ブラック・ウィンド [c o m i c]
石森 章太郎「新撰組暗殺風」
嵐の夜、再び仲間(豊臣方)の忍者たちに襲われた小月は彼らの投げた太刀に落雷した稲妻に感電して気を失う。留めを刺そうとした時に徳川方の忍者たちに襲撃される。豊臣方の隠れ家を見つけて一網打尽にしようと、逃げた1人の後を追う徳川方の忍者たち。意識を回復した小月は落雷の衝撃で記憶を取り戻していた。秩父の山奥で有川八郎という男が作った新式の鉄砲。その設計図を譲り受けて来るという任務を黒太夫から命じられていた。家を訪ねた時、有川は死んでいた。枕元の箱に入っていた設計図を手に入れた小月は万が一、徳川方の忍者に殺された時に奪われないように、全てを暗記して燃やす。その帰り道に何度も襲われ、滝から落下して記憶を失ったのだ。九度山のアジトに辿り着くと、黒太夫たちは皆殺しにされていた。徳川方の忍者たちを一掃した小月は1人で徳川の天下を崩すことを誓う。
黒い風(小月風乃進)は城内に4度も潜入して「黒い風参上」という貼り紙を徳川家康の寝室に残す。狼狽した家康は警備の忍者を十倍に増やし、黒い風の首に賞金百万両、殺した者には 「城一つと五千の部下をあたえる」 という御触書を高札場に掲げた。名乗りを上げた無頼の忍者集団 「十三人衆」 が黒い風に戦いを挑む。虫摩、兵六、かわらの十兵衛、火くい佐助、十方傷の与三郎など、3人1組となって怪しげな忍術を使う忍者たちが次々と襲いかかる。負傷して川面に倒れた黒い風に子供時代の愉しかった記憶が甦る。数カ月前、娘こずえと別れた場所に立ち、父親の語った話を回想する。《しかし今の世ではなにが正義でなにが悪かわかりはしないのじゃ。〔‥‥〕わしらのようにどちらの敵でも味方でもなく森の小鳥やけものたち‥‥自然をあいてにしずかにくらしているのが一番しあわせじゃ》「十三人衆」 の4人との最後の戦い。《戦国時代と現代は非常によく似たところがあります。真実を求めて巨大な機械文明に反抗を試みる人がもしいたら‥‥あなたは "黒い風" です》
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兎や狐や猪を狩猟する転場者(山窩)たちの前に現われた 「虎」 親分の連絡員かけすの文吉が口上する。お小夜親分に 「風」 の人相書を見せて、仲間を殺した仇を討ってくれと頼む。旅館の薪割りをすることで宿泊している 「風」 とチビ。右手首を斬られた恨みを晴らすために後を尾けて来たイタチ屋平助と女房も同宿していた。お小夜と3人の転場者、縄の蛇、笄の鷹、山刃の山猫も泊まりに来た。宿主人の五十両が盗まれる。「風」 が胃痙攣を起こした娘(お小夜)の薬を探していた女中に薬を渡す。お礼に来た娘との会話の中で、「風」 の探している相手が 「身二つの男」 だと初めて明かされる。平助が岡っ引きに 「風」 が江戸で名を知られた大泥棒だと吹き込む。主人の狂言だと見破った 「風」 が金を奪い、身売りする父娘(お菊)に贈る。旅館を後にした 「風」 を転場者たちが襲撃する。お小夜を殺さなかったのは彼女の心に迷いがあったから。「おれの剣はおれを殺そうとするやつしか殺さない」 のだ。
