江美子ストーリー [c o m i c]
筒井 康隆 「江美子ストーリーの幸福観」
かつて少年マンガの読者が男子だったように、少女マンガの読者も女子を想定していた。ところが当時女性の描き手は少なく、少女読者の需要に少女マンガの供給が追い着かない。そのため手塚治虫、石森章太郎、ちばてつや、赤塚不二夫、楳図かずお、横山光輝、松本零士など、多くの男性マンガ家が少女誌に「少女マンガ」描いていた。しかし、男性マンガ家に少女たちの繊細で複雑な心理が分かるはずもなく、女性マンガ家が現われると一溜まりもなかったという。彼女たちの強みは少女マンガだけでなく、少年マンガにも精通していたことだった。もちろん男性マンガ家が描いた「少女マンガ」が二級品というわけではなく、「リボンの騎士」「魔法使いサリー」「ひみつのアッコちゃん」「さるとびエッちゃん」‥‥アニメ化された作品も少なくない。男性マンガ家が描いているので、男子にも抵抗なく読める(視れる)という利点もあったのかもしれない。「江美子STORY」(少女クラブ 1962)は石森章太郎が描いた「少女マンガ」である。
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今から18年前、経営している会社が不景気になった時、信奉していた易者に双子姉妹が原因だと告げられて、社長の祖父は2人を引き離した。山田ミチという若い女中に由美子を預けた。数年後に祖父が病死したため、両親が由美子を屋敷に連れ戻そうとしたけれど、山田ミチが幼い娘と共に行方不明になってしまったという。三度屋敷の階段から転げ落ちて意識を失った山田とも子。江美子は由美子が妹が白血病(父親が広島で被曝していた)で半年の命だと医師に話すのを聞く。病院に搬送された妹・とも子に、江美子は病室で大好きな本「シンデレラ」を読み聞かせる。そして江美子は生きているうちに妹の願いを叶えることを思いつく。とも子にお姫様のドレスを着せ、カボチャの馬車に乗せて、「魔法の国」へ連れ出すのだった。まるでディズニーランドのシンデレラ城へ遊びに行くみたいに。「それから4カ月後、とも子は木の葉の散る秋深い夕暮れに、その短い一生を閉じた‥‥」。
妻子ある男性に騙されていた由美子、命を狙われた父、絶対安静の母、不良連中との喧嘩で傷だらけの兄、身寄りが1人もいない爺や、オーディションを受けて才能のなさを痛感した瑠美子。誰もが悲しんだり苦しんだりしている。《江美子はいつのまにかうとうとした。そしてゆめを見た。おとなになったときのゆめだ。優しいハンサムな男のひとが目のまえにいた。江美子は、そのひとをすきになった。でも、ほんとうにすきになっていいのかしら? 信用していいのかしら‥‥? でも、やがて江美子は結婚する。ところが! ある日、とつぜん、だんなさまは事故でしんでしまった。そして、江美子はおもい病気に‥‥「ああ、むねが苦しい!」 江美子はとしをとってひとりぼっち‥‥たったひとりぼっちで、やがて死‥‥死ぬ日がやってくる!》。最終ページのラスト・カット「しあわせとは‥‥? 不幸にであったとき、それにたちむかい、のりこえるだけの心のつよさをもっているひとだけがつかめるものである」という地の文章は大人になった江美子の独白?‥‥それとも作者のナレーションなのか。
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- 「石ノ森章太郎萬画大全集」(角川書店 2008)をテクストに使いました
- 「江美子ストーリーの幸福観」は「石森章太郎選集11」(虫プロ 1969)の解説です
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- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2008/02/29
- メディア:コミック
- 収録作品:江美子STORY / 日活小僧 / いつでも夢を / 歌いとばそうヨ! / めでたさも中ぐらいなり‥‥サユリの春 / 学園広場の仲間たち / 神さま あたいは歌手になりたいの / 神さま あたいはテレビタレントになりたいの / イラストコレクション
- 著者:筒井 康隆
- 出版社:新潮社
- 発売日:1983/11/25
- メディア:単行本
- 目次:条件反射 / ナルシシズム / フラストレーション / 優越感 / サディズム / エディプス・コンプレックス / 催眠暗示 / ゲゼルシャフト / ゲマインシャフト / 原始共産制 / 議会制 / 民主主義 / マス・コミュニケーション / 近代都市 / 未来都市 / 母子像 / 穴 / 混同夢 / 秘密兵器 / 血みどろウサギ / 笑うな / くさり / 革命のふたつの夜 / 国境線は遠かった / ...
タグ:comic ishinomori
2016-05-16 00:21
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