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青いけものたち [c o m i c]



  • はじめに‥‥
  • われわれの住む地球は──自然は、このようなピラミッド型の食物供給上の連鎖関係図で成り立っている。その調和し安定した連鎖の、輪のひとつを環境その他によって外したらどうなるだろう。〔‥‥〕大宇宙の中の小宇宙、小宇宙の中の太陽と惑星、惑星の中の地球‥‥。このマクロな世界から最小の存在としての原子や遺伝子のミクロな世界まで、大自然は秩序ある統一性の中にある。約十万年前、その自然界に、突然頭脳を拡大、発達させた人類(ホモ・サピエンス)が登場し──やがて、統一性と連鎖のバランスを崩壊させはじめる。おのれが生き残るために、という言い訳をのたまいながら‥‥! 実はおのれを殺していることも気付かずに‥‥!! ピラミッドの底辺を破壊すれば、頂上も崩れるのは理の当然なのである。そして‥‥人間が生きのびたいのと同様に、他の存在も、生きのびたいのである。大自然が生きのびるために、バランスを回復しようとした時、一体どんなことが起きるのか‥‥?
    石森 章太郎 「青いけもの」


  • 日刊新聞「河北新報」(河北新報 1971)に9カ月間連載された『青いけもの』は紙面の判型が特殊だったのか、全集版(B6)ではページの上部に空白がある。内容も通常のストーリ・マンガとは趣きを異にする。日本有数の動物学者・風祭譲は国際動物自然保護連盟からの依頼で、半年から1年の長期に渡り、シンガポール、ニューギニア、ニュージーランド、オーストラリア、ガラパゴス、アマゾンへ調査に出かけることになるのだが、1人ぼっちになることを嫌がった息子のケンも記録用映像撮影者として一緒に連れて行く。調査探検行の目的は2つあった。1つは世界各地に棲息する野生動物の自然保護状態を調べること。もう1つは「青いけもの」と呼ばれているヒョウに似た幻の動物の実在を確認することだった。風祭父子たちが世界の未開地を調査探検する物語の中に珍しい稀少動物や絶滅した動物などの克明なイラストが「動物図鑑」のように挿まれるのだ。『青いけもの』は絶滅した動物や絶滅危惧種への鎮魂と人類の残虐行為を糾弾する警告の書なのである。

                        *

  • シンガポール
  • マレーシア・タマンネガラ(元ジョージ5世国立公園)のシーラダング(マレー野牛)、フルートバット(大コウモリ)、コモンツパイ(木ネズミ)、ギボン科シャコン(フクロ手長ザル)、ビンツロング(くまじゃこう猫)、スローロリス(原猴類の一種)、ドラコバリンス(とびトカゲ)、しろえりさいちょう、キングコブラ‥‥深い青色の毛並みに白い雲のような斑模様を鏤めた「青いけもの」は姿を現わさない。ジャングルでゾウの親子を撮影していた風祭ケンが吸血ヒルに襲われる。突然鳴り響いた銃声!‥‥保護動物のスマトラサイを中国人密猟者たちが銃撃していたのだ。すると、どこからともなく現われた「青いけもの」が密猟者たち襲いかかる。その現場を目撃した探検隊。ケンは「青いけもの」をカメラで撮影する。1週間後、自然保護局事務所の一室に衝撃が走る。不思議なことに、現像したフィルムに「青いけもの」の姿が映っていなかった。「青いけもの」は本当に幻だったのか。風祭父子はマレー海岸で産卵中のレサリイタートル(オサガメ)を見守る。

  • ニューギニア
  • ニューギニアイノシシ、クロキノボリカンガルー、アカキノボリカンガルー、メガネオオコウモリ、ジュータンニシキヘビ‥‥雨の中、吹き矢で動物たちを密漁していた原住民(パプア族)たちに「青いけもの」が襲いかかる。雨が上がり、コタバルの森に虹が差す。自然保護局のミスター・ゾリンゲンと共に調査に出た風祭父子。ケンは撮影中に原住民の放った吹き矢が首筋に刺さって倒れる。幸い解毒剤が必要な毒矢ではなく、麻酔薬が塗られていた。風祭譲は吹き矢を使っているような未開の原住民が文明的な薬を所持していることに疑念を抱く。深夜、就寝中の風祭父子のテントの中に毒サソリが侵入する。早朝、ゾリンゲンを探しに出た父子は獲物を持って来た原住民との交渉を耳にする。ゾリンゲンは原住民を唆して密猟させ、大金を得ていたのだ。父子に銃口を向けて、口封じしようとするゾリンゲン。突然現われた「青いけもの」がゾリンゲンと原住民たちに襲いかかる。原住民に捕まえられた動物たちを救いに来たのだ。

