SSブログ

江美子ストーリー [c o m i c]



  • 「江美子」はその点、矛盾なく、最初から金持ち娘と設定されている。そして、「江美子」は、金を派手に使って、人間たちの不幸を救おうとする。そして、金で救えない不幸もあると知るわけである。死、病気、失恋といった不幸は、金で救えないことを知るわけである。/「第一話・いもうと」「第二話・おにいちゃんの花よめさん」では、不幸な人間は江美子とは血のつながりのない他人であり、彼女はこれを救おうとする。その救いかたが、一見、自分より身分の下の人間を救おうとしているように見えて、あまりいい気持ちがしないのは、江美子が金持ちの娘であり、救おうとする人間が貧しく、身分の低い女中の娘だったり、田舎娘だったりするからである。/ これはある一面からすれば、当然まことに現実的な話である。金持ちが貧乏人に施しをするのは、不思議でもなんでもない。読者がおどろくのは、ただスケールの大きさにおどろくだけである。しかし、この施しという点でカチンとくる読者もいるだろうことは想像できる。
    筒井 康隆 「江美子ストーリーの幸福観」


  • かつて少年マンガの読者が男子だったように、少女マンガの読者も女子を想定していた。ところが当時女性の描き手は少なく、少女読者の需要に少女マンガの供給が追い着かない。そのため手塚治虫、石森章太郎、ちばてつや、赤塚不二夫、楳図かずお、横山光輝、松本零士など、多くの男性マンガ家が少女誌に「少女マンガ」描いていた。しかし、男性マンガ家に少女たちの繊細で複雑な心理が分かるはずもなく、女性マンガ家が現われると一溜まりもなかったという。彼女たちの強みは少女マンガだけでなく、少年マンガにも精通していたことだった。もちろん男性マンガ家が描いた「少女マンガ」が二級品というわけではなく、「リボンの騎士」「魔法使いサリー」「ひみつのアッコちゃん」「さるとびエッちゃん」‥‥アニメ化された作品も少なくない。男性マンガ家が描いているので、男子にも抵抗なく読める(視れる)という利点もあったのかもしれない。「江美子STORY」(少女クラブ 1962)は石森章太郎が描いた「少女マンガ」である。

                        *

  • 「第一話 いもうと」
  • 横断歩道を駆け抜けて級友と下校する少女・山田とも子(小3)は突然立ち眩みを起こす。何事もなかったように流行歌を口ずさみながら家路に着く途中、姉の由美子に出合う。見知らぬ男性と腕を組んで立ち去る姉を見咎めた少女は全速力で走るが、再び眩暈に襲われて倒れてしまう。たまたま通りがかった若い女性に助けられた少女は「わたしをおいていかないで‥‥」と泣いて訴える。とも子は由美子にそっくりな紀乃宮瑠美子を姉だと勘違いしていたのだ。瑠美子は実家の妹・江美子に電話して、自分の誕生パーティに遅れると告げる。とも子に着き沿って少女のアパートに帰る瑠美子。帰宅したとも子も姉・由美子の勤めるバー「カモシカ」に電話する。瓜二つの姉2人に挟まれて瑠美子の家を訪れた少女。江美子と招待客たちが驚いて目を瞠る。爺やの水野孫左衛門が慌てて主人に報告する。瑠美子と由美子は双子姉妹だった。

    今から18年前、経営している会社が不景気になった時、信奉していた易者に双子姉妹が原因だと告げられて、社長の祖父は2人を引き離した。山田ミチという若い女中に由美子を預けた。数年後に祖父が病死したため、両親が由美子を屋敷に連れ戻そうとしたけれど、山田ミチが幼い娘と共に行方不明になってしまったという。三度屋敷の階段から転げ落ちて意識を失った山田とも子。江美子は由美子が妹が白血病(父親が広島で被曝していた)で半年の命だと医師に話すのを聞く。病院に搬送された妹・とも子に、江美子は病室で大好きな本「シンデレラ」を読み聞かせる。そして江美子は生きているうちに妹の願いを叶えることを思いつく。とも子にお姫様のドレスを着せ、カボチャの馬車に乗せて、「魔法の国」へ連れ出すのだった。まるでディズニーランドのシンデレラ城へ遊びに行くみたいに。「それから4カ月後、とも子は木の葉の散る秋深い夕暮れに、その短い一生を閉じた‥‥」。

