変態イナズマン [c o m i c]
石森 章太郎 「イナズマン」
「イナズマン」(週刊少年サンデー 1973-74)は仮面ライダーと同系列の変身ヒーローものだが、主人公の中学生・風田サブロウはサイボーグではなく、ミュータント(超能力者)である。その変身能力によって、蛹から蝶へと羽化する。少女リオンがサブロウを窮地に追いやって超能力を覚醒させる導入部は「幻魔大戦」(1967)や「少年同盟」(1967)を想わせる。青年イライザが風田三郎に過酷な試練を課して同志に迎える後者は主人公の名前や実家(鮮魚店)、同級生のミヨッペ、少年同盟のイライザなど‥‥設定や登場キャラも重複している。「イナズマン」との相違は主人公の少年(小学生)が超能力者ではないこと、イライザがアンドロイド(人間型ロボット)であること。サブロウとミヨッペの家が隣同士で、屋根伝いに2階の窓から出入り自由という設定が「気ンなるやつら」(1965-68)と同じだからなのか、お色気カット(下着姿やヌード)も満載なのだ。
一番早く下校する風田サブロウの後を追うミヨッペ。不良グループ3人組に絡まれるが、サブロウは一撃でボスを倒す。2人と擦れ違った異国の少女がテレパシーでサブロウに語りかける。「サ・ブ・ロ・ウ・タ・マ・ゴ‥‥」「タ・マ・ゴ‥‥ミュー・タ・ン・ト‥‥」。空き地に誘き出た少女は化け猫に変身し、「サナギカラチョウニ‥‥チョウニナル‥‥」という暗示をかけて土管をサブロウ目がけて転がす。サナギに変態して、稲妻に撃たれてチョウに羽化するサブロウ。少女リオンがサブロウをミュータントとして目覚まさせ、超能力を引き出すための荒療法だった。ミヨッペと妹のリュウ子が庭で花火をしていると、突然花火が燃え出して炎の怪人が現われる。リオンのテレパシーを受けて公園裏の神社の境内に行ったサブロウと八五郎(ミヨッペの飼い犬)は炎を操る同志イライザと対決する。サナギマンからイナズマンに変態するサブロウ。
真の敵は旧人類を皆殺しにしようと画策している。敵のボス、バンバは旧人類絶滅作戦(日本列島沿岸に工場を持つ企業の社長を催眠操作して有害物質を流させる)を展開して「新人類帝国」を建設しようとしているとリオンがサブロウに語る。リオンとイライザの2人は世界中の突然異変人(ミュータント)を集めているバンバに対抗する「少年同盟」のメンバーだった。女教師の小巻先生が教室でサブロウに催眠術をかけて操ろうとする。飛行艇に乗って「少年同盟」の基地へ向かったリオン、イライザ、サブロウ。秘密基地に着いたサブロウは落石や吸血コウモリの大群に襲われるが、またしても同志キムによる超能力を試すためのテストだった。盟主サラーと対面した瞬間に後催眠が発動して、サブロウは老人を殺そうとする。サラーの発した火炎で黒焦げになったサブロウはサナギマンに変態して仮死状態になり、イナズマンとして真に覚醒する。
サブロウは小巻先生を監視し、一瞬の心のスキを見つけて中へ入り込む。邪悪な記憶を消して新しい善なる記憶を植え込もうとするが、彼女は地面の中へ消えてしまう。部屋の壁から現われた全裸の「小巻先生」がミヨッペを催眠操作して、サブロウの額にハサミを突き刺させる。イナズマンに変態したサブロウは屋根の上で小巻先生と対決して倒す。その夜、「小巻先生」の幽霊(?)が父親を操って就寝中のサブロウを襲う。小巻先生の下宿へ行く途中で、サブロウは警官に拳銃で撃たれてしまう。異変を感じたエスパー犬の八五郎が寺の縁の下に身を隠しているサナギマンを発見する。八五郎を気絶させた「小巻先生」が釣り鐘の中に隠れたサブロウをナイフで刺殺しようとして瞬間移動すると、本堂の屋根に身を隠していたイナズマンから体電が釣り鐘に放射されて黒焦げになる。サブロウは八五郎に自分の意識を移して、鐘の中に幻像を浮かべていたのだ。
小巻先生に化けた謎の超能力者との闘争でエネルギーを全て放出したサブロウは力尽きて気を失った。寺の墓地から墓石や卒塔婆が飛んで来て、墓場から小巻先生の腐乱死体が現われる。仏殿の扉が開いて飛び出した仏像がサブロウと八五郎を襲う。空中浮游した墓石に乗った坊主たちが卒塔婆を投げつける絶体絶命のピンチ!‥‥突然攻撃が止んだのは一心不乱に念仏を唱えていた(念力で墓石を浮游させながら幻像瞬間移動していた)坊主をリュウ子が殴り倒したからだった。屋根の上に舞う赤トンボの大群が「テラヘコイ」という文字を空中に描く。寺の釣り鐘の上で待ち構えていたのは住職の息子・揮大坊玲次郎だった。頭部に埋め込まれていた "超能力倍増波発信装置" が壊れて凡人と化した父親。人質に捕ったミヨッペをESP剣法で裸にすることで揮大坊はサブロウの超能力を封じようとする。しかし、ミヨッペを救出したサブロウとの闘いの最中に大木が倒れて来た。サブロウは瞬間移動で揮大坊の命を救う。
