ネコ・ログ #66 [c a t a l o g]
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大江 健三郎『日常生活の冒険』
#586│グレ│飼い猫 ── 軒下のネコ
軒下は安全だが、車の下は危険極まりない。駐車中のクルマは何時動き出すか分からない。エンジン音に驚いて目を覚ましたネコがタイヤに轢かれる最悪の事態を想像して背筋が寒くなる。ネコはクルマという「走る凶器」を正しく認識出来ない。人間よりも交通事故に遭う危険性が高い。吉行淳之介は 「猫踏んじゃった」(1965)の中で、主人公・三上宗一がクルマで轢き殺してしまったネコを次のように描写している(坂道を登って来た男の自転車という可能性も否定出来ない)‥‥《猫の内蔵が、漿液と一しょに、乾いた地面の上に大きく広がっていた。それが猫であることは、濡れた広がりの横に、猫の顔が転がっていたことで分かった。その顔は、坂道の上の内臓の面積にくらべて、ひどく小さくみえた。ちょこんと、そこに置かれていた》。乗車する前にボンネットを叩いて、エンジンルームやタイヤの上で暖をとっているネコを安全に逃す「猫バンバン」も効果的だという。
#587│サイ│飼い猫 ── オレンジ色のネコ
金井美恵子は「猫の毛の色」の中で、「マーマレード色の猫」 と書いているが、『日常生活の冒険』(1964)に登場するのは「歯医者」という風変わりな名前の「オレンジ色の縞の肥 った猫」だった。二歳年下の友人・斎木犀吉から、バスケットに入っているオレンジ色の猫を預かった 「ぼく」 は四国の谷間まで運び、祖父に預けることになる。モラリスト斎木犀吉のモデルは伊丹十三らしい。『大江健三郎全小説全解説』(2022)を上梓した尾崎真理子によると、大江の義兄は当時「歯医者」という風変わりな名前のネコを飼っていたという。長毛種のロンち ゃんに興味がありそうなサイちゃんはオレンジ色のネコ。まだ警戒心があって、近寄ると逃げてしまう。鉄柵越しに撮った写真だが、先日は遊歩道のベンチの上で寛いでいた。もう少しで馴れてくれるかもしれない。
#588│ミス│飼い猫 ── キャタログ・キャット
最近見かけないスコティッシュ・フォールドのミスちゃん。相棒の三毛ピノちゃんと元気に暮らしていると良いのですが‥‥というわけで、今回は斜向かいの家の飼い猫バルちゃんの近況をお届けします。昨年、「青いエリザベスカラー」 を着けて神妙にしていたので心配していましたが、女飼主によると右目のアレルギーを患っていたそうです。その写真を改めて見ると、右目が腫れぼったく映っていました。先日出会ったバルちゃんはエリザベスカラーをしていなかったけれど、やっぱり右目が少し腫れています。心無し元気がなさそうに見えます。小さな音にも敏感・敏捷に反応するセンシティヴなネコに変わりはありませんが。右目の腫れが目立たないように写真を撮りました。一日も早く全快して、元気になって欲しいと願っています。ミスちゃんとの微妙な関係も修復されると嬉しいにゃん。
#589│スワ│飼い猫 ── 妖猫が這う日
回文シリーズ #66〈妖婆が這う夜〉の回文タイトルは当初「妖魔が舞う夜」だった。投稿する前に検索すると、同文の回文がヒットしたので急遽変更を余儀なくされた。「妖魔が舞う夜」 よりも「妖婆が這う夜」の方がホラー度が増して怖くなったような気もする。同じネコでも撮るシチュエーションやネコの表情や仕草によって驚くほど印象が異なる。スワちゃんは子猫の頃から撮っている人懐っこいネコ。子猫時代はヒトの気配を感じるや否や逃げ出していたが、ある時から不思議なことにヒトを全く怖がらずに自ら懐くようになった。足許に纏わりつき、寝転がってお腹を見せる。柔らかい毛並みを撫ぜると、指や手に戯れつく。愛くるしいスワちゃんでも、アングルやネコの姿勢や表情によっては妖艶に写る時もある。この写真のタイトルは「妖猫が這う日」です。
#590│ジャム│飼い猫 ── 檻々のねこ
ヒトに近寄られると一定の距離を保って後退りする用心深いネコも両者の間に障害物があると安心するらしい。ヒトが容易に侵入出来ない門扉や鉄柵の向こうに避難したネコは距離を縮めても逃げないからだ。歩きスマホしていた女性が踏切内で電車に轢かれて死亡するという不可解な事故が起こった。スマホに集中していたとはいえ、警報音が鳴っていることや遮断機が降りていることは認識していたはず。それなのになぜ、電車に撥ねられてしまったのか。考えられるのは女性が線路を渡った向こうの遮断機を線路前にある遮断機と錯覚していたのではないかということ。ネコならば躊躇なく遮断機の下を潜り抜けて線路内から脱出するけれど、踏切の前にいると思って疑わない女性は遮断機の外に避難するという考えに至らない。遮断機の降りた線路内にいることを女性に気づかせる手段はなかったのか。ジャムち ゃんは民家の門扉の奥に逃げ込んで、こちら側を見つめています。鉄扉越しに撮ったので、下部に扉の一部が黒い影のように写り込んでしまった。