  • 「第二話 おにいちゃんの花よめさん」
  • 江美子と双子姉妹の由美子と瑠美子は有楽町で買い物した後、日比谷公園を散歩する。3人が噴水の傍のベンチに腰かけて談笑していると、隣のベンチで1人の女性が手紙を読みながら泣いていた。喫茶店で三姉妹が花田菊恵の悩みごとの相談に乗る。今夜上京する田舎の祖父母からの手紙。孫娘の菊恵は東京で大金持ちのハンサムな青年と結婚して「大きなお城」のような大邸宅に住んでいると嘘を吐いていた。彼女たちは江美子のアイディアでひと芝居打つことにする。自宅を「大きなお城」に見立て、遊び歩いて帰って来ない夫役を兄の靖彦に、赤ん坊を運転手夫妻の子供に成り済まさせる。祖父母が屋敷に着いて一泊、翌日の東京見物。その夜、菊恵の手引きで不良夫が屋敷内に侵入する。爺やに見つかった強盗と兄や運転手の乱闘‥‥映画やTVドラマで何度も見たようなストーリなので、その結末も読者の予想通りである。

  • 「第三話 しあわせとは‥‥?」
  • 東京武蔵野の外れに建つ大屋敷。父母、2人の姉、兄、私の6人家族。S学園初等科5年B組の紀乃宮江美子は学校の作文の宿題「わたしの家族」を勉強机に向かって書いている。父親の靖次郎は3つの会社を経営する社長。母親の晴美は外国の探偵小説を読むのが趣味。中3の兄・靖彦は来年高校進学を控えている。双子姉妹の由美子と瑠美子は同じ出版社に勤めている。爺やの水野孫左衛門、2人の運転手、5人のお手伝いさん。江美子は「しあわせ」について思いを巡らす。父の会社の機密を盗むスパイ、由美子の悩みごと、TV局でスカウトされた瑠美子。不良学生との喧嘩した兄。可愛い飼い犬たちと散歩に出た江美子は敷地内に小屋を建てて不法に住んでいる3人家族に出遭う(娘の君子は言葉が話せない)。由美子の自殺未遂、父の自動車事故、母の心臓発作‥‥次々と身内に不幸が続き、江美子は「しあわせ」について深く考えることになる。

    妻子ある男性に騙されていた由美子、命を狙われた父、絶対安静の母、不良連中との喧嘩で傷だらけの兄、身寄りが1人もいない爺や、オーディションを受けて才能のなさを痛感した瑠美子。誰もが悲しんだり苦しんだりしている。《江美子はいつのまにかうとうとした。そしてゆめを見た。おとなになったときのゆめだ。優しいハンサムな男のひとが目のまえにいた。江美子は、そのひとをすきになった。でも、ほんとうにすきになっていいのかしら? 信用していいのかしら‥‥? でも、やがて江美子は結婚する。ところが! ある日、とつぜん、だんなさまは事故でしんでしまった。そして、江美子はおもい病気に‥‥「ああ、むねが苦しい!」 江美子はとしをとってひとりぼっち‥‥たったひとりぼっちで、やがて死‥‥死ぬ日がやってくる!》。最終ページのラスト・カット「しあわせとは‥‥? 不幸にであったとき、それにたちむかい、のりこえるだけの心のつよさをもっているひとだけがつかめるものである」という地の文章は大人になった江美子の独白?‥‥それとも作者のナレーションなのか。

                        *
                        *


    江美子STORY ── 石ノ森章太郎萬画大全集 9-35

    江美子STORY ── 石ノ森章太郎萬画大全集 9-35

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2008/02/29
    • メディア:コミック
    • 収録作品:江美子STORY / 日活小僧 / いつでも夢を / 歌いとばそうヨ! / めでたさも中ぐらいなり‥‥サユリの春 / 学園広場の仲間たち / 神さま あたいは歌手になりたいの / 神さま あたいはテレビタレントになりたいの / イラストコレクション


    江美子ストーリー(石森章太郎選集11)

    江美子ストーリー(石森章太郎選集11)

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:虫プロ商事株式会社
    • 発売日:1969/08/15
    • メディア:コミック
    • 目次:江美子ストーリー / きりとばらとほしと / 筒井 康隆「江美子ストーリーの幸福観」


    筒井康隆全集 8 心狸学・社怪学・国境線は遠かった

    筒井康隆全集 8 心狸学・社怪学・国境線は遠かった

    • 著者:筒井 康隆
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:1983/11/25
    • メディア:単行本
    • 目次:条件反射 / ナルシシズム / フラストレーション / 優越感 / サディズム / エディプス・コンプレックス / 催眠暗示 / ゲゼルシャフト / ゲマインシャフト / 原始共産制 / 議会制 / 民主主義 / マス・コミュニケーション / 近代都市 / 未来都市 / 母子像 / 穴 / 混同夢 / 秘密兵器 / 血みどろウサギ / 笑うな / くさり / 革命のふたつの夜 / 国境線は遠かった / ...

    タグ:comic ishinomori
    コメント(0)  トラックバック(0) 

    コメント 0

    コメントを書く

    お名前:
    URL:
    コメント:
    画像認証:
    下の画像に表示されている文字を入力してください。

    トラックバック 0