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鞭打ち夢 [p a l i n d r o m e]



  • 小学校の三年間をメキシコで過ごして、「みんなこっち見て!」 的なラテンマインドを身につけたわたしは、帰国後の六年二組の教室でこれでもかというほど浮いた。それを気に入った担任の先生の 「上白石、そのままでいてくれよ」 という言葉も虚しく、わたしはただちに日本人に戻った。中学に上がる頃には、もはやクラスの誰よりも慎ましくなっていた。そんなわたしにとっての一番の憂鬱が、国語の授業での音読の時間だった。なぜかというと、わたしは音読が大好きだったからだ。大好きだからいっぱい読みたい。でも目立ちたくない。だからみんなと同じようにボソボソ早口で読む。でも本心ではそんな自分が嫌でしょうがない。屈辱的な時間だった。ハキハキ音読をするクラスメイトは二人くらいいたけれど、わたしはその子たちみたいに堂々とすることができなかった。必死で群れに紛れようとしていた。今思えば、あの教室は羞恥心の溜まり場だった。思春期の人間の集まりのなかで、好きなことを好きと言うにはとても勇気が必要だった。わたしのような小心者にとっては特に。
    上白石 萌音 「読み上げる」


  • 帰省、上白石萌歌、鰯。姉・萌音、味わい鴨、鱰(シイラ)沁み懐石
    珍しく休みが重なった妹・萌歌と一緒に帰省した姉・萌音。鹿児島空港のゲートを出て、行き交う人々の鹿児島弁を耳にしながら、帰郷したという実感を久しぶりに噛み締める。上京して10年も経つのに今だに「故郷離れ」が出来ていないらしい。今日から二日間の日程はいつもと同じルーティンだ。「思い出の詰まった馴染みの場所」 を再訪するつもりである。椰子の木々が立ち並び、雄大な桜島を一望する与次郎ヶ浜。父方の祖母が作るカレーと唐揚げ。母方の祖父母と一緒に行った近所の回転寿司屋。学校行事や友達との暇つぶし、日曜日に近所のパン屋で買った朝食を持って家族とベンチで食べた公園、旧友と通った「通学路」。幼かった頃、桜貝を無心に探した生まれ故郷の海岸。木登りをした「ねずみ公園」。妹と共有した実家の子供部屋。鰯の梅煮、鴨ロース、鱰のムニエル‥‥二日目の午後、別行動だった妹と合流して、近くの料亭で懐石料理を堪能した。

    観戦、会話、5類マスク外す。ハグ、スマイル、怖い感染が
    全世界で猛威を振るったパンデミック「新型コロナウイルス感染症」もパンデミックから4年を経て漸く落ち着いて来た。日本でも厚生労働省によると、令和5年5月8日に(いわゆる2類相当から)「5類感染症」 へ移行した。「政府として一律に日常における基本的感染対策を求めることはない」 とのことで、外出時のマスク着用も各個人の判断に委ねられることになった。連休明けのマスク着用率は依然として高かったが、1カ月後には半々に減少しているようだ。先月5回目のワクチン接種(オミクロン / BA.4 / 5用)を受けたSは3年ぶりに友人たちとJリーグのサッカー観戦を愉しんだ。競技場に着くまでの移動中はマスクを着けていたけれど、スタンドでの観戦中は思い切って外した。友人と会話を交わし、応援していたクラブの先制ゴールで抱き合い、試合終了を告げる勝利のホイッスルが鳴って破顔した‥‥でも、ちょっとコロナ感染が怖かったりして?

    色紙「蹉跌」いつもだ苦悶、名人戦。爺、面目保つ一手指し棋士
    藤井聡太七冠・新名人が鬼籍に入った強豪棋士たちと五番勝負をすることになった。といっても「魔界転生」のような日本忍法と西洋魔術を熔合した切支丹バテレンの秘術でゾンビのように甦った魔人たちとの対戦ではなく、各棋士の指した将棋の全棋譜を読み込んだ最強AIとの「ヴァーチャル名人戦」である。対局相手は木村義雄十四世名人(1905-1986)、大山康晴十五世名人(1923-1992)、升田幸三実力制第四代名人(1918-1991)、米長邦雄永世棋聖(1943-2012)、怒濤流大内延介(1941-2017)の5人(大内は中原誠十六世名人と対局で「金」を打てば名人位獲得という千載一遇のチャンスがあった)。その中でも「受け」の大山、「攻め」 の升田、振り飛車穴熊の大内と藤井新名人の対局は愉しみだ。ちなみに升田爺の座右の銘は「新手一生」だったが、AI升田の色紙には何故か「蹉跌」と揮毫 されているのだった。

