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折々のねことば 3 [c a t 's c r a d l e]




  • 折々のねことば sknys 021

    「私は猫のために死んだ」
    小手毬 るい

  • 犬好きの男と4年で別れた著者は猫好きのアメリカ人男性と同棲8年、結婚して12年。愛猫のプーちゃん(プリン)と、ニューヨーク州ウッドストックの森で暮らしている。猫の命は短い。平均寿命は15〜17年という。彼女に飼い猫の年齢や在米年数を訊くことは禁句である。ノルウェジャン・フォレスト・キャットのプリンは米国に移住した年に生まれたのだから。美人薄命な猫との間に残された時間を考えると胸が締めつけられてしまうから。猫を神として崇めていた古代エジプトで飼い猫が死ぬと飼主は眉を剃り落として喪に服したという故事やエミリィ・ディキンスンの詩 「I died for beauty」 を引き、「I died for my cat」 という墓碑銘を刻む。『結婚するなら、猫好きオトコ』から。
    2006・2・21


  • 折々のねことば sknys 022

    豹がいたのだ。つまり、あの豹は死ななかったのだ。ミッツの目の前を歩いている。確かに、あの豹だ。黒い毛、トパーズ色の目、だがひどく小柄になってしまった。クモザルほどに縮んでしまったではないか。
    シークリット・ヌーネス

  • 友人ヴィクター・ロスチャイルドからウルフ夫妻が譲り受けたマーモセットのミッツは回想する。古道具屋の飾り窓越しに1頭の黒豹を見つけたこと、ロンドンの街角にも故郷の南アメリカと同じ動物がいたことを。不思議なことに誰も彼を怖がっていないし、注意も払っていない。1人の老婦人が彼に近づいて体を屈めると、一目散に通りの真ん中に駆け出す。危なくバスに轢かれるところだった。老婦人が金切り声を上げた。《ミ ッツは彼が帽子屋の隣の小路に逃げ込むのを見守った。なるほど、豹はこの森では王ではないかもしれない。だが、少なくとも自由だ》。ヴァージニア・ウルフの愛読者でもある作家が『フラッシュ』に倣って書いた、マーモセットの半生記 『ミッツ』から。
    2009・4・26


  • 折々のねことば sknys 023

    殆どの人間は全く可愛くない。可愛くても、急速に成長してその段階を過ぎてしまう ‥‥上品さ、優雅さ、繊細さ、美しさ、自覚のなさ。自分が可愛いと知った生き物は、すぐに可愛くなくなる‥‥。
    ウィリアム・バロウズ

  • 米ビート・ジェネレーション作家は「可愛さというものは可愛くないものを挙げることで定義される」という。人間は自分の外見を過度に意識するけれど、動物は自分が可愛いかどうかなどということは一切意識しない。「上品さ、優雅さ、繊細さ、美しさ、無自覚なこと」 。そして小さいことが可愛さの定義に加えられる。同じネコ科動物でも体の大きな虎や豹は危険で怖いし、ゴジラもネコ並みに小さくなれば可愛いかもしれない。「無邪気で疑いを知らないこと」 も可愛さの属性の1つである。《40年前、東テキサスのマリファナ畑で植物を見ていて、目をあげるとスカンクの赤ちゃんがいた。手をのばして、撫でると、そいつは信頼しきった目でこちらを見つめた》。『内なるネコ』から。
    2010・12・26


  • 折々のねことば sknys 024

    あんまり親しくないような人の死と、しょっちゅうかわいがっていた猫とか犬、その他の動物の死でもいいんですけど、その悲しさと比べたら、こっちの方が切実だぜっていうことは、たぶん普遍的な気がするんです。
    吉本 隆明

  • 「猫の家出」 「猫のイメージ」 「猫の死、人間の死」 「猫探し」 「猫ブーム」 「猫の予感」 「猫の 「なれ」」 「猫の聴覚」 「猫と擬人化」 「猫のわからなさ」 「孤独の自由度」 などのテーマに則して、聞き手(男女2人)の質問に、「戦後最大の思想家」 が自由闊達に答える。《ノラ猫と人間との付き合い方の特性は、一般化していえば猫とその地域の特定の猫好きとの付き合いに還元されるのではないかとおもう》(文庫版の書き下ろしエッセイ「猫の部分」)と書く吉本隆明は筋金入りのネコ・ウォッチャーである。子供の頃、鼻から垂らした鼻汁を飼い猫に舐めてもらっていたというほど地域ネコと親密な関係を保っていた著者へのロング・インタヴュー集(1987~1993)『なぜ、猫とつきあうのか』から。
    2015・3・21


