父が死んだとき、ぼくに3つの遺産をのこしてくれました。1つはもちろん、ばくだいな財産です。これは父が生前、じぶんの深海作業船をもって7つの海をわたりあるいていたころに 、財宝をつんだまま沈んだむかしの船を見つけたり‥‥あるいはむかしのある海賊がかくしておいた財宝をさがしあてたりして、きずきあげたものでした‥‥2つ目はこの船長帽(キャプテン・ハット)です。父がどこへいくときでも、かぶっていたもので、父のにおいがすみずみまでしみついているふるびた帽子です‥‥ぼくにとっては父にひとしい‥‥3つの遺産の中でももっともたいせつななつかしい帽子です。3つ目の遺産は‥‥どしてもう1つは‥‥形がありません。そうです、なぜならそれは精神(スピリット)──心だからです。冒険心──ふしぎやなぞへの、やむにやまれぬ、ちょう戦心‥‥つまり怪奇狩人としての心だからです。ぼくの名前は滝 隼人、本籍 日本、年齢 18才、職業 怪奇ハンター。
石森 章太郎 「怪奇ハンター」
□ 怪奇ハンター・電子頭脳の怪奇(週刊少年キング 1968)石森 章太郎19XX年4月13日午前4時、XX県XX村の「電子頭脳開発研究所」で、2人の警備員が惨殺された。通報を受けてパトカーで出動した警官たちも巨大ネズミ男に襲われて全員死亡した。この世のものではない怪物の仕業に違いないと結論づけた警察は怪奇ハンターとして有名な滝隼人に怪事件の調査を依頼する。助手の張々湖がネズミの毛と大きな人間の足跡を発見。研究所のある村の周囲は非常警戒網を張っている、村中はシラミ潰しに捜査したので、怪物ネズミはカブト山に潜んでいるとハセ警部が隼人に説明する。カブト山に入った隼人、張々湖、ハセ警部はペストに感染して死亡した村人に出喰わす。山を下る3人と村人たちに野ネズミの群れが襲いかかる。ネズミに足を噛まれたハセ警部は医者と看護婦を非常呼集し、自衛隊の戦車やロケット弾や高射砲が出動する大事態になった。隼人は看護婦となって派遣された幼馴染のサエちゃんと再会。月夜の河辺で彼女と会話をしていると悲鳴を聞こえた。
見張りの自衛隊員2人が殺害されていた。厳重な警戒網を潜って山を降りて来た巨大ネズミ男の犯行だった。自衛官を襲い、奪った高射砲で人家を破壊し、その後に爆発するように仕掛けていた。怪物は人間並みの知恵を持っていたのだ。サエちゃんを襲おうとしたネズミ男を隼人と張々湖が追撃する。一夜明けて、電子頭脳開発研究所を訪れた隼人と張々湖。張々湖は宇宙か異次元から来た怪物、突然変異したネズミ、合成人造生物などの可能性を推理するが、隼人は怪事件の鍵は研究所の中にあると見ていた。所長は電子頭脳(コンピュータ)も怪物(モンスター)だ、電子頭脳が操る製造機で人工生命体を創り出せると話す。隼人は研究員の小瀬がネズミ男に似ていることから疑いを持って問い詰めると、本人自らが告白した。昔デートを申し込んだ女に断られてバカにされたことを恨んだ悪戯だった。カブト山でネズミ男に遭遇した隼人が怪物退治用の特殊な弾丸で撃つと、怪物の体内で大爆発する。
□ 怪奇ハンター・100万年の女王(週刊少年キング 1968)石森 章太郎ホヴァークラフトに乗ってアマゾン川を遡る滝隼人、張々湖、少年サンボの3人。船から降りて、滝の流れる集落へ向かう隼人たちの前に長身の黒人が逃げて来た。追っ手と板挟みになった長身男は盗んだライフル銃を捨てて降伏する。調査隊のエドが射殺しようとするが、隼人に阻止される。長身男をポーターとして雇いたいという隼人の申し出を動物学者のダルタン博士は途中まで同行することを条件に同意する。隼人たちは密林の奥に「100万年の女王」と呼ばれる永遠の生命を持っている女性が棲んでいるという噂に惹かれて調査に来たのだが、ダルタン博士と娘アンヌ、エドの一行は「女王の財宝」を狙っていた。張々湖がナイフを投げて、大蛇に襲われた長身男の命を救う。恩返しをしたいという、女王に仕える長身族の男(ノッポ)は不本意ながら女王の棲む島へ彼らを案内する。火山活動が作った自然の砦の岩山を登り、岩の割れ目を通り抜けると、恐竜が泳ぐ湖に長い吊り橋が架かっていた。