リーダーの御子神の家に集結した桜山高校の超能力少年たち。御子神(博士)、チカメネズミ、コング大王、揮大坊玲次郎の4人は秘策を練る。川原で百合丘高校のナンパ教師と逢引していた教え子を囮にしてサブロウを誘き出す。仲間が「精神防壁」を張ってサブロウの超能力を封じる。剣道5段の揮大坊が特別製竹刀(鉄棒が仕込まれている)を振るうが、コング大王の思考を読んで空手の技を借りたサブロウに倒される。サブロウが全裸にされた女子生徒の衣服に触れると突然大爆発が起こった。洋服に仕掛けられた時限爆弾を川へ念力で飛ばした謎の女性。仲間を見殺しにした御子神の非情さに反発した揮大坊はサブロウの味方に寝返る。下校の途中、サブロウとミヨッペの前に再び姿を現わした謎の女性。後を追うサブロウ。神社の賽銭箱の前で「あなたの母親よ‥‥!!」と名乗る女性は社の中へ姿を消す。揮大坊を見殺しにしようとした御子神の作戦が気に入らなかったコング大王もサブロウたちの味方につく。
サブロウは鮮魚店を営む「両親」から、自分が捨て子だった(家の中に捨てられていた)ことをテレパシーで知る。母親の父は動物と自由に話が出来た。父親には遺留品から行方不明者を発見する能力があり、警察の捜査に協力していた。母親には未来を予知する能力があったので、サブロウと敵味方となって死ぬことも分かっていた。しかし、サブロウが「帝国」の一員となって共に前人類を滅ぼせば自分の運命を変えられる‥‥。午前4時半、川原に呼び出されたサブロウと揮大坊、コング大王は「母親」に襲撃される。サブロウが倒し、母親が破壊した「母親」はロボットではなく、御子神が作って念力で動かしていた人形だった。首の骨を折られて死んだコング大王を母親が甦生させる。再び御子神に操られた人形が背後からサブロウに襲いかかる。躰に仕込まれていたダイナマイトが爆発し、サブロウを救った母親が犠牲になってしまう。母の遺体は塵となってサブロウと一心同体化する。サブロウは御子神を改心させて仲間にしようとするが、チカメネズミの躰の中に隠れた御子神は必死に抵抗する。仕方なくサブロウは超能力を使う頭脳の部分を破壊する。
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作者自身が「超能力」について解説するページ(4頁)を挿み、「イナズマン」は新展開となる。「次元トリップ少年」は空飛ぶ円盤に乗って異次元から父親を探しに来た子供トリップの物語。現人類に対しては超能力を使わずに "実力" で対処することにしたサブロウはテストの成績が落ちてしまう。下校時、心配するミヨッペのスカートを "実力" で捲ると、外国の子供が真似をした。夕暮れの空に出現したUFO‥‥その夜、ミヨッペの部屋に子供が現われる。彼女が拾ったイマージョン(立体写真を入れておくロケット)取りに来たのだ。サブロウがイマージョンを操作すると父親の映像が目の前に投影される。トリップが消えた窓からリオンが飛び込んで来た。UFOに襲撃されて飛行艇を爆破され、瞬間移動で脱出したという。上空にUFOが姿を現わし、屋根の上に現われた父親とサブロウ(イナズマン)が対決する。父親のドリップは「新人類帝国」に捕まり、頭脳に指令装置を埋め込まれていたのだ。
「狼はひとりぼっち」は狼男の血を継ぐ父子の物語。満月の夜、狼が女性を襲う夢を見た荒神牙男。翌日の朝刊には「若い女性の首なし死体 雑木林に血まみれ」という見出しの記事が載っていた。サブロウたちの通う中学に転校して来た牙男は校門前で生徒と喧嘩になる。目撃していたコング大王たちとも一触即発になるが、ミヨッペが仲裁する。その夜、ミヨッペを殺す夢を見た牙男は窓から忍び込んで、彼女を襲う。サブロウがミヨッペを救い、逃げた牙男を追う。自分に狼男の血が流れていると思い込んでいる牙男を説得していると、本物の狼男が現われてサブロウを噛み殺す。狼男の正体は牙男の父親、荒神鉄平だった。牙男に催眠術をかけて狼男の血に目醒めさせ、ミヨッペを襲わせてサブロウを誘き出したのも父親の計略‥‥サブロウを殺したのは、ある秘密結社からの指令だった。サナギマンからイナズマンに変態すると、牙男は狼男となって逆に父親を噛み殺す。
「ギターを持った少年」はジロー(キカイダー)がサブロウ(イナズマン)と対決する「人造人間キカイダー」(1972-74)の番外編。八五郎の背中に乗って散歩していたリュウ子は寺の境内でギターを弾く少年と出会う。リュウ子が風田鮮魚店に連れて来ると、少年は催眠ギターで揮大坊やコング大王たちを眠らせてしまう。少年は「おまえを殺しに来た」とサブロウに告げる。少年のギター・ヘッドが火を吹くと、サブロウはサナギマンからイナズマンへ変態‥‥「 "新人類" が現人類を滅ぼしていいはずがない!!」と改心させようとするが、「服従回路」 を埋め込まれたジローは人間の命令に背けない。イナズマンは「服従回路」を焼き切って、"感情" や "理性" に従って生きられるようにジローを解放する。「次元トリップ少年」 「狼はひとりぼっち」 「ギターを持った少年」 の3篇は「新人類帝国」に洗脳された刺客がサブロウを殺しに来るというパターンになっている。