#591│シミ│飼い猫 ── シミュラクル・キャット
駅前公園に隣接する地下駐輪場はネコたちの一時避難場所になっている。身の危険を感じたら植込みの奥から階下の駐輪場へ逃れられる。『シミュラクラ』(1964)に登場するUSEA大統領(デア・アルテ)は代々シミュラクラ(模造人間)だった。『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』(1968)の舞台は最終世界大戦後、死の灰(放射能物質)に汚染された地球。高層集合住宅の屋上で、本物の動物を飼うことがステータスとなっている。リック・デッカード刑事は破傷風で死んでしまった羊のグルーチョの代わりに屋上で電気羊を飼っている。廃墟と化した巨大ビルの一室で暮らすヴァン・ネス動物病院(模造動物修理店)の集配トラック運転手J・R・イジドアは肺炎に罹った猫を動物病院へ搬送する途中で死なせてしまう。ピルゼン夫妻の飼い猫ホレースは本物の猫だった。ワクチンをメクノス人に届ける途中で、飼い猫ノーマンを絞め殺したベドフォードが異星人からペナルティを課せられる「猫と宇宙船」はフィリップ・K・ディックの猫愛溢れるショート・ショートなっている。
#592│アニ│飼い猫 ── ニャンコ捕物帖
『くノ一捕物帖 恋縄緋鳥』(1973-74)は大江戸を舞台にしたセックス(裸女)&バイオレンス(斬首)満載の青年向き時代劇。抜け忍のくノ一緋鳥が岡っ引の養女となって事件を解決する。凄惨で猟奇的な描写も少なくないけれど、読後感は陰々滅々にはならない。大・小 ・斜辺を織り交ぜてスムースに流れて行く自由自在なコマ割りに爽快感があるからだと思う。『新・くノ一捕物帖 大江戸緋鳥808』のコマ割り(P300とP302)が全く同じことに気づいた読者が何人いるだろうか。女忍者とネコは親和性が高く相性も良い。「くノ一捕物帖」の 「控之六 怪談・黒猫の唱う怨み経」 「控之十七 猫酔うて虎に変ず」 には黒猫が登場する。アニちゃんはフォトジェニック。写真映えするネコなのだ。チャームポイントは見目麗しい「つぶらな瞳」 でしょうか。都庁に生息する「黒い頭のネズミ」を捕ったりはしないけれど。
#593│アサ│飼い猫 ── 老舗蕎麦屋さんの看板ネコ
商店の看板ネコは珍しくないけれど、日本にはデューイのような「図書館ねこ」はいない。尾道市立美術館内に入ろうとするネコと防ごうとする警備員の攻防が「ほっこりニュース」として話題になるような後進国では、そもそも美術館内にネコがいるという発想がない。なぜ美術館ねこは認められないのか。エルミタージュ美術館では60匹以上のネコたちが警備員として展示品を守っているというではないか。行動・言論の自由が制限されているロシアと自由・民主主義の強いアメリカに美術館ねこや図書館ねこがいて、日本に1匹もいないのは摩訶不思議である。The Linda Lindasというアジア・ラテン系女子4人組パンク・バンドの〈Racist, Sexist Boy〉が話題になっている。コロナ・ウイルスの感染拡大でロックダウンする直前に、メンバー(小学生ドラマー)がクラスメートから被った人種差別的な行動を批判した曲のライヴ会場はロサンゼルス公立図書館(LA Public Library)だった。日本の図書館ねこがパンク・バンドの演奏を聴く日は100年経っても来ないかもしれません。
#594│ロン│飼い猫 ── ライオット・キャット
中央図書館裏の遊歩道で、厳寒の冬は東京、酷暑の夏は北海道へ移り住むという女性に再会した。お腹を見せて寝っ転がるロンちゃんを見て、「すごく馴れているのね。私には懐いてくれないのよ」 と感心される。たまたま『日常生活の冒険』(新潮社 1964)の文庫本(T区図書館のリサイクル本)を持っていたことから、若い頃に大江健三郎を読んでいたという話になった。三島よりも大江が好きだという。『芽むしり仔撃ち』(新潮社 1958)の素晴しさを語り合うことが出来たのは嬉しい。今チェーホフを読んでいるということから、ロシアのウクライナ侵攻へ話題は及ぶ。女性はプーチンには怒りしかないと語気を強める。ロシア軍が北海道へ侵攻して来るかもしれないという不安も絵空事ではなくなった。筒井康隆の『歌と饒舌の戦記』(新潮社 1987)も今となっては荒唐無稽なスラップスティックと笑い飛ばせない。皆川博子先生の小説を推挙したけれど、読んでくれるかしら?
