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蜜蝋ハッチー [m u s i c]



  • 2011年冬、ケイティはどん底だった。バンドの解散、不安定な人間関係、将来、不器用な自分、そしてアリソンとの別れ、生活の全てに疲れていた。そして、感情の整理がつかないまま迎えた22歳の誕生日前日、ケイティは車にアコースティック・ギターを積み、自宅を離れた。向かった先は、地元の湖の畔に建つ父親が所有する小さなコテージだった。この時、ケイティはやり場のない思いと爆発しそうな感情を歌にしようと誰もいない場所を求めていたのだ。インターネットも携帯電話も繋がらない孤立した環境。さらに窓の外はアラバマ州を襲った歴史的な吹雪。そうした中、ケイティは7日間で11曲の楽曲を制作・録音。完成したアルバムを『American Weekend』と名付けた。そしてケイティは自身のソロ・プロジェクト名をコテージの近くを流れる川の名前からWaxahatcheeと名付けた。
    「USインディーポップ界大注目のWaxahatcheeに迫る!」


  • ◎ American Weekend(Don Giovanni 2012)Waxahatchee
  • ワクサハッチー(Waxahatchee)はケイティ・クラッチフィールド(Katie Crutchfield)のソロ・プロジェクト。その渾名(moniker)は彼女が育った米アラバマ・バーミンハムを流れるワクサハッチー・クリーク(Waxahatchee Creek)に由来する。P.S. Eliotというバンドを双子の姉のAllison Crutchfieldと組んでいたこともある。1stアルバムは実家のコテージに籠り、吹雪の1週間に8トラック・レコーダで録音されたという。アクースティック・ギター弾き語りだが、必ずしもフォーク・ソングというわけではない。「不幸になるには若すぎるとしても気にしない」 と歌う〈Grass Stain〉、「ワクサハッチー・クリークの電話線から隠れる」 と歌う〈Rose, 1956〉、グランジ風ギター・リフの〈American Weekend〉、ビートを強調した〈Luminary Blake〉、ピアノ・ワルツの〈Noccalula〉‥‥エミリー・キニー(Emily Kinney)がカヴァした〈Be Good〉を含む全11曲・34分。Waxahatcheeの内省的な歌詞とハスキーな高音ヴォイスに魅了されます。

  • ◎ Cerulean Salt(Don Giovanni 2013)Waxahatchee
  • プールで泳ぐKatie Crutchfield(彼女の顔は水面の乱反射で表現主義絵画のように抽象化されている)を撮ったアルバム・カヴァは「濃青色の塩」というタイトル通り、セルリアン・ブルーを基調としている。《American Weekend》(2012)は彼女1人の弾き語りだったが、2ndアルバムはバンド・スタイルへ変貌した。Katie(ヴォーカル、ギターなど)は双子の姉Allison Crutchfieldが在籍するバンド、SwearinのKyle Gilbride(ベース)、Keith Spencer(ドラムス)と一緒にレコーディングしたことで、彼らから多くのアイディアを得たという。ギター弾き語りからノイジーなアンサンブルへ変化する〈Hollow Bedroom〉、Allisonとデュエットした〈Blue Pt. II〉、軽快なギター・ポップの〈Coast To Coast〉、Sam Cook-Parrott (Radiator Hospital)とコラボした〈Peace And Quiet〉など‥‥全13曲・33分、2つ折り歌詞カード付き。1stと2ndアルバムをセットにした限定盤(2CD)には「"BEST NEW MUSIC" 8.4 PITCHFORK」というステッカーが貼られていた。

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  • ◎ Ivy Tripp(Merge 2015)Waxahatchee
  • レーベルを移籍しての3rdアルバムだが、《Cerulean Salt》(2013)から引き続き、Katie Crutchfield(ヴォーカル、ギター、キーボード、シンセ)はSwearinのKyle Gilbride (ギター、キーボード、シンセ)、Keith Spencer(ギター、ベース、ドラムス、キーボード)とバンド・スタイルでレコーディングしている。「Ivy Tripp」 というアルバム・タイトルは「方向性のないこと。特に今日の20代、30代、40代について、私の作り出した言葉で、両親や祖父母の喜ばしい人生への配慮の欠如。《Cerulean Salt》は固体(solid)で、《Ivy Tripp》は気体(gas)」と語っている。「Tripp」 の余分な「p」は死んだ彼女の友人と関係があるという。重厚なシンセ・バラードの〈Breathless〉、90年代インディ・ロックを想わせる〈Under A Rock〉〈The Dirt〉、軽快なリズム・ボックスに乗った〈La Loose〉、ピアノ弾き語りの〈Half Moon〉、シューゲイズ風ギター・サウンドの〈Bonfire〉など‥‥過去2枚のアルバムよりもポップ化(poppier)している。全13曲・38分。見開き紙ジャケ仕様、歌詞ブックレット(8頁)付き。

