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また蹴る毛玉 [p a l i n d r o m e]



  • どうしてもアナウンサーになりたいと思って、アナウンサー試験を受け始めたわけではありませんでした。私の中の女性アナウンサー、いわゆる "女子アナ" は、華があって、機転が利いて、言葉巧みで、まさに "高嶺の花" というイメージ。そんなリスペクトを抱く一方で、こんなことがありました。まだ中学生の頃、一人のアナウンサーの一言が、とても本心からではないように感じられ、ひどく失望したのです。/ 「いつも笑顔で、時には思ってもいないようなことを言わなければならないなんて、私は嫌だ。自分の気持ちに嘘をついてまで、八方美人でいなければならないなんて」 / 良くも悪くも素直で曲がったことが嫌いな私は、そういう偏見でアナウンサーという職業を疎んですらいました。それにもともと人前に出るより、一人黙々と作業に集中しているほうが好きなタイプです。そんな自分がアナウンサーになるなんて考えたこともありませんでした。/ ところが「ミス青山」になったことで、運命が大きく変わりました。他大学のミスキャンパスの子たちと一緒にちょっとしたタレント活動をするようになり 、人前に出る機会が増えていったのです。
    新井 恵理那 「すべては挫折から始まった」


  • □ 子ネコ愛しい新井恵理那。鈴なり絵、イラ愛し、問い子猫
    ブルーボタンインコのラピスを飼っている私が子ネコに夢中になるなんて思いもしませんでした。ネコ族は鳥類の天敵ではありませんか。公園に飛んで来た鳩や雀を伏せて狙っているノラネコの姿を目撃したことも一度や二度ではありません。小鳥好きの私が子ネコに魅惑されたのはネコの絵画だけを集めた大人気の「ニャーンズ・コレクション」展(木天蓼美術館 2021)を観て、ミュージアム・ショップにあったイーラの写真集『85枚の猫』に魅了されたから。まさにレイチェル・ヘイルの『SMITTEN』というタイトルのように "瞬殺" されたのでした。好奇心で爛々と輝いている眼差し、優雅に空中浮游する肢体‥‥イーラのネコたちに見惚れながら思うのは一体どうやったら、こんなにも魅力的な写真が撮れるのかということ。イーラや子ネコたちに問いかけたくなります。岩合光昭さんが日本語版で「ぼくの教科書のひとつだった」と述べているのも納得です。子ネコの写真集に癒される日々。今のところ自宅でネコを飼うつもりはないので、ラピスちゃんも容認してくれると思います。

    □ 私は露骨!‥‥つい突っ転ばしたわ
    朝、目覚めると窓いっぱいの強い陽射し、空は真っ青の日本晴れ‥‥ 「窓際の椅子で、真っ白なお腹の毛を陽に晒して眠っている」。飼い猫の姿を眺めているうちに、ムクムクと元気が湧いて来た。元気が出たので、ネコ写真を撮りに出かけることにした。人気のない谷中墓地を猫を捜しながら散歩する。古びた墓の間を歩いて行くと、若そうな女の人が後ろ向きに屈んでいた。カシャッ、カシャッというカメラのシャッター音がする。その先に一匹の猫がいた。「この人、猫の写真を撮っている‥‥ふいに、その若そうな女の屈んだ背中に、思いっきり跳び蹴りをしてやりたい気持ちになった(私って、年とって、イヤーな性格になっちゃったのだろうか)」 ‥‥歩きスマホしている人が駅のホームや階段から転落する事故が頻出しているけれど、地下道や歩道など混雑する場所でスマホを見ながらノロノロと前を歩いている人の背中を思いっ切り、突っ転ばしてやりたい気持ちになることってありますよね。

    □ 靴履く審判、前半、四苦八苦
    Jリーグの公式戦で主審Aは四苦八苦していた。試合開始直後にスパイク・シューズのソールが剥がれてしまったのだ。予備のシューズに履き替えればすむことなのだが、運の悪いことに滞在先のホテルに置き忘れていた。副審や第4審判の予備シューズを借りることも考えたが、恐らくサイズが合わないだろう。主審Aは高身長の大足で、サッカー少年だった中高生の頃から靴のサイズも特大(30cm)だったからだ。サッカーの審判員になってからはスポーツ・シューズ・メーカーに特注したスパイク・シューズを履いている。仕方がないので応急処置として、アッパーとソールを靴紐でグルグル巻きにして何とか前半戦を終えた。試合中に滞在先のポテルから予備のシューズを持って来るように、第4審判に伝言しておいたので、幸いハーフタイム中に履き替えることが出来た。選手のようにボールを蹴ることはないが、審判員のシューズも消耗品なのだ。

