SSブログ

アニマル・ファーム [c o m i c]



  • すべてが終わると、残った動物たちはブタとイヌたち以外、一団となってひっそりとそこを立ち去りました。みんな震撼して惨めでした。どっちのほうが衝撃的だったかもわかりません──スノーボールに肩入れした動物たちの裏切りか、それともいま目撃した残虐な懲罰か、かつての時代も、同じくらいひどい流血の場面はありましたが、それが自分たち同士で行なわれているとなると、はるかにひどいものだとだれもが感じていたのです。ジョーンズが農場を去ってから今日に至るまで、動物が他の動物を殺したことはありませんでした。ネズミさえも殺されてはいません。みんな、半分完成した風車の立つ小さな丘へと向かいました。そして一斉に、まるで身を寄せ合って暖を取るかのように、みんな横になりました──クローバー、ミュリエル、ベンジャミン、ウシたち、ヒツジたち、ガチョウやニワトリみんなの群れ──まさに全員です。ただしナポレオンが動物たちに招集をかける直前に突然姿を消したネコだけは別でした。
    ジョージ・オーウェル 『動物農場』


  • 60年代後半から70年代初頭の「少年マガジン」は「巨人の星」と「あしたのジョー」という2枚看板の長期連載で読者年齢も上がり、今では考えられないほどに青年誌化していた。サキ原作の短篇を7人のマンガ家(真崎・守、松本零士、辰巳ヨシヒロ、上村一夫、川本コオなど)が競作するシリーズ 「異色作家サキ短編」(1970)、6人のマンガ家(上村一夫、川本コオ、真崎・守、旭丘光志、辰巳ヨシヒロ、松本零士)による「短篇オリジナル・シリーズ」(1970)、永井豪、川本コオ、石森章太郎、山上たつひこ、松本零士の5人がSF小説(原作)とオリジナルの2作品で競うシリーズ「未来がまつ落し穴」(1971)など、意欲的な企画が続いた。ジョージ・オーウェルの風刺寓話「動物農場」(1945)を原作とする「アニマル・ファーム」(1970)も、この潮流に乗るもので、同誌に4週(8月23日第35~9月13日第38号)連載された。石森章太郎は小松左京のホラー短篇「くだんのはは」(1968)も劇画化(別冊少年マガジン 1970)している。

  • ■ アニマル・ファーム(週間少年マガジン 1970)石森 章太郎
  • 荘園農場(MANOR FARM)の農主ジョウンズが夜中に酔っ払って帰宅する。寝室で鼾をかいている妻のベッドに潜り込む。主人が眠った後、農場の大納屋に動物たちが集合した。老ブタのメイジャーが同志諸君に演説する。動物たちを家畜として冷酷無残に奴隷化して屠殺する人間たちに反乱を起こすように檄を飛ばす。老メイジャーの見た夢‥‥人間が姿を消した未来で、動物たちが歌っていた「アースランドの動物」を大合唱する。彼らの歌声に目を覚ましたジョウンズが驚いて猟銃を発砲すると、流れ弾がメイジャーに命中して死亡してしまう(原作では射殺されたのではなく、3日後に寝たまま平和に死を迎える)。昼寝をしているジョウンズ、街へ遊びに行った作男たちの隙を突いて動物たちが暴動を起こす。ジョウンズ夫婦と帰って来た農夫たちを農場から追い出して呆気なく勝利する。「動物農場」の3匹のブタ、同志スノウボール、ナポレオン、フィクサーは「動物主義」の7カ条を掲げた。

  • 七戒
    • 二本足で立つものはすべて敵である。
    • 四本足で歩くもの もしくは翼や尻尾をもつものは すべて味方である。
    • いかなる動物も衣服を身につけるべからず。
    • いかなる動物もベッドに寝るべからず。
    • いかなる動物もアルコールを飲むべからず。
    • いかなる動物も他の動物を殺すべからず。
    • すべての動物は平等である。

                        *

    「動物農場」は「動物共和国」として独立した。ブタたちが牝牛の乳を搾り、動物たちが牧草の刈り入れをする。酒場「Red Lion」では農場から追い出されたジョウンズが農夫仲間に愚痴を零していた。果樹園の裏手にある小さな放牧場を引退した同志の養老施設にしたいと思うスノウボールとリクリエーション・センターにしたいと考えるナポレオンとで意見が対立する。乳牛から搾ったミルクと果樹園から穫ったリンゴをブタたちが食しているという批判にフィクサーは牛乳とリンゴは頭脳労働者たるブタの健康保持に欠かせない特質を含んでいると詭弁を弄す。ブタが責務を遂行出来なくなった場合にはジョウンズが戻って来ると脅す。武器を持ったジョウンズたちが農場を襲撃するが、スノウボールの作戦によって「ウシ小屋の戦役」に勝利した。「風車建設計画案」に反対するナポレオンは手下のイヌたちに襲わせて、提案者のスノウボールを追放する。日曜日の集会廃止、同志ナポレオンへの忠誠と服従、そして風車の建設‥‥ナポレオンが提唱していた風車の設計図をスノウボールが盗み出したのだとフィクサーが言葉巧みに動物たちを言い包める。

