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マグダラの小枝(2 0 1 9) [r e w i n d]



  • ◎ REMIND ME TOMORROW*(Jagjaguwar)Sharon Van Etten
  • ニュージャージー・ベルヴィル生まれの女性SSW、シャロン・ヴァン・エッテンの5thアルバム。2017年に男児を出産して母親になったことを示唆しているようなアルバム・カヴァ ‥‥「ゴミ屋敷」と化した子供部屋は彼女ではなく、映画監督のキャサリン・ディークマン(Katherine Dieckmann)が15年前に撮った子供たちの写真だという。John Congletonのプロデュース、Stella Mozgawa(Warpaint)やJamie Stewart(Xiu Xiu)などが参加したサウンドはダビーでダークでダンサブル。グラウンド・ビートの〈No One's Easy To Love〉、幽霊屋敷の中に迷い込んだような〈Memorial Day〉、Bjorkの〈Army Of Me〉みたいな〈Hands〉‥‥「Pitchfork」のレヴューはLowのアルバム《Double Negative》(Sub Pop 2018)の幽霊が出てきそうな黙示録的な雰囲気との共時性を指摘している。三面見開き紙ジャケ仕様、歌詞ブックレット(12頁)付き。

  • ◎ QUIET SIGNS(City Slang)Jessica Pratt
  • ジェシカ・プラット(Jessica Pratt)は米カリフォルニア・サンフランシスコ生まれの女性SSW。彼女のデビュー・アルバム《Jessica Pratt》(Birth 2012)をリリースするためにレコード・レーベルを設立したというエピソードが全てを雄弁に語っている。3rdアルバムは初のスタジオ録音。ジョン・カサヴェテス(John Cassavetes)の映画 「オープニング・ナイト」(Opening Night 1977)からタイトルを採ったというピアノ・インスト曲で幕を開ける。「魔法にかけられたファンタジー・ワールド、シュールでサイケデリックな霊歌の渦巻く夢幻世界を紡ぎ出す」(Pitchfork)。アルペジオ・ギター、オルガン、フルートなどの簡素な伴奏で、聖女にも魔女にも聴こえる魅惑的なヴォーカルは唯一無二で、一度聴いたら忘れられない。何回聴いても目頭が熱くなる〈This Time Around〉など、全9曲・28分。デジパック仕様、4つ折り歌詞カード付き。

  • ◎ WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?*(Darkroom)Billie Eilish
  • 英ノーリッチの少女デュオ、Let's Eat Grandmaに呼応するかのように、米LAからも十代の女性SSWがアルバム・デビューした。映画「エクソシスト」の少女リーガンのようにベッドに腰かけて白目を剥く少女のカヴァ・アート、小悪魔風のヴォイス、低音を強調したサウンド。これがビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)本人のアイディアならば見上げたものである。良くも悪くも裏で少女を操る男の影が見え隠れするなぁ‥‥と疑っていたら、実兄フィニアス・オコンネル(Finneas O'Connell)の全面プロデュースだった。多感な17歳の今をクールに歌う。全14曲・43分。三面デジパック仕様で、歌詞はインナーに記載されている。予想を超えた大ブレイクに後押しされたのか、15歳の時にリリースしたEP《Dont Smile At Me》(2017)もボーナス・トラック1曲を追加してCD化された。1曲目の〈COPYCAT〉では今日の人気を見透かすように、彼女を模倣する真似っ子少女たちを揶揄していた。

