の玄関横に何故か一体の地蔵が鎮座している。滅多にない機会なので、ネコと地蔵が写り込むように撮ってみた。綺麗な緑色の目のネコである。
#515│バル│飼い猫 ── 猫舌にゃん爵
少しでも近寄ろうものなら、素速く身を翻す。カメラのシャッター音にも反応して、ビクッと身を震わす‥‥敏捷で敏感なバルちゃんも、何度も通っているうちに徐々に馴れて来た。手招きすると、傍らに来て寝そべり、毛並みを撫でさせてくれるまでの親密な間柄(濃厚接触?)になった。ネコは自分の躰を舐めて身繕いするように、仲良くなったヒトの手や指を舐めてくれる。そのザラザラした感触は短時間ならば心地良い。ネコやイヌに舐められるのを嬉しいと感じるのは異常だろうか。親密な関係の男女(に限らないけれど)だって、プライヴェートでは互いの躰をペロペロ舐め合ったりするのではないか‥‥《猫の舌はちーず卸しなどよりはるかに鋭く尖ったざらつきがある。男爵は、舌に刺を持つ怪異な人物なのであろうか。男爵は、気に入った少女を攫い、監禁し、夜な夜な、刺のある猫舌で、少女の足の裏を舐めるのであろうか》とヤン・ジェムロソスキ(皆川博子)も書いている。
#516│グリ│飼い猫 ── 寄り目と無痛(Crosseyed And Painless)
「良く似た寄り目ちゃん」 (#480)の兄弟姉妹ネコだ思われるが、この2匹は見分けがつき難い。トルコ・イスタンブールのアヤソフィア博物館(旧大聖堂)に暮らす「オバマキャット」(2009年に同地を訪れた米オバマ大統領がネコの躰を撫でたという)に倣って、片割れをグリと呼ぶことにした。「グリ」(Gli)はトルコ語で「寄り目」という意味。英語では何と表現するのか気になって電子辞書を引いたら、「cross-eyed」だった。トーキング・ヘッヅ(Talking Heads)の〈Crosseyed And Painless〉(1980)を「瞑目と無痛」というタイトルだと長い間思っていたのは大間違いだったのだ。ブレイク・ダンスする黒人青年が主演したオフィシャルPVを視ると、「cross-eyed」 は「寄り目・内斜視の」ではなく「酔っ払った」(ドラッグでラリった?)という意味のスラングではないかと思える。アルコールには麻酔作用があるので、ナイフで刺されても痛みを感じないかもしれない。
#517│サイ│ノラ猫 ── 見上げてごらん 2
冷蔵庫、箪笥、塀、ヴェランダ、屋根の上‥‥ネコは高いところが大好き。樹に登ったのは良いけれど、自力で降りられなくなって(救けを求めて)ミャーミャー鳴いていたりする。ネコは後退りして(お尻を下にして)降りるということが苦手らしい。岩合さんは「夜空の星」ではなく、「朝のネコ」 たちを見上げるのだが、玄関ドアの隙間から顔を出しているサイちゃんは一体何を見つめているのだろうか?‥‥サイちゃんの躰を屈んで撫でていると、目を瞠って仰ぎ見る。次にジャンプして肩に乗ろうとする前動作だ。肩から頭の上に跳び乗って、髪の毛を引っぱったり、何か悪さをするつもりらしい。関心のない素振りをしているので、その場から離れようとすると、甘えたネコ撫で声で鳴いてゴロンと転がる。お腹を撫でて欲しいという意思表示なのだ。この愛らしいポーズを見せられると、踵を返してネコの許へ戻らざるを得ない。まさに後ろ髪を引かれる思いである。
#518│サツキ│飼い猫 ── 縞猫サッチー
某図書館裏のサッちゃんは写真を撮っていても知らんぷり。近づいても逃げ去ったりはしないけれど、自らは近寄って来ない。毛並みを撫でても全然動じない。我一切関せずというマイペース・キャットである。なかなか出会えないのは屋内にいることが多いのかと思って、飼主に訊くと「さっきまで寝ていたけれど、外へ出て行った」と話してくれた。茶系のサバトラ縞でマズルと胸元だけが白い。淡い緑の目と金のペンダントがチャームポイントになっている。黒い瞳の大きさからも分かるように、既に陽も落ちて暗くなっていた(2020年5月25日の日没時刻は6:47PM)。「ウインクするネコ」(#489)と同じ日時に撮った1枚で、1年近く没にしていたが、iPhotoで補正したら見違えるような写真に生まれ変わった。「図書館裏猫サツキ」ちゃんは5月(皐月)生まれなのかしら?
