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石ノ森マンガ家入門 [c o m i c]



  • すごいところは、すでに世界中に大ブームを巻き起こしたあとで安心してお墨つきで書かれたマンガ入門書ではないというところだ。それなのに本文中で石ノ森章太郎は、かなり断定的にズバッズバッと小気味いいほどにマンガに対する考えを言ってのけている。読んでいるこっちが怖くなってくる程にだ。「いいのか、こんなこと書いちゃって‥‥」 「こんなこと言い切っちゃって‥‥責任あるぞお‥‥」 とひとごとながら心配させてくれるぐらいだ。/ たしかにこの本に掲載されている「龍神沼」はスゴイ。現在第一線で活躍している多くのマンガ家に影響を与えたというのもうなずける。この文庫版ではカットされたが、『続マンガ家入門』に参考作品として掲載された「おかしなあの子──すぎさりし日々の巻」も「霧隠」も「夜は千の目をもっている」もスゴイのだ。しかも本人の解説を読むと、やや謙虚な書き方をしているが絶対の自信に道あふれているのがわかる。その言葉はかなりキビしく、「こんなにマンガって考えて描かなくちゃならないのか!?」 と当時の私はあまりにも手の届かない世界に失望感すら覚えた程だ。
    島本 和彦 文庫版『マンガ家入門』解説


  • ■ マンガ家入門(秋田書店 1988)石ノ森章太郎
  • 『マンガ家入門』(1965)と『続マンガ家入門』(1966)を1冊に再編集した入門書。「まえがき」 で著者は《入門書を書くほどのキャリアが、ぼくにはないんじゃないか? マンガをかきはじめてから、ぼくはまだほんの十数年しかたっていません。資格という点でもそうです。ぼくはふしぎにも、まだマンガ賞なるものをもらっていません。そしてさらに、ぼくのかいたマンガにはこれといったヒット作品がないのです》と謙遜しているが、1966年度講談社児童まんが賞、1967年、1987年度小学館漫画賞受賞、1968年度日本漫画家協会漫画大賞受賞度。再編集本には 「ミュータント・サブ」 「おかしなあの子」 「009ノ1」 「佐武と市捕物控」 「幻魔大戦」 「ジュン」 「仮面ライダー」 など、代表作が目白押し。文庫版(1998)の「解説」で、島本和彦は《この『石ノ森章太郎のマンガ家入門』は、その巨匠が爆発寸前に(といってもすでにかなりの爆発は起こっていたが──)、己れの全ての思いを叩きつけるかのように造りあげ、発表された、奇跡的な空前絶後の一作である》と書いている。

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  • ● 入門編(おさらい・自己紹介)
  • 「第1章 おさらい」で、マンガを描くのに最低限必要な道具(鉛筆、ナイフ・鉛筆けずり器、消しゴム、ペン・ペン軸、墨汁・黒インク、筆、ポスターカラー〔ホワイト〕、絵具・定規・紙)、描き方、発表方法を確認。「第2章 自己紹介(まんが家への道)」 では著者の半生を自伝風に綴る。単行本や雑誌を読み漁った小学生時代の「マンガマニア」。「毎日中学生新聞」 や「漫画少年」に投稿して入選、東日本漫画漫画研究会を発足して肉筆回覧誌「墨汁一滴」を発行した 「投稿時代」。高校2年の夏、手塚治虫から電報が来て上京し、「鉄腕アトム」 の別冊付録「電光人間」を描き、「二級天使」(漫画少年 1955)を連載した 「デビュ ー」 。高校を卒業して西落合の二畳半に下宿し、少女マンガ誌に「まだらのひも」や 「黒猫」(少女クラブ 1956)を描き、「幽霊少女」(1956-7)を連載、椎名町の「トキワ荘」に引っ越して「新マンガ党」の仲間たちと仕事に励んだ「マンガ家生活」 。デビュー10年を目の前にして行き詰まり、3カ月間の世界一周旅行へ出かけた「スランプ」 。

    『マンガ家入門』(秋田書店 1988)に加筆された「そして、それから」(1967~87)は島本和彦言うところの 「爆発」 (ブレイク)で横溢している。相次いで創刊された青年コミック誌に請われて連載した女性サイボーグのエスピオナージ 「009ノ1」(漫画アクション)、時代ミステリー 「佐武と市捕物控」(ビッグコミック)、ギャグっぽいSF 「ワイルドキャット」(プレイコミック)。平井和正と共作した本格的なSF 「幻魔大戦」(少年マガジン)、超能力SF 「ミュータント・サブ」(少年サンデー)、ファンタジー・ワールド 「ジュン」 と実験的野心作 「サイボーグ009("神々との闘い" 編)」(COM)。100ページ読み切りSF 「大侵略」 と 「スカルマン」 (少年マガジン)。TV実写アクション・ヒーローや特撮戦隊シリーズの嚆矢となった 「仮面ライダー」 「人造人間キカイダー」 「がんばれ!ロボコン」 「秘密戦隊ゴレンジャー」 。ベストセラーとなった描き下ろし「マンガ日本経済入門」など。「ミュータント・サブ」 が 「佐武と市捕物控」 、「スカルマン」 が 「仮面ライダー」 となった裏話も語られる。