万延元年(1860)2月末、江戸。薩摩藩島津修理太夫の元家来・有村治左衛門兼清が逃げる彦根藩士の武士3人を西河神社で斬り殺す。瀕死の武士が今際の際、「水戸薩摩の浪士が井伊の御大老暗殺計画。桜田門三月三日」 と 「風」 に言い遺して絶命する。有村は口封じしようとするが、両袖を切った 「風」 が決行の日まで命を預けておく。「風」 とチビが焚き火をしていた森の洞穴が爆破され、3人の忍者が襲いかかる。貸席・山崎屋に戻った有村は話を聞いた同志に諌められて、再度 「風」 を斬りに行く。用心棒として雇われていた双つ身(連)が後を追って来た。3人の忍者も姿を現わして、「風」 と双つ身の対決となるが、彦根藩の捕方に包囲されて中断を余儀なくされた。3月2日、江戸・西応寺町。水戸の脱藩浪人の集まる日下部家に居候する 「風」 とチビ。お松と有村が祝言を上げる。「風」 が彦根の殿様に告げ口しようとするイタチの平助を脅して口止めする。3月3日午前8時。脱藩浪人たちが井伊直弼の一行を襲撃する。「風」 が再び襲いかかる3人の忍者を斬り、有村が奸賊井伊の首を取った。
チビが渓流の冷たい水で顔を洗い、2羽の兎を見ていると矢が飛んで来た。兎を殺した猟師の仕業だった。「風」 が桜の樹を切ったのはチビの首筋を狙っていたマムシを殺すため。突然繁みから現われた牡鹿の角と首を斬ると、先の猟師が横取りするなと主張する。狙った獲物を一矢で仕留められなかった猟師に人間は倒せない。獲物を追うオオカミ(風)とオオカミ狩りの猟師。「風」 が短筒で狙われた。後を尾けようとすると、滝の傍で剣術の稽古をしている浪人たちの一味ではないかと猟師が言う。失敗して逃げ帰った園田氏を追って来た 「風」 が問い詰める。1週間ほど前に山を降りた双つ身(連)から、「風」 を見たら知らせてくれ。莫大な財宝の秘密を握っている 「風」 を殺さなければ、その秘密は分からないという。仲間にならないかという脱藩浪士・清原八郎の誘いを 「風」 は断る。野宿をする「風」 たちに浪人5人が夜襲する。血の匂いを嗅ぎつけたオオカミの群れが3人に襲いかかる。オオカミを飼い慣らして組織的に行動するように命じる人間がいるらしい。再び襲撃する滝の浪人たちとオオカミの群れ。命令して動かしていたのは幼い頃にオオカミに攫われた猟師の妹だった。
「風」 とチビは盲目の行者たちと再会する。チビが銀杏に 「風の兄き」 と一緒に旅するのは嫌だと泣きつく。チビを旅に出したのは強い心になって欲しかったから。「風」 がチビの心は女の子と同じだと言うと、《あなたはチビの心がわかりすぎるほどわかっているはずです。あなたにもチビと同じ心があるからです‥‥肉親の仇を討つために旅をつづける心なんて‥‥あなたが女の子のような心といった心と同じです》と諭す。目の見えない銀杏は過去や未来、他人の心の中さえ見える超能力者だった。「風」 が仇討ちしようと思っていること、そして仇に負けることを予言する。草原に仕掛けられた 「夢幻香」 によって、幻覚症状に陥った 「風」 は双つ身に敗れる。秘宝を奪うためにマタギ一族を(子供1人を残して)斬殺した双つ身の記憶が甦る。秘宝の隠し場所は子供(風)の背中に刺青されていた。死んで体が冷えると見える特殊な刺青だった。留めを刺そうとする双つ身の前に、チビと銀杏たちが姿を現わす。
「文久2年(1862)8月26日、薩摩藩士、英人・リチャードソンら数名を神奈川の生麦村で殺害」 ‥‥馬で散歩していた英国商人たちが島津久光の行列に割り込んだため、斬殺されたのだ。現場に馬で駆けつけた弟ジムが 「ヤバンジンメラ!!」 と叫ぶ。2人連れの女性が男たちに襲われる。助けようとしたチビが返り討ちに遭う。「風」 が男たちを追い払うと、年長の女性に家まで送って欲しいと頼まれた。一行が帰宅すると、昨夜旦那さんが射殺されたという。噂に高い人殺しのばけもの、火筒天狗の仕業だった。「風」 とチビが神社の軒下で野宿していると使用人が迎えに来た。お嬢さんに2人を連れて来るようにと言われたのだ。焚火の明かりに気づいた火筒天狗が発砲する。剣と銃の戦い。左腕を撃たれた 「風」 が逃走すると、双つ身と鉢合わせになる。手負いの 「風」 は身を翻し、弾切れの火筒天狗も姿を消す。往診に来た医者に手当てされ、暴漢から救けた(父を殺された)娘に介抱される。
