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ロボットKの哀しみ [c o m i c]



警視庁長官の命によって最古参の芝刑事は、青黒い顔にハンチング帽を目深に被り、鋼鉄の躰にトレンチコートを纏ったロボット刑事Kと「特捜班」を組むことになる。最愛の妻を交通事故で亡くしてから、機械嫌いになった芝刑事はKをマネキン人形、バケモノ、鉄クズ野郎、ゼンマイ仕掛けと呼ぶ。多摩川で起きた殺人事件を瞬時に解決したKを伴って帰宅するものの、芝刑事はKを家に招き入れずクルマ(空飛ぶスーパーカー!)の中で待機させる。多摩川で逮捕された恋人殺しの青年が留置所の中で死ぬ(ロボット猫による毒殺?)。静岡で起こった薬物中毒の少年ジュンが父親とコウノトリをライフル銃で射殺した事件は姉夫婦による計略だった。義兄が父親を殺し、ロボット犬がコウノトリを撃ち落とし、ジュンに「クスリ」を飲ませて殺人犯に仕立てたのだ。連続バラバラ殺人事件の捜査中に、黒ずくめ白マスクのロボットと闘ったKは負傷した左腕を修理してもらうためにマザー(おふくろさん)の許ヘ帰る。

「‥‥まもなくあなたがた警察の人間の手に負えないような怖しい事件が続発する可能性がございます。その時のために──その事件のためにロボットを1体お送りいたします‥‥」 「‥‥それは人間の思考も出来かつあらゆる科学捜査用のメカニズムを組み込んだアンドロイドですが‥‥」 「どうかわたくしを信じて ── ロボット刑事としてお使いいただきたいと存じます」 ‥‥という手紙を警視総監のところへ送った女性がマザーである。2人の警官や男女、銃砲店の主人などを次々と襲って惨殺した連続バラバラ殺人の犯人はロボットではなく、青山脳外科センターから逃げ出した患者、脳内に機械を埋め込んで精神をコントロールする生体実験手術に失敗して凶暴化した男だった。工事中のビル内に立て籠った犯人の口を封じようとする殺人ロボット‥‥。センターを訪れた男が院長たちを脅迫して、1千万円の報酬で殺人鬼の抹殺を請け負う。ロボットの殺し屋を斡旋する 「R・R・K・K」(ロボット・レンタル株式会社)の仕業だった。Kも「R・R・K・K」が警視庁に貸し出したロボットではないかと疑った芝刑事はKのクルマに同乗してマザーに会いに行く。

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ミュータント、サイボーグ、ロボット‥‥石森ワールドを彩るヒーロー&ヒロインたちは、いわゆるフツーの「人間」でないことが少なくない。ミュータント・サブや「幻魔大戦」の東丈は超能力者だったし、島村ジョーやミレーヌ・ホフマンはサイボーグ、人造人間キカイダ ーは文字通りのアンドロイドだった。人類の進化を暗示するミュータントは旧人類からバケモノと怖れられて排除される、あるいは敵対する存在として闘う(人類を抹殺するミュータントと、人類と共存しようとするミュータントの闘い)。サイボーグは戦闘用の「兵器」として人体改造された半機械人間である。制御回路(アシモフ・コード)が組み込まれたロボ ット刑事Kはキカイダーのようなアンドロイドだと思われていたが、詩を自作したり涙を流したり‥‥というように人間の感情を持つようになる。なぜなら、Kは電子頭脳の代わりに霧島姉弟の母親の脳細胞から増殖再生した「人造脳」が入っていたのだから。Kはキカイダーよりはハカイダー、ロボットよりもサイボーグに近い存在なのかもしれない。

キカイダーは光明寺博士が組み込んだ良心回路(ジェミニィ)が不完全で、変身後も左右非対称のアンバランスな姿になっている。しかし、ハカイダーに服従回路(イエッサー)を入れられたことで、善と悪が混在する、より人間に近い存在になってしまったのは皮肉なことだった。「正義」のためならば平気で兄弟たちも破壊する、目的のためならば手段を選ばない非情な心の持ち主‥‥キカイダー(ジロー)は『イナズマン』の中のエピソード「ギターを持った少年」(1974)として再登場する。ミュータントの抹殺を命じられたジローは風田サブロウと闘うが、変身したイナズマンに服従回路を焼き切られる。Kは神之孫島での最後の決戦で宣言する ── 今まで人間に近づこうと思って、機械らしい戦い方はしたくなかった。人間は機械より遙かに優れた部分を持っているけれど、弱い部分や悪い部分も沢山あることが分かった。人間として生きることを止めて、機械らしく生きることに決めた。人間の持つ「感情」と戦うために、その「精神」が生み出す「悪」と戦うために‥‥と。