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各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第66集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。今までに590匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。第66集の常連ネコはスコティッシュ・フォールドのミスと長毛種のロンちゃん。新参ネコと出合う機会も減って、スワやアニなど同じネコばかり撮っているような日々。変わり映えしないので、昨年撮った蕎麦屋さんの看板ネコに再登場してもらいました。飼い猫の写真は後日、飼主に手渡すことにしているのですが、その多くは年配のオバさんたち。若い女性と話すことは殆どないけれど、オバさんたちとの会話は弾みます。看板ネコの写真を渡すと、蕎麦屋さんや製麺所の女主人も喜んでくれました。
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- 記事タイトルの右に一覧リストのリンク・ボタン(黒猫アイコン)を付けました^^
- オリジナル写真の縦横比は2:3ですが、サムネイルは3:4にトリミングしました
- 「9分割ナンバー表」 の背景画像を白黒からカラー(写真の左上部分)に変更しました
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- 著者:大江 健三郎
- 出版社:新潮社
- 発売日:1971/08/27
- メディア:文庫(新潮文庫)
- 内容:たぐい稀なモラリストにして性の修験者斎木犀吉──彼は十八歳でナセル義勇軍に志願したのを手始めに、このおよそ冒険の可能性なき現代をあくまで冒険的に生き、最後は火星の共和国かと思われるほど遠い見知らぬ場所で、不意の自殺を遂げた。二十世紀後半を生きる青年にとって冒険的であるとは、どういうことなのであろうか? 友人の若い小説家が...
- 著者:大江 健三郎
- 出版社:新潮社
- 発売日:1997/08/01
- メディア:文庫(新潮文庫)
- 目次:到着 / 最初の小さな作業 / 襲いかかる疫病と村人の退去 / 閉鎖 / 見棄てられた者の協力 / 愛 / 猟と雪のなかの祭り / 不意の発病と恐慌 / 村人の復帰と兵士の殺害 / 審判と追放 / 解説・平野 謙
- 著者:筒井 康隆
- 出版社:新潮社
- 発売日:2013/11/29
- メディア:文庫(新潮文庫)
- 目次:エヴェレスト山頂 / 箱根・小塚山中 / ジューネーブ・レマン湖畔 / ハワイ・オアフ島 /《景事》神戸元町商店街 / アラスカ・アンカレッジ / 鎌倉→横須賀 / アフガニスタン ・カブール市内 / 根室・納沙布岬 / 網走刑務所 / 旭川市内 / 青函トンネル / 帯広・十勝川畔 / 北太平洋 /《日野みどりの手記》足寄岬 / 東京帝国ホテル / ベーリング海 / 大雪山...
- 著者:フィリップ・K・ディック(Philip K. Dick)/ 山田 和子(訳)
- 出版社:早川書房
- 発売日:2017/11/21
- メディア:文庫(ハヤカワ文庫SF2155)
- 内容:時は21世紀半ば、世界はワルシャワを中心とする共産主義体制とヨーロッパ・アメリカ合衆国(USEA)とに完全に二極化されていた。USEAで絶大な権力を握る美貌の大統領夫人ニコル・ティボドーは、タイムトラベル装置を使って秘かにゲーリング元帥を呼び寄せ 、恐るべき計画を実行しようとするが‥‥模造人間(シミュラクラ)、超小型違法宇宙船...
- 著者:フィリップ・K・ディック(Philip K. Dick)/ 浅倉 久志(訳)
- 出版社:早川書房
- 発売日:1977/03/01
- メディア:文庫(ハヤカワ文庫 SF 229)
- 内容:第三次大戦後、放射能灰に汚された地球では生きた動物を持っているかどうかが地位の象徴になっていた。人工の電気羊しかもっていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた〈奴隷〉アンドロイド8人の首にかけられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りをはじめた! 現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致をもちい...
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2007/08/31
- メディア:コミック
- 目次:控之一 恋縄緋鳥 / 控之二 生首・淫雨に舞う / 控之三 闇を裂く緋い閃光 / 控之四 花火なぜ咲くなぜに泣く / 控之五 蝉時雨と静寂の間で天狗の鼻がわらった / 控之六 怪談・黒猫の唱う怨み経 / 控之七 夏の終りは赤い血の色 / 控之八 女狐のないた夜 / 控之九 淫獣月明に咆ゆ / 控之十 地獄への二本道 / イラストコレクション
2022-07-01 00:05
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