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大侵略者　 [c o m i c]

タスマニア人は、元来、平和をこのみ、採集狩猟生活をいとなむ民族で、旧石器時代と同じ石器を使っていた。/ そのため、移住してきたイギリス人たちは、かれらを動物なみにしかあつかわず、スポーツとして、あるいは猟犬のえさにするために殺人をくりかえした。/ 一八六九年に、最後の男が、一八七六年には、最後の女が死んだ。/ それがツルガニナであり、この地上より消え去った最後のタスマニア人女性である。/ オランダの船乗りタママンが、この島を発見してから二百年後、イギリス人が移住してきてから、わずか七十年後のことだった‥‥。
石森章太郎「大侵略」

■ 大侵略（週刊少年マガジン 1969）石森章太郎

仮面ライダーの原型となったとも言われるダーク・ヒーロー｢スカルマン｣（1970）と同じく、100ページ読み切り掲載された｢サスペンス核戦記｣。60年代東西冷戦の中、核戦争の恐怖に脅える世界を描いているが、同じテーマを扱った破滅型SF ｢そして‥‥だれもいなくなった｣（1967）とは真逆の結末になっている。消滅するのは30数億人の人類か、それとも1人の人間か？‥‥｢大侵略｣のエピローグは衝撃的である。雪の降る日、米NYのブロンクス動物園を訪れた主人公は「もっともおそるべき猛獣」と題された檻の前で拳銃自殺する。1963年当時、米NYのブロンクス動物園（BRONX ZOO）に｢世界で最も危険な動物｣（The Most Dangerous Animal In The World）と名付けられた「鏡の間」が展示されていた。来園者が前に立つと、鉄格子の奥にある鏡に自らの姿が映し出される趣向の「人間の檻」である。｢‥‥その日、世界はなにごともなく、いつものとおり平和な昼と夜をむかえようとしていた｣

NYケネディ空港にタスマニア王国の大使が到着する。そして米政府高官に宣戦布告をして、無条件降伏を要請した。ホワイトハウスの米大統領（ニクソン似）は明日午後2時、ネバダの核実験場にある原爆を逆爆発装置で爆破するという脅しを一笑に付すが、その予告通りに爆発してしまう。モスクワのクレムリン宮殿にもタスマニア王国からの使者が訪れて、ソ連の指導者（閣下）が指定した場所と時刻に原爆を爆発させた。オーストラリア大陸の東南にあるタスマニア島に3人の調査団が上陸する。もう1人の動物学者という名目で潜り込んだ雑誌記者のケンは脱獄して逃亡中の凶悪犯2人（白人男たち）に襲われていた原住民のララを救う。婚約者クーヌーの放ったブーメランで負傷したケンの右腕を手当てするララは日本語で謝る。北京中央政庁では保有する核爆発物を１カ所に纏め、起爆装置を破壊して海底に沈めろと脅迫されていたが、資本主機帝国アメリカと偽共産主義国家ソ連の陰謀だと誤解した主席はタスマニアの使者が指定した時刻に核ミサイルをアメリカとソ連へ向けて発射する。

動物学者の娘ケイトは彼女たちイギリス人がタスマニア人を全滅させた、少数民族や希少動物たちを滅ぼしたのは人間の持っている獣性だとケンに話す。動物学者がタスマニア・デビル（哺乳類有袋目フクロネコ科）を見つけた。父娘は1936年に絶滅したといわれるフクロオオカミの生存確認調査に来ていた。ケンは米秘密情報局員の1人として逆爆発装置を発見するための調査に来ていた。ララがケンに告白する。ずっと以前、彼女たちの島に白い神マサが来て、日本語による神託によってタスマニア島に移住したことを。お告げに内容を聞き出そうと逼るケンにクーヌーが再びブーメランを投げた。ケンの身を庇ったララ、逆上して襲いかかる婚約者をケンが射殺する。仲間を殺された原住民たちに攻撃されるが、身代わりになった時にケンの首から引き千切ったメダリオンを手にしたララが制止する。写真に写っていたケンの養祖父が白い神サマだったのだ。瀕死のララが神託を告げる。｢五百ノ夜ト昼ノアトニ島ヲイデヨ。オオイナル国ヘノリコミ、カクツゲヨ。ナンジラ、オゴレルモノドモヨ。神ヲオソレヨ。ワガ足モトニヒザマズケ！｣

