セヴン・ページズ（7P）

──私がその “異変” を目撃したのは新婚旅行の途中であった。私と妻は抱き合って豪華客船の丸窓からその “神秘” を呆然と眺めていた。その後 “異変” を否応なしに思い出させられることになったのは、それから十カ月ほど過ぎた真夏のとある静かな海辺の小さな街でだった。そこは妻の郷里で妻は間もなくここで初めての子どもを産む予定になっていた。事件は私たちの到着した日に起った。この町の漁師の船が “海魔” に襲われて沈んだ、というのだ。しかもその巨大な “海魔” は刻々と、この海岸町に近づいている──戦闘態勢が直ちにしかれた。この、時ならぬ騒ぎのために妻は急に産気づき、私は慌しい町の中を、苦しむ妻を乗せて病院へ車を駆った。“海魔” が目覚め姿を現わした。戦いが始まった。妻は産室で苦しんでいた。私は──待っていた。‥‥そしてやがてすべてが終った‥‥「‥‥お気の毒です。流産でした」──その後で──海岸に打ち上げられた “海魔” を見て、私はあの “異変” が、“海魔” の正体が、何であったかを知った──。
石森 章太郎 「ジョン・ウィンダムに」

■ ７Ｐ（SFマガジン 1969-70）石森 章太郎

｢７Ｐ｣ はタイトルの通り、７ページのショート・ショート・コミック（16篇）。前髪で右目を隠した主人公は同時期に連載していた ｢章太郎のファンタジーワールド ジュン｣（COM 1967-69）を想わせる。スケッチブックを携えた青年マンガ家という設定もジュンと重なる。フキダシ（台詞）の少ないイメージの連鎖も「ジュン」に繋がる。異なるのは「７Ｐ」がSF作家たちへのオマージュやパロディになっているところ。海野十三、Ｈ・G・ウエルズ 、カレル・チャペック、ロバート・Ａ・ハインライン、星新一、アルフレッド・ベスター、レイ・ブラッドベリ、アーサー・Ｃ・クラーク、フレドリック・ブラウン、アイザック・アシモフ、小松左京、ジョン・ウィンダム、筒井康隆、ジュール・ヴェルヌ、バラード＆オールディス、ニッポンSF作家たちに捧げたショート・ショート。｢ジュン｣ にはルネ・マグリ ットへのオマージュ「INという音」もあった。｢７Ｐ｣（前半）はSF版「ジュン」なのかもしれません。

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蜻蛉模様の日傘を差す和装の女性。洋館でピアノを弾く彼女の姿を眺める青年。中年男が訪ねて来て逢い引きをする。黒く朽ちて蜘蛛の巣の張った洋館。青年が煙草に火を着けたマッチで女性を描いたスケッチ画を燃やすと、愛人を見送った彼女の右顔が焼け爛れる「海野十三に」。火星人の空飛ぶ円盤が来襲するが、ビキニ水着の美女の色香に迷った火星人が地球の外気に触れ、細菌に感染して自滅する‥‥というマンガを描いた青年の指から現われたペンダコが原稿を黒スミで真っ黒に汚す「Ｈ・G・ウエルズに」。青年と出会った１匹の山椒魚が歌を唄う。TVに出演した「歌う山椒魚」は一躍人気者になる。衆議院議員に立候補して代議士〜総理大臣になり、本音を吐くと核戦争が起こる「カレル・チャペックに」。雪の降る日、白ネコ（ムク）に導かれて鄙びた屋敷を訪れた青年が空腹で倒れていた博士にパンを与える。完成した砂時計型のタイムマシンに乗った博士とムクと青年が夏への扉を開けて、常夏の世界へ時間旅行する「ロバート・Ａ・ハインラインに」。

７つのショート・マンガ（１コマ）で構成された「星新一に」。海辺に現われた人魚と愛し合う夢（3DTV？）を見た青年が外出すると、雪の降るベンチに座っていた女性（人魚）が虎に変身して襲いかかる「アルフレッド・ベスターに」。青年が雪道で拾った１個のガラス玉（ペンダント）から、太陽の黄金の林檎、恐竜、木馬、ロケット、女性のイメージが奔流する「レイ・ブラッドベリに」。本のページを破る幼児が成長して宇宙飛行士となる未来を幻視する「アーサー・Ｃ・クラークに」。火星そのものが地球に移住して来て、ミシンや紙幣やミミズに羽根が生えて宙を飛び、釣人の鼻が天狗（釣天狗）、三つ眼女性、六本足犬など滅茶苦茶な世界となる「フレドリック・ブラウンに」。悪さをした鳥型掃除ロボットが監視ロボに、監視ロボがメイドロボに、メイドロボがマッド・サイエンティストに‥‥という風に順繰りに破壊・殺害されて行く死の連鎖を描く「アイザック・アシモフに」。

大阪万博パビリオンが次々に消えて元の空地になり、妊婦の胎児、赤ん坊、小学生の子供たちも順々に消えて行く。最後に残った老人夫婦も消滅して未来が無くなる「小松左京に」。｢私｣ と妻は宇宙から降って来た流星群を新婚旅行中の豪華客船から目撃した。その十カ月後、妻が妊娠して郷里で出産することになる。“海魔” が町の漁船を襲い、戦車や軍艦が砲撃する戦闘態勢となる「ジョン・ウィンダムに」。アフリカ人が爆弾を発明して、アメリカが原爆を落とした国へを飛ばして、日本人たちの首を斬る「筒井康隆に」。ワープ航法で地球型惑星に着陸した戦闘員が旧式蒸気飛行船に爆撃される「ジュール・ヴェルヌに」。海から三葉虫、両生類、恐竜、肉食動物、猿人、ホモサピエンス、新人類が現われる「バラード＆オールディスに」。小松左京、眉村卓、平井和正、手塚治虫、豊田有恒、福島正実、筒井康隆、星新一、光瀬龍のイメージを１コマで描いた「ニッポンSF作家ア・ラ・カルト」。

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• ｢石ノ森章太郎萬画大全集 3-12｣（角川書店 2008）をテクストに使いました


• ｢星新一に｣ と ｢フレドリック・ブラウンに｣ 以降は主人公の青年が登場しません

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７Ｐ ── 石ノ森章太郎萬画大全集 3-12

• 著者：石森 章太郎
• 出版社：角川書店
• 発売日：2006/08/31
• メディア：コミック
• 目次：７Ｐ/ ミステークゾーン / 四帖半襖の下張りの下 / おしいれ / 孤独な手紙 / バミューダトライアングル / 動物章図鑑 / ＳＥＸ史 / イラストコレクション

タグ：SF comic ishinomori