  • ◎ PRACTICE CHANTER(Le Saule)Leonore Boulanger
  • 仏SSWレオノール・ブーランジェ(Leonore Boulanger)の4thアルバム。Juana Molinaを解体して立体的に再構成したような摩訶不思議な音楽世界。シャンソン、民族音楽、現代音楽などをシュールにコラージュしたアヴァン・ポップ。「Leonore Boulangerというモザイクのもう1つの顔」ジャン=ダニエル・ボッタ(Jean-Daniel Botta)との共作である。「あらゆる声域で、あらゆる言語で、絶えず歌っていることが好き」と語っているように、〈Chant Tomodachi〉は日本語で歌われる。妙に人懐っこくて変幻自在のヴォイスに魅惑される。女性画家クレア・モレル(Claire Morel)の描いたアルバム・カヴァ「箱女」(La boite)も謎めいている。3rdアルバム《Feigen Feigen》(2016)は国内盤もリリースされたので入手しやすかったが、早々に売れ切れてしまったのか都内の輸入レコード・ショップでは高円寺の「LOS APSON?」にしかなかった。全16曲・43分、見開き紙ジャケ仕様。

  • ◎ ∞ RA ∞(Estudio Monteverdi)Andre Mehmari, Bernardo Maranhao, Alexandre Andres
  • 梅雨時にCDリリースされたからか「青い蛙」のカヴァが人目を惹く。アルバム・タイトルの「Ra」はポルトガル語で「カエル」という意味で、歌詞ブックレット(24頁)にもカエルのイラストが多数掲載されている。Andre Mehmari(ピアノ、シンセ、フィドル、フレンチホルン、クラリネット、アコーディオン、バンドリン、琴など)、Alexandre Andres(フルート、ギター)、Bernardo Maranhao‥‥3人連名になったのは2人に歌詞を提供しているBernardoも歌声を披露しているからだと思われる。Andreの〈Proezas de Alexandre〉、Bernardoの〈O Mantra de Miguel〉、Alexandreが「メマーリさん、こんにちは」と日本語混じりで歌う〈Mehmari San〉、Maria Joao Granchaが紅一点の花を添える〈Tanka Do Gato〉‥‥Alexandreの2ndアルバム《Macaxeira Fields》(2012)を髣髴させる浮游感に包まれる全16曲・64分。歌詞ブックレット(24頁)付き。2018年のXmasに配信されたデジタル版の「カエル」とはジャケ違いのデジパック仕様です。

  • ◎ THE AGE OF IMMUNOLOGY(Fire)Vanishing Twin
  • Vanishing Twinは2015年、ベルギー出身のCathy Lucas(ヴォーカル)がロンドンで結成した多国籍5人組。イタリア人Valentina Magaletti(ドラムス)、日本人Susumu Mukai (ベース)、天王星から来た男Phil. MFU(Man From Uranus)、仏映像作家Elliott Arndt (フルート、パーカッション)。「消える双子」という奇妙なバンド名は母親の妊娠中に吸収された双子姉妹に由来する。12歳の時に知らされたCathyの悲しみは「半身」と共に生きているという概念への魅力で相殺されたという。Mukai(aka Zongamin)が日本語で朗読する2ndアルバムのタイトルはA・デイヴィッド・ネイピア(A. David Napier)の『免疫学の時代』(The Age of Immunology 2002)から採られている。Stereolabを想わせる〈Magician's Success〉、ドラム・マシンのビートにアナログ・シンセとフルートが浮游する〈Language Is A City (Let Me Out!)〉など‥‥全10曲・45分。紙ジャケ仕様、6つ折りポスター付き。

  • ◎ SCHLAGENHEIM*(Rough Trade)black midi
  • ブラック・ミディ(black midi)は英ロンドンで結成された4人組。バンド名はMIDIファイルを利用した日本の電子音楽ジャンル「Black MIDI」に由来するという。ポスト・パンク、マス・ロック、クラウト・ロック、ポスト・ハードコアなどのジャンルを超えた彼らの音楽は弾幕系シューティング・ゲームのような「黒楽譜」のアナロジーなのかもしれない。ドイツ語タイトルのデビュー・アルバムは6拍子と5拍子が激しく交錯する〈953〉、人を喰った羊頭狗肉な〈Reggae〉、高速爆走パンクの〈Near DT, MI〉、牧歌的なアルペジオから始まる〈Western〉、爆撃機からの大量投下を想わせる〈Bmbmbm〉など全9曲・43分。デイヴィッド・ラドニック(David Rudnick)のコラージュ・カヴァ(廃棄物の集積)が何か忌まわしいオブジェに変貌するように、black midiの音楽も怪物的なアッサンブラージュとして姿を現わす。CDシングル・ジュエルケース仕様。8つ折り歌詞・ポスター封入。

