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内なるソング(2 0 2 0) [r e w i n d]



  • おまえはテロリスト襲撃に抗議する大デモ行進に参加することを選んだ。狂信者たちの犯罪と盲目的暴力に反対して行進するすべての人々の列の中におまえが加わることができたことを私は幸せに思う。私はおまえと共にいたかったが私は遠いところにいたし、はっきり言えば私はこのようなたくさんの人々のいるところの運動に参加するには少し年寄りすぎると感じている。おまえはこの行進参加者たちの真正さと決意の堅さに興奮して戻ってきた。たくさんの若者たちと年配者たち、「シャルリー・エブド」(下線引用者)をよく知る人たち、それを風聞でしか知らない人たち、それらすべてがテロの卑劣さに怒った人々だった。デモの最前列を切っていた被害者の家族たちが姿がとてもりっぱだったとおまえは感動した。行進しながら頭上で目に入った、アフリカ系の(背が手すりの高さにも満たない)小さな子供が露台から行進を見ている姿にも心を動かされた。私はまさにこれがフランス人民の歴史全体において重要な瞬間だったと確信している。
    ル・クレジオ 「わが娘への手紙」


  • ◎ UN DEUX TROIS(Outro)Juniore
  • 仏作家ル・クレジオの娘アンナ・ジャン(Anna Jean)率いるJunioreは2013年にパリで結成されたインディ・ポップ・バンド。ジュニア(Junior)の末尾に「e」を付けて女性名詞になっているのはガールズ・バンドだからという。「60年代にフランスで流行ったスコピトーン(Scopitone)や月世界旅行、2ストローク機関」 《レトロなフレンチ・ポップ、ダークでトゥワンギーなサーフ・ギターの要素とモダンなインディ・ポップの感性、Cat PowerとFrancoise Hardyの間に位置するヴォーカル・スタイルをミックス》(AllMusic)と評される。2ndアルバムはAnna(ヴォーカル、ギター、キーボード)、Swanny Elzingre(ドラムス)、Samy Osta(インストルメンツ、プロダクション)というトリオ編成で、「黒いイエイエ」(yé-yé noir)を標榜するノスタルジックでメランコリックなレトロ・フューチャ ーを再現している。気怠いヴォーカルの〈En Solitaire〉。オルガン・インストの〈Walili〉 、口笛シンセのサーフ・ロック風〈Bizarre〉。Kim GordonがThe B-52'sの伴奏でフレンチ ・ポップを歌っているような〈Tu Mens〉など、全11曲・38分。見開き紙ジャケ仕様。

  • ◎ EVERY BAD*(Secretly Canadian)Porridge Radio
  • ポリッジ・レディオ(Porridge Radio)は2015年、英ブライトンで結成されたポスト・パンク・バンド。Dana Margolin(ヴォーカル、ギター)、Georgie Stott(キーボード、ヴ ォーカル)、Maddie Ryall(ベース)、Sam Yardley(ドラムス、ギター、ベース)の4人組(女3・男1)。2ndアルバムはPatti SmithやPJ Harveyを想わせるダナ・マゴリンのエモーショナルなヴォーカルとタイトなアンサンブルが素晴しい(ポスト・パンク版ステレオラブ?)。「Thank you for making me happy」 と執拗に繰り返す〈Born Confused〉 、Sonic YouthやPixes風ヘヴィ・ノイズ・ロックの〈Sweet〉、浮游感のあるシューゲイズからカオス化する〈Lilac〉、回転木馬ワルツの〈Circling〉、フィル・コリンズの〈夜の囁き〉みたいな〈Homecoming Song〉‥‥最後までリスナーの胸を鷲掴みにして離さない。全11曲・42分。三面見開き紙ジャケ仕様。歌詞はインナーに記載されている。

  • ◎ PUNISHER*(Dead Oceans)Phoebe Bridgers
  • オバケのP子から、骸骨娘に変身しちゃった?‥‥1stアルバム《Stranger In The Alps》(2017)のカヴァは少女時代のスナップショットを白いペイントで塗り潰し、2ndアルバムでは黒地に白い骨格をプリントしたスケルトン・スーツを着ている。フィービー・ブリジャ ーズ(Phoebe Bridgers)はオバケやガイコツなど、この世ならざる存在に強く惹かれているように見える。来日した折りの休日に古都を観光する〈Kyoto〉、Elliott Smithへのオマ ージュ・ソング〈Punisher〉、病室で瞑想する〈Halloween〉など、浮游感のあるサウンドがファンタジー・ワールドへ誘う。Julien BakerとLucy Dacusの2人がヴォーカルで参加した〈Graceland Too〉〈I Know The End〉「天才少年」(Boygenius)の再演となった。全11曲・41分。見開き三面紙ジャケ仕様。南アフリカ生まれのイラストレータ・絵本作家クリス・リデル(Chris Riddell)のイラスト入り歌詞ブックレット(24頁)も素敵。

