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キティ愛溺 [p a l i n d r o m e]



  • 硝子だろうか、水晶だろうか、卵形の透明な球体であった。紅く見えたのは、夕焼けが映ったのだろう。かなり大きい。長い方のさしわたしは十五センチぐらいである。ずっしり重い。/ 内部に、猫の全身が彫り込まれている。/ 仔細に見ると、猫の部分は虚ろになっているのだっだ。/ つまり、これを作るためには、球体を真半分に割り、その断面に、猫を半分ずつ、内側に凹むように彫る。そうして、両方を一つに合わせる。猫型の空洞が、球体の内部に封じ込まれることになる。/ しかし、球体には、切断の痕も接着の痕跡もなかった。よほど巧みに継いだのだろうか。/ 猫は、透明な卵の中で、ゆったりとくつろいでいた。/ しかし、この猫は、実態は空洞なのだ。/ 外側の透明な殻を透かしてみれば、はっきり存在しているが、硝子か水晶かわからない外殻を打ち砕けば、とたんに猫は消滅してしまうのだ。/ いわば、非在の存在であった。わたしは寝ころがったまま、窓から射す夕陽に、非在の猫を封じ込めた卵をかざし見た。/ 猫の内部が紅くゆらめいた。
    皆川 博子 「たまご猫」


  • □ 意地悪、梅見る木乃伊、みちょぱ予知、未来見る眉目麗しい
    アベ前首相夫人がタレントたちと「花見」をしていた件で、もし誘われても 「行かないです、絶対に」 「(昭恵さんは)立場を考えた方が良いのではないか」 とTV番組で発言していた池田美優(みちょぱ)は今年、東北の「梅まつり」に行った。その足で即身仏が見られるという東北の某寺に立ち寄った。即心仏とは僧侶のミイラのこと。江戸時代には疫病や飢饉に苦しむ衆生を救うべく、多くの高僧が自ら断食して土中に入定したというけれど、嫌がる罪人を無理矢理地中へ埋めて餓死させ、火で燻してミイラ化させたこともあったらしい。境内は梅が咲き乱れて、再び観梅気分を味わった。みちょぱが即心仏を見たいと思ったのは、この寺の木乃伊が参拝者に「お告げ」をするという噂があったからだ。本堂内で即身仏と対面した美優は不思議な体験をした。即心仏が彼女に憑依したのか、それとも「木乃伊取り」になってしまったのか、彼女の脳裡に僧侶からのメッセージがテレパシーのように聞こえたのだ。「あなたは一生結婚しないかもしれない」‥‥何とも意地悪ミイラの未来予知だった。

    □「一粒でドカン!」‥‥民家、土手、吹っ飛び
    ついに発明したぞ。ノーベル化学賞に値する大発明だ。ダイナマイトの数万倍の破壊力を有する小型爆弾の開発に成功したのだ。手榴弾よりも一回り小さく、掌の中にスッポリと収まるサイズ。この1粒(一発)で民家や土手などを木っ端微塵に吹っ飛ばせる。あのダイナマイト王もゾンビとなって墓場から甦るほどの衝撃力ではないか。この発明を今世界に公表したら、天地が引っ繰り返るくらいの大騒ぎになるだろう。原子爆弾、劣化ウラン弾など、大量破壊兵器の存在さえ揺るがし兼ねない。もし戦争や紛争に転用されたり、テロリスト集団の手に渡ったらと想像するだに空怖しい。それ故に誠に残念ではあるが、この世界的な発明は公表せず闇に葬ることにした。私の願いは世界平和である。地球を破壊したり、人類を殺戮することではない。私がアルフレッド・ノーベル氏と同じ道を進むことはないだろう。

    □ 養豚地区湧く、ワクチン投与
    動物農場のスノウボールは怒り心頭に発していた。この養豚地区でも新型コロナ・ウイルス感染予防のワクチン接種が始まり、農場の人間どもは浮かれている。これでコロナ感染のリスクを回避出来ると安堵したのか、農民たちはマスクを外して、真っ昼間から飲酒しているのだ。「豚コレラ」(豚熱)が流感した時、人間どもは我が同胞たちの命を一頭たりとも救うことなく、真っ先に大量殺処分したではないか。コロナ禍で強行されようとしている東京五輪の開会式で「オリンピッグ」などという、我が同志を愚弄した演出を提案したオリ・パラ開閉会式統括責任者は即刻クビになったが、この国の首相は何を訊かれても「国民の命と健康を守って行く」という言説を頭のイカれた鸚鵡のように繰り返している。人間どころか、「動物の命と健康を守る」 決意も毛頭ない。「そうだ、そうだ!」 という大合唱が聴衆から起こった。スノウボールの演説を聞いていた鳥たちの鳴き声だった。「鳥インフル」 で1千万羽もの仲間たちが殺戮された鶏たちは怒り心頭どころか「怒り鶏冠」に来ていたのだった。