  • 折々のねことば sknys 025

    我輩は黒猫ジュリエット。全身艶のある黒毛で、びろうどの触感があるそうだ。
    森 茉莉

  • 『吾輩は猫である』のパスティーシュだが、漱石の猫と同じく、黒猫ジュリエットの女主人・牟礼魔利(むれマリア)への批判は容赦ない。誇大広告の新薬を服んで腎臓炎にな ったり、ジョージ・チャキリスと会うために大嫌いな飛行機に乗って京都まで行ったり 、「女流文学賞授賞式」 に招待されて控室に入ったり、ホテルの防音部屋でロオルシャハ ・テストを受けたり。ジュリエットは恰もマリアと一緒に外出したかのように詳細に語る。《この文章の中には、魔利の外出先の出来事も書くので、千里眼の猫かと怪しむ人もあるかも知れないが、魔利は、その日その日の出来事、又彼女の心にあることは殆ど独り言で喋りちらす癖を持っている》のだ。文庫版『黒猫ジュリエットの話』から。
    2016・5・1


  • 折々のねことば sknys 026

    「動物に人語を教えこむ方法を発見なさり、うまくいった第一号がうちの愛猫トバモリーですと?」
    サキ

  • ブレムリ夫人邸で開かれたパーティに招待された青年コーネリアス・アピンが驚くべき発言をする。この17年間手掛けて来た研究課題に漸く出口が見えて来た。何千頭もの動物実験を重ねて来たが、最近は猫に限っている。猫たちは人間の文明に順応しながらも野性動物としての特性を保持している。人類と同じく猫にも優れた知能を持つ個体が散見される。1週間前に知己を得たトバモリーは頭脳明晰な「超猫」だったという。トバモリ ーを探しに行ったサー・ウィルフリッドが戻って来た。日焼けした顔は蒼白で目玉が飛び出しそうだった。流暢に人語を話すトバモリーの尊大で露骨な物言いに、主人や招待客は動揺を隠せない。超猫が見聞きしたゴシップを喋り出す。「トバモリー」 から。
    2017・5・16


  • 折々のねことば sknys 027

    「ほら見ろ。右手を挙げているじゃないか」
    京極 夏彦

  • 薔薇十字探偵社の私立探偵・榎木津礼二郎を主人公とする「百鬼夜行」シリーズ番外編の第四番。招き猫の挙げている手は右手と左手で意味が異なる(右=金、左=客)という友人の紙芝居画家・近藤有嶽の巷説に同意出来ない電気工事会社の配線工・本島俊夫(僕)は招き猫発祥地の豪徳寺へ確かめに行く。そこで出合った2人の娘、梶野美津子と奈美木セツが超探偵に事件の調査を依頼することになる。9歳の時、奉公に出された美津子は20年振りに母親に逢いに帰ったのだが、見知らぬ他人として追い返されたという。母親の家へ道案内した白猫(隣家で飼われていたコマ?)が母を食い殺して成り代わっているのではないかと美津子は疑っていた。「五徳猫 薔薇十字探偵の慨然」 から。
    2017・12・1


  • 折々のねことば sknys 028

    ミス・リースは猫が大嫌いだった。猫をこわがっていた。猫は彼女の敵だった。
    床にニニー・ナムキャットがいた。内臓をさらけ出して。しかし、まだ生きていた。もつれたかたまりは、まだ動いている内臓の器官だった。
    フィリップ・K・ディック