  • ◎ IN THE BACKYARD OF THE CASTLE(Halley)Meritxell Neddermann
  • メリチェイ・ネッデルマン(Meritxell Neddermann)はスペインのカタルーニャ生まれの女性SSW。先にソロ・デビューしている妹Judit(ジュディット)とは音楽性が異なる。本来はビアノ弾き語りタイプと思われるが、2枚組でリリースされた1stアルバムはヴォイス加工したり、ラップ調だったり、トリップホップ風だったり‥‥と変化に富む。Disc1は英語詞5曲、スペイン語詞4の全9曲・32分と短めで、Disc2に全曲のエクステンデッド・ヴァ ージョンとピアノ・インスト曲〈Interludi〉の全10曲・50分を収録している。デジタル・ダウンロード〜ストリーミング時代に移行してから、音楽の聴かれ方も激変した。イントロだけでなく、1曲の演奏時間も短くなり、アルバムの収録時間もアナログ時代を髣髴させる30分前後が主流となった。リスニング・スタイルに応じて、長・短2ヴァージョンを選べるアイディアは理に適っている。デジパック仕様(2CD)、歌詞ブックレット(16頁)付き。〈Inside〉のPVにも瞬殺されちゃうのだ。

  • ◎ KiCk i*(XL 2020)Arca
  • ポピュラー音楽においてはヴォイスの高低や声質、容姿など男女の相違は歴然とあるが、その「黒くて深い」性差を埋めるようなトランス・ジェンンダーの存在は興味深い。Anhoniに続いて女性化したArca(Alejandra Ghersi)の4thアルバムも妖しい光芒を放っている。彼女のデカダンでグロテスクなヴィジュアルは兎も角、Bjork、Shygirl、Rosalia、Sophieとコラボしていることだけでも胸騒ぐ。深海で人魚姫(Bjork)とデュエットしているような〈Afterwards〉、妖怪ラッパー(Shygirl)と共演した〈Watch〉、お囃子娘(Rosalia)との掛け合いが面白いレゲトンの〈KLK〉、トランス・ウーマン(Sophie)とのインダストリアル・ドラムンベース風の〈La Chíqui〉など‥‥全12曲・38分。透明スリーヴ・ケース入りのイジェクター(ejector)仕様、歌詞ブックレット(20頁)封入。黒いレバーを押すとケースからCD盤が出て来る仕掛け(汎用品らしいが初めて見た)も洒落ている。

  • ◎ THE TRUE STORY OF BANANAGUN*(Full Time Hobby)Bananagun
  • バナナガン(Bananagun)は豪メルボルン出身のアフロビート・バンド。メンバー6人がアマゾン流域を小舟に乗って遊覧しているようなアルバム・カヴァからも、愉しげなトロピカルなサウンドが聴こえて来る。元々はNick Van Bakel(ヴォーカル、ギター、フルート、トランペット、ハープシコード、パーカッション)のソロ・プロジェクトに、従兄弟のJimi Gregg(ドラムス)が加わったことからバンド形態に進化したという。トロピカリア・ムタンチス調の〈Bang Go The Bongos〉。ガレージ・サイケ風の〈The Master〉。フェラ・クティを髣髴させるアフロ・ファンクの〈People Talk Too Much〉。野鳥とコンガのジャングル・インスト〈Bird Up!〉。ステレオラブを想わせるドリーミーなポップ・ソングの〈Out Of Reach〉。サイケデリック・ロックの〈Mushroom Bomb〉など‥‥全11曲・40分。見開き紙ジャケ仕様。

