霧の彼方へ [c o m i c]
エドガー・アラン・ポー 「アッシャー家の崩壊」
「アッシャー家の崩壊」を想わせるような低く重たい雲が垂れ籠めた陰鬱な秋の日、今にも崩れ落ちそうな古い大きな洋館に辿り着いた2人の男女‥‥奈良岡美紀(わたし)は婚約者の村上達也に連れられて、彼の実家を訪れた。老婆(ばあや)と長兄(睦彦)が2人を迎える。屋敷の住人は睦彦と妻・弥栄子、ばあやのカネ、お手伝いの娘・良子、下男の源三の5人。その夜、雨が降り出して稲妻が光り、雷鳴が轟く。客室のベッドで眠りに着こうとしていた美紀は凄まじい悲鳴を聞く。不安になって達也の許へ行ったが、部屋の中には誰もいない。廊下に出た彼女は隣の部屋から出て来た女性、首に短剣が刺さった血塗れの良子と遭遇して気絶してしまう。「わたし」が達也の実家に来たのは長男夫婦に婚約の報告をするためと、長兄が弟に宛てた一通の手紙によってだった。その手紙には、屋敷を売り払って別の場所で暮らしたい。財産分割などについて相談したいことがあるので、近日中に帰って来て欲しいと書かれていた。
ベッドの中で目覚めた奈良岡美紀は心配そうに気遣う村上達也に、お手伝いの良子さんが刺殺されたと訴えるが、恐ろしい夢を見たに違いないと諭される。良子は家族の誰かが病気になって急に里へ帰ったという。翌朝、庭で出合った下男の源三も朝早く娘を車で駅まで送ったと口裏を合せる。美紀は良子の部屋の前で、拭き取った血痕を見つけた。古い美術品のある部屋の中へ入ろうとすると、呪われた品が置かれているので、結婚前の女性が見ると必ず災いに襲われると、ばあやのカネに咎められる。老婆が去った後、密かに入室した美紀は武者の鎧兜を発見する。その夜、彼女は部屋の前で長兄の妻・弥栄子が謎の鎧武者に日本刀で斬り殺されるのを目撃した。翌朝、カネと睦彦から、弥栄子が階段を踏み外して軽い怪我をしたと知らされる。中庭を散策していた彼女は夫と下男が良子の死体を埋めようとしている現場を覗き見てしまう。その直後に背後から鎧武者が斬りかかる。振り下ろした日本刀が木の枝に阻まれて彼女は命拾いした。
木の幹に小刀で串刺しにされた下男の源三。木の棒で殴られた婚約者の村上達也。ばあやのカネも長兄の睦彦も屋敷内で息絶えていた。スキンヘッドの異形の男が「弥栄、弥栄‥‥」と呟きながら美紀の身に迫る。駆けつけた達也に救われて屋敷の外へ逃げた美紀は夫から驚愕の真相を知らされた。第2次大戦の終わる頃、敗色濃い日本軍は劣勢を挽回しようと焦っていた。その解決策として、科学者だった父の研究所が狙われた。父親の研究を利用して原子爆弾のような大量殺人兵器を造らせようとしたのだ。拒絶した父は軍部によって拷問されて、見るも恐ろしい崩れた顔になってしまった。戦争が終わって帰って来たが、美しい母・弥栄は変わり果てた父の容貌に耐えられず、2人の子供を捨てて他の男と逃げ去った。その後、女性を見ると狂暴化する狂人となった父が閉じ込められていた部屋の檻を破って連続殺人を犯したのだった。屋敷に火を放って焼身自殺した父‥‥大量殺人兵器を造ることを身を挺して反対した科学者が凶悪な殺人鬼になろうとは‥‥。
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- 「石ノ森章太郎萬画大全集 5-8」(角川書店 2008)をテクストに使いました
- 「石森章太郎選書 第18巻」(虫プロ商事 1970)を参照しました。選集版の「霧の彼方より」は連載2回目以降の扉絵1枚(前回までのあらすじ)が割愛されているので、全集版とは異なり、左右の頁(割り付け)が途中で何度か入れ替わっています
ishimorindex / ishimolist 1 / 2 / 3 / comics 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16 / 17 / 18 / 19 / 20 / 21 / 22 / 23 / 24 / 25 / 26 / 27 / 28 / 29 / 30 / 31 / 32 / 33 / 34 / 35 / sknynx / 808
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2008/05/31
- メディア:コミック
- 目次:霧の彼方より / わたしだけのあなた / 鏡の中で私が死んだ / チャタレー夫人の恋人 / 人魚伝 / ナイトあんどデイ / 青い風のノート / 青い馬 / 夜…小公園にて / そのむかしおんなの子は… / 今はムカシ… / 灰色の壁
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:虫プロ商事
- 発売日:1970/03/15
- メディア:単行本
- 目次:ゼロゼロ指令 ── 第一話 世界をポケットに / 霧の彼方より / わたしだけのあなた / 作品批評・森 秀人「石森マンガの "健康さ" にふれて」/ 作品メモ
- 著者:エドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe)/ 巽 孝之(訳)
- 出版社:新潮社
- 発売日: 2009/03/28
- メディア:文庫(新潮文庫)
- 目次:黒猫 / 赤き死の仮面 / ライジーア / 落とし穴と振り子 / ウィリアム・ウィルソン / アッシャー家の崩壊
2018-11-11 01:33
コメント(2)
石ノ森章太郎さんの作品はユニセックスな感じがします。
手塚さんのもそうですね。
トップの猫ちゃん、見返り美人。^^
by ぶーけ (2018-11-15 15:00)
この頃(1970年前後)の絵が一番美しくて、男女キャラも魅力的です。
手塚作品はバンパイヤ、メルモちゃん、ボッコ隊長(W3)
‥‥性別や種族を問わず、変身シーンがエロティックだった。
スコちゃんが撮れなくて、肩を落として歩いていたら、
少し先に「見返り美ネコ」がいたにゃん^^;
by sknys (2018-11-15 20:32)