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折々のねことば 9 [c a t 's c r a d l e]




  • 折々のねことば sknys 081

    ねこの性質をよく知っている人ならだれでもわかっていることですが、ねこという動物は、お金持ちになったり、権力をにぎったり、注目を浴びたりすることには、まったく関心がありません。
    クロード・ロワ


  • トマ少年の飼い猫ガスパール・マック・キティキャットは人語を話すどころか詩歌まで詠う。ガスパールが庭の奥に生えていた奇妙な草を食べたせいだった。有名になってマスメディアなどに翻弄される自分の行く末を嘆き、親友のトマに告白する。少年は腹話術の練習をしているという秀逸なアイディアを思いつく。競争好きのネコは一匹もいない。出世しようとか、勉強で一番になろうとするネコもいない。檻に入れられてキャット・ショ ーに連れて行かれて賞状を授与されたり、首に一等賞のリボンを着けてもらった時も、うんざりして欠伸をしてしまう。トマの家を訪れてガスパールに会った著者クロード・ロワがネコたちの重要な秘密を聞き出して書いた本『おしゃべりねこ』から。
    2014・9・11


  • 折々のねことば sknys 082

    「申し訳ありません。女のくせに愛敬がなくてね」
    赤川 次郎


  • 都内で発生した 「女子大生殺し」。犠牲者は羽衣女子大の学生だった。三田村警視に調査を命じられた片山義太郎刑事は学部長室で森崎智雄の飼い猫と出会う。《猫はスイングドアを頭で押し上げ、うさんくさそうな目つきで片山の顔を眺めていたが、やがてするりと入口をくぐり抜けて入って来た。三毛猫で、体つきはほっそりとしている。配色がユニークで、背はほとんど茶と黒ばかり。腹のほうが白で、前肢が右は真っ黒、左は真 っ白だった。鼻筋が真っ直ぐ通ったきりっとした顔立ち、ヒゲが若々しくピンと立っていて、顔はほぼ正確に、白、黒、茶色に三等分されていた》。森崎学部長が食堂で殺された事件を片山兄妹の飼い猫となった彼女が解明する『三毛猫ホームズの推理』から。
    2021・7・10


  • 折々