  • ◎ FETCH THE BOLT CUTTERS*(Epic)Fiona Apple
  • Kanye Westの《MBDTF》(Def Jam 2010)以来、「Pitchfork」 で10年振りに10点満点を獲得したことで騒然となったフィオナ・アップル(Fiona Apple)の5thアルバム。 彼女のヴォーカル、ピアノ、ドラムスに加えて、病死した愛犬ジャネット(Janet)の鳴き声や遺骨をパーカ ッションに使ったことでも話題になった。同じように若くしてデビューしたKate Bushの〈Running Up That Hill〉に言及した(Shoes that were not made for running up that hill / And I need to run up that hill)アルバム・タイトル曲〈FTBC〉 、元Soul CoughingのドラマーSebastian Steinberg(ベース、ギター、パーカッション)のインスト曲〈My Kettle, My Cats〉をサンプリングした〈Relay〉、「あなたは娘が産まれたベッドで私をレイプした」 と赤裸々に歌う〈For Her〉‥‥など全13曲・52分。ジュエルケース仕様、歌詞ブックレット(20頁)入り。年間ベスト・アルバム第1位の最有力候補。

  • ◎ BRIGA DE FAMILIA(Risco)Vovo Bebe
  • リオ生まれのVovo Bebe(Pedro Dias Carneiro)の3rdアルバム。PDC(ヴォーカル、ギター)、Ana Frango Eletrico(ピアノ)、Aline Goncalves(クラリネット)、Karina Neves(フルート)、Jonas Hocherman(トロンボーン)、Guilherme Lirio(ベース) 、Tomas Rosati(パーカッション)、Uira Bueno(ドラム)、Gabriel Ventura(エフェクト)というバンド編成で、リオの最新型ロックを爆発させる。疾走するするリズム、破天荒なハーモニーなど多彩な音楽要素を混在〜昇華させたアヴァンポップ。アルバム・タイトル「家族の争い」を再現した騒々しいパンク〈Briga de Família〉、Ana Frangoとデュエ ットしたファンク〈Exodo〉、学生のブルーズ〈Aluno〉、Luiza Brina(ヴォーカル)がゲスト参加した〈Jao Mininu〉、脱臼したヒッピー・サンバ〈Cancioneiro Fitness〉 、Luis Capucho(ヴォーカル)のレゲエ〈Saparada〉、PDC1人によるジョーク・ミュージック〈Good Vibe Bad Trip〉‥‥全13曲・43分。デジパック仕様、6つ折り歌詞カード付き。

  • ◎ INNER SONG*(Smalltown Supersound)Kelly Lee Owens
  • ウェールズ生まれのケリー・リー・オーウェンス(Kelly Lee Owens)は19歳の時に英マンチェスターへ移住して、癌治療病院で補助看護師として働いていた時に、末期の患者から自分の夢を追い求めるように助言されて音楽の道に進んだ。「私の患者がキャリア・アドヴァイザーだった」 と語るだけあって、彼女は「癒しの音楽」を追究している。コロナ禍で延期になっていた2ndアルバムはRadioheadのシンセ・アルペジオ・インスト〈Arpeggi〉、氷河が溶ける地球温暖化を憂いた〈Melt!〉、「愛が足りません」(Love Is Not Enough)と歌う〈L.I.N.E.〉、同郷のJohn Caleがヴォーカル(英語とウェールズ語)で客演した〈Corner Of My Sky〉‥‥など全10曲・50分。テクノ〜エレクトロ・ポップと心地良いポリリズム。ツアー中にKieran Hebden(Four Tet)から、ブッシェル(bushel)の中に隠すなと促されたという可憐なヴォイスにも癒される。三面デジパック仕様、歌詞はインナーに記載。

  • ◎ SOMEONE NEW(Luminelle)Helena Deland
  • カナダ・ヴァンクーヴァー生まれのヘレナ・ダランド(Helena Deland)はJesca HoopやJessica Prattと同じように、その蠱惑的なヴォイスだけでアピール出来るSSWである。それだけにヴォーカルを彩るサウンド・プロダクトが鍵になる。本人の指向性なのか、プロデ ューサGabe Wax(Soccer Mommy)の手腕なのか、デビュー・アルバムは退廃的で耽美的なドリーム・ポップとなった。Portisheadの〈The Rip〉を想わせるトリップホップ風の〈Someone New〉。「あなたの犬になるのは嫌です」 と可愛らしく吠える〈Dog〉。囁きヴォイスの〈Comfort, Edge〉。チェロが不気味な通奏低音を奏でるインスト〈The Walk Home〉。Jake Portrait (Unknown Mortal Orchestra)とコラボした〈Lylz〉。ギター弾き語りの〈Fill The Rooms〉。「オランダ静物画(Dutch vanitas painting)の鋭いアングルと荒々しいライティングによる、初期スケッチよりも纏まりのあるフルカラー・ヴァージョン」(Pitchfork)。全13曲・48分。見開き紙ジャケ仕様、4つ折り歌詞カード付き。