雪の降り積もる日、ケンは捨て子だった混血兄妹を育ててくれた養祖父（おじいちゃん）の棲む小屋を訪れる。逆爆発装置を操作していた養祖父と対面して、この大侵略作戦が彼1人で考えて実行したこと。逆爆発装置ではなく、精神波増幅機であること。ニューギニアの小さな島へ行って、原住民の持っている原始的動物的超感覚で精神波を中継してもらうための協力を頼んだこと。彼らに後催眠暗示をかけて、世界中の核保有国に乗り込ませたことを知る。核爆弾を逆爆発させる指定の時刻が迫り、養祖父は逆爆発装置のスイッチを入れようとする。世界の核保有国は、その時刻に全ての核爆弾が "敵国" の上にあるように細工していた。核保有国の指導者たちは既に核ミサイルの発射ボタンを押していたのだ。動転したケンは逆爆発装置のスイッチを押す養祖父の背中に発砲する。妹ミミが駆けつけたが間に合わなかった。おじいちゃんは核ミサイルを爆発させたのではなく、世界中の核爆発物を一瞬にして不発に、役に立たぬものに変えたのだった。

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■ おとし穴（週刊少年マガジン 1971）石森章太郎

セックスとヴァイオレンスのエログロ・イメージで、F・C（フィーリング・コミック）界の寵児となったF・C・I（感覚マンガ作家）の風祭友をTVで痛烈に批判する「空気男」。F・Cとはヘルメット型の再生装置を被って映像を観賞する最新AVメディアだった。乱交クラブのモデル嬢Ｍと不倫関係にあることをTVで暴露された風祭は評論家の菊田（空気男）と魔里のいるクラブに乗り込んで暴力沙汰に及ぶ。白鷺の飛来する故郷の村へ里帰りしてしまう妻・今日子。アシスタントの白浜も風祭の許を去る。F・Cの不買運動、発売中止、スキャンダル報道などによって打ち拉がれた風祭も帰郷する。傷心した彼を今日子が優しく抱きしめる。《‥‥この村にも仕事は山ほどあってよ！/ たとえばいまあたしがしている自然保護のこのお仕事 / ぜんぜん人手がたりないの / うふもっとも予算だってたりないんだけど‥‥。/ ──「文明」の進歩がその代償にどんどんむしばみ滅ぼしていく自然や動物たちを / ほんとうのこころを / だれかがどこかでまもっていかなくては‥‥》と語る幼馴染みの女性は主人公・風祭の妻であり、姉であり、母でもあるのだろう。

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■ 胎児の世紀（週刊少年マガジン 1972）石森章太郎

人気のない商店街をオート三輪車が走って来る。車道で倒れている少女を発見した青年は急ブレーキを踏み、停車して同乗させる。一週間前、"泡" に襲われた父親が一昨日死んで独りぼっちになってしまったと少女は泣く。襲撃する暴漢たちを振り切ったオート三輪が故障したので歩き、焚き火をして野営する。東京から四国・高知県宿毛郡小飼貝町へ帰郷するという寒川光と中学2年生の田代美樹子（ミッキー）。寒川が川に浮かぶ "泡" にライフル銃で発砲する。道端で停まっている自動車のドアを開けると、"泡" に殺られた運転手が転がり出て来る。2人が自動車に乗ろうとすると、新たなカップルが現われる。男が寒川の背中にナイフを突きつけて脅すが、女に諭されて4人一緒に同乗することになる。男たちはゴキブリとネズミの巣窟となった食料品店で缶詰を奪う。東京の学校に通う白浜洋子お嬢さんを迎えに行った男テツは九州小倉へ向かうという。3カ月ほど前、夏の終わりに世界中の水のあるところ、海、川、汚れた下水溝、水道の蛇口から現われた "泡" が人間に襲いかかった。"泡" に包み込まれた人々は意識不明になって、胎児のように体を丸めたまま死んでしまうのだ。

野営している4人の前に異形の男が現われる。《──おまえら人間どもはこれまで‥‥おのれの私欲のためにただひたすらおごりたかぶって‥‥自然を破壊してきた！──母なる海をけがしてきた!! さよう、おまえら人間の生命を‥‥子を生んだその母なる海をだ‥‥だからこそ、いま‥‥母なる海はおのれをまもりために‥‥自然のすべての生命をまもるために‥‥ "泡沫" というかたちで、おまえたちを罰してきた‥‥!!》寒川が狂人を刺殺したテツを咎める背後から野犬の群れが襲いかかる。岸壁に辿り着いた寒川光と白浜洋子の2人に恋が芽生えると、嫉妬したテツが背後からナイフで刺そうとする。水溜りから発生した "泡" に包まれて死ぬ。ミッキーが崖から海へ身投げすると、海中から無数の "泡" が現われて空中へ浮揚する。抱き合う寒川光と白浜洋子に "泡" が迫る‥‥。｢おとし穴｣から1年8カ月後の作品にしては絵柄が違いすぎる。主人公が「人造人間キカイダー」のジローに良く似ていることなどから、作画は石森本人ではなく、アシスタントが描いたのではないかと思われる。

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