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お転婆万歳 [c o m i c]



  • 八編中の最長篇作品「ガタコン教室」は、いわゆる学園もののワクにはいる作品として構想されながら、またまた石森章太郎一流の誠実さから、結局、そのワクを大きくつきやぶってしまったものと見る。いかに私立の学園とはいえ、そこが教育の場であるかぎり、現行の学校教育制度のワクから脱却できないという "現実" がある。その現実を全く無視したところで、多くの学園ものまんがはドタバタや物語を成立させているわけだが、石森章太郎は、現実のワクを無視せずに、ジャンルのワクをつきやぶる。この作者の姿勢は、 "現実" に責任を持とうとする生活人としての誠実さということになるだろう。とはいえ、わたしは石森章太郎が、ジャンルのワクをつきやぶることだけに終始してしまうのを喜ぶわけにはいかない。「ガタコン教室」による事態収容は、あまりにもありきたりだ。トコの父親がフレンド学園の大株主だったというだけで、問題を解決してしまったのでは、過程の混乱=ガタコンは、いったいなんのためであったのか見当もつかない。
    佐野 美津男 「ギャグとユーモアのはざま」


  • 『おてんばバンザイ』(角川書店 2008)に収録されている13作品は独立した短篇だが、表題作を含む3篇に登場する女主人公はリボンの髪飾り(カチューシャ)の少女である。プロローグ(幼年時代)、本文(少女時代)、エピローグ(娘時代)という3部構成の「おてんばバンザイ」は同一女性の成長過程で誘拐事件が3度繰り返される。「ガタコン教室」は小学校の生徒たちと美術教師が事件に巻き込まれる学園コメディ。「銀色の目」は病欠している親友を見舞う楳図かずお風の異色ホラー。「ごいっしょに白鳥のみずうみをききません?」はベレー帽の男性がチャイコフスキーの「白鳥の湖」を聴いている間に展開する白鳥の姿に変えられた王女と狩人と魔法使いの物語。「まんがスクール」はマンガを教える授業の課外講座で、女教師と生徒たちが作者(石森章太郎)のアパートに押しかけてマンガの書き方を教わる。「赤ずきんちゃん」はアンデルセン童話を石森流にリメイク。「MYフレンド」は少女が作者(石森先生)に持ち込んだマンガ原稿を入れ子にした円環構造が洒落ている。

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    ▢ おてんばバンザイ(なかよし 1965)石森 章太郎
    3人組の男たちが幼女にチョコレートをプレゼントする。彼らが手を振って立ち去ろうとすると、人形を買ってくれたら一緒に尾いて行っても良いと女の子に逆ナンパされた。恐れをなして交番の犬巡査に泣きつく8コマ・マンガの「プロローグ」。貴金属店から宝石を奪った男が仲間のクルマに乗って逃走する際、たまたま通りがかった少女を巻き込んで「誘拐」してしまう。3人組強盗犯のアジト(服役中の親分の屋敷)に連行された少女は盗んだダイヤの指輪や真珠のネックレスはニセモノだと見破り、自分が誘拐されたことにして、身代金を要求する脅迫状を出すことを逆に提案する「本文」。路上で男にピストルを突きつけられて再三誘拐された娘は自動車会社社長の秘書だった。お転婆娘は婚約者の社長に新型自動車の設計図を持って来てと自ら電話し、誘拐犯たちに夕食の料理を振舞う。フィアンセが設計図を持って来ると、3人が食中毒でダウンしていたという「エピローグ」。

