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ゴースト・ガール [c o m i c]



  • 私が、ははーんと思ったのは、石森章太郎がいまなお用いている「木の葉」のイメージが、ここでもみられることだった。最近作では、このイメージは意図過剰であり、読者を猫の喉に見立てているのではないかと憤慨することがあるが、この「幽霊少女」にはそういうところがまるでない。事件のことをあれこれ話しながら、ユリコたちが歩いている頭の上へどんど木の葉が散る。それは秋の感傷のためでもムードのためでもなくまんがの場面でどうしてもその日、風が吹いていたからどうしても散るのだといった風情だ。だから木の葉の散る石段の上を駈ける兎を犬がワーンワーンと追いかけたり、「大変だあっ 金の仏像がぬすまれたあ」 と木の葉吹雪の中をあわてた男がわめきながら走りこんできても、ひとつもぶちこわしにならないどころか、かえって実在感を生み出しているのである。ラスト・シーンにも樹々の間を縫って木の葉が漂うように、流れるように散る。そんな樹々の間から飛行機がゴーと飛んでいるのがみえる。この飛行機の関係なさに、私はうなってしまう。この関係のなさこそが、まさしく「実在感」なのである。
    草森 紳一「「幽霊少女」 にみられる実在感について」


  • ■ 幽霊少女(少女クラブ 1956-7)石森 章太郎
  • 作者が十代で描いた少女マンガ。私立探偵と少年探偵団が謎の怪盗と対決するストーリは江戸川乱歩の少年小説を想わせる。双子少女、幽霊少女、4次元世界、マッド・サイエンティスト、モダン・バレエ公演、蔦の絡む古びた洋館、兎、黒猫‥‥という道具立ては当時の少女マンガとしては異色だが、怪奇ミステリに夢や幻想、SFやファンタジーが混じり合う「石森ワールド」の発露となっている。窓のカーテン、門の敷石や蔦草、小径の樹木、木の葉など、詩情溢れる初期石森作品の魅力について、草森紳一は少女マンガ特有の日常性の描き込みに触れて、《子供の秘密の世界、いわば子供の想像力の中に住む日常性を実在感をもって表出している》と解説している。「石ノ森章太郎萬画大全集版」(角川書店 2006)は判型の小さな付録部分(P20~84、P138~201)を拡大して収録しているが、「石森章太郎選集版」(虫プロ 1969)では逆に縮小して2頁分を1頁にレイアウトしていた。

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    夏休みも終わりに近い雨の日、車道を横断しようとした美少女が自動車に轢かれてしまう。交通事故を目撃した2人の少年(横山高雄と海野大助)と運転手は狼狽して少女を探すが、不思議なことに幽霊のように消えていた。友達のユリちゃん(谷ユリ子)が交通事故に遭ったと思った2人は山田兄妹(不二夫とミキ子)と一緒に彼女の家へ駆けつける。ところがユリ子は無事だった。他人のそら似だったことにして、隼探偵団(山田不二夫、ミキ子、谷ユリ子、横山高雄、海野大助)の5人は最近、新聞を賑わしている「消えた紅孔雀事件」‥‥怪盗「4」の予告通り、密閉された金庫から世界的なルビーが盗まれた事件を話題にする。帰り道で再び「幽霊少女」に出遭った4人。「大真珠マドンナの首飾り」 「金の仏像」 などの強盗事件が続き、モダン・バレエ公演「王様とアンナ」の舞台上で主演バレリーナ(ズボラ・カー)の首飾りが盗まれるという怪事件が起こる。

    喫茶店から出た私立探偵・嵐勇が隼探偵団の5人と出会って探偵事務所へ戻ると、生物学者 ・篠木毛鶴博士の秘書(矢我手負)が身辺警護の依頼に来ていた。「十九日夜十二時にいのちをいただきにいく」 という殺人予告の手紙が昨日届いたのだ。父親(谷寛三)が出張して心細いユリ子の家にミキ子が一晩泊ることになる。女中(おちよ)がユリ子に父宛の手紙を見せる。ユリ子がミキ子に戦争で亡くなった母親と父親の結婚式の写真を見せる。午前12時、「サタンニクルウ」 という謎の言葉を発して、篠木博士が発狂してしまう。「ころすのはかわいそうだから、「きちがい」 にするだけでゆるしてやる」 ‥‥谷寛三(月光時計会社社長)宛に届いた手紙はクロッチ製「はとどけい」を11日の夜12時に頂戴するという怪盗「4」からの予告だった。用心棒(柔道・剣道・空手合わせて16段の単吾万作)の寝静まった夜、「幽霊少女」 は寝室で眠っている瓜二つの少女ユリ子に驚き、盗んだ十万円の時計を落とす。

    嵐勇探偵事務所を後にした隼探偵団の4人と別れたユリ子が怪しい男たちに自動車で誘拐されてしまう。偶然目撃した友達の島田進治は「マリ子」をタクシーで追いかけるが、その途中でピストルで殴られて気を失う。娘を誘拐したという脅迫状を受け取った谷寛三は嵐探偵に電話で連絡する。谷家の前で車を降りた嵐探偵は門前で佇んでいた「ユリ子」と出遭う。逃げる彼女の腕を掴むと感電したように痺れて気を失う。悪質グレン隊のアジトに単身乗り込んだマリ子が攫われたユリ子を救う。一方、休学しているマリ子の住む洋館を訪れた島田進治と友人(石森)は病気を理由に追い返される。マリ子は 「父親」(サタンニクルウゾウ)から谷寛三の時計を再び盗み出すように命じられる。無事に救出されたユリ子は父親から、戦争で生き別れになった双子の妹がいることを知らされる。マリ子も下男(だむ助)から、母親が死んで孤児になった彼女をサタンニクルウゾウ博士が引き取ったと告げられる。