  • ◎ THE PRACTICE OF LOVE*(Sacred Bones)Jenny Hval
  • ジェニー・ヴァル(Jenny Hval)はノルウェー・トベーデストラン生まれの女性SSW。90年代の孤独なティーンエイジャー少女を主人公にした小説『Girls Against God』(2020)を脱稿した後にアルバムを制作したという。オーストリアの女性美術作家ヴァリー・エクスポート(Valie Export)の同名ドラマ(The Practice Of Love 1985)から採った7thアルバムは実験的なアートポップから、トランス・ミュージックのダンスフロアへ踏み出す。シンガポールのVivian Wang(The Observatory)、オーストラリアのLaura Jean Englert 、フランスのFelicia Atkinsonがゲスト・ヴォーカル参加。兎の穴に落ちた少女アリスを描いた〈High Alice〉、Jenny HvalのテクストをVivian Wangが朗読する〈The Practice Of Love〉、「アメリア・イアハートの曲を書いたジョニ・ミッチェルのように、ジョージア・オキーフの曲を書きたい」と歌い出す〈Six Red Cannas〉など‥‥全8曲・34分。ジュエルケース仕様。歌詞ブックレット(24頁)付き。

  • ◎ NO HOME RECORD*(Matador)Kim Gordon
  • 夫婦バンドは仲睦まじい時は良いけれど、不仲になるや否や解散の危機に直面する。Sonic Youthも浮気を赦さない妻(Kim Gordon)が夫(Thurston Moore)に三下り半を突きつけて離婚、バンドも解散を余儀なくされた。キム姐さんの初ソロ・アルバムはアヴァンポップ系(Yves Tumor、Angel Olsen)のプロデューサー、ジャスティン・ライセン(Justin Raisen)とのコラボ。Arto Lindsayみたいなノイズ・ギターが炸裂する〈Air BnB〉、クリックトラックとマリンバを組み合わせたトラップ(Trap)の〈Paprika Pony〉、Sonic Youthの〈Razor Blade〉を凶暴化させたような〈Murdered Out〉、狂乱騒音パンクの〈Hungry Baby〉、「私の乳首は震えて、密かに勃起している‥‥」と囁く〈Get Yr Life Back〉など、全9曲・39分。紙ジャケ仕様、4つ折りポスター・カード入り。アルバム・カヴァにはターナー賞(2016)の候補者になったことのある英国人アーティスト、ジョセフィン・プライド(Josephine Pryde)の写真が使われている。

  • ◎ MAGDALENE*(Young Trucks)FKA twigs
  • FKA twigs(Tahliah Barnett)は英グロスタシャー・チェルトナム生まれの女性SSW(母親はスペイン人系英国人、父親はジャマイカ人)。デビュー・アルバム《LP1》(2014)から5年、恋人との破局や子宮筋腫の手術を経てリリースされた2ndアルバムは傷心と痛みから生まれた。ソプラノ・ヴォイスとインダストリアル・ノイズ、破壊的なビートと奇妙なサンプリングの織りなす拗れたアヴァンポップ。多数のアーティストとの共同プロデュースだが、最も深く貢献しているのはNicolas Jaarだろうか。Kate Bushを想わせる〈Sad Day〉や〈Mary Magdalene〉。Arcaがヴォーカルの加工とシンセ・プログラミング、ラッパーのFutureが参加し、ブルガリアン・ヴォイスをサンプリングした〈Holy Terrain〉。Daniel Lopatin(OPN)と共作した〈Daybed〉‥‥ 全9曲・39分。見開き紙ジャケ仕様、6連綴り歌詞カード付き。アルバム・カヴァを撮ったのは英国人アーティストのマシュー・ストーン(Matthew Stone)。「木彫」かと見紛うような肌理のポートレイトである。