    □「悲しき五輪」惨禍。罹患、3里漕ぎし仲
    「悲しき五輪」 を週刊文春に特別寄稿した沢木耕太郎は東京オリンピックを開催する「大義」がない。「この二度目の東京大会ほど惨めなオリンピックは、かつてなかったかもしれない」 「黙って通り過ぎるのを見送ればいいのか。あるいは、惨めで哀れな大会だからこそ、最後まですべてを見届けてあげるべきなのか」 と隘路で立ち尽くす。朝日新聞「声」欄に 「五輪中止 それしか道はない」 を投稿した赤川次郎は《医療も報道も、それぞれ良識と良心をかけて、五輪開催に反対の声を上げるときである。利権に目のくらんだ人々には、これも「馬の耳に念仏」だろうか。そう言っては馬に失礼かもしれないが》と結んでいる。東京オリンピックのボート競技(舵手なしペア)の代表に内定した選手Aはペアを組むBがコロナ・ウイルスに感染したことにショックを受けた。毎日10km以上もボートを漕いで練習して来た仲だけに、これからどのように対応したら良いのか、先の見えない不安だけが渦巻いている。

    □子猫・木天蓼・チビ太・たまご猫
    チビ太はオデンが大好き。いつも串に刺したオデンを左手に持っている。平成・令和に生まれた読者は奇異に思われるかもしれないが、古き昭和時代には毎日リアカーを引いたオデン屋さんが来ていた。オジさんが来ると外で遊んでいた子供たちは移動屋台に群がって、竹輪麩やボール、コンニャク、昆布など、好みの具材を買い食いするのだった。その中でもハンペンと茹で卵は高価で、少ない小遣いを握り締めた子供たちには手が出なかった。幾つか選んで所望するとオジさんが串に刺してくれる。たまに保護者たちが「大人買い」することもあったが、屋内で食べる器に盛ったオデンは串に刺したオデンほど美味くなかった。チビ太が手に持っているオデン(コンニャク、ボール、竹輪麩?)もオデン屋さんから買ったのだろう。子猫がマタタビを好くように、チビ太は大好きなタマゴも食べたかったが、高くて買えない。先日トト子ちゃんの家に遊びに行った時、チビ太は戸棚の上に飾られていた卵形の透明な球体に目を瞠った。タマゴの中に透明なネコが彫られていた。大好きなタマゴが「たまご猫」のような実体のない存在に思われて来た。

    □ 受かる仏和辞典、ノンアル、安穏‥‥弟子、ワッフル買う
    仏文科志望受験生必携の辞書がある。受験生の8割が「受かる仏和辞典」を愛用しているという。試験会場でも深紅の辞書が目立った。神辞書の御利益なのか、某大学の仏文科に現役で合格したWは友人たちと浮かれ騒ぎたい気持ちを抑えて帰宅して、家族だけで祝杯を上げた。未成年のWはノンアルコール・ビールで乾杯したのだが、元々アルコールを1滴も受けつけない体質だった。高校時代、悪友にビールを無理矢理飲まされたことがあった。喉越しの爽快感は一瞬のことで、その直後に動悸や頭痛に襲われて気持ち悪くなってしまった。それだけに昨今のノンアル・ビールの隆盛は嬉しい限り。大学サークルのコンパでも事前にノンアルを調達しておけば、酒を飲む仲間たちと心置きなく会話が弾みそうだ。もちろんコロナ禍が終息した後のことだが‥‥とノンアルを飲みながら想う。母親(日本舞踏の家元)も顔を赤らめて上機嫌。弟子が気を利かせて、Wの大好きなワッフルを買って来た。

    □ 苦痛、骨折、小池百合子。残り湯、脛骨、石膏着く
    午後8時から数時間が過ぎた夜中に帰宅した小池百合子は疲労困憊していた。コロナ・ウイルス感染防止対策に加えて、都議会選挙、東京五輪開催というイヴェントが控えているからだ。ベッドに倒れ込んだ都知事は「まさか、こんな異常事態になるとは夢にも思わなかったわ」と独り言つ。何もする気が起こらないので、とりあえず昨夜の残り湯に入って心身のストレスを癒すことにした。《わたしはぬるい湯舟につかり、恥骨が白骨化してゆくのを感じながら、「流れる水の面の底の石のように、その存在をきわだたせる」》‥‥睡魔に襲われて微睡んでしまったのか。夢うつつで浴槽から出ようとした時に後ろ足を滑らせて、股裂き状態になってしまったのだ。その痛さに耐え切れず、浴室の床に転倒して失神!‥‥意識を取り戻した真っ裸の百合子は自分がどこにいるのか一瞬分からなかった。股間と右足に激痛が走る。脛骨を骨折してしまったのだ。都知事は慣れないロングドレスで足元を隠しているけれど、右足は分厚い石膏ギブスで覆われている。

