シド・ジョージの復讐 [c o m i c]
草森 紳一 「くりかえされる同一場面のカット・バック」
196X年9月、地球上の各地からロケットが競うように次々と宇宙へ飛び立った。宇宙開発時代の到来である。ソ連、アメリカ、中国、日本もA・Bの2社が宇宙ロケットを打ち上げようとしていた。月や火星、金星などの豊富な資源の優先順位は先に到達した国にあったからだ。太平洋上を航行する原子力船の自動警報ベルが鳴り響く。プロトン光波変流装置が故障して、原子炉が爆発する危険があった。船客が救命艇(ライフボート)で脱出した直後に船が大爆発する。数多くのボートが高波に呑まれたが、詩渡武彦と妻の靖子、1人息子の丞児(ジョージ)の3人は奇蹟的に生き残り、遭難者の左前乃助を救助した。9日後、残り少ない食料と水を奪った左前乃助がサメに左腕を喰い千切られてしまう。水平線から大型船が現われ、救出されると安堵したのも束の間、船は引き返して行く。助けを求めた靖子が誤ってボートから海中に落ち、妻を救いに飛び込んだ武彦もサメの餌食になってしまった。
漂流していたボートが南海の離れ島・アグアグ島の原住民ガラとクッタに発見された。詩渡丞児と左前乃助は島で暮らすことになる。約3カ月後、離島に船団が来航する。アグアグ島をロケット基地にするために派遣されたA社の一団だった。島の管理官をしている牧師(アメリカ人の動物博士)はロケット基地建設に断乎反対するが、アメリカ政府から使用許可を得ていると主張するA社の隊長は強引に着工する。逮捕されて強制連行される牧師をジョージが救出。崖に追い詰められたジョージと牧師たちは海に飛び込む。ところが牧師は逃走中に背後から射殺されてしまう。ジョージはダイナマイトを爆破させて、建設中のロケット基地を破壊。潜水艦を奪って、ガラとクッタと共に日本へ向かう。船団や潜水艦に包囲されたジョージたちは潜水艦から脱出して日本に上陸。貨物列車に隠れ、クルマを奪い、トラックの荷台に跳び乗って東京を目指す。叔父の家に辿り着いたジョージたちは待ち構えていた警察隊に捕まる。
獄中で詩渡丞児はエンジン研究家だった父・詩渡武彦が断末魔に叫んだ「丞児っ!ロケットを‥‥」という最後の言葉を思い返す。首に架けていたロケット(写真入れ)の中に隠されていたマイクロフィルム‥‥新しいロケットエンジンの設計図を発見する。刑務所で左前乃助、ロケット基地隊長、A社の社長との対面。社長は釈放する交換条件としてロケットの設計図を譲って欲しいと交渉するが、ジョージは断る。面会に来た叔母も邪剣に追い返す。看守の手引きで監獄から脱走したジョージたちは逃走中にクルマを乗っ取る。クルマから飛び降りて崖から転落させ、追っ手から逃れた。崖から降りると、そこは奇しくもローズ邸の前だった。両親を見殺しにして立ち去ったローズ号に復讐を誓ったジョージは塀を乗り越えて邸内に侵入する。室内の犬が吠えると女性が現われた。彼女はローズ号の持ち主で、ジョージ一家が遭難した時にも乗船していたという。ジョージは女性に銃口を向けて、復讐を果たそうとするのだが‥‥。
*
詩渡丞児にはB社の娘を殺せなかった。彼女がローズ号を引き返させた3つの理由を話す。「チチキトクイソギカエレ」という電報が入ったこと。2〜3時間でボートがアグアグ島に流れ着くこと。A社がロケット基地を建設するという噂を確かめるための秘密の航海だったこと。ジョージたちを刑務所から連れ出した男たちが慌てて部屋に入って来た。女性はB社の社長の娘だったのだ。もし漂流していた時に救助されていたら、父の発明(ロケットエンジンの設計図)はB社のものになっていたかもしれないのに‥‥ボクは今こそ復讐するよ。新しいエンジンを装備したロケットでB社を出し抜いてやる‥‥と啖呵を履いて、ジョージはローズ邸を後にする。奪ったクルマで父の研究所に着くと、叔父が待っていた。秘密の地下室でジョージと叔父はC社を立ち上げて、新しいロケット開発をしようと計画する。噂を聞きつけたA・B社のスパイたちが詩渡家を包囲するように見張る。