  • ニュージーランド
  • 巨鳥モアの幽霊に襲われる夢を見て、テントの中で目を覚ました風祭ケン。ケア(ミヤマオオム)、ドド、オオウミスズメ、リョコウバト("マーサ")、カカポ(フクロウオウム)、トキ、タカヘ(ノトルニス)、ロイヤルアホウドリ、コーモラント(ウ)、フェアリペンギン、トゥアタラ‥‥檻に閉じ込めた三ツ目トカゲを断崖の上に置いて「青いけもの」を誘き出そうとした風祭たちの実験は失敗に終わる。「青いけもの」は「常識を越えた超自然の生きもの」ではないかという半信半疑の仮説を唱えた風祭譲は、その理由を「囮に対する殺意の悪意が全くない」ことだったと語る。1週間後、風祭父子はオーストラリアへ向かう。機内でケンはSFマンガで見た人造動物や改造人間(サイボーグ009や仮面ライダー?)のようなものではないかと父親に話す。旅客機がタスマニア島の上空を飛ぶラスト・ページには最後のタスマニア人女性ツルガニニ(Truganini)、タスマニア・デビル(哺乳類有袋類フクロネコ科)、フクロオオカミが描かれている。

  • オーストラリア
  • カンガルーの出産を見守った風祭譲とケンは所長のミセス・ケイトに感謝する。密猟者の報告を受けたケイトは追跡隊の派遣を所員に命じるが、風祭父子もセスナ機に同乗させてもらう。追跡隊は機上から、仲間のランドローバー、その前方に密猟者たちのトラックの列を発見する。密猟者たちは動物たちを飛行機で海岸まで空輸して、船で国外へ積み出す計画らしい。風祭は逮捕を輸送機に積み込む寸前まで待って欲しいと提案する。セスナ機は牧場近くに降りて待機する。カンガルーの群れ、ウォンバット、コアラ、カモノハシ、コトドリ、バンデイクート、ヒクイドリ‥‥密猟者たちが檻に入った動物たちを輸送機に積み込む。作業が終わりに近づいた時、悲鳴が聞こえた。走って逃げ出て来る密猟者たち。輸送機の中から現われた「青いけもの」を密漁者たちが銃撃する。傷ついて血を流した「青いけもの」は幻ではなく、生身の獣だった。4ページに渡って、アラン・ムーアヘッドの「恐るべき空白」(早川書房 1969)が引用される。

  • ガラパゴス
  • イグアナ(リクトカゲ)、ゾウガメ、ガラパゴスコバネウ、ベニイワガニ、アオツラカツラドリ、アオアシカツオドリ、ガラパゴスペンギン、カッショクペリカン、アカハシネッタイチョウ、アメリカグンカンドリ、ガラパゴスシラガゴイ、ガラパゴスアシカ、ガラパゴスメンフクロウ‥‥1835年、英博物学者チャールズ・ダーウィンが訪れ、「進化論」を発表して有名になったガラパゴス諸島。スペイン語で「ゾウガメ」という意味だが、今は十数種の亜種を残すのみで殆ど絶滅してしまったと風祭譲がケンに語る。太古の昔、溶岩に覆われて餌も殆どないガラパゴス島に渡って来たダーウィンフィンチの祖先‥‥《この小鳥たちが互いに少ない餌を争っていたとしたら、とっくにその "種" は滅んでしまっていただろう。だが、小鳥たちは生きのびた。困難な環境の中で、あるものは昆虫を食べ、あるものは樹草を、またあるものはその実をわけあって‥‥。この結果、同じ小鳥の種からさまざまの異なる色や形(たとえばくちばしなど)の "小鳥" へと「進化」していったのだ。──現在、ダーウィンフィンチだけでも十三種を数えるという》。

  • アマゾン
  • 南米アマゾンへ向かう旅客機のエンジンが突然火を吹き、密林に不時着する。風祭父子を含む乗客たちは機内から慌てて脱出する。ケンが転んで逃げ遅れた少女を助ける。その直後に飛行機が大爆発!‥‥少女メリー・ハガチクは母親を亡くし、父親が働いているボリビアへ行く途中だった。ホエザル、クモザル、オマキザル、キヌザル、ライオンキヌザル、ウアカリ、ウーリーモンキー、サキ、リスザル、ヨザル、ミツユビナマケモノ、ブッシュドッグ、エメラルドボア、ジャガー、コアリクイ、オセロット、キノボリヤマアラシ、ハナグマ、ソレノドン、ミズオポッサム、チスイコウモリ、ジャガロンディ‥‥他の乗客と逸れてしまったケンたちは火を熾して野宿することにする。その夜、2人の乗員が救けを求めて来た。半数は底なしの泥沼に嵌まってしまい、生き残った2人は恐竜のような怪獣に襲われたという。明け方、風祭たち5人は吸血コウモリの大群に襲われる。