    尻痛く灼き診断、ジャニーK**に野心、男子虐待、突け!
    2023年3月7日に英BBCドキュメンタリーが 「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」(The Secret Scandal of J-Pop)を報道し、4月12日に元ジャニーズJr.が日本外国特派員協会で記者会見を開いたのに、民放TV局は黙殺。新聞各紙(朝日新聞朝刊 4・13)は記事を掲載したけれど、TVはNHKが夕方4時のニュースで2分間だけ報じたという。自社に都合の悪いことを「報道しない自由」などとネットで揶揄されているメディアのウス気味悪さ。1カ月遅れで 「News23」(TBS 5/11)が10分間報じたことから、民放各局でも徐々に伝えるようになった。F**ジャニーズ社長のヴィデオ謝罪も歯切れが悪く、所属タレントに罪はないとか、告白した性虐待被害者の二次被害を懸念するとか、今後の再発防止を謳いながらも後ろ向き。メディアも暴露系YouTuber逮捕や女優のW不倫ニュースは根掘り歯掘り報道するのに、「ジャニーK**の性犯罪」 について検証・告発するつもりは毛頭ないらしい。

    不甲斐なし有働、掘り仏メディア。死んだTV、痺れて男子愛で目瞑り報道しない歌舞
    「new zero」(日テレ)で月曜キャスターを務めるジャニーズ・タレントに非難が集中している。自ら精力的に取材をするキャスターS**は「ジャニーK**の性加害問題」についてはダンマリを決め込んでいた。ジャニーズ社長が動画で謝罪したVTRを流した(5/15)後、メイン・キャスターの有働由美子が「この件については、番組で話し合って私が話します。まずは性被害については被害者のケアを最優先に考えてほしい。そしてエンタメを通じてたくさんの夢を見せてきてくれたジャニーズだからこそ、ファンや私たちが迷いなく夢を見続けられるようにしてほしい」とコメントしたという。蚊帳の外にフレームアウトしたS**は「元ジャニーズJr.の3人が国会を訪れ、児童虐待防止法の改正を求める約4万人分の署名を与野党6党に提出したことを報じた」(6/5)後、自ら約2分間コメントした。英BBCが報じたスキャンダルは仏TV「France24」でも 「ダークサイド・オブ・Jポップ」(The dark side of J-pop)としてEU圏にも拡散された。一見無邪気に歌って踊る少年たちはレイプされたことで禁秘な「禁色」というダークリーな色気を纏うことになったのでしょうか?

    竹筒見てよ、芝覗いたら女子裸体、その場所で見続けた
    公園の芝生に寝転んでいた私は青空に浮かぶ白い雲が形状を変えながら流れて行く光景を眺めていた。地上に目を移すと、少し離れたベンチに座った少年が竹筒製の望遠鏡を一心不乱に覗いていた。「何か面白いものが見えるの?」 と問いかけると、はにかんだような表情の男子が望遠鏡を手渡してくれた。何の変哲もない竹筒を覗いて驚いた。山形遊具を登って遊んでいる少女たちがゼップの「聖なる館」のように見えたのだ。ボイオティアの大山猫のように骨や内臓をX線みたいに透視するわけでも、昭和の雑誌広告に載っていた怪しげな「透視メガネ」の類でもない。我を忘れて夢中で覗く光景は懐かしい 「青いマン華鏡」(1973)のようだった。どれくらいの時間が経ったのだろう。万華鏡から目を外して、ふとベンチを見やると少年の姿が消えていた。少年を探そうとして身を起こした時、立ち眩み起こしてフラつき、手にした竹筒を落としてしまった。なだらかな芝生を転がって植え込みの中に紛れ込んだ竹筒を探してみ見つからない。少年と同じように忽然と消えてしまったのだ。

    人界火事、遺骨散骨、混雑、恋路海岸に
    最愛の恋人を隣家で発生した延焼火事で亡くした男は遺骨を抱いて能登へ渡った。もし早死にするようなことが起きたら、故郷の海に散骨して欲しいといういうのが身寄りのない彼女の希望だった。能登半島七尾北湾、石川県鳳珠郡能登町の「恋路海岸」は平日なのに恋人らしきカップルたちで想像していた以上に混雑していた。下記のような「悲恋伝説」がSNSなどで拡散された影響だろうか?‥‥《波が穏やかな恋路海岸は伝説が残る海岸です。その昔、深い恋仲となった2人の若者、鍋乃と助三郎がいました。鍋乃に思いを寄せる恋仇の男の罠のため、助三郎は海の深みにはまって命を落としてしまいました。鍋乃も助三郎の後を追って海に身を投げ死んでしまうという悲しい恋の伝説から、いつしかこの地が「恋路」と呼ばれるようになりました。この2人をしのぶモニュメントや鐘、銅像が設置されています。沖には弁天島が浮かび、恋路海岸から見附島(珠洲市)までの3.5キロの海岸線は、「えんむすビーチ」 と呼ばれています》。遊覧船に乗って散骨することがSの「恋路」だった。

    外苑・暗澹・再開発は遺戒・惨憺・暗影化
    「明治神宮外苑地区の再開発事業」の中止と再考を求める反対運動が起こっている。令和5年2月24日、生前の坂本龍一が明治神宮外苑地区の再開発の見直しを求める手紙を東京都の小池百合子知事や永岡桂子文部科学相、都倉俊一文化庁長官など5人に送っていたことでも注目された。2007年当時、坂本氏が住んでいたNYで、ルームバーグ市長が市内に100万本の木を植えるというプロジェクトをスタートさせたことを引いて、神宮外苑の千本もの樹木を伐採しようとする暴挙を暗に非難している。「その強い意志と勇気に強く感謝した」 ロッシェル・カップは坂本氏の訃報を聞いて再び衝撃を受けた。そして逝去後、東京新聞が手紙の「全文」を掲載した時に「もう一度胸を打たれた」という。その手紙には彼女の書いた記事 「100万本の木を植えたニューヨーク 植樹に熱心なアメリカ、狙いは環境だけじゃない」(Globe+ 2022)へのリンクが添えられていたからだ。