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    昨年(2018)に続いて、令和元年も「新女性上位時代」となった。「ベスト10」以下‥‥ Lou Doillon、Weyes Blood、Aldous Harding、Holly Herndon、Faye Webster、Cate Le Bon、Lana Del Rey、Nivhek、Madison Cunningham、Bonniesongs、Clairo、Ana Frango Eletricoなど、何気なく選んで行くと「年間ベスト・アルバム」が女性だけになってしまいそうだ(「Paste」 の年間ベスト10はBig Thief(Adrianne Lenker)を含めると全て女性)。作家や画家、監督などのアーティストは「女性」であることを殊更明記する必要はない。欧米では男女の性別を表わす「he・she」の代わりに、「they」(単数扱い)という新しい表記も増えているが、俳優や歌手が男性か女性かの違いは意外と大きい。映画や音楽賞のノミネートでは男・女を別建てしているし、ヴィジュアル面でも声質(高低)でも異なる。本ブログでは人名からの分かり難さも考慮して、敢えて「女性SSW」と表記している。もっともアノーニ(Anohni)のようなアーティストにとって、性別は無用な長物ですが。

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    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです

    • 輸入盤のリリース順(国内・流通盤が出ているアルバムには *マークを付けました)

    • Leonore Boulanger、Black Midi、Jenny Hval、Andre Mehmari, Bernardo Maranhao, Alexandre Andres、Kim Gordon、FKA Twigsは再録(加筆・改稿)

    • 「t h e y の新しさ」(朝日新聞 朝刊 「天声人語」 2019・12・13)を参照しました

    • 上半期(So Far)から5枚選んだので、波乱ない「ベスト10」になりました^^;
                        *


    Magdalene

    Magdalene

    • Artist: FKA twigs
    • Label: Young Turks
    • Date: 2019/11/08
    • Media: Audio CD
    • Songs: thousand eyes / home with you / sad day / holy terrain (feat. Future) / mary magdalene / fallen alien / mirrored heart / daybed / cellophane


    Remind Me TomorrowQuiet SignsWhen We All Fall Asleep, Where Do We Go?

    Practice ChanterRaAge of Immunology

    SchlagenheimPractice Of LoveNo Home Record
    SoliloqyDogrelProtoU.F.O.F.After It's Own Death
    GrandezaTitanic RisingEnergetic MindJe Suis AfricainLittle Electric Chicken Heart
    Norman Fucking Rockwell!RewardAtlanta Millionaires ClubDesignerImmunity

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    コメント 2

    sknys

    warszawa Top 10 Albums of 2019
    https://wrszw.net/top-50-albums-of-2019/
    1. Aldous Harding - Designer
    2. Big Thief - Two Hands
    2. Big Thief - U.F.O.F.
    3. Weyes Blood - Titanic Rising
    4. Luke Temple - Both​-​And
    5. Angel Olsen - All Mirrors
    6. Steve Gunn - The Unseen In Between
    7. Cate Le Bon - Reward
    8. Better Oblivion Community Center - Better Oblivion Community Center
    9. American Football - American Football (LP3)
    10. (Sandy) Alex G - House Of Sugar
    by sknys (2020-01-11 09:36) 

    sknys

    Monchicon's Best Albums of 2019
    http://monchicon.jugem.jp/?eid=2292#more
    1. Weyes Blood - Titanic Rising
    2. (Sandy) Alex G - House Of Sugar
    3. Big Thief - Two Hands
    4. Angel Olsen - All Mirrors
    5. Purple Mountains - Purple Mountains
    6. Stella Donnelly - Beware Of The Dog
    7. Aldous Harding - Designer
    8. Vampire Weekend - Father Of The Bride
    9. Mega Bog - Dolphine
    10. Tyler, The Creator - IGOR
    by sknys (2020-01-11 09:45) 

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