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マリッペと6ベエ [c o m i c]



  • 石森章太郎氏のまんが自画像も、私の好きなものの1つである。それは丸いというより横幅があり、チンクシャクシャと顔をしかめ、思いきり皺を寄せている。私はまだ石森氏にお目にかかったことがないが、その写真を見ると(1、2枚の写真で判断しては申訳ないが)、けっこう坊ちゃんめいた童顔のようである。あのしかめ面は、やはり氏の一種の照れの現われ、べつの見方をすれば、強さに通じる神経の繊細さ、秘められた土性骨と詩情を物語るものではなかろうか。石森氏は、もともと絵のうまさにかけては抜群であった。しかも、異なったタッチのものが描ける。「幽霊船」のストーリーは特別におもしろかったし、「テレビ小僧」の冒険的なギャグはいつまでも私の記憶に残るだろう。そして最近、「佐武と一捕物控」「ジュン」で、氏は小学館漫画賞を受けた。先の講談社のものと連続受賞で、油ものりきっているし、なにより新境地開拓の意欲がはっきりと目につく。「気なるやつら」は今回はじめて見たが、広範囲の読者を満足させるに充分なものがある。
    北 杜夫 「しかめ面の旗手」


  • 「気なるやつら」(1965-68)は月刊平凡に連載された青春ラヴ・コメディ。読者の年齢層は少年・少女マンガよりは上で、青年劇画よりも低い(60年代後半に「平凡」を読んでいたのは十代の女性だろうか?)。いわゆるマンガ誌ではないので掲載ページ数(4~6頁)も短く、ギャグ・マンガの要素も強い。登場人物は高校生のマリッペ(山田マリ子)とダブル6 (六村6兵衛)、カミソリ(大文字清)、ゴリラ(佐川ミヤ)、リス(林カン太郎)の5人。主人公2人のマリッペと6ベエの家が隣同士で屋根伝いに2階の窓から互いに行き来出来るという設定は後の「イナズマン」(1973-74)で踏襲されることになる。扉絵はなく、1コマ目がマリッペの可愛いファッション・イラストで飾られている(連載時の題名「気なるやつら」は単行本化の際に「‥‥の巻」というサブタイトルに差し替えられた)。連載を重ねるに連れて、ヒロインが次第に色っぽく魅力的になって行くのだ。

                        *

    六村家を訪れたカミソリ(大文字清)は2階の部屋で勉強机に向かって居眠りをしていた6ベエを起こし、リス(林カン太郎)が警察に連行されたと告げる。6ベエがメッセージを書いた野球ボールを窓から隣家へ投げると、マリッペ(山田マリ子)とゴリラ(佐川ミヤ)が屋根伝いに6ベエの部屋に入って来る。「昨夜の夕方、横町の酒屋の小僧が集金して店へ帰る途中、高校生らしき覆面の3人組に襲われて金を盗られた。その現場にリスの定期入れが落ちていた。悪いことにリスには、その時間のアリバイがない」とカミソリが3人に話す。リスが取り調べられている警察署へ行くが、刑事に門前払いされてしまう。4人は真犯人を捜し出すことにする。カミソリが目星をつけたのは金持ちの佐々家。父親と将棋を指していたとアリバイを主張する息子・佐々の嘘がバレ、逆ギレして殴りかかる3人を6ベエが倒す「おかしな5人登場」。

    男たちに言い寄られていた17歳の女の子を救けた6ベエが逆に美人局の罠に嵌まる「キズにキス」。マリッペにヴァイオリンを教えている先生が帰り道で怪しい男と鉢合わせして2つのヴァイオリン・ケース(男のケースには狙撃銃が隠されていた)を取り違える「バイオリン狂騒曲」。ヨーロッパ一周旅行の懸賞に当たった6ベエとアメリカ・ロケ映画の主役にスカウトされたマリッペの2人が誤解に気づく「大あたり」。ハイキングに行ったマリッペと6ベエが牛に襲われ、雨に降られて洞窟に避難する「ハイキングも楽じゃない」。マリッペの後を追って教会へ行った6ベエが女性に騙される「雨の日曜日」。ボーリング場でストライクを連発して6ベエと喧嘩したマリッペが3人組の売上金泥棒に拉致されてしまう「ボーリング」。山へキャンプに行った5人‥‥マリッペとゴリラが散歩中に女性の刺殺体を発見する「キャンプ場殺人事件」。

    レーシング・カー・ゲームを観戦していた6ベエを逆ナンパして来た少女を売春組織の男たちから救い出す「ネオンの街」。マリッペと6ベエが郵便受けの中に現金を入れて行く黒サングラスの女性に拉致され、ヘリコプターで牧場へ連れて行かれる「サンザンクロース年の暮れ」(麻薬売買の女ボスの「『COM』でも読んだら?」という科白は最初の単行本が虫コミックスから出たことの名残りでしょう)。スキー旅行へ行ったマリッペと6ベエの2人が別々の男女に執拗に求愛される「スキ・スキ・スキー」。春になって流行のミニスカ(膝上15cm)を穿いたマリッペが深夜、ドラキュラ男爵に部屋を覗かれ、オオカミ男に下着(パンティ)を盗まれる「ミニスカートとドラキュラーと‥‥」。森へピクニックに来た5人が雨に降られて、古びた洋館で雨宿りしようとするが、館主に追い返されてしまう。屋敷内の美女が番犬に手紙を託して、6ベエたちに救いを求める「湖畔にて」。海水浴に来た6ベエたちが海中で人魚や半魚人に襲われる「人魚の話」。

