b 光陰百年の如く(2024-09-07)art「本の雑誌 4月号」 の特集 「マジックリアリズムに酔い痴れろ!」 の予想通り、ガブリエル・ガルシア=マルケスの
『百年の孤独』(新潮社 2024)が翻訳刊行から52年の時を経て、6月に初文庫化された。単行本や全集版も出ているのに、なぜか売り切れ店続出という異常事態になっちゃった。特別仕様の
「金スピン」(紐栞)ということで売れているとは思えない。区立図書館の予約者数(9月25日現在)も文京区は173人(所蔵10冊)、豊島区は91人(所蔵5冊)などと凄いことになっている。全集版(2006)の予約者数も数十人に及ぶ。ところがもっと不思議なことがあった。手許にある単行本(1999)の表紙がレメディオス・ヴァロの〈螺旋の路〉
(Trasitoen Espiral 1962)だったこと。『百年の孤独』にはレメディオス・モスコテ、レメディオス(小町娘)、レナータ・メレディオスという3人の女性が登場するけれど、メキシコに亡命したスペインのシュルレアリスム画家とは直接関係がないように思われる。新潮文庫のカヴァ装画はヴァロではなく、三宅瑠人。解説は筒井康隆。
「読み解き支援キット」 はコンビニで簡単にプリント出来ます
(A3サイズ・両面印刷・短辺綴り)。
b 隆明にゃん(2024-09-14)books『隆明だもの』(晶文社 2023)は 「吉本隆明全集」 の月報など32篇に、語り下ろし 「ハルノ宵子×吉本ばなな 姉妹対談」(75頁もある!)、インタヴュー 「ハルノ宵子さんに聞く」(2016)を併録した長女のエッセイ集。
『それでも猫は出かけていく』(幻冬舎 2014)や
『猫屋台日乗』(2024)でも垣間見られた吉本家の内実が父親とのエピソードを軸に綴られる。アマチュア俳人の母親、小説家の次女。子供の頃の思い出、少女マンガ家を目指した青春時代、老いた病身の父母を介護した日々、両親を看取った後の現在の心境。夏の西伊豆 ・土肥の海、父が溺れた夏(1996)、谷中霊園の花見、忘年会、引っ越し(田端・駒込林町〜上野中御徒町〜谷中初音町〜田端の高台〜千駄木〜本駒込の吉祥寺)、午前1時の 「猫巡回」 など。「群れるな、ひとりが一番強い」(隆明)。《吉本家は、薄氷を踏むような "家族" だった。父が10年に1度位荒れるのも、外的な要因に加えて、家がまた緊張と譲歩を強いられ、無条件に癒しをもたらす場ではなかった(父を癒したのは猫だけだ)》(宵子)。
b 罪と猫(2024-09-21)books『猫と罰』(新潮社 2024)とはドストエフスキーのパロディみたいな表題だが、主人公の黒猫(己)は夏目漱石に飼われていた名無し猫の生まれ変わりらしい。偏屈な性格も 「吾輩」 から引き継がれている。最後の転生(9回目)をした仔猫は不本意ながら古書店 「北斗堂」 で暮らすことになった。先住猫(茶白ルル、三毛キヌ、茶虎カア、白黒チビ)も稲垣足穂など文豪の猫だったことがあるという。猫達と会話が出来る店主・北星恵梨香は 「魔女」 と呼ばれていて、古本を仕入れなくても自然に書架に湧く摩訶不思議な書店に囚われていた。自作原稿を北星に読んでもらっていた小説家志望の少女・神崎円が来なくなった。「己」 は後脚で立って前脚の爪でペンを挟んでチェックする夜の在庫整理の仕事をルルから引き継ぐ。久しぶりに現われた円は耳にピアスをした女子高生(高1)に変貌していた。「ごめんなさい。私 ‥‥小説を書くの、やめます」 円の境遇を案じた 「己」 は意を決して北星(魔女)に救いを求めるが、首を横に振られる。北星の真名は 「魁星」という。魔女は人間の書いた物語を蔑み、嫌悪し、唾棄し、見下し、拒絶した咎で、物語を紡ぐことを禁じられた元 「神」 だった。
