カルナックの臍 [m u s i c]
カーナック 「ジャムつきトースト・パンの落下に関する考察」
Karnakのデビュー・アルバム《Karnak》(Tinitus 1995)は仰々しいオペラに始まり、怪しげなロシア民謡で終わる。インナー・スリーヴのメンバー全員集合記念写真(11人と犬1匹!)は音楽集団というよりも、アマゾン奥地の秘密結社かアナーキー・ゲリラ軍団かと思しき雰囲気だった。レゲエにアラビックな旋律が絡む〈O Mundo〉、Paulinho MoskaやLulu Santosがゲスト参加したカリビアンの〈Lee-O-Dua〉、マンギ・ビートの〈Balanca A Panca〉、アフロ・ファンクの〈Hymboraequeyra〉、Tom Ze御大が登場するラストの〈Cala A Boca Menina〉‥‥トン・ゼーは「カルナック」と発音している。KarnakのメンバーはAndre Abujamra(ヴォーカル、ギターなど)、Marcos Bowie(トランペット)、Hugo Hori(サックス、フルート)、Kuki Satolarski(ドラムス)、Ednardo Cabello (ギター)の5名で、Hugo HoriやKuki Satolarskiなどが在籍する別働隊のFunk Como Le Gusta(FCLG)を聴けば分かるように、彼らの演奏自体は巧緻で洗練されている。ところがAndre Abujamra直属の配下となると、途端に変態的な無国籍音楽構成員へ豹変する。
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Andre Abujamra統帥の率いるKarnak(後述する日本語では「カーナック」と発音している)は一体何が飛び出して来るか皆目見当もつかないブラジル料理店の中でも最もわけの分からない変態大所帯グループで、ジャマイカとアラブのダブル・スープをベースに、今まで誰も味わったことのない珍奇なメニューを豊富に用意する。真っ当な純正レゲエ麺よりも、ジャンルを横断した異種配合‥‥その実験の結果、偶然生まれてしまった突然変異?‥‥国籍不明のミクスチャー料理の方が美味しかったりして。2ndアルバム《Universo Umbigo》(Velas 1997)はレゲエ、カントリー、サンバ、ファンク、パンク、ローファイ、ヒップホップ、ラップ、ラガマフィン、ドラムンベース‥‥などの酒池肉林で満腹になる。何でもゴチャ混ぜの「カルナックの臍宇宙」(宇宙の臍)はミュータント化した怪異・異形の人間たちで溢れている「阿呆船」ように妖しくもバカバカしく美しい。
サンプリング〜引用される「日本語」も単に無意味な音声的な効果だけを狙った欧米ロックやヒップホップの安易な「引用」に留まらず、その超ナンセンスな意味内容をも把握しているらしいオマケの「ジャムつきトースト・パンの落下に関する考察」‥‥誤って下に落ちてしまった時、ジャムを塗ったパンの表面が下にならないように、ペットのネコが美味しく食べられるように、最初からジャムの面を下に伏せてテーブルの上に置く?‥‥は外国人特有の妙なイントネーションと相俟って笑えます(カーナック・グループの次の研究テーマは「バナナの曲線」だという)。長いブランク(無録音パート)の後に2曲のシークレット・トラック、人力ドラムンベースとガムラン風のインスト曲が隠されている。超おバカさんなコントに腰が引けた読者には、Pato Fuのメンバー(Johnが楽曲提供)が〈Rapaz Eu Vi〉、Mestre Ambrosioが〈Boiadeiro〉にゲスト参加していることを付け加えてしておこう。
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未来世紀ブラジルの変態音楽集団、Karnakの3rdアルバム《Estamos Adorando Tokio》(Net 2000)はタイトルに「トーキョー」を読み込み、アルバム・カヴァの金皿に「東京タワー」を刷り込む。インナーでは東南アジアからの観光客に扮した内藤剛志(?)がカメラを構えている‥‥という風に、日本への憧れを表明した親和的な怪作となっている。だからと言って、表層的なジャパネスクに堕しているはずがない。ケベック、モントリオール、ミズーリ、ジャマイカ、スペイン、アフリカ、イスタンブール、バハマ、ペルー‥‥と列挙される世界の国々や都市名。《追突事故で炎上し、少なくとも18人が死亡しました》という女子アナウンサーによる日本語ニュースが唐突に引用される〈Estamos Adonando Tokio〉はキューバ〜サルサ化している。Karnakのメンバーが2010年に来日して、建設中の「東京スカイ・ツリー」を見たらビックリするかもしれませんね。
変則ロシアン・ポルカの〈Abertura Russa〉に始まり、カノン風のレゲエ〈Juvenar〉、マラガシ〜ハードロックの〈Momuntuera〉、ヒップホップ・ファンクの〈3 Aliens In La〉、ラップ、グランジ風の〈Sosereiseuseforso / Nuvem Passageira〉、フォーク・ソングの〈Losef〉、パンク・ナンバーの〈Mediocritas〉、アラビック・ドラムンベースの〈Ninguepomaquyde〉、変態ヒップホップの〈Maria Ines〉‥‥と続く。11名は大所帯すぎたのか、3rdアルバムのメンバーは7名──Andre Abujamra、Marcos Bowie、Kuki Satolarski、Hugo Hori、Sergio Bartolo(ベース)、Lulu Camargo(キーボード)、Ednardo Cabello──に人員整理されて、Jeton(犬)も構成員から外れたけれど、全18曲(2・7・14・17曲目はノン・タイトル!)、74分の大作となった。「バナナの曲線についての考察」が収録されていないのは残念ですが‥‥。
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ライヴ・アルバム《Os Piratas Do Karnak》(Spin 2003)はベスト盤的な選曲になっている。《Karnak》から9曲、《Universo Umbigo》から6曲、《Estamos Arorando Tokio》から9曲、アルバム未収録3曲を含む全27曲2時間余り(2CD)がアルバム順に並ぶ。オープニングを飾るのはデビュー・アルバムと同じく〈Almo Nao Tem Cor〉。コール&レスポンスが愉しげな〈Hymboraewqueyra〉、変則パンクのアルバム未収録曲〈O Individuo〉、後半のサイケデリックなギター・ソロがFunkadelicを想わせる〈Cala A Boca Menina〉、コラージュ・パッチワーク風の〈Candelara〉‥‥。「パイレーツ・オブ・カリビアン」のモジリというよりも、骸骨船乗組員(スケルトン・クルー)の方が相応しいかもしれない。「3つのドクロ」を描いたイラスト・カヴァは、中央のガイコツ船長がAndre Abujamra、王冠を被っているのがMarcos Bowie、必勝日の丸の鉢巻きを締めているのはHugo Horiでしょう。大西洋やカリブ海を荒らし回った海賊船カルナック丸は荒波に呑まれ、沈没して幽霊船(白骨)になったとか?