    ▢ ガタコン教室(少女フレンド 1966)石森 章太郎
    図工の時間に教壇で居眠りしていた木暮先生。眠気覚しに生徒たちが大声を上げていると、女教頭が教室へ注意に来る。オールドミスの今野教頭は結婚を断られたことを逆恨みし、木暮の粗探しをしては校長に告げ口している。木暮は女性恐怖症だった。放課後、病院で胸のむかつきを診てもらった木暮は内科医に軽い飲みすぎだと言われるが、「長くて後1カ月の命」という2人の医者の会話を耳にしてしまう。意気消沈してアパートに帰った木暮は隣室の由美のところに画商の袋三平が来ていると、彼女の弟のタク坊から知らされる。絵を売ったことの引き換えに彼女を食事に誘う画商。木暮は喜び勇んで部屋に来た由美にチョビヒゲが君の関心を惹こうとしているだけだと言い放つ。二日酔いの見舞いを兼ねて絵を習いに来た生徒のトコ。弟を連れて夜の食事に出かける由美。階下では地上げ屋たち(サクラ組のチンピラ)が家主の描いた絵を損壊して、家を売るように脅していた。

    助太刀に入った木暮が狼藉を働いたチンピラたちを外で殴り倒す。しかし、その現場を今野教頭(キツネ顔のお稲荷さん)に目撃されてしまう。フレンド学園の職員会議で、女教頭は暴力を振るった木暮を辞職させようと画策する。会議室のドアの前で立ち聞きしていた少女トコが重要参考人、級友たちが付き添い・弁護士として弁明する。一発で倒されたと子分たちから聞いた東洋商事の社長はアパート大家の借金を肩代わりしたことを理由に、木暮に拳闘大会(社長はボクシング・ジムも経営していた)に毎月1回出場する契約を結ばせる。木暮は教師の首が繋がって、覆面ボクサーとしてトレーニングに励む。社長の留守中、東洋商事に画商と共に訪れた由美は社長室の壁に逆さまに架けられていた自分の絵を見て、売れたのではなく画商が買い取ったことに気づき、激怒して絵を持ち帰る。帰社した社長は壁から絵が消えていることに驚愕!‥‥「あの絵の中には重要書類が隠してあったんだっ」。

    東洋商事の社長はアパートの由美の部屋に乗り込むが、絵の中に隠した書類は木暮が形見分けしたもの(石川五右衛門の煙管の雁首)を入れる宝箱の隠し場所を地図に書く紙として、弟のタクに抜き取られた後だった。画商に騙されていた由美は木暮と仲直りして、1週間前のプロポーズを受けることにする。ところが余命幾許もないと思い込んでいる木暮は結婚を断らざるを得ない。覚悟を決めて、遺書まで書き出す始末。夜になっても帰って来ないタク坊の身を心配する由美。弟は書類と交換取引するための人質として、社長一味に誘拐されたのだ。由美、木暮、トコたちは東洋商事へ行くと乱闘が始まる。変装(男装)して木暮を辞職させる証拠を掴もうとしていた今野教頭や校長、警官隊も駆けつけて大団円を迎える。社長は脱税で逮捕(書類は裏帳簿だった)。木暮は再び正当防衛が認められて、辞職を間逃れた。トコの父親(フレンド学園の大後援者)が電話で校長を説き伏せたのだった。

    ▢ 銀色の目(なかよし 1966)石森 章太郎
    楳図かずおの恐怖マンガを人気のない放課後の教室で読み耽る少女。女教師が後ろから少女の肩に触れると、悲鳴を上げて机の上に跳び乗る。1週間も病気で欠席している親友・風見礼子の様子を訊かれた少女は彼女を見舞いに行く。初めて訪れた気味の悪い洋館。ライオンのドアノッカーを引くと、館内から音が聞こえて獅子が目を瞠る。開いたドアの隙間から干涸びた腕が出て、彼女の持っていた花束を奪う。不審に思った少女は2階の窓から覗いていた人影に気づき、生け垣を乗り越えて窓から屋敷の中に潜入。階段を昇って部屋の鍵穴から室内を覗くと、異形の人物が水を張った盥に浸かっていた。思わず声を上げて走り出した少女。薬を持って来た婆やに誰かが覗いていたと訴える礼子。甲冑の陰に隠れた少女は婆やの独り言から、親友がナメクジになる毒薬を盛られていたことを知る。部屋の中に入った少女(澄子?)はベッドの下に隠れていた礼子に襲われる。ナメクジ人間は礼子の芝居(変装)だった。しかし、毒薬によってナメクジ化していた礼子は婆やの投じた塩で溶けてしまう。

