骸骨男の復讐譚 [c o m i c]
石森 章太郎 「スカルマン」
高層ビルが林立する大都会の夜。巨大な月を背景にして1羽のコウモリが飛来する。高級マンションの窓辺から室内に侵入したコウモリ男が人気TV女優の花戸竜子を殺害して、窓から逆さ宙吊りにする。オオカミ男に変身して人民党代議士秘書を襲い、乗用車もろとも崖から転落死させる。ワニ男が岩を落下させて貨物列車を脱線転覆させ、三形KK電子研究所に潜入した謎の男スカルマンが警備員や研究者など5人を死傷させて、放火爆破する。女優、秘書、貨物列車、電子研究所‥‥一見バラバラに見える怪事件が1本の線で繋がると考える興信所の所長の許へ、1人の青年が息絶えた所員を担いで来た。何者かに喉を噛み切られて絶命した草野所員。屋敷の傍の道路に倒れていたところを若い組員に発見されたと告げる神楽組の若親分・神楽竜生。彼は一連の怪事件に興味を持ち、立木興信所の所員として雇われることになった。
15年もの長い間、1人の子供の消息を追っていると神楽竜生に語る立木所長。彼が見せたペンダントには父親と幼い子を抱く母親の写真が入っていた。その子供こそが生まれながらの血に飢えた「殺人鬼スカルマン」だという。興信所所員の殺害をエスカレートさせるスカルマンは使用人のガロと共に霧の立ち籠める湖(?)の奥地にある秘密のアジトから高速ボートで出撃する。オオカミ、コウモリ、ワニ男に変身したガロが2組のアベックを殺害し、スカルマンとガロ(コウモリ男)が旅客機から脱出して爆破する。興信所に2、3日振りに姿を現わした竜生は実家へ戻って年老いた養父母に別れを告げる。武装した追っ手を隠れ家へ誘導した竜生は興信所の武装隊員に化けて立木所長を拘束する。そして行方不明の子供を追うように命令した黒幕、両親を殺した日本政財界の大物の名前を超能力(催眠術?)を使って聞き出す‥‥その名は千里虎月(ちさと・こげつ)!
千里虎月の大屋敷に現われたスカルマンとガロは老人と孫娘に対峙する。15年前に両親を殺した男に復讐するために。罪のない人たちを血祭りにした「化け物」と誹謗した虎月にスカルマンは反論する。貴様こそ「怪物」ではないか。黒幕として陰から支配している政党や銀行屋、会社、宗教団体、操っているTVや新聞、警察、鉄道などを利用して肥え太った人たちにも罪があるのではないかと。「人々の精神を腐らせているテレビ‥‥そのテレビ局の社長に囲われている人気女優! 銀行屋の不良息子! 汚職や税金を無駄遣いして外国観光旅行をし、帰りにはどっさり腹巻きの中に密輸品を抱え込んで来る代議士ども。拳銃を不法所持している大臣のボディー・ガード! 大量殺人をするための戦車用武器弾薬を作る会社。それを運ぶ貨物列車!」‥‥虎月を射殺しようとするスカルマン(神楽竜生)に孫娘の麻耶がテレパシーで語りかける。
「まって!! おじいさまをうたないで、おにいちゃん!!」‥‥竜生と麻耶は実の兄妹、虎月は祖父だったのだ。祖父は告白する。竜生の父親(虎月の1人息子)は超天才だった。母親も父と同じような新人類(ミュータント)で、両親は人類を何度も滅ぼしてしまえそうな身の毛もよだつような研究や実験を続けていた。この怪物や新人類たちにとって、この世界は早すぎたと怖れた虎月は麻耶が生まれた時に決心して両親を殺害した。しかし、幼い竜生は2人が作った変身自在の人造生物(ガロ)に連れられて逃げてしまったのだと‥‥。「お‥‥おれの父と母を殺したのは‥‥おれの祖父だというのか!? オレはその怪物の子供だというのか!?」」と驚愕して涙を流す竜生。祖父と妹の後を追って屋敷内へ入ったスカルマンとガロは金属製の隔壁に閉じ込められて、虎月と麻耶と共に紅蓮の炎に包まれる。「竜生!‥‥死のう。みんなで‥‥!!」「ワシらは生まれてくる時代を間違えたのじゃ!!」
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「スカルマン」(1970)は週刊少年マガジン3号に100ページ一挙掲載された「怪奇ロマネスク劇画」。「仮面ライダー」のプロトタイプとなったことでも知られるが、その生い立ちやキャラクターは「骸骨」と「昆虫」の相違以上に大きく異なっている。「仮面ライダー1号」の本郷猛は「サイボーグ 009」の島村ジョーたちと同じく、悪の組織に拉致・誘拐されてサイボーグ戦士に改造されてしまった主人公が反旗を翻して「ショッカー」と戦うというストーリーだった。ところが「スカルマン」の神楽竜生は生まれながらの殺人鬼(ナチュラル・ボーン・キラー)、ダーク・ヒーローとして描かれる。竜生が復讐する相手は悪の組織ではなく、両親を殺した実の祖父だった。いわゆる「正義の味方」の変身ヒーローではないスカルマンには後のレッド・ドラゴンやハンニバル・レクター博士などで脚光を浴びたダーク・ヒーローの系譜へ繋がる妖しい悪の魅力に溢れている。殺人鬼の最期は自らの「死」をもって償われるが、このまま死なれてしまうのは惜しいと思う読者は少なくないでしょう。
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人気TV女優の花戸竜子を殺害してマンションの窓から逆さ吊りにし、人民党代議士秘書を乗用車ごと崖から突き落とし、貨物列車を脱線転覆させ、三形KK電子研究所を爆破したスカルマンとガロ(変身自在の人造生物)は悪のダーク・ヒーローである。神楽竜生(18歳)の真の目的は父と母を殺し、自分の命まで狙う日本政財界の黒幕に復讐することだった。ところが15年前に両親を殺した千里虎月は意外にも竜生の祖父だった。超天才、ミュータント、新人類‥‥とでも称すべき我が子(モンスター)の身の毛もよだつ研究・実験を怖れた祖父は孫娘の麻耶が生まれた時に2人を殺害したのだ。石ノ森ワールドの兄弟姉妹キャラは「悪しき血縁」で結ばれている。「スカルマン」の竜生と麻耶(兄妹)、「ロボット刑事」の霧島玲子と竜治(姉弟)、「イナズマン」の超能力老人サラーとバンバ(兄弟)、「009ノ1」のミレーヌとポール(姉弟)‥‥。この2重螺旋は「幻魔大戦」の三千代と丈(姉弟)まで遡れるだろうか。アンビヴァレントな感情で結ばれた兄弟姉妹の繋がりは仄暗く血腥い。
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- 「石ノ森章太郎萬画大全集」(角川書店 2006)をテクストに使いました
- 掉尾のパラグラフは〈ロボットKの哀しみ〉からの転載(一部加筆・改稿)です^^:
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- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2006/02/22
- メディア:コミック
- 収録作品:スカルマン / 恐怖体験 / ベトナム観光公社(原作・筒井 康隆)/ 赤い砂漠 / バニィ・ガール / オレの恋人 / イラストコレクション
2016-02-11 00:41
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