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芝刑事の後輩で、娘・奈美の恋人でもあるらしい新条強が兄と担当している予告連続殺人事件‥‥大里参三の許へ1週間に1人ずつ家族を殺してやるという殺人予告状が届く。母親とく、妻の波江の2人が密室内で絞殺されてしまう。大里氏に恨みを持つ第1容疑者・佐々木啓吾 ── 会社を乗っ取られて一家心中を図ったものの、自分だけが生き残ったショックで頭がイカれてしまった ── のアパートから殺人依頼受諾の手紙(R・R・K・K バドー)が発見される。佐々木犯人説に疑惑を抱くKは佐々木に化けた密室殺人用ロボットによる犯行だと見破り、大里参三本人こそが予告連続殺人事件の首謀者だと推理するが、その直後に1人娘の参子が大里参三に化けたロボットに絞殺されてしまう。「R・R・K・K」 に殺人依頼したのは、やはり佐々木啓吾だった!‥‥ロボットKの機能を逆手に取った巧妙な犯罪。3人目の犠牲者は自分の責任ではないかと悔悟したKは意気消沈して落ち込む。

沖合いで爆発沈没した大型ヨット「ポセイドン号」の船主・松崎洋一郎は瀕死状態で海辺へ辿り着くが、目撃者の地元の漁師と共に潜水夫型ロボットに射殺される。生き残った少年に「金三角」 「ピタゴラス」 という謎の言葉を残して‥‥。殺人ロボットに撃たれて負傷した芝刑事。Kはマザーに救けを求める。巨大ロボのマザー内部で治療を受けた芝刑事に、マザーは天才的なロボット学者だった父と母が残してくれた設計図通りにKを組み立てたこと、アシモフの3原則を組み込んだ「人間と同じ頭脳を備えたロボットの設計図しか残っていなかった」ことを告げる。刑事から私立探偵に転身した新条刑事の兄に調査を依頼して来た娘の父親・大瀬元吉(N区区会議員)が殺される。日銀の地下大金庫に隠匿されていた宝石や貴金属を戦後のドサクサに乗じて伊豆下田港南沖合い、天城山と観音山を底辺とする正三角形の頂点の海底に沈めた3人組の仲間たち(松崎洋一郎、大瀬元吉)の1人、アリバイ工作のため詐欺事件で服役中の松田が「R・R・K・K」のエージェントが現われて、2人の殺害と引き換えに金銀財宝の山分けを要求したことを告白する。

ある日、散歩に出かけたKは風に飛ばされた婦人用帽子を掴む。鉄柵を飛び越えて洋館の中庭に降り立ったKは結城香織という盲目の令嬢と知り会う。彼女の父親は「R・R・K・K」のジャッカルに依頼して、社明党の代議士・青田広三を脅迫して 「秘密文書」(自万党に壊滅的な打撃を与えるマル秘情報!)を奪おうとしていた。青田代議士の中学時代の友人である芝刑事と新条たちが屋敷を厳重警護する中で、長女の広子がジャッカルに殺される。結城邸の庭でのKとジャッカルの闘い‥‥ジャッカルの首を持ち帰ったKに芝刑事は、マザーのところへ連れて行けと命じる。なぜなら「R・R・K・K」のボスがマザーの弟だったから。姉・玲子は告白する。弟・竜治が世間や人間を憎悪するようになったのは、父と母の死は軍国主義の拷問のためで、戦争用ロボットを造ることを拒否し、非国民と罵られて死んだこと、弟の悪戯による彼女の顔の火傷を軍部の拷問の痕だと偽ったこと‥‥。霧島竜治は芝刑事の2人の娘、奈美と由美を拉致〜人質に捕って、ロボットKを神之孫島へ誘き出す。