    ナポレオンは干し草一山と小麦の収穫の一部、鶏卵週400個を売り渡す契約を二本足の人間と結ぶ。風車の建設費用や農場経営のために現金が必要になったからだ。ところが暴風雨が吹き荒れ、稲妻が光る嵐の夜に建設中の風車が崩壊してしまう。ナポレオンはスノウボールの仕業に違いないと断じ(最近発見された秘密文書によって、スノウボールはジョウンズと通じていたことが判明したとフィクサーが説明する)、動物たちに風車の再建を促す。農場主ピンチフィールドとの取り引きを止め、より高い値で収穫物を引き取ってくれるフォックスウッドに乗り換える。悪辣な交渉術で大金を得たブタたちはビールを飲み、ナポレオンは牝ブタを侍らせベッドを共にする。ブタたちの酒池肉林を窓の外から目撃したネコは動物たちに密告する。「七戒」に違反しているのではないかと疑った動物たちが翌朝見に行くと、いつの間にか書き変えられていた。ネコはナポレオンのイヌたちに咬み殺される。彼女はスノウボールのスパイだったとフィクサーが動物たちに明かす。

  • 七戒
    • 二本足で立つものの一部はすべて敵である。
    • 四本足で歩くもの もしくは翼をもつもののほとんどは味方である。
    • いかなる動物も必要以上の衣服を身につけるべからず。
    • いかなる動物もシーツをかけたベッドに寝るべからず。
    • いかなる動物も過度にアルコールを飲むべからず。
    • いかなる動物も他の善良な動物を殺すべからず。
    • すべての動物は平等である。しかしある動物は他の動物より平等である。

                        *

    取り引きを止められた腹いせにピンチフィールドたちが動物農場を襲撃して、完成間近の風車を爆破した。怒り狂った牡馬ボクサーが人間たちを蹴散らして追い払う。度重なる重労働や人間たちとの戦いで疲弊したボクサーは納屋で静養していた。見舞いに来た老ロバのベンジャミンに、一連の「スノウボール犯行説」を疑っていると話す。総統・同志ナポレオンの命令で、動物たち全員が中庭に招集される。手下のイヌたちがブタ、ヒツジ、ニワトリ、ヤギ、ガチョウなどの「裏切り者たち」を咬み殺す。あろうことかボクサーにも襲いかかった。イヌたちを一蹴したものの、ボクサーは過労から生じた病で倒れてしまう。そしてフィクサーの手配した箱馬車で病院へ運ばれる。馬車の後部には「アルフレッド・シモンズ馬匹屠殺にかわ製造業 / ウイリントン皮革・骨粉商」と書かれていた。農主フォックスウッドとビールを飲み交わすブタたち。背広を着込んで、葉巻を咥えたナポレオンの顔は黒ブタから醜悪な人間へと変貌して行くのだった。

  • 原作『動物農場』
  • 「1984年」 で管理社会の恐ろしさを、「カタロニア讃歌」 で反ファシズムの理想と現実を描いたジョージ・オーウェルが、旧ソ連のスターリン体制を動物たちの革命劇にたとえ寓話的に描いたのが 「動物農場」 です。現在でも全体主義を風刺する作品として世界中で広く読まれています。
  • 1970年の少年マガジンに連載
  • 「アニマル・ファーム」 が連載された1970年の週刊少年マガジンでは横尾忠則が表紙構成を務め、ちばてつや / 高森朝雄 「あしたのジョー」、川崎のぼる / 梶原一騎 「巨人の星」 、ジョージ秋山 「アシュラ」、山上たつひこ 「光る風」、谷岡ヤスジ 「メッタメタガキ道講座」、影丸譲也 / 真樹日佐夫 「ワル」 などが連載されていました。上村一夫、辰巳ヨシヒロ、真崎守らの作品も掲載されています。時代の空気を切り取った、まさに伝説ともいえる季節でした。
  • ちくま文庫版『アニマル・ファーム』


  •                     *
    • 「石ノ森章太郎萬画大全集 12-19」(角川書店 2008)をテクストに使いました

    • 石ノ森版のネコは殺されたけれど、原作では粛清されずに生き延びたようです^^;

    • コミック版では農主ピルキントンとフレデリックがフォックスウッドとピンチフィールド(農場名)に、同志スクウィーラーもフィクサーという名前に変えられています

    • 「すべての動物は平等である。だが一部の動物は他よりもっと平等である」(新訳版)
                        *


    アニマル・ファーム ── 石ノ森章太郎萬画大全集 12-19

    アニマル・ファーム ── 石ノ森章太郎萬画大全集 12-19

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2008/11/28
    • メディア:コミック
    • 目次:大演説 / 反乱 / 動物共和国 / 反撃 / ウシ小屋戦役 / 風車計画案 / 春 そして夏 / 秋 そして冬 / 生と死と‥‥/ 世はなべて こともなし / 扉絵コレクション


    アニマル・ファーム

    アニマル・ファーム

    • 著者:石ノ森 章太郎
    • 出版社:筑摩書房
    • 発売日:2018/11/09
    • メディア:文庫(ちくま文庫)
    • 目次:アニマル・ファーム(原作 ジョージ・オーウェル)/ くだんのはは(原作 小松 左京)/ カラーン・コローン / 解説・中条 省平


    動物農場〔新訳版〕

    動物農場〔新訳版〕

    • 著者:ジョージ・オーウェル(George Orwell)/ 山形 浩生(訳)
    • 出版社:早川書房
    • 発売日:2017/01/07
    • メディア:文庫(ハヤカワepi文庫)
    • 目次:動物農場 / 報道の自由:『動物農場』序文案 /『動物農場』ウクライナ語版への序文 / 訳者あとがき

    コメント(0) 

    コメント 0

    コメントを書く

    お名前:
    URL:
    コメント:
    画像認証:
    下の画像に表示されている文字を入力してください。

    ※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。