A社のスパイが詩渡家の女中を脅して、ロケットエンジンの設計図を盗み出させようと画策する。深夜に忍び込んだスパイたちはジョージの造った防犯用のボールに撃退される。お金と指輪で買収された女中にジョージは贋の設計図を渡す。北海道のロケット基地へ部品を輸送していたトラックが爆破されてしまう。ライヴァル会社の悪質な妨害工作だった。C社のロケット基地に飛んだジョージは爆破された資材の残骸を目の当たりにして、決意を新たにする。ロケットエンジンの設計図を買い取りに来たA・B社のセールスマンを追い返す。叔父が銀行から資金を調達し、ジョージはA・B社の妨害部隊と戦うための科学兵器を造る。3カ月後、B社が襲撃したトラックは囮の偽輸送部隊だった。ロケットの部品を基地へ輸送していたジョージたちの前にもA社の妨害部隊が立ちはだかるが、トラックの荷台から現われた巨大ロボット・アイザックに撃退される。
ロケット・ジョージ1号の乗組員は叔父と叔母、ジョージとカラ&クッタの5人を含めた全10人。B社の娘がジョージと面会するために基地を訪れる。情報を売りに来たと語る女性はB社の社長を辞めた、情報を提供する代わりに自分もロケットに乗せて欲しいと訴える。ロケット乗組員の1人はB社のスパイだった。A・B社のロケット打ち上げの実況放送がTVから流れる。彼女からの情報ではジョージ1号を破壊するために、A社のジェット爆撃機と重軽戦車が基地に向かっているという。B社のスパイの高崎が乗組員の竜見(A社のスパイ)を告発する。ブラック団とアイザックの空中戦!‥‥戦闘機の爆撃と戦車の砲撃から逃れるようにジョージ1号が宇宙へ旅立つ。「見苦しい争いの渦巻いている地球なんか捨てちまうんだ!」「新しい夢と冒険の世界を宇宙で見つけるんだ!」「誰も行けないところへ。新しい世界を見つけるまで‥‥ずっと遠いところまで!」
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「ジョージ!ジョージ」(1962)は月刊誌「少年ブック」に連載された近未来SFマンガ。当時(60年代前半)は米ソ東西冷戦の最中だったが、その表裏一体として宇宙開発競争が加熱していた。核戦争の不安に憂い、恐怖に脅える地球上の人々にとって、宇宙開発は明るい未来の夢と希望に満ちているように見えるけれど、「核ミサイル」という名の薄汚いコインの裏と表だった。主人公の詩渡丞児は地上の見苦しい争いに嫌気が差して宇宙へ飛び立つ。B社の娘も「連れて行って‥‥あたし醜い争いの絶えない地球がいやんなったのよ!宇宙に飛んで行きたいのよ!」とジョージに懇願している。今から思い返せば一種の現実逃避なのかもしれないが(21世紀の今日でも宇宙旅行や惑星移民は現実的ではない)、ジョージや社長の娘の心情は当時の多くの人々も共感・共有していたのではないかしら。ロケットや宇宙船に乗って未知の惑星へ旅立つというエンディングは「赤いトナカイ」(1962-63)や「原始少年リュウ」(1971-72)などでも繰り返されることになる。
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- 「石ノ森章太郎萬画大全集 6-3」(角川書店 2007)をテクストに使いました
- 「石森章太郎選集 第22巻」(虫プロ商事株式会社 1970)を参照しました
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- 著者:石森 章太郎
- 出版社:虫プロ商事株式会社
- 発売日:1970/01/15
- メディア:コミック
- 目次:ジョージ!ジョージ / おとうの死 / くりかえされる同一場面のカット・バック──手法とは主人公の生きかたである──草森 紳一 /「ジョージ!ジョージ 」を中心として・梶井 純 / 作品メモ
2018-05-01 00:33
コメント(2)
宇宙へ、って何十年も前から、あんまり進歩していませんね。
核ミサイルはいろんな国が作ったけど。><
ポーの一族、また続きがあるようですね。
楽しみ♪
by ぶーけ (2018-05-05 22:27)
60年代の方が宇宙開発への夢があったような気がします。
東西冷戦が終わって、全面核戦争の脅威も薄れて、
宇宙へのフロンティア精神も萎えてしまったのでしょうか?
「ポーの一族」の続々編は日本を舞台にして欲しいなぁ^^;
by sknys (2018-05-05 23:23)