    □「見えるか?」‥‥日の出の光る笑み
    アリスが公園で黒ネコと遊んでいると、植込みの木の枝からチェシャ猫に話しかけられた。「オレが見えるか?」 ‥‥不思議の国から帰って来てからも、ニヤニヤ笑いネコが姿を現わすようになった。神出鬼没のネコは時空の裂け目を見つけて、ファンタジー・ワールドと自在に行き来するようになったらしい。アリスに気があるのか、時々現われては喋り出す。高層ビルが峻立する都会から富士山が見えるスポットがある。それどころか、「ダイヤモンド富士」 を拝めるところもあるにゃん。都内にある富士見坂や富士見橋などの地名は、そこから富士山が見えたことに由来するのだ。翌日アリスは早起きしてJR目黒駅近くの「富士見坂」に行ってみた。ビルの立ち並ぶ朝焼け空から富士山のシルエットが浮かび上がった。「ダイヤモンド富士」 ではなかったが、その雄大な日の出に息を呑んだ。「見えるか?」 ‥‥いつの間にか現われたネコがアリスに問いかける。そして光る朝日の中に、ニヤニヤ笑いだけを残してチェシャ猫は消え去った。

    □ 猫又ケバいコスプレ、セレブ、凄い歯、毛玉捏ね
    山奥に潜んでいる猫又は人を食い殺すと言い伝えられている。人家で飼われているネコも老齢になると尻尾が二股に分かれた妖怪・猫又に化けて人を惑わすという。山中の猫又は大山猫(Lynx)ではないかとも想われるが、人家の猫又は由来が判然としない。ハロウィンの夜、渋谷に出没した猫又はマリオ、セーラームーン、ゾンビ・ナース、ミニスカ・ポリス、プリズナー、アマビエなどの仮装パレードの列に加わって、センター街から公園通り、原宿方面へ跳梁跋扈した。コロナ禍のハロウィンを象徴するように、殆どの魑魅魍魎がマスクを着用している。猫又コスプレのマスクは特大サイズ‥‥耳まで裂けた真っ赤な口と鋭い牙が描かれている。両手には口から吐き出したと思われる極彩色の毛玉を捏ね回して、お手玉のように弄んでいる。黒いミニスカ、黒タイツ姿のコスプレは老猫又というよりも「猫娘」に近い。もちろんスカートの中から伸びている長い尻尾は二股に裂けている。この猫又娘は某セレブではないかという噂がネット上で拡散されているが、その真偽は今も不明である。

    □ 威張る跳ねるネコ股蹴り。毛玉捏ねる粘るパイ
    「コロコロ毛玉日記」は朝日新聞土曜版 「be」 に連載中の8コマ・マンガ。飼主(中川いさみ)と不機嫌顔の灰色ネコ毛玉の「新しい日常」が描かれている。得意とする不条理ギャグではなく、コロナ禍の「等身大」の日々を綴る脱力マンガである。「毛玉日記 13」(2021・1・9)で、作者はネコが出て来る「ネコ回文」を考える。艱難辛苦して「イカ食う箱根の猫は浮くかい?」という回文を1つ捻り出す。‥‥ある日の午後、毛玉が厨房で夜食のパイ生地を捏ねていると、近所のボス猫が窓から闖入して来た。毛玉と外の縄張りを争う宿敵である。尊大な態度のデカ顔ネコは毛玉を睨みつけて一触即発の緊急事態に陥った。必殺技「真空跳び股蹴り」を辛うじて躱した毛玉は粘るクリーム・パイを投げつけて反撃する。パイ投げ大会のみたいにボス猫の顔面に見事命中!‥‥出来の悪い石膏像と化したボス猫は茫然自失。スラップスティック・コメディみたいな結末に毛玉は笑い転げた。

    □ 鰐が這う路地裏。虎、牛、老婆が庭
    ある日の夕暮れ、散歩に出かけた私はクロコダイル路地近くの公園の奥にある小さな池で、身長の3倍もありそうな巨大な鰐と遭遇する。大きな口を開けて威嚇するクロコダイルに視界を覆われ、《気づいたとき、私は鰐の中にいた。鰐と同化していた》。「鰐男」 となった私は狭い路地裏に入り込んだ。人気のない道を這い進むと視界が開け、古ぼけた洋館が眼前に現われた。広大な前庭の左右に立つ門柱に、虎と牛の鋼鉄像がジーン・ウルフの「番犬ケルベロス」よろしく出迎える。訪問者は拒まないが、1度入ると2度と出られない冥府の館ではないかという疑念も湧いたが、「鰐男」 としての好奇心が勝った。庭の奥に歩いて行くと、黒いローブを身に纏った老婆の姿が視界に入った。この館の女主人なのか使用人なのか見分けがつかない。これで大鎌を持っていたら「死神」に間違いないのだが、幸い彼女が手にしていたのは竹箒だった。もしかしたら空を飛ぶ魔女かもしれない。

    □ ぶっ込み粥、鮭・酒・白湯、紙コップ
    コロナ禍で休校中だった母子家庭の中学生は昼食にハワイ料理の「ロコモコ」を見よう見真似で作ってみた。長引く巣籠もり生活で外食が激減して自炊を始めた大学生の夕食は「太刀魚の団子鍋」だった。シフトを減らされて収入が激減したフリーターは自宅で慎ましく自炊生活するようになった。TVのワイドショーを見ていたら、某映像関連会社から7万円の高額接待を受けたという女性内閣広報官の話題になって、女性タレントが《庶民がまだまだ会食を我慢したりしている時にこういうニュースが出ると、なんかやっぱり庶民と違う世界なのかなとか、7万4203円、うちの親子3人の月の食費とあんまり変わらない》とコメントしていた。ネット上で揶揄された「上級国民」は実体のない虚像などではなく、確かに日本国内に実在するらしい。今夜の貧食メニューは土鍋に白米、鮭、酒、白湯を入れて炊いた「ぶっ込み粥」‥‥紙コップに注いで飲むのは自棄酒である。