隼人たち一行を仲間の長身族が出迎える。王位争いに敗れて島から追い出されたノッポはライフル銃を奪って再戦しようとしたのだった。吊り橋を渡っている途中で、敵対する種族から槍で攻撃されるが、隼人たちは銃で応戦。集落の向こうに女王の神殿が見える。王位争奪戦が再度始まり、辛くもノッポが勝利する。神殿は恐ろしい場所、行けば命がなくなるというノッポの警告を受けた一行は許可が出るまでテントを張って野営する。財宝目当てのエドはダルタンを刺殺し、アンヌを連れて神殿に侵入。後を追った隼人たちは白い猿人たちに襲われる。女王の財宝を見つけたエドが隼人に発砲すると、天井が崩れて岩の下敷きになってしまう。寝台に横たわるアンヌと、その前で両手を合わせて座す老婆。起き上がったアンヌが猿人に捕まった隼人に告げる‥‥「タキハヤト‥‥わらわがおまえのさがしていた「女王」です。300年ごとにあたらしく生まれかわる‥‥あたらしいからだに‥‥あたらしい生命に‥‥のりうつるのです!」。女王によって生かされた隼人たちは再会を示唆されて神殿を後にする。
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□ 怪奇ハンター(どっかんV 1977)石森 章太郎月刊マンガ誌に連載された続編の設定は少年キング版と同じだが、主人公の滝隼人から船長帽が消えて容姿も幼くなった。中国人の張々湖は王陳々という名前に変更され、助手から相棒に格上げされている。2人が住む 「怪奇現象研究所」 にはカイコという大型コンピュータがあり、人類と共存する動物たちの異常行動と関わりのある怪奇現象を調査・究明するというように、物語のテーマも変化している。異常大発生したゴキブリがカイコを狂わせて地球の異常を知らせる。 体長1m以上もあるネズミがマンションやビルを爆破する。家城正也(10歳)に救われたカラスのブラックが少年の死後、鴉の大群を率いて、人間や鶏のヒナ、子牛などを襲撃する。凶暴化したシャチが海で人間を襲う。「蛍屋敷」 のホタルが光り輝いて飛び交い、火球となって老人と少女(孫娘)の幽霊とUFOが出現する。動物の異常発生や異常行動、幽霊、謎の火球、UFO‥‥海水浴する滝隼人と王陳々の上空にUFOが現われて、「コノカイキゲンショウヲチョウサスルコトハユルサレナイ」 と警告する最終話「明日への謎」。
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- 「石ノ森章太郎萬画大全集 5-9」(角川書店 2007)をテクストに使いました
- 張々湖はサイボーグ006、ハセ警部はマンガ家の長谷邦夫、サンボは「幻魔大戦」の黒人少年(ソニー・リンクス)というように、作者は登場人物を使い回ししています
- 「明日への謎」 は作者の自宅を訪ねて来た3人の「黒い服の男」が 「これ以上、かいてはいけない‥‥!」 と警告するオチになっています。「地球は間もなく、大きな変動に見まわれる」 と書く石森章太郎は21世紀の異常気象(豪雨や猛暑)を予言していた?
- 下記インデックスをリニューアル(記事タイトル→記事ナンバー)しました^^;
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怪奇ハンター ── 石ノ森章太郎萬画大全集 5-9
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2007/02/28
- メディア:コミック
- 目次:怪奇ハンター 少年キング版・電子頭脳の怪奇 / 100万年の女王 / 怪奇ハンター どっかんV版・ゴキブリ / ネズミ / カラス / シャチ / ホタル / 明日への謎
怪奇ハンター
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:朝日ソノラマ
- 発売日: 1971/10/20
- メディア:コミック(サンコミックス)
- 目次:電子頭脳の怪奇 / 100万年の女王 / 秘境3千キロ
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