    切手を買いに来たマリッペに、店主が間違えてマイクロフィルムの仕込まれた切手を手渡したことから、敵対する男女のスパイ・トリオに狙われてしまう「うめぼしの味」(最終コマでリンゴ・スターが特別出演)。亀羅出羽夫の新年パーティに出かけたマリッペがヌード写真を撮られそうになる「ヒツジとオオカミのお正月」。マリッペが鹿児島から上京して来た遠縁の西郷大盛に求婚される「バンカラでアイラブユー」。マリッペと6ベエが2階の窓辺で自作のフォーク・ソングをギターで弾き語る「フォークソングで春や春」。毎朝6ベエが通学電車で乗り合わせる女の子に一目惚れする「ステキなあの子」。相合い傘のマリッペと6ベエが小包を抱えた不審男と擦れ違う「雨の中のふたり」‥‥吹き出しネームのない縦長のコマ割り構成は「ジュン」(1967-71)を想わせる。カメラを手にしたマリッペが偶然マンションから突き落とされた女性を撮ってしまう「シャッター・ピンチ」。マリッペとホタル狩りに行った6ベエが若い娘(ホタルの精?)と出合う「ホタル」。

    窓辺から花火見物していた6ベエが酔っ払ってSFの夢を見る「スペース・オペラ!?」。湖畔へキャンプに来た5人がキノコを食べて恐竜や水の精、宇宙人の幻覚を見る「でたあ!」。運動会の借り物競走に出場したマリッペと6ベエが本物のピストル5挺を借りて来る「町内大運動会」。6ベエの絵のモデルになったマリッペがヒッピー画家にボディ・ペインティングされそうになる「美術の秋」。6ベエとマリッペの2人が互いに用意したXマス・プレゼントのための現金をスリに奪われてしまう「サンタクロースへのプレゼント」。新年に着るつもりで出しておいたマリッペの晴れ着の片袖が逃げ出したサルに裂かれてしまう「サル年の正月に見るとおもしろいまんが」。公園で老紳士から媚薬を飲まされた6ベエが発情してマリッペに突進する「春きたる!」。6ベエとマリッペが高校生や大学生新興宗教の悪事を暴く「宇宙万能教」。ハプニングを実行する6ベエがマリッペの返り討ちに遭う「ハプニングでいこう」。

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    007シリーズを意識した「サスペンス・マンガ」としてスタートした高校生5人の物語はマリッペと6ベエのラヴ・コメディに変化して行く。「なンでアル、アリバイでアル」「およびでないネ」「七人の刑事」「特別機動捜査隊」「モーれつにハッスル」「愛しちゃったのヨ」「びっくりしたなモウ」「きみこそわが命」‥‥連載当時のギャグやTVドラマ、流行歌、流行語などが鏤められている。最終話の「連想ゲーム」は6ベエとマリッペが連想ゲームを始める。「雑誌『平凡』」「気ンなるやつら」「マリッペ」「6ベエ」「007」「ボンドガール」「ボイン・ボイン」「ボーイング・ボーイング」「外国旅行」「英語」「受験勉強」「徹夜」「ウサギ」「耳」「耳なし芳一」「怪談」「ハシゴ段」「帰ってきたヨッパライ」「天国」「雲」「白」「黒」「黒人問題」「アフリカ」「ライオン」「M・G・M」「ハリウッド」「オードリー・ヘプバーン」「離婚」「結婚」「マリッペ」「6ベエ」。マリッペと6ベエはエッちゃんの同級生として「おかしなあの子」シリーズに再登場します。

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    • 「石ノ森章太郎萬画大全集」(角川書店 2006)をテクストに使いました

    • 虫コミックス版は「ハプニングでいこう」「連想ゲーム」の2篇が未収録だった

    • 「しかめ面の旗手」は『気ンなるやつら』(虫コミック 1968)の解説です

    • 「COMICS 3-2 気ンなるやつら」(Easy & Mid's Area)を参照しました^^
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    気ンなるやつら ── 石ノ森章太郎萬画大全集 1-32

    なるやつら ── 石ノ森章太郎萬画大全集 1-32

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2006/02/22
    • メディア:コミック
    • 収録作品:気ンなるやつら / あたしの6ベエ / 扉絵コレクション


    気ンなるやつら(虫コミックス)

    なるやつら(虫コミックス)

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:虫プロ商事
    • 発売日: 1968/04/30
    • メディア:コミック
    • 目次:気ンなるやつら / 尾崎 秀樹「多面な青春像をとらえる試み」/ 北 杜夫「しかめ面の旗手」


    気ンなるやつら

    なるやつら(双葉文庫名作シリーズ)

    • 著者:石森 章太郎
    • 出版社:双葉社
    • 発売日:2001/10/18
    • メディア:文庫

    タグ:comic ishinomori
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