    レオナルド・ディカプリオ、四股で腰折り、不甲斐で取る名折れ
    2010年4月、大相撲の新大関把瑠都凱斗に、尾上部屋東京後援会からライオン柄の化粧まわしが贈られることになった。同後援会の高旗通博会長曰く、バルトの故郷エストニアの国章に描かれている獅子を採用したという。夏場所には間に合わないけれど、6月12日の新大関&新部屋落成記念パーティで披露される。「角界のディカプリオ」 というニックネームに因んだジョークの意も込められているらしい。閑話休題。お忍びで来日した米俳優レオナルド・ディカプリオは桟敷席で大相撲春場所を観戦した。親日家で知られるレオ様は大の相撲好きでもあったのだ。尾上部屋を見学しただけでなく、何と体験入門までしていたとは驚きだった。ところがレオ様は土俵で四股を踏んだ時にギックリ腰になってしまった。腰を折った姿勢のまま固まってしまい微動だにしない。その美貌だけが苦痛に歪んでいる。新大関把瑠都と一度も取り組むことなく、担架で病院に緊急搬送されたのだった。

    食いにアリエル・ドンバール、寿司、無理・無視スルー、パン取るエリアに行く
    寺山修司の 「上海異人娼館 チャイナ・ドール」(1981)やエリック・ロメールの 「海辺のポーリーヌ」(1983)に出演していた米仏女優アリエル・ドンバール(Arielle Dombasle)は歌う女優としてラテン・スタンダード・アルバムなどをリリースしている。ちなみに旦那は仏哲学者のベルナール=アンリ・レヴィ(BHL)。こんなにエロい女優と哲学者が結婚して良いのだろうかと思っていたけれど、驚いたことに〈バービーコニック〉(Barbiconic 2022)のMVで、アリエル(1953生まれ)は 「可愛い人形」 などと妖しげな日本・独・西 ・仏・中国語で語りかけて、自らバービー人形に変身しているのだった。バービーを愛でる少女(妖女?)に成り切った年齢不詳の天然ぶりには圧倒される。ニュー・アルバムのプロモーションを兼ねて極秘に来日したアリエルは兼ねてからの好奇心に駆られて、K寿司の暖簾を潜った。ところが彼女は魚アレルギーだった。寿司の皿が回転するところを一目見たいだけだった。彼女が「シャリカレーパン」の皿に飛びついたのは言うまでもない。

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     スニンクスなぞなぞ回文 #71

     ◇△▽△りゅういちさかもと☆ともかさちいうゆり△▽△◇

     回文作成:sknys

     ヒント:セルフ・ポートレイト


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    いろいろ

    いろいろ

    • 著者:上白石 萌音
    • 出版社:NHK出版
    • 発売日:2021/09/25
    • メディア:単行本(通常カヴァ版)
    • 目次:はじめに / エッセイ / わたしの "萌音さんの色" / 掌編小説 / わたしがいた風景~鹿児島小旅行リポート~ / 足あと、いろいろ /『いろいろ』ができるまで / あとがきにかえて


    C'est Si Bon

    C'est Si Bon

    • Artist: Arielle Dombasle
    • Label: Columbia Europe
    • Date: 2006/10/06
    • Media: Audio CD
    • Songs: C'est magnifique / C'est si bon / Tico Tico / Relax-Ay-Voo / Dream A Little Dream Of Me / Cheek To Cheek / Que Sera Sera / A Fine Romance / Moi, je m'ennuie / Paris In Delight / South American Way / Boys In The Backroom / Darling, je vous aime beaucoup / Tenias Qu...


    Houses Of The Holy

    Houses Of The Holy(DELUXE EDITION 2CD)

    • Artist: Led Zeppelin
    • Label: Atlantic
    • Date: 2014/10/28
    • Media: Audio CD(2CD)
    • Songs: The Song Remains The Same / The Rain Song / Over The Hills And Far Away / The Crunge / Dancing Days / D'yer Mak'er / No Quarter / The Ocean // The Song Remains The Same (Guitar Overdub Reference Mix) / The Rain Song (Mix Minus Piano) / Over The Hills An...


    青いマン華鏡 ── 石ノ森章太郎萬画大全集(9-36)

    青いマン華鏡 ── 石ノ森章太郎萬画大全集(9-36)

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2008/02/29
    • メディア:コミック
    • 収録作品:青いマン華鏡 / ぼくの部屋にはベートーベンのデス・マスクがあった / トキワ荘のチャルメラ / トキワ荘物語 / 小川のメダカ / 手塚治虫氏の逝った日 / 風のように‥‥

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