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2002年末にKarnakは突然活動休止を表明したが、その後も断続的にライヴ・パフォーマンスは続けているらしい。ソロ・デビュー・アルバム《O Infinito De Pe》(Spin 2004)から6年‥‥誰もがKarnakの存在を忘れかけていた頃に、Andre Abujamraの3ndアルバム《Mafaro》(Omin 2010)がリリースされた。Antibalasみたいなアフロ・ファンクの〈Origem〉、ブッ飛んだ歌詞の〈Imaginacao〉、ラテンの〈Lexotan〉、レゲエ〜ダブの〈Tem Luz Na Cauda Da Flecha〉、ヒップホップ〜ファンクの〈Abuxiscuruma〉‥‥ Hugo Hori、Kuki Satolarski、James Muller(パーカッション)、Tiquinho(トロンボーン)など、Karnakのメンバーがサポート。アフロとアラブが混在するサウンドはタイトで洗練されている。「変態ミクスチャー系無国籍音楽」も抑制されているが、Karnakを聴いたことのないワールド・ミュージック愛好家には、それでも奇異に聴こえる?‥‥「mafaro」とはジンバブエの言語で「happiness」の意味で、「このCDは我々の人生における幸福の受領(acceptance)を表わしている」(Andre Abujamra)という。英訳詞付きブラジル盤。
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- Karnakの2nd & 3rdアルバムは〈X線の眼を持つ女〉と〈終わらない夏〉からの再録です(一部加筆・改稿)
- 「ジャムつきトースト・パンの落下に関する考察」は〈X線の眼を持つ女〉から移動しました
- 記事の一部を修整しました。少し読みやすくなったかしら?(2019-02-27)
karnako umbigo / sknynx / 264
- Artist: Karnak
- Label: Tinder
- Date: 1997/11/25
- Media: Audio CD
- Songs: Vinheta Arabe / Alma Nao Tem Cor / Martim Parangola / O Mundo / Vim Que Venha / Comendo Uva Na Chuva / Espinho Na Roseira/Drumonda / Conversa Dos Nenes / Balanca A Panca / Ai, Ai, Ai, Ai, Ai, Ai, Ai / Oxala Meu Pai / Hymboraewqueyra
- Artist: Karnak
- Label: Velas
- Date: 1999/01/29
- Media: Audio CD
- Songs: Universo Umbigo / O Mundo Muda / Eu tô Voando / Céu Com Pé No Chão / Velho No Metrô / Nome das Coisas / Inalabama / Candelara / Num Pode Ser / Eu Só Quero Um Xodó / Como Nascem As Criancas / Rapaz Eu Vi / Boiadeiro
- Artist: Karnak
- Label: Net
- Date: 1996/09/04
- Media: Audio CD
- Songs: Abertura Russa / Juvenar / Estamos Adorando Tokio / Momuntuera / 3 Aliens In La / Sosereiseuseforso/Nuvem Passageira / Losef / We Need Nothing / Mediocritas / Zoo / Depois Da Chuva / Ninquepomaquyde / Maria Ines / Feio, Bonito / Juvenar
- Artist: Karnak
- Label: Pilot
- Date: 2007/08/21
- Media: Audio CD(2CD)
- Songs: Alma Não Tem Cor / Oxalá Meu Pai / Vim Que Venha / Hymboraewqueyra / Balança a Pança / Quadrilha do Pé Quente / O Indivíduo / Espinho na Roseira / Drumonda / Cala a Boca Menina / Lee o Dua / Martin Parangolá / Candelara // Universo Umbigo / Mó Muntu...
- Artist: Andre Abujamra
- Label: Spin / Tratore
- Date: 2004/01/07
- Media: Audio CD
- Songs: Olho Azul / Infinito de Pé / Nóis Eh Sampli / O Dah Ho / Essa Música Não Existe / Natureza / Tempo / Atoto / Namburuque / Palmeira do Deserto / 70% / Elevador / Blue Rose / Senha do Motim / Magina de Pipo / Curriculum
- Artist: Andre Abujamra
- Label: Omin / Tratore
- Date: 2010/03/04
- Media: Audio CD
- Songs: Origem / Imaginação / Lexotan / A pedra tem vida / Uma a uma / O amor é difícil / Tem luz na cauda da flecha / Logun Edé / Daunloudaram / Abuxiscuruma / Duvião / Mafaro
2010-04-26 19:00
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