  • ● テクニック編(ギャグマンガ・ストーリーマンガ・その他のマンガ)
  • マンガの代表的な2つのジャンル、ギャグ(gag)とストーリー(story)について、2つの参考作品を具体例としてアイデアのたて方・絵のかき方・コマの進め方などを自作解説。「第1章 ギャグマンガ」 の 「どろんこ作戦」(15頁)は5人の子供たち、マッスグ(直情型体育会系)、エジソン(秀才タイプの発明マニア)、風船(泣き虫の巨漢)、コオロギ(お喋りな生意気少年)、ゴリラ(じゃじゃ馬少女)とイジメ・グループの泥んこ応酬合戦をコミカルに描くギャグマンガ。作中のページ間に挿み込む構成で、キャラクター設定、カタキ役、流行語、ガメツク、ギャグマンガのザンコク性、変形、非常識─常識、コマの省略、くりかえし、小道具、現実感、クライマックス、アイデアの考え方を具体的に解析する。「第2章 ストーリーマンガ」 では最初にモチーフ(motif)、テーマ(theme)、プロット(plot) 、コンストラクション(construction)、コンテ(continuity)、シノプシス(synopsis)、キャラクター(character)という用語を説明。

    「龍神沼」(48頁)は都会から夏祭り(龍神祭)を見るために少女ユミ(姪)の住む親戚の家を訪れた研一少年(画学生)が一輪の白百合の花を携えた白い着物の美少女(龍神)と出逢うストーリーマンガ。「竜神沼」 について、まえコマ(プロローグ)、タイトル、イントロ、時間経過、サスペンス、ギャグ、その他大勢と主人公、悪役・三枚目、連載マンガのコツ、時の流れ、ヒーローとヒロイン(白い着物の少女に嫉妬して、ヘソを曲げたユミが樹に登って、アブラゼミに「うるさいぞ!」と怒鳴る描写は詩情に溢れている)、静寂、背景、背景によるドラマ、心理描写、ムード、シンボライズ、中ぐらいのヤマ場、大道具・小道具、スリルとショック、伏線の整理、活劇場面、カット・バック、ロングとアップ、天然現象の利用、クライマックス、アトコマ(エピローグ)というテーマで「どろんこ作戦」と同じように詳細に分析する。「第3章 その他のマンガ」 では幼年マンガ・絵本、一コマ・カット、4コマ、テレビマンガ、パノラマ、劇画、パロディマンガ、ポエムマンガ、教育マンガ、その他のその他を解説する。

  • ● 総集編
  • 「マンガ家きのう・きょう・あす」は同時にデビューした2人の若くて才能のあるマンガ家の行く末を対照的に描いている。派手でスマートな作風と絵柄の如才ないマンガ家は人気も急上昇してAクラスの作家となるが、渋くて不器用なマンガ家は地味で良心的なマンガをコツコツを描き続けていた‥‥。日本マンガの歴史(平安〜鎌倉〜室町〜江戸後期〜明治・大正時代)を挿み込んだ寓意的なエッセイには考えさせられる。「児童マンガ家になる10の条件」(1. あなたは画家の感覚をもっていますか?、2. あなたは小説家の才がおありでしょうか?、3. あなたは演出家としてのテクニックをお持ちですか?、4. あなたは児童心理学の単位をとっていますか?、5. あなたは子供が好きですか?、6. あなたは、7. あなたはコメディアンのやることなすことに共感をもてますか?、8. あなたは社交家ですか?、9. あなたは、ショーマッンシップ─別名ハッタリ精神─をお持ちでしょうか?、10. あなたはスポーツが得意ですか?)は著者自身が10の質問に1つもイエスと答えられないというオチ付き。

  • ● お答えします(マンガ家入門A〜Z)
  • A 道具、B デッサン、C 勉強、D アイデア、E テーマ、F シノプシス、G 絵コンテ、H 原稿の大きさ(拡大率)、Iコマ、J フキダシ(セリフ)、K 表紙(タイトル)、L 彩色、M ヒーロー・ヒロイン・三枚目、N バック、O テクニック、P ギャグマンガ、Q ストーリーマンガ、R スピード、S 著作権、T アシスタント、U 投稿、V 研究会、W 条件、X 資格、Y マンガ未来図、Z ぼく(マンガ家)のすべて‥‥マンガ家志望者や読者からの質問を26項目に分類して回答している。Pの具体例として 「がんばれ!ロボコン(重要機密書類の巻)」(12頁)、Q「サイボーグ009」の立案から原稿完成まで(7頁)を掲載。《あなたの「マンガ家入門」は、マンガ家になりなさいというような書き方をしているけど、手塚先生や他の本では趣味としてかくことをすすめている。いったい、どっちがいいんだ?》という最後の質問(あとがき)に、「趣味としてマンガをかいた方がよろしい、というほかの先生のご意見に、まったく賛成です」 と著者はシニカルに答えている。

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    • 「石ノ森章太郎萬画大全集 1-36」(角川書店 2006)、文庫版『マンガ家入門』(秋田書店 1998)をテクストに使いました

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    マンガ家入門 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 1-36

    マンガ家入門 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 1-36

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2006/02/22
    • メディア:コミック
    • 目次:「石ノ森章太郎のマンガ家入門」 まえがき / 入門編 / テクニック編 / 総集編 / お答えします / あとがき


    石ノ森章太郎のマンガ家入門

    石ノ森章太郎のマンガ家入門

    • 作者: 石ノ森 章太郎
    • 出版社:秋田書店
    • 発売日:1998/09/01
    • メディア:文庫(秋田文庫)
    • 目次:「石ノ森章太郎のマンガ家入門」 まえがき / 入門編 / テクニック編 / 総集編 / お答えします / あとがき / 解説・島本 和彦 / 石ノ森章太郎年度別作品リスト

    タグ:ishinomori comic
    コメント(2) 

    コメント 2

    ぶーけ

    ちょっと寅もようの猫さん。
    先日小虎を作ったら、かわいい猫ね、とほめられました。^^;
    by ぶーけ (2021-08-05 20:06) 

    sknys

    『プー横丁にたった家』に登場する子虎ティガー(Tigger)は
    縫いぐるみのトラではなく、タビー柄の本物の仔猫だったという^^;
    by sknys (2021-08-05 21:35) 

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