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    新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで、音楽界もライヴ・コンサートの中止やアルバムの発売延期に見舞われたが、Adrianne LenkerやTaylor Swiftが2枚のアルバムをリリースするなど、ミュージシャンの創作意欲は逆に高まった。「年間ベスト・アルバム」 はFiona AppleとPhoebe Bridgersが1・2位に輝いた(AOTY 2020)。コロナ禍にあっても、女性上位時代が続く。スニンクスのベスト・アルバムも女性化したArcaを含めると、10枚中8枚を女性たちが占める。Loli Molina、Silvia Tarozzi、Sufjan Stevens、Crack Cloud、This Is The Kit、Pomme、Aksak Maboul、Waxahatchee、Fontaines D.C.、Natalia Lafourcade、Dream Wife、Grimes、Joana Molina、Louise Verneuil、U.S. Girls、Mina Tindle、Idles、Soccer Mommy、Roisin Murphy、Rina Sawayama ‥‥まだまだ未聴・未購入アルバムも多数ある。海外音楽メディアの「年間ベスト・アルバム」を参考にして、コロナ冬籠もりの年末年始に聴きたいと思います(2020・12・21)。

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    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズ
    • Juniore、Porridge Radio、Phoebe Bridgersは再録(一部加筆・改稿)です^^;

    • ル・クレジオ 「2015年1月11日の翌日、わが娘への手紙」(向風三郎訳)から引用

    • 「NOIZ」(Vovo Bebeによる《Briga de Família》の全曲解説)を参照しました

    • 輸入盤のリリース順(国内・流通盤が出ているアルバムには *マークを付けました)

    • SAULT《UNTITLED (Black Is)》(Forever Living Originals 2020)を入手しました。1カ月早ければ年間ベスト・アルバム10に選出したのに‥‥(2021・1・25)
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    Inner Song

    Inner Song

    • Artist: Kelly Lee Owens
    • Label: Small Town Supersounds
    • Date: 2020/08/28
    • Media: Audio CD
    • Songs: Arpeggi / On / Melt! / Re-Wild / Jeanette / L.I.N.E. / Corner Of My Sky / Night / Flow / Wake-Up


    Un Deux TroisEvery BadPunisher

    In The Backyard Of The CastleKiCk iTrue Story Of Bananagun

    Fetch The Bolt CuttersBriga De FamiliaSomeone New
    Lo Azul Sobre MiPain OlympicsMi Specchio E Riflettosongs and instrumentalsAscensionOff Off OnLes Failles CacheesFiguresSaint CloudUn Canto Por Mexico (Volume 1)A Hero's DeathMiss AnthropoceneANRMALSo When You Gonna...MenteTravesseiro FelizGentle GripLumiere NoireHeavy LightRoisin MachineNotre-Dame-Des-Sept-DouleursSawayamaUltra MonoSistercolor theoryFuture Nostalgia + Club Future Nostalgia

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    コメント 2

    sknys

    MONCHICON'S BEST ALBUMS OF 2020
    http://monchicon.jugem.jp/?eid=2333
    1. Phoebe Bridgers - Punisher
    2. Fleet Foxes - Shore
    3. Blake Mills - Mutable Set
    4. Moses Sumney - GRÆ
    5. Perfume Genius - Set My Heart On Fire Immediately
    6. Laura Marling - Song For Our Daughter
    7. Caribou - Suddenly
    8. Westerman - Your Hero is Not Dead
    9. Kate NV - Room For The Moon
    10. Nicolas Jaar - Cenizas
    by sknys (2021-01-11 14:51) 

    sknys

    OUT OUT TOP 10 ALBUMS OF 2020
    https://wrszw.net/top-50-albums-of-2020/
    1. Soccer Mommy - Color Theory
    2. The Beths - Jump Rope Gazers
    3. Dope Body - Crack A Light
    4. Pottery - Welcome To Bobby’s Motel
    5. Phoebe Bridgers - Punisher
    6. Helena Deland - Someone New
    7. Perfume Genius - Set My Heart On Fire Immediately
    8. Becca Mancari - The Greatest Part
    9. Andy Shauf - The Neon Skyline
    10. Fontaines D.C - A Hero’s Death
    by sknys (2021-01-11 14:54) 

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