    □ 録画、鬱屈、低気圧。夏・秋・凍てつく通学路
    今も昔も人は天候に左右される。精神的にも肉体的にも。青空が拡がる快晴の日は気分も晴れ晴れするが、どんよりした暗鬱な黒雲が立ち籠める日は心も晴れない。「木の芽時」 になると、毎年体調が思わしくなくなる。3年前、路上で倒れて緊急搬送され、1週間の検査入院を余儀なくされたのも3月上旬だった。低気圧、寒暖差、空気乾燥、花粉症に、今年はコロナ禍まで加わった。「緊急事態宣言」で家の中に引き蘢っているのにも限界がある。とは雖も学校へ行くのも億劫で気が進まない。通学路に設置された防犯・監視カメラの存在も気分を滅入らせる。新型コロナウイルスの感染防止対策で、マスクの着用に抵抗感がなくなったこと、桜が開花する時季になるとスギ花粉の飛散量が減ることが花粉症者にとっての救いである。酷暑熱中症の夏、台風災害の秋、凍てつく豪雪の冬‥‥地球温暖化による異常気象で日本の四季が破壊されている。人の心身も壊れていないだろうか?

    □ 宥め鮨で、怒る身をラクサで‥‥「桜を見る会」で沈めたな
    都内のホテルで開催された「桜を見る会」の前夜祭の会費が五千円と聞いて耳を疑った。費用総額の一部をアベ氏側が補填していたのではないかという疑惑が生じ、国会でも野党から追及された。前官房長官は「5千円で出来ないことはないんじゃないか」などと発言していたが、首相官邸近くの高級レストラン・オリガミ(ORIGAMI)で頻繁に朝食 「シーズナルブレックファースト」(¥4800)を摂っているガースーに言われても説得力に欠ける。突然の総理大臣辞任は自身の体調悪化ではなく、「桜を見る会」 の国会答弁が虚偽だとバレちゃったからでしょう。腹立たしい思いを回転寿司で宥め、怒る身をラクサ(東南アジアのスープ麺)で鎮める。総理辞任のTVニュースを眺めながら思う。アベは「桜を見る会」で、自らの心身を沈めることになったと‥‥その半年後、某映像関連会社から7万円の高額接待を受けていたことが発覚した女性内閣広報官が前首相と同じように、健康上の理由で辞職した。

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    • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい^^;

    • 〈私は露骨!‥‥つい突っ転ばしたわ〉は武田花の「谷中の猫」から引用しました

    • 鰐回文は〈ジロリ!‥‥驚きクロコダイル。歩いた5〜6キロ通り路地〉の続編です

    • 激ムズの恵理那回文は 「イーラ」(Ylla)の人名を「イラ」に変えて作りました^^;

     スニンクスなぞなぞ回文 #62

     抱き合うよ自分、山羊娘◇△◎▽☆▽◎△◇め棲む
     キャンプ場・秋田

     回文作成:sknys

     ヒント:山羊娘の誘惑?


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    八方美人

    八方美人

    • 著者:新井 恵理那
    • 出版社:宝島社
    • 発売日:2019/08/23
    • メディア:単行本
    • 目次:はじめに / 卒業アルバムの黒歴史 / なにがなんでも弓道をしたい / 父の教え、母の教え / ひょんなことから 「ミス青山」 / すべては挫折から始まった / もう花束は見たくない / 雨にルビ振る / 誰といても自然体で / 最終チェッカーとしてのこだわり / テレビをもっと面白く / テレビを生き抜く先輩方の言葉 / ストレスの壁と戦う / とらわれない幸せ / ...


    85枚の猫

    85枚の猫(85 CHATS)

    • 著者:イーラ(Ylla)
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:1996/11/25
    • メディア:大型本
    • 目次:イーラの猫からはじまった・岩合 光昭 / プロフィール / 85枚の猫 / 登場猫一覧


    カラスも猫も

    カラスも猫も

    • 著者:武田 花
    • 出版社:筑摩書房
    • 発売日:1995/04/05
    • メディア:単行本
    • 目次:昭和三十年代の思い出 / 高い、高い、初体験 / 噛まれたこと / 花も写真も日記 / あの町この町日が暮れる / 歩いて撮って / YURA YURAと… / 夜の代々木公園 / 写真展の夜 / 埠頭まで / 未来の気分 / あとがき
    ケルベロス第五の首

    ケルベロス第五の首

    • 著者:ジーン・ウルフ(Gene Wolfe)/ 柳下毅一郎(訳)
    • 出版社:国書刊行会
    • 発売日: 2004/07/20
    • メディア:単行本
    • 目次:ケルベロス第五の首 /『ある物語』ジョン・V・マーシュ作 / V・R・T / 訳者あとがき

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