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    谷家に忍び込んで時計を盗んだマリ子とユリ子が出合う。自分が双子の妹だと知らされたマリ子は動転して時計を叩きつけて逃げ去る。あたしを本当の家に帰して、元の世界に戻してという切実な訴えを拒否するサタンニクルウゾウ博士は義憤に駆られて逆ギレした下男を陥穽に落として射殺してしまう。深夜に兎(ミミ)を抱いてユリ子の寝室を訪れるマリ子‥‥通学中にマリ子と間違えてユリ子に声をかけた島田進治は2人が双子だったことを聞かされる。埋められた下男の墓に十字架を立てるマリ子を詰る博士が立ち聞きしていた耳の遠い乞食を追い払う。ベンチで話し合ったユリ子と島田少年はマリ子に会うために古びた洋館を訪れる約束をする。日曜日に2人と隼探偵団の4人が洋館に向かう。その途中で謎の乞食が現われて、悪魔のような男が棲み、幽霊が出るという屋敷へ行かないようにと諭す。再び博士に追い返されるが、島田たちは森の中を迂回して裏窓から館内に忍び込む。

    海野大助と横山高雄が博士に捕まり、ユリ子とマリ子の双子姉妹が対面するが、姉は妹の手さえも握れない。博士は島田進治たちを一室に閉じ込める。寝室のベッドの下に隠れていたミキ子が発見されそうになるが、5人を監禁していた扉が破られる。島田少年を撃とうとした時、謎の乞食に扮装していた嵐勇が窓を破って飛び込んで来た。その昔、サタンニクルウゾウ博士は大金持ちの篠木毛鶴博士に研究費を無心したものの、口穢く罵られた過去があった。恨んだ博士は研究を完成させ、金持ちになって見下してやりたいと思うようになった。ところが金になるような研究ではなかったので、それを悪用して「4」怪盗を名乗り、金品や宝石などを盗んで集めた。「4」 という数字は4次元のことだった。嵐勇はマリ子を元の世界に戻すように命じるが、博士はユリ子を人質にして嵐勇たち6人を落とし穴に落とす。マリ子を騙して転送装置の中に入れて4次元世界に送り、ユリ子をも転送しようとする。

    まさにユリ子を4次元世界へ送ろうとした時、1人だけ部屋に隠れていたミキ子がサタンニクルウゾウ博士の背中に、嵐勇が落としたピストルを突きつける。転送装置からユリ子が救出され、落とし穴の蓋が開いて水攻めにされていた嵐勇たち6人も助かった。意識を取り戻したユリ子は妹のマリ子が4次元世界に消えたと嘆き、動顛した嵐勇を隙を突いてピストルを奪う。ところが2連発式拳銃に弾は残っていなかった。逃げ出して階段を昇る博士の行く手を半透明化したマリ子が立ち塞ぐ。「あなたのきかいはふかんぜんよ!」‥‥マリ子の幽霊が出現したと思って錯乱した博士は危険物に触れて感電死する。転送装置も壊れて、洋館も大爆発してしまう。間一髪で脱出した嵐勇たち‥‥ユリ子の前に再び半透明のマリ子が姿を現わして別れを告げる。「マリちゃあん」 と消えた妹の名前を泣きながら呼び続けるユリ子。「樹々の間を縫って木の葉が漂うように、流れるように散る」(草森紳一)のだった。

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    • 「石ノ森章太郎萬画大全集 2-34」(角川書店 2006)と 「石森章太郎選集 1」 (虫プロ商事 1969)をテクストに使いました

    • サタンニクルウゾウ博士は外国人?‥‥彼の台詞(ネーム)はカタカナ表記です^^

    • 4次元兎のミミちゃん(マリ子のペット)は一体どこに消えてしまったのかしら?

    • 「石ノ森インデックス」(ishimorindex)を下記一覧リストに追加しました
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    幽霊少女 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 2-34

    幽霊少女 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 2-34

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2006/05/31
    • メディア:コミック
    • 目次:幽霊少女 / みどりの目


    二級天使 ── 石森章太郎選集 1

    二級天使 ── 石森章太郎選集 1

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:虫プロ商事
    • 発売日: 1969/09/15
    • メディア:コミック
    • 目次:二級天使 / 幽霊少女 / 石森章太郎の作家的姿勢「二級天使」手塚治虫 /「幽霊少女」にみられる実在感について 草森 紳一 / 作品メモ


    幽霊少女 ── 石ノ森章太郎デジタル大全

    幽霊少女 ── 石ノ森章太郎デジタル大全

    • 著者:石ノ森章太郎
    • 出版社:講談社
    • 発売日: 2014/10/31
    • メディア:Kindle版
    • 目次:幽霊少女 / みどりの目

    タグ:comic ishinomori SF
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