  • 1959年10月2日、米カリフォルニアのベルモントにあるベヴァトロン陽子ビーム偏向装置が暴走して観察台を焼き尽くす。電子工学者ジャック・ハミルトンと妻のマーシャを含む見学者たちとガイドの8人が装置のある床に落下してしまう。奇蹟的に8人の命に別条はなかったが、病院で意識を取り戻したジャックは漠然とした違和感に捉われる。そこは「第二バーブ教」という異教に支配された奇怪な世界だった。7人は順次意識を取り戻した1人の脳内世界に囚われてしまうのだ。病的で狂暴な独身女性ジョーン・リ ースのグロテスクな世界で、ジャックの愛猫ニニー・ナムキャットは裏返されてしまった。猫嫌い女の妄想は身の毛がよだつほど怖しい。『宇宙の眼』(中田耕治訳)から。
    2018・4・11


  • 折々のねことば sknys 029

    リルバブ、マル(日本のスコティッシュフォールド)のようなインターネットのスターは、バーチャルな氷山の一角にすぎない。
    アビゲイル・タッカー

  • チェシャネコのエピグラフを巻頭に置き、「エセックスのライオン」 を枕に振る冒頭から惹き込まれる。人間を食べていた捕食者としての超肉食動物に光を当て、大型ネコ科動物が絶滅危機に瀕しているのにイエネコだけが増え続ける現状を皮肉たっぷりに憂う。スコティッシュ・フォールドやマンチカン、ライコイなどの新種、永遠の子猫リルバブ(Lil Bub)、まる(Maru)、ハローキティ、ロルキャット(LOLcat)も俎上に載る。原題は「居間にいるライオン」(The Lion in the Living Room)。邦題はサブタイトル(How House Cats Tamed Us and Took Over the World)から採られている。米スミソニアン誌の女性記者が綴った洗脳ネコ本 『猫はこうして地球を征服した』から。
    2018・8・21


  • 折々のねことば sknys 030

    ネコは初見で相手を判断することが多いので要注意。よく思われたいと気負って緊張すると見破られてしまいます。
    岩合 光昭

  • ネコはヒトを観察している。冷蔵庫、箪笥、塀の上から。足元だけを見て歩いているヒトは屋根の上から睥睨しているネコの姿に気づけない。ネコが赤いレンジフード(換気扇)の上から見下ろす。下から見上げるネコは可愛くて、動物写真家は朝からニヤけている。外ネコと出合った時は《肩の力を抜いて穏やかに 「やぁ、いい子だねぇ」 と声をかけてみます。それでも視線を外すことなく直視してくるネコは手強いです。そういう時は1、2メートル下がって、敵対していないことを示します。同時に視線も外し、身の安全を保障しますよ、と態度で表します。ネコは安心し緊張がゆるんで、日常の行動を始めたら、友達になれるチャンスです》写真集『見上げてごらん、朝のネコを』から。
    2020・1・21

                        *

    朝日新聞の朝刊コラム 「折々のことば」(鷲田清一)のネコ版パロディ「折々のねことば」第3集です。引用した言葉に解説文(171字以内)を添えるという〈折々のことば〉のフォーマットを踏襲しつつ、ブログ記事らしく横書きに変えました。具体的には拙ブログ記事の冒頭に引用したネコに纏わる文章の中からキーになる「ねことば」を抜き出して、6〜8行の短文(312字以内)を添えるだけなのに、これが意外に愉しい。小説やエッセイなどから気になった文章(400字前後)を単に引用するよりも、短い言葉の方がキャッチーで耳目を惹くし、解説文で「ねことば」の意図や真意を深く読み解ける。日付は引用した「ねことば」を掲載した記事の投稿日としたので、「折々のことば」のような時系列順になっていません。「ねことば」に興味を持たれた読者が引用文や引用元の原典を読んでもらえれば幸いです。

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    • 「折々のねことば sknys 021~030」 は引用文、出典はアマゾンにリンクしました

    • 単行本『オトコのことは猫に訊け』は文庫版『結婚するなら、猫好きオトコ』に改題
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    結婚するなら、猫好きオトコ

    結婚するなら、猫好きオトコ

    • 著者:小手鞠 るい
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日:2008/02/04
    • メディア:文庫(『オトコのことは猫に訊け』を改題、一部加筆)
    • 目次:結婚するなら、猫好きな男 / 猫に学ぶコミュニケーション術 / 人はなぜ、猫に癒されるのか

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