    □ ビリはリバウンド疲れ伯母、俺カツ丼、乳母リハリビ
    コロナ禍で学生の授業や会社員の仕事はオンライン(それでも朝夜の通勤列車は混雑しているし、緊急事態発令中なのに繁華街の人出は減っていない)。プロ野球やJリーグの試合は入場観客数を制限して開催、小中高校の運動会や体育祭も規模を縮小したり、感染対策を強化して実施されている。我が町内の運動会も2年振りに行なわれた。「パン食い競走」 に参加した俺と伯母と乳母。半年前からダイエットに挑戦していた伯母はリバウンドで激太り、元のメタボ体型に逆戻りしていた。昼食に「カツ丼弁当」を食べて縁起担ぎしたのに、俺は腹一杯で動けない。2カ月前に寝室で転倒して、大腿骨を骨折した乳母はリハリビ中だった。伯母は走り出してから10mで早くも青息吐息状態に、俺は餡パンを食うのにも一苦労、乳母は慎重を期してゆっくり走った。どん尻は伯母、俺と乳母の順位も言わずもがなである。

    □ 海外変異株、差大きい地域。大阪府が隠蔽絵画?
    イギリス型、インド型、ハイブリッド型‥‥新型コロナ・ウイルスの変異株が猛威を振るっている。パンデミックによる死者・感染者数は世界各国の地域差が大きく、ワクチン接種率にも大きな隔たりがある。コロナ交付金(コロナウイルス対策臨時交付金)で「巨大イカ」のモニュメントを造った石川県能登町は国内外から批判を浴びたが、大阪府立美術館が緊急事態発令中にコロナ交付金でエゴン・シーレの絵画を密かに購入していたことが発覚した。エゴン・シーレ(Egon Schiele 1980-1918)はオーストリアの表現主義画家。シーレは約100年前、世界中で大流行していたスペイン風邪で死去している。師匠のクリムトは恋人の肖像画を描いて贈ったが、エミーリエ・フレーゲは青と緑色のドレスのデザイン(装飾的な紋様)が気に入らず、競売に賭けてしまった。ウィーン市立歴史博物館(現ウィーン・ミュ ージアム)は1908年度の芸術購入予算の全額を注ぎ込んで〈エミーリエ・フレーゲの肖像〉を落札したというけれど、大阪府立美術館は何億円で落札したのでしょうか?

    □ 抱き合うよ自分、山羊娘、四つん這い。パンツ嫁棲むキャンプ場・秋田
    広島県比婆山のヒバゴン、北海道屈斜路湖のクッシーなど、日本各地には多種多様な 「謎の未確認動物」(UMA)が棲息しているらしい。今話題になっている萩形キャンプ場に出没するという山羊娘ハギナも目撃情報が後を絶たない。先月友人たちとキャンプに来ていた大学生の都馬も目撃者の1人。しかも彼はハギナと接近遭遇したというのだから驚きだ。ハギナは現地の娘として都馬も前に現われた。彼女と意気投合した都馬は夜のデートで抱き合うくらい親密な間柄になった。甘い口づけを交わして夢心地になったが、何気なく彼女を足許を見た都馬は我が目を疑った。《少女のスカートから覗いていたのは細い足首と優雅な脚ではなく、「山羊の蹄」 だった》のだ。熱い抱擁で気が緩んだのか、馬脚ならぬ山羊脚を露わしたハギナは四つん這いになって駆け出し、森の中に消え去った。山羊娘ではなく、ミニスカ・パンチラで誘惑する山羊夫人だったという目撃情報もある。山羊娘の母親かもしれません。

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    • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい^^;

    • 即身仏については富岡多恵子 「雪の仏の物語」、京極夏彦 「古庫裏婆」 を参照しました

    • 吉岡実の詩 「水鏡」、トンマーゾ・ランドルフィの小説『月ノ石』から引用しました

     スニンクスなぞなぞ回文 #63

     オリンピック疎い◇△◎▽☆した多分ブタ出し☆▽◎△◇
     い盗掘品リオ

     回文作成:sknys

     ヒント:悲しき五輪ピッグ


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    たまご猫

    たまご猫

    • 著者:皆川 博子
    • 出版社:早川書房
    • 発売日:1998/01/31
    • メディア:文庫(ハヤカワ文庫JA)
    • 目次:たまご猫 / をぐり/ 厨子王 / 春の滅び / 朱の檻 / おもいで・ララバイ / アズ・タイム・ゴーズ・バイ / 雪物語 / 水の館 / 骨董屋 / 解説・東 雅夫 / 皆川博子著作リスト


    動物農場〔新訳版〕

    動物農場〔新訳版〕

    • 著者:ジョージ・オーウェル(George Orwell)/ 山形 浩生(訳)
    • 出版社:早川書房
    • 発売日:2017/01/07
    • メディア:文庫(ハヤカワepi文庫)
    • 目次:動物農場 / 報道の自由:『動物農場』序文案 /『動物農場』ウクライナ語版への序文 / 訳者あとがき


    月ノ石

    月ノ石

    • 著者:トンマーゾ・ランドルフィ(Tommaso Landolfi )/ 中山 エツコ(訳)
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日: 2004/07/09
    • メディア:単行本(Modern & Classic)
    • 目次:月ノ石 / 附録 本作品に対するジャコモ・レオパルディ氏の評価から / 訳者あとがき

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