4、5日後、「風」 とチビは弔いに来た横浜のおじと一緒に気晴しのために帰ることになった女性と同行する。「みなと屋」 を客として訪れたジムが 「風」 と出会って、サーベルと剣の試合をすることになる。チビが後を尾けて、ジムの住いを突き止めた。月夜、ジムの住む屋敷に向かう2人は銃声を聞く。3人の火筒天狗と水戸天狗党の戦いだった。火筒天狗が幕末水戸藩の過激派3人を撃ち、「風」 が火筒天狗2人を斬った。「みなと屋」 では主人と番頭が双つ身に斬殺され、親戚(姪)の娘が攫われた。同心に下手人と疑われて追われた 「風」 は水戸天狗党の潜むアジトに匿われる。同志が小料理屋で酔い潰れた気味の悪い双子の浪人から入手した短筒。それは昨日主人が見せてくれた拳銃だった。川に舫いだ舟で拘束されていた娘をチビが見つける。「風」 を追って来た捕方が現われて、双つ身との対決は再び水を差されたが、火筒天狗(ジム)との決着はついた。「横浜ブギョウ所へ / 証言シマス / 「ミナト屋」 主人ガシンダ時間ワタクシコトジムリチャードソンハ風サントイッショニイマシタ / 8月9日」
風の吹き荒む小屋で寝ていたチビがバケモノに斬りかかる。熱に魘されて幻を見ているようだ。霧の立ち籠める早朝、羽衣を纏った美女が姿を現わす。火を吐く妖怪、刺股を振るう鬼などの魑魅魍魎が襲いかかるが、「風」 は左手甲に刀を刺して正気に返る。木の葉に染み込ませた毒で頭を麻痺させて催眠術をかけた 「鼻なし男」 の仕業だった。京・新徳寺で浪人たちに稽古をつける芹沢鴨。見回りに来た清川八郎が 「風」 とチビ、水戸天狗党の浪士と出合った。京に来たのは集まった浪人隊の中に双つ身がいるのではないかと思ったから。旧知の浪士が芹沢に 「風」 を引き合わせる。無様な剣術稽古を笑ったチビと浪士・平田が手合わせする。見下された芹沢が刀を抜いて 「風」 に挑むが、清川に制止される。その夜、幕府から来ている山岡鉄太郎が浪士たちに江戸へ返れと命じる。世話役の清川が 「浪士隊」 を公家方に売ろうと画策していることが発覚したためだった。「浪士隊」 は幕議で取り潰しとなった。逃げ出した清川を追う浪士たち。巻き添えを食った 「風」 も追手を斬ることに。土方と近藤は新撰組を組織しようとする。「勤王も佐幕も興味ないね」 と言い残して、「風」 は立ち去る。
石森 章太郎
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- 「石ノ森章太郎萬画大全集 1-16、2-19・20」(角川書店 2006)をテクストに使いました。「本の通販ストア」 終了のため、下掲の全集はデジタル大全(kindle)にリンクしました
- 「黒い風」 は戦国時代、「新・黒い風」 は幕末を舞台にした全く別々の時代劇です
- 「新・黒い風」 が未完で終わったのは残念。双つ身(連)との決戦、銀杏との結婚は?
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2024-08-01 00:00
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