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最終章の「超人戦記」は学園ドラマから時空を超えたアクション主体のストーリに転じ、今までの登場キャラも一新される(ミヨッペやリオンも登場しない)。洋上で海底火山を噴火させ、死火山を甦らせた「新人類帝国」の一味。街中で集団ストリーキングが発生する。現場から逃げた女性を追い駆けたサブロウは犬の群れに襲われて見失ってしまう。混血娘ルビイの属するアニマル・グループはJ・D・P(日本壊滅計画)ナンバー1の前に時限ダイナマイトを咥えた犬を操って、風田鮮魚店を爆破する。総統と合流したグループはJ・D・Pナンバー1を実行する。富士山頂火口底に集結した犬がダイナマイトを地中に埋め、ネズミが起爆装置の安全弁を外す。J・D・P開始の号砲だった。ルビイを発見したサブロウは鳥やネコに襲われながらも彼女のアパートを突き止め、両親を殺した仲間の居所を聞き出す。メンバーの1人、オサムに化けて集合場所へ行き、J・D・Pナンバー2を阻止する。
瞬間移動で消えた総統の反撃が始まる。超能力バリヤー・マシンが現われ、レーザー砲でメンバーを殺し、サブロウとルビイを攻撃する。2人は心を1つにして瞬間移動するが、バリヤー・マシンも執拗に追って来る。南海の無人島に瞬間移動し、イナズマンの「超電」でマシンを破壊したのも束の間、海上から巨大カニが現われ、火口から巨人化した総統が「超能力クローン」で襲いかかる。巨人との死闘でエネルギーを使い果たしたサブロウは干涸びた老人の姿で砂浜に横たわる。しかし、サナギマンからイナズマンに戻って生き返る。海から出現したE・S・Pバリヤー・マシン軍団から瞬間移動で逃げるサブロウたち。砂漠に逃れたルビイはマシン軍団に追い詰められるが、サラーが現われて壊滅させる。サラーによって美しい蝶に変態したルビイ。老人が去った後、砂竜(ドラゴン・マシン)がサブロウたちを急襲する。分裂したサイコ・バリヤー・リングに囲まれるイナズマンたち。ルビイが自ら犠牲となってバリヤー波の "網ホール" に破れ目を作り、イナズマンが瞬間移動で真空状態にしてドラゴン・マシンを爆発させた。
巨人ロボットを操縦して月面を徘徊する「新人類帝国」の領主バンバ(超能力を増幅する機械に接続されている)。オサムと再会したサブロウは額に念力バリヤー・ナイフを突き刺され、空飛ぶ円盤に乗せられて月の地下秘密基地へ送られる。バンバの操り人形に改造されてしまったサブロウは自らリモコン装置を主人に届ける。バンバはサブロウを救出に来た「少年同盟」たちをイナズマンに抹殺させようとする。しかし、消えた「少年同盟」が一瞬で再び現われる。彼らを元に戻したのはバンバの兄サラーだった。バンバはイナズマンにサラーを殺させようとするが、巨人ロボット内に侵入したサラーはイナズマンを解放し、弟バンバと心中(爆死)する。ドラゴン・マシンを破壊したイナズマンと「少年同盟」が月面から地球を見上げる最終カットは「幻魔大戦」のラスト・シーン(地球から髑髏シルエットの月を見上げる)と合わせ鏡になっている。
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- OVA『キカイダー』の「ギターを持った少年」は良く出来ていますね^^
- 「石ノ森章太郎萬画大全集」(角川書店 2006)をテクストに使いました
ishimorindex / ishinomolist 1 / 2 / 3 / comics 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16 / 17 / 18 / 19 / 20 / 21 / sknynx / 588
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2006/05/31
- メディア:コミック
- 目次:ナゾの少女・リオン / ぶきみな先生 / 壮烈な戦い / 不死身な敵・新人類 / あやうしサブロウ / 恐怖の墓地(前編)
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2006/08/31
- メディア:コミック
- 目次:恐怖の墓地(後編)/ 邪剣・ESP剣法 / 対決!!4対1 / 非情なめぐりあい / 母と子のきずな(前編)/ イラストコレクション
- 著者:石森 章太郎
- 出版社:角川書店
- 発売日:2006/11/30
- メディア:コミック
- 目次:母と子のきずな(後編)/ 次元少年トリップ / 狼はひとりぼっち / ギターを持った少年 / 超人戦記(プロローグ)/ 巻末資料
2015-08-16 00:30
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