  • ◎ Out In The Storm(Merge 2017)Waxahatchee
  • 4thアルバムはSonic YouthやDinosaur Jr.で知られるジョン・アグネロ(John Agnello)のプロデュース。Katie Crutchfield(ヴォーカル、ベース、ギター、キーボード)、Allison Crutchfield(キーボード)、Ashley Arnwine(ドラムス)、Joey Doubek(パーカッション)、Katie Harkin(ギター、キーボード、ピアノ)というバンド編成で、ライヴ・レコーディングされた。写真家ダニエル・シェア(Daniel Shea)の撮ったKatie Crutchfieldのカヴァ・ポートレイトはAldous Hardingの《Party》(2017)を想わせる4AD耽美風だが、USオルタナ・インディ・ロックである。ダイナソー風の疾走感溢れる〈Silver〉、シンセ・ベースをブーストした〈Hear You〉、アクースティック・フォークの〈A Little More〉、ラウド・ロックからスロウダウンする〈No Question〉、ギター弾き語りの〈Fade〉‥‥ハスキーなハイトーン・ヴォイスがヘヴィ・ロック・サウンドに彩りをつけている。全10曲・33分。デジパック仕様、歌詞ブックレット(12頁)付き。

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  • 《Out In The Storm》で、あなたはヘヴィ・ロック・サウンドに傾倒しました。ここでは初期のレコードのフォーク・カントリー・トゥワング(twang)に戻っていますね。

    私はカントリー・ミュージックで育ちました。それは私のDNAの中にあります。子供の頃、自分を音楽家だと思い始めたとき、その音楽に反応していました。怒れる十代になって最初のバンドを始め、パンク・ロックやThe Velvet Undergroundを発見した時に、その音楽と私の南部のアイデンティティを完全に拒絶しました。私は自分自身について、奇妙なもの、つまり中心から外れたもの(left-of-center)に傾倒したかったのです。私は数年間に渡って、幾つかのレコードで闘っています。私の音楽的な傾向や、より伝統的に響く声とは闘っていないので、このアルバムで戻って来たような気がします。/ ルシンダ・ウィリアムズ(Lucinda Williams)について語らずに、このレコードについて語ることは難しいわ。 《Saint Cloud》の多くの異なった作曲やストーリーテリングの技法はルシンダから借用したものです。あなたが行ったことのない場所へ連れて行く彼女の能力は比類のないものです。多くの曲は、あちらこちらにジャンプし、10年前にフラッシュバックして現在に至っています。
    「Waxahatchee Breaks Down Every Song on Her New Album, Saint Cloud」


  • ◎ Saint Cloud(Merge 2020)Waxahatchee
  • Lana Del Reyのニュー・アルバムかと見紛うようなカヴァである(LDRはモーターショーの美女コンパニオンみたいに、クルマと一緒に写っていることが多い)。荷台に赤い薔薇を積んだピックアップ・トラック(フォード車)のルーフに乗って空を眺めるKatie Crutchfieldは遠目にはLDRに見えなくもない。Waxahatcheeは内省的なギター弾き語りフォークやラウドでノイジーなインディ・ロックから、アメリカーナへ転身した。彼女は「カントリー・ミュージックで育ち、それは私のDNAの中にあるけれど、怒れる十代になってバンドを始めて、パンク・ロックやThe Velvet Undergroundを発見した時に、南部のアイデンティティを拒絶した」と語っている。「貴方が私を見る時、私はスプーンの蜂蜜です」 と歌う〈Can’t Do Much〉、鬱病の体験を大好きな花に託した〈Lilacs〉、薬物の過剰摂取で死んだ友人のことを歌った〈Ruby Falls〉‥‥Katie Crutchfieldは5thアルバムのメイン・テーマを「嗜癖と共依存」(addiction and codependency)と述べている。アルコール依存症との闘いでもあったのだ。全11曲・40分。デジパック仕様、歌詞ブックレット(16頁)付き。

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    American Weekend

    American Weekend

    • Artist: Waxahatchee
    • Label: Don Giovanni Records
    • Date: 2012/02/21
    • Media: Audio CD
    • Songs: Catfish / Grass Stain / Rose, 1956 / American Weekend / Michel / Be Good / Luminary Blake / Magic City Wholesale / Bathtub / I Think I Love You / Noccalula


    Cerulean Salt

    Cerulean Salt

    • Artist: Waxahatchee
    • Label: Wichita Recordings
    • Date: 2013/03/05
    • Media: Audio CD
    • Songs: Hollow Bedroom / Dixie Cups And Jars / Lips And Limbs / Blue Pt. II / Brother Bryan / Coast To Coast / Tangled Envisioning / Misery Over Dispute / Lively / Waiting / Swan Dive / Peace And Quiet / You're Damaged


    Ivy Tripp

    Ivy Tripp

    • Artist: Waxahatchee
    • Label: Wichita Recordings
    • Date: 2015/04/07
    • Media: Audio CD
    • Songs: Breathless / Under A Rock / Poison / La Loose / Stale By Noon / The Dirt / Blue / Air / < / Grey Hair / Summer Of Love / Half Moon / Bonfire


    Out In The Storm

    Out In The Storm

    • Artist: Waxahatchee
    • Label: Merge Records
    • Date: 2017/07/19
    • Media: Audio CD
    • Songs: Never Been Wrong / 8 Ball / Silver / Recite Remorse / Sparks Fly / Brass Beam / Hear You / A Little More / No Question / Fade


    Saint Cloud

    Saint Cloud

    • Artist: Waxahatchee
    • Label: Merge Records
    • Date: 2020/03/29
    • Media: Audio CD
    • Songs: Oxbow / Can’t Do Much / Fire / Lilacs / The Eye / Hell / Witches / War / Arkadelphia / Ruby Falls / St. Cloud

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