空飛ぶ幽霊船 [c o m i c]
草森 紳一 「少年の野蛮な発想の力」
太平洋沖で客船が黒い幽霊船を発見した。食事をしながら新聞記事「幽霊船また現わる」を読んでいた寺田広乃進の足許に1枚の紙片が滑り落ちる。死んだはずの嵐山大作から送られて来た脅迫文だった。嵐の夜、中華料理店「珍味亭」のカウンター席で舟虫じいさんと夕食を摂っていたイサム少年は逃走した無銭飲食の2人を捕まえ、嵐の海でボートを漕ぐ骸骨水夫と幽霊船を目撃する。ボートから飛び降りて上陸した右目に黒い眼帯をした謎の男。夜空には稲妻に照らされた幽霊船が浮かんでいた。巨大ロボットを開発中の左巻博士は寺田からの電話で呼び出される。寺田邸では造船会社の社長・寺田広乃進とギャング暗黒団の首領・黒潮、自衛庁長官・埴輪歯夫が待ち兼ねていた。屋敷の外で盗み聞きをしていたイサムの左肩を黒潮がピストルで撃つと、屋根の上に体全体がが青白く発光した幽霊船長が現われた。負傷したイサム少年は舟虫じいさんの家に戻るが、追跡して来た黒潮の手下に襲われる。
逃げる途中で背中を銃撃された舟虫じいさんが今際の際、イサムに本当の孫ではなく捨て子だったこと、本名は「嵐山」という苗字だと言い遺す。巨大ロボット・ゴーレム0を完成させた左巻科学研究所を潜水服を着た武装集団が襲撃して技師たちを殺す。幽霊船の骸骨船員に扮装した黒潮の部下たちだった。ゴーレム0を奪われたことにして暴れさせ、幽霊船を日本人の敵に仕立てる計略だった。寺田邸の塀を乗り越えて敷地内に降り立ったイサムは黒い眼帯の男と出遭って格闘になる。寺田の用心棒たちに囲まれた2人の頭上に幽霊船が姿を現わす。男の名前が嵐山大作だと知ったイサムは父親ではないかと疑う。「幽霊船から来た死神の使い」ゴーレム0が街を破壊する。会社の金庫から給料を強奪する暗黒団。イサムは一味の1人に成り済まして巨大ロボットの中に潜り込む。自衛隊の戦車も戦闘機もゴーレム0には歯が立たない。幽霊船とゴーレム0との空中戦‥‥。
正体が見破られて捕まったイサムに黒潮が十年以上前に起こした殺人事件の真相を明かす。嵐山大作の運転する車を待ち伏せして夫妻を射殺し、車ごと崖から突き落としたが、車内で眠っていた子供(イサム)だけは殺せなかった。黒潮に捨てられたイサムは舟虫じいさんに拾われたのだった。殺害の動機は嵐山が発見した油田の権利を盗むためだった。黒潮、左巻博士、寺田広乃進、埴輪歯夫の4人は共謀犯だった。黒潮は幽霊船に乗って還って来た嵐山を今度こそ葬るためにイサムを囮に使って誘き出そうとする。黒潮の拳銃を奪って逃走するイサム少年。崖を攀じ登る途中で暗黒団に背中を撃たれるが、幽霊船長に救出される。ゴーレム0に追撃されて海中に落下した2人は大きな魚(潜水艇)に呑み込まれて、幽霊船に回収される。ゴーレム0との海中戦‥‥幽霊船の大砲で右腕を捥がれたゴーレム0は無人島のアジトへ退散するのだった。逃げ帰った黒潮と左巻博士の前に海底魔王ボアーが現われる。
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海岸に建つ幽霊船長の家で嵐山イサムは目を覚ます。女子船員のルビイが介護していた。暗黒団に撃たれた背中の傷も癒えて外出したイサムは両親を殺害して父の財産を奪った4人に復讐を誓う。寺田邸に潜入して広乃進と対峙するが、親の仇は疑心暗鬼に捉われて頭がおかしくなっていた。寺田は嵐山大作の幽霊が出たと悲鳴を上げ、イサムは用心棒たちに包囲されてしまう。少年を救ったのは幽霊船長だった。車からモーターボートに乗り換えて海上へ出ると、巨大なマシンエビが襲いかかる。海底魔王ボアーが現われて幽霊船長に警告する。帰宅した2人はルビイと共に魚型潜水艇で幽霊船に乗り込む。ボアーの野望は世界征服だった。幽霊船は暗黒団が根城にしている無人島へ向かう。骸骨模様の絶縁服に着替えているイサムにルビイは約8千年前、地震や火山の爆発や津波で水深1万メートルの海底に沈んでしまった幻の大陸・アトランティスの末裔(海底人)であると告げ、ボアーもアトランティスの科学者だったと船長が明かす。