b ねこの刺繍名画(2024-09-28)art『ねこの名画案内』(オレンジページ 2024)という表題からスーザン・ハーバートやシュ ー・ヤマモトの 「猫名画」 のように思われるかもしれないが、カンヴァスに描いた絵ではなく、ねこの刺繍作品である。見開き左頁に原画、右頁に刺繍作品(62点)。本書では拡大されているが、実物は意外に小さい。制作に約3週間も費やしたという大作 「ヴィーニャスの誕生」(2020)でも3.8x8.9cm、殆どの作品は5x5cm前後。ワッペンやアップリケなどのイメージに近い。2000色近くあるという刺繍糸を一針一針刺す 「一本取り」 は気の遠くなるような根気を強いる作業。これ以上大きな作品は難しいのかもしれない。刺繍の白いねこは原画の微妙な表情までは忠実に再現し切れない。細密な写実絵画は不得手で、印象派や表現主義などと相性が良い。「叫びとねこ」 「印象・日の出」 「ねことひまわり」(2022)、「ねこたちの接吻」 「ねこ杉と星月夜」(2022)。原画から切り抜いた 「ねこと睡蓮のドレス」 「ねこといちご泥棒」。日本画の 「富嶽三十六景神奈川沖ねこ波裏」 「見返り美ねこ図」(2023)など。春の花々や秋の農作物に紛れたアルチンボルドの騙しねこ(2021)も華やかにゃん。
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百年の孤独
- 著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス(Gabriel Garcia Marquez)/ 鼓 直(訳)
- 出版社:新潮社
- 発売日: 2024/06/26
- メディア:文庫(新潮文庫 カ 24-2)
- 内容:1967年にアルゼンチンのスダメリカナ社から刊行されて以来、世界の名だたる作家たちが賛辞を惜しまず、その影響下にあることを公言している世界文学屈指の名著。現在までに46の言語に翻訳され、5000万部発行されている世界的ベストセラー。「マジック・リアリズム」 というキーワードとともに文学シーンに巨大な影響を与え続けている
百年の孤独
- 著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス(Gabriel Garcia Marquez)/ 鼓 直(訳)
- 出版社:新潮社
- 発売日:1999/08/01
- メディア:単行本
- 内容:蜃気楼の村マコンドの草創、隆盛、衰退、そして廃墟と化すまでのめくるめく百年を通じて、村の開拓者一族ブエンディア家の誰彼に受け継がれた孤独の運命は、絶望と希望、苦悩と悦楽、現実と幻想、死と生をことごとく呑み尽くし……。1967年に発表され、20世紀後半の世界文学を力強く牽引した怒濤の人間劇場が、今、再び幕を開ける
隆明だもの
- 著者:ハルノ 宵子
- 出版社:晶文社
- 発売日:2023/12/12
- メディア:単行本(ソフトカヴァ)
- 目次:じゃあな!/ 父の手 / eye / 混合比率 / ノラかっ / 党派ぎらい / 蓮と骨 / あの頃 / 小さく稼ぐ / めら星の地より / お気持ち / ヘールボップ彗星の日々 / ギフト / 空の座 / 花見と海と忘年会 / '96夏・狂想曲 / 幻の機械 / 魂の値段 / 境界を越える / ボケるんです !/ 非道な娘 / 片棒 / 銀河飛行船の夜 / 蜃気楼の地 / Tの悲劇 / 孤独のリング / 科学の...
猫と罰
- 著者:宇津木 健太郎
- 出版社:新潮社
- 発売日:2024/06/19
- メディア:単行本(ソフトカヴァ)
- 内容:吾輩、ニャンと転生!? 漱石の「猫」の続きを描き上げた、もふもふ×ビブリア奇譚!「猫に九生あり」 という。かつて漱石と暮らした黒猫もまた、幾度となく生と死を繰り返し 、ついに最後の命を授かった。過去世での悲惨な記憶から、孤独に生きる道を選んだ黒猫だったが、ある日、自称 "魔女" が営む猫まみれの古書店「北斗堂」へ迷い込む
ねこの名画案内
- 著者:MINAMI / アートテラー・とに~(美術解説)
- 出版社:オレンジページ
- 発売日:024/01/19
- メディア:単行本
- 目次:まえがき / ねこの刺繍の美術館 / アートに溶け込むねこを探そう!/ 日本画にもねこを発見!/ Hint!をもとにアートを見つけて!/ あとがき / コラム(わたしの刺し方、そして刺繍ができるまで / 仕事場、そして愛用の道具たち)
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