#519│ハチ│飼い猫 ── 網戸の向こうから
民家の窓から興味深そうに外界を見つめているネコがいた。近づいてみるとサッシには網戸が張ってある。透明な窓ガラスではなく、いわゆる防虫網だった。ピンと立った両耳、薄緑色の大きな目‥‥容姿端麗なロシアンブルー(?)に惹かれてシャッターを切った。どうしてもピントが網の目に合ってしまうので鮮明な画像ではないけれど、奇しくも絹目プリント仕上げのような写真になった。網戸の前の狭い中庭で外ネコたちが食事をしていたりする、飼主と全く面識のない民家というわけではないが、世間的には「盗撮」なのかもしれない。飼いネコの盗撮は罪になるのだろうか(ある民家の前でノラネコを撮っていたら、撮らないで下さいと注意されたことがある)。室内のネコも「不審者」と警戒したのか、番犬よろしく低い鳴き声で威嚇する。幸いネコと不審者の間は網戸で仕切られているので、ネコパンチを繰り出したくても出来ないのだが。
#520│ミス│飼い猫 ── スコちゃんと植木鉢
ネコ撮り散歩中に「ネコ・アルバム」を落としてしまった。不審者と間違えられないように常に携帯している「高透明フィルムアルバム」(L判・20枚用)なので、今までに何度か紛失の危機に遭っている。いずれも屋内だったので事なきを得たが、野外だったので自力で捜しても見つからない。一応警察に届け出たものの、手許に戻ってくる確率は低い。仕方がないので、某家電量販店で失われた写真を再プリント(DPE)した。紛失した写真を取捨選択して、「スコちゃんと植木鉢」を加えたので、期せずして「ベスト・アルバム」になった。大小各種の植木鉢がフラワースタンドに並ぶ民家(バルちゃん家)の横はスコちゃんお気に入りの場所で、草花の匂いを嗅いだり、ポリバケツの水を飲んだりしている。2匹の関係は良好というわけではなく、スコちゃんの方が優位にある。彼女が近寄って来ると、センシブルなバルちゃんは自分のテリトリなのにも拘わらず、尻尾を巻いて逃げて行く。
#521│ファン│ノラ猫 ── 車体の下に隠れても
新型コロナウイルス感染症対策に伴う「緊急事態宣言」の要請を受けて、「コロナ籠もり」の自粛生活が始まった。マスク、消毒、検温、手洗い‥‥不要不急の外出を控え、密閉・密集・密接の3密を避けて慎重に行動しなければならない。人間界のコロナ禍の異変をネコたちは感じているのか、いないのか?‥‥S鴨駅前の店舗も軒並み休業を余儀なくされた。飲食店のシャッターが閉まって人通りの絶えた路地に顔馴染みの白黒ネコがいた。ネコは警戒して、駐車スペースに停まっているクルマの下に逃げ込む。手ブレしないようにカメラを地面に固定して、ローアングルで撮った。車体の下は仄暗く、スロー・シャッター(1/10秒)になったが、ネコが静止していたので鮮明に撮れた。ヒトも日々の生活に困窮するコロナ自粛‥‥人気のない繁華街の外ネコたちは生きて行けるのだろうか?
#522│エミ│ノラ猫 ── 茶トラと灯籠
ネコの顔を下から見上げると笑っているように見えるという。O無親水公園の灯籠の前にいた茶トラを撮った。灯籠に明かりが灯る前の夕暮れ時‥‥エミちゃんは笑っているようには見えないけれど、愛嬌のある表情をしている。毎年春には花見客たちで溢れ、TVドラマのロケ地になったりする場所である。一見長閑な環境のようにも思えるが、黒ネコとの縄張り争いに明け暮れているらしい。見晴しの良いところからライヴァルの動向を見張っているのかもしれない。公園のネコたちの世話をしているネコおばさんによると、先日マウちゃんが亡くなったという。O子神社へ続く階段下の踊り場にいることの多かった「カフェラテ色のネコ」(#322)。妙に艶っぽい目が魅惑的だった。晩年は人恋しくなったのか、柔らかな毛並みを撫でさせてくれた。ある雨の夜に佇んでいた姿は忘れられない。ヴィニール傘を翳して雨を凌ぎ、心配した女性がネコおばんさんに電話したのだった。合掌。
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各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第58集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。520匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。第58集の常連ネコはバル、アン、サツキ、ミスちゃん。ネコたちは人間たちが右往左往するコロナ禍とは無関係に生きています。『タマ、帰っておいで』(講談社 2020)は横尾家の家族の一員として15年間暮らした愛猫の画文集。タマの肖像画(90点)と日記で構成されている。タマの死(2014年5月31日)を境に、生前(2004年7月6日)の日記もあるが、死後(2018年6月1日)の記述が3分の2を占める。肖像画はタマの死後に描かれている。横尾忠則(ぼく)はタマを描くことで、ペットロスから治癒したけれど、タマ(私)は手紙の中で、「君のやっている芸術とかは空洞を埋めようとしています。空洞は空洞としてスカスカでいいのです。今の芸術はつめ過ぎです」と綴っている。
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- 記事タイトルの右に一覧リストのリンク・ボタン(黒猫アイコン)を付けました^^
- オリジナル写真の縦横比は2:3ですが、サムネイルは3:4にトリミングしました
- 「音楽 ブログランキング 25」(2020-07-01)の末席を穢しちゃいました^^;
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- 著者:横尾 忠則
- 出版社:講談社
- 発売日:2020/04/01
- メディア:単行本
- 内容:2014年に亡くなった愛猫「タマ」、天に召されたその日から横尾さんが描き続けたタマの絵なんと91点!そして、タマに捧げた多くの文章…、これは横尾さんの「レクイエム」の画集!
- 著者:皆川 博子
- 出版社:早川書房
- 発売日:2014/11/06
- メディア:文庫(ハヤカワ文庫JA)
- 目次:水葬楽 / 猫舌男爵 / オムレツ少年の儀式 / 睡蓮 / 太陽馬 / 解説・ヤン・ジェロムスキ(垂野創一郎 訳)
- Artist: Talking Heads
- Label: Rhino/Wea UK
- Date: 2006/01/16
- Media: Audio CD+DVD
- Songs: Born Under Punches (The Heat Goes On) / Crosseyed And Painless / The Great Curve / Once In A Lifetime / Houses In Motion / Seen And Not Seen / Listening Wind / The Overload / Fela's Riff / Unison / Double Groove / Right Start
2020-07-01 00:03
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