    サイイグアナ、ツノガエル、メガネカイマン、バジリスク、アナコンダ、マウスオポッサム、ユンコ・オブ・ザ・ロック‥‥負傷した仲間を担いでいた乗客が風祭譲の拳銃2丁を奪って脅す。これからは俺が命令する、死に損ないの豚野郎を置いて行くと凄む男の背後にトリケラトプスが現われる。驚いて発砲するが、風祭から奪った拳銃は麻酔銃だった。逆に怒った草食恐竜の餌食になってしまう。ジャングルを彷徨うケンたちの上空から爆音か聞こえて来る。捜索機が救援に来たのだ。風祭譲が火を熾し、狼煙を上げる。ところがジャングルから現われたのは槍を持った原住民たちだった。囚われたケンたちは木に縛りつけられて、生贄にされる。禿鷹の群れと共に姿を現わしたのはティラノサウルスだった。落とし穴の罠に嵌まった肉食恐竜に槍を投げて倒す。どこからともなく現われた「青いけもの」が原住民たちを殺し、ケンたちを助ける。原住民の狩猟は殺すためだけの殺戮だったのだ。捜索機に救助された風祭父子は最後の予定地アフリカへ飛ぶ。

  • エピローグ
  • 人間は何をしたんだろう? ロケットを打ち上げた。それはこれまで人間のしてきたことのすべて、その能力の象徴。着いたのはどこだったろう? 何もない荒れ果てた死の砂漠。そして見た。生きている星を‥‥生きている星を! そして死にかけている星を! そう、もっと早く気がつくべきだった。"地球は生きている" そして "死にかけている"──いきものだということに! 五百マイル沖で捕獲された海ガメの胃からポリエチレンの袋など多数。野鳥の大量死。体内よりBHC、ディルドリンなどの有機塩素系農薬──石油石炭など地下埋蔵資源は70年後には底をつくだろう‥‥病んでいる地球が、その病のもとを取りのぞこうとしていることを。体内の白血球が侵入してきた病菌と抗戦するように。続々ふえている新しい病気、治療方法が見つからず! 光化学スモッグ、成因は謎のまま! 異常高潮、原因は不明! 病んでいる地球が生みだした白血球! おのれをまもろうとする怨念。生きている地球の自己防衛本能ともいうべき "心の産物"! いみじくもロケットから撮影した地球の全景写真をみて日本のある詩人がこううたっていたっけ‥‥「地球は青いけもののようだ」(谷川俊太郎)。

  •                     *
    • 「石ノ森章太郎萬画大全集 11-8」(角川書店 2008)をテクストに使いました

    • 「エピローグ」はナレーション(地の文)を繋げて、読みやすいように編集しました

    • ツルガニナ→ツルガニニ、トリセラトップス→トリケラトプス、チラノザウルス→ティラノサウルス‥‥など、全集版の表記を改めました
                        *


    青いけもの ── 石ノ森章太郎萬画大全集 11-8

    青いけもの ── 石ノ森章太郎萬画大全集 11-8

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2008/08/29
    • メディア:コミック
    • 目次:シンガポール / ニューギニア / ニュージーランド / オーストラリア / ガラパゴス / アマゾン / エピローグ / 巻末資料


    青いけもの

    青いけもの

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:大都社
    • 発売日:1975/01/20
    • メディア:コミック
    • 目次:前書き / シンガポール / ニューギニア / ニュージーランド / オーストラリア / ガラパゴス / アマゾン / エピローグ / シャマイクル


    恐るべき空白

    恐るべき空白

    • 著者:アラン・ムーアヘッド(Alan Moorehead )/ 木下 秀夫(訳)
    • 出版社:早川書房
    • 発売日:2005/04/21
    • メディア:単行本(ハヤカワ・ノンフィクション・マスターピース)
    • 目次:恐るべき空白 / チャールズ・スタート / 探検隊の編成 / メニンディまで / メニンディからクーパーズ・クリークへ / 大陸縦断に成功 / 後続隊 / 運命の九時間 / 後続隊は何をしていたか / ホープレス山を目指して / 救援隊出発 / ハウィット隊の行進 / 生き残りの生還 / 査問委員会 / 鎮魂歌

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