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人気TV女優の花戸竜子を殺害してマンションの窓から逆さ吊りにし、人民党代議士秘書をクルマごと崖から突き落とし、貨物列車を転覆させ、三形KK電子研究所を爆破したスカルマンとガロ(変身自在の人造生物)は悪のダーク・ヒーローである。神楽竜生(18歳)の真の目的は父と母を殺し、自分の命まで狙う日本政財界の大物黒幕の正体を暴くことだった。ところが、15年前に父母を殺害した千里虎月は意外にも竜生の祖父だった。超天才、ミュータント、新人類とでも言うべき我が子(モンスター)の身の毛もよだつ研究実験を怖れた祖父は孫娘の麻耶が生まれた時に2人を殺す。石森キャラたちは「悪しき血縁」で結ばれている。「スカルマン」 の竜生と麻耶(兄妹)、「ロボット刑事」 の霧島玲子と竜治(姉弟)、「イナズマン」 の超能力老人サラーとバンバ(兄弟)、「009ノ1」 のミレーヌとポール(姉弟)‥‥。この2重螺旋は「幻魔大戦」の三千代と丈(姉弟)まで遡れるだろうか。アンビヴァレントな感情で結ばれた兄弟姉妹たちの繋がりは血腥い。

石森キャラの美少女たちはミステリアスな存在として主人公(少年たち)の前に現われるけれど、お互いに打ち解けて親密な関係になると同時に身内化して、その魅力が失われてしまう。フランソワ・アルヌールは島村ジョーの恋人というよりもイワンの母親代わりという役どころだし、Kが芝刑事の娘・奈美に重ねたのはマザーの面影だった。Kが憧れる、もう1人の女性、結城香織(霧島竜治の娘!)は盲目の娘だったが、UFOや魔物たちの侵略と闘うオカルティックSF『ブルーゾーン』(1968)にも広小路リナという神秘的な盲目少女が登場していることは余り知られていない。二子神ジュンは少女の憑きものを落とすことでリナを救う。しかし、目が見えるようになった可愛らしい美少女から妖しい魅力が薄れて、その存在感も稀薄化したような気がした読者もいたのではないか。「暗黒魔団の章」に登場するロミイは女アンドロイドならではの冷たいオーラを放っていたけれど‥‥。

変身しないヒーローKの「科学事件ドラマ」は地味でダークな色調に彩られているが、人間とロボットの心理描写、特に奈美と由美姉妹とKの関係は少女マンガにも劣らない細やかな心理の襞に覆われている。Kの奈美に対する憧れ、奈美のKへの怖れと憐れみ、由美のKへの興味‥‥。作者の直観的で斬新なコマ割りも『ロボット刑事』(1973)にアクセントを与えている。黒地に雪と女性死体が交互に描かれた縦割りコマを横断するスーパーカーの見開きページから殺人現場の俯瞰(見開き1コマ)、警視庁の上空を舞う鳥から1羽のコウノトリ〜ライフル銃を撃つ少年と死んだコウノトリ〜射殺される父親とコウノトリのカットバック、高架線下のKと殺人ロボット(見開き)から擦れ違う電車を真上から描いた見開きページへの垂直移動など‥‥場面転換、イメージ連鎖、視点移動の鮮やかさが際立つ。視覚・感覚的なコマ割りはスムースに流れていて、映画やヴィデオ映像のように止まることがない。

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  • 石ノ森章太郎萬画大全集版「ロボット刑事」(全3巻)をテクストに使っています

  • 「人造人間キカイダー」の作画が石森章太郎ではなく石森プロ作品なのは残念!‥‥「ギターを持った少年」のOVAが良く出来ていましたね^^

  • 石森先生のコマ割りに関しては「参考・石森章太郎のコマ構成」(半魚文庫)で解説されています
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ロボット刑事 1 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 7-7

ロボット刑事 1 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 7-7

  • 著者:石森 章太郎
  • 出版社:角川書店
  • 発売日:2007/08/31
  • メディア:コミック
  • 目次:ロボット刑事 / イラストコレクション


ロボット刑事 2 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 8-7

ロボット刑事 2 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 8-7

  • 著者:石森 章太郎
  • 出版社:角川書店
  • 発売日:2007/11/30
  • メディア:コミック
  • 目次:ロボット刑事


ロボット刑事 3 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 8-8

ロボット刑事 3 ── 石ノ森章太郎萬画大全集 8-8

  • 著者:石森 章太郎
  • 出版社:角川書店
  • 発売日:2007/11/30
  • メディア:コミック
  • 目次:ロボット刑事

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