マシンエビに襲撃されて船体に穴を開けられた幽霊船は海中から空へ飛び上がり、ゴーレム0と戦う。船内に潜入したスパイが燃料タンクと第2機械室を爆発させた。飛行不能に陥ってしまった幽霊船はゴーレム0によって無人島に運ばれる。海底魔王ボアーの率いる暗黒団との地上戦が勃発。船外に出てボアーを急襲する幽霊船長たち。ゴーレム0に崖へ追い詰められて絶体絶命の窮地に陥ったイサムはボアーの作戦変更に九死に一生を得る。ゴーレム0の後を追って暗黒団のアジトの入口まで辿り着く。しかし、轟音を上げて秘密基地が空へ飛び立つ。幽霊船も浮上して飛び上がると、飛行島から爆弾が投下されて無人島が爆破されてしまう。飛行島から滑落したイサムはゴーレム0に捕獲される。左巻博士が少年の命を救ったのだ。東京を爆撃する飛行島‥‥イサムは飛行島から脱走して、南の島の原住民と闘うことになる。追って来た暗黒団に射殺される寸前、またしてもゴーレム0に救出される。海底魔王と地球人の全面戦争を憂う左巻博士が改心して寝返ったのだ。
幽霊船に誤射されて海底に沈んだゴーレム0‥‥負傷した左巻博士は日本へ向かう途中で息絶えた。日本に辿り着いたゴーレム0は自衛隊の爆撃機に攻撃される。左巻博士の裏切りに気づいた黒潮とボアーが自衛庁長官の埴輪に連絡したのだ。森の中で暗黒団のゴーレム0たちに包囲されるが、幽霊船が巨大ロボットを破壊してイサムは生還した。仲間の幽霊船4隻が逃亡する飛行島を追撃する。東京上空から民家に着陸した飛行島‥‥ボアーは都民を人質にして籠城する。腹心の部下に化けた船長とイサムは埴輪長官を虜にして飛行島の内部に潜入。幽霊船長(嵐山大作)が正体を明かしてボアーと最終対決する。観念したボアーは飛行島を水爆の何百倍も強力な爆弾に変える足許のボタン押して東京を全滅させると脅す。「ワレワレヲ逃ガスノダ。モチロンオマエタチハココカラ無事ニダス」‥‥ところが飛行島は嵐山船長の仕掛けた時限爆弾で逃飛行中に爆発してしまう。今から十数年前、黒潮に海へ投げ込まれた嵐山大作は海底人の調査船に救助されて海底の国で暮らしていたが、ボアー事件が起きてボアー捜査船の船長に選ばれたのだ。父親やルビイと共にイサムも海底の国へ帰る。
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「幽霊船」(1960-61)は当時20歳前半だった石森章太郎が月刊マンガ誌「少年」に約1年間連載していた「海洋冒険まんが」。アニメ映画「空飛ぶゆうれい船」(東映 1969)の原作でもある。突然海上に現われて空を飛ぶ黒い幽霊船と巨大ロボット・ゴーレム0の戦いに主人公の少年・嵐山イサムが巻き込まれて行く「痛快冒険まんが」だが、特にSFを意識して描いていたわけではなかったという。「作品の底に流れるムードは現在のボクには失われてしまったもので、ボクとしても懐かしく、またそれだけに是非お推めしたい作品です」と『幽霊船』(コダマプレス 1966)の「前書き」に書いている。「石森章太郎選集 第10巻」(虫プロ 1969)の解説で、草森紳一は失われたものを「少年の野蛮な発想の力」だと評しているが、「作品の底に流れるムード」は「野蛮な発想」とは真逆の「夢見るようなリリシズム」ではないかと思う。初期石森作品に流れる瑞々しい叙情‥‥アクション主体のSF冒険マンガでは感じ難いけれど、少年の抱く詩情が稚拙な絵柄から溢れ出ている。
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- 「石ノ森章太郎萬画大全集 5-7」(角川書店 2007)をテクストに使いました
- 「石森章太郎選集 第10巻」(虫プロ商事 1969)を参照しました^^
- 引用した「少年の野蛮な発想の力」は「石森章太郎選集 第10巻」の解説です
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2017-02-11 00:15
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