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    ▢ MYフレンド(少女フレンド 1967)石森 章太郎
    コムカタ・ポコが石森邸の呼び鈴を押す。浮かない顔で出迎えた石森先生は少女雑誌から依頼されたエッセイのテーマ‥‥理想的な友達について思い悩んでいた。ポコは友達をモデルにして描いたという持ち込み原稿の「MYフレンド」を見せる。「友達のモモ子がポコの家に慌てて来る。木式美くんがポコをお嫁さんにすると町中に言い回っている。この話が纏まれば現代版シンデレラではないかと‥‥しかし、金持ちの王子と貧乏人の娘という見立てに激怒したポコは木式美の花束とプレゼントとラブレターを拒絶する。ポコは大好きな六兵衛の家に遊びに行くが、彼は別の彼女とデートに行くところだった」。石森先生がポコのマンガ(歪んだコマ枠が引かれている)を批評する「まんが教室」。十年前に突然出現して仕事をサポートする友達の「ミュータント・モグラ」。ポコは昔からのファンだという姉マリを紹介するために石森先生を自宅に招くが、2人の仲は悉く超能力モグラに邪魔されてしまう。新しいアイデアを得たポコの描くマンガの表紙が「MYフレンド」の扉絵にループする。

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    • 「石ノ森章太郎萬画大全集 10-33」(角川書店 2008)をテクストに使いました

    • 「石森章太郎選集 第3巻」(虫プロ商事 1969)を参照しました^^

    • 引用した「ギャグとユーモアのはざま」は「石森章太郎選集 第3巻」の解説です
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    おてんばバンザイ ── 石ノ森章太郎萬画大全集 10-33

    おてんばバンザイ ── 石ノ森章太郎萬画大全集 10-33

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2008/05/31
    • メディア:コミック
    • 収録作品:おてんばバンザイ / ガタコン教室 / 銀色の目 / ごいっしょに白鳥のみずうみをききません?/ まんがスクール / 赤ずきんちゃん / 新メイ作童話 赤ずきんちゃん / 現代むすめ気質 / 夏休み!キューピッド作戦 / MYフレンド / 初恋や アア初恋や 初恋や / 右むけ左ちゃん / ララちゃん / イラストコレクション


    おてんばバンザイ ── 石森章太郎選集 3

    おてんばバンザイ ── 石森章太郎選集 3

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:虫プロ商事株式会社
    • 発売日:1969/10/15
    • メディア:コミック
    • 目次:虹の世界のサトコ /(新)二級天使 / ガタコン教室 / ゴリラくん / 赤ずきんちゃん / マイフレンド / めでたさも中ぐらいなり‥‥サユリの春 / ギャグとユーモアのはざま・佐野 美津男 / 作品メモ


    萬画の王様 ── 石ノ森章太郎 追想作品集

    萬画の王様 ── 石ノ森章太郎 追想作品集

    • 著者:石ノ森 章太郎
    • 出版社:稲門堂
    • 発売日:2000/04
    • メディア:単行本
    • 目次:デカチビ日記 / キキちゃん / さるとびエッちゃん / おてんばバンザイ / CM野郎 / 秘密戦隊ゴレンジャー / うしろの正面だあれ / 空港(AIRPORT)ビッグゴールド / エッセイ・ゴルフ / 時ヲすべる / 藤本氏の描き方 / 萬画宣言 / 思い出の写真集

    タグ:ishinomori comic
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    コメント 2

    ぶーけ

    こちらのお話しは読んだことはないのですが、
    石ノ森章太郎、出展が少女フレンド、なかよし、と知ってびっくり。
    少年なんとか、の人だとばかり思ってました。
    by ぶーけ (2017-05-01 09:09) 

    sknys

    少女マンガ誌は次々と創刊されたのに、当時は女性の書き手が少なくて、
    手塚治虫、ちばてつや、横山光輝、赤塚不二夫、楳図かずお、松本零士など
    ‥‥デビュー間もない男性たちが少女マンガを描いていました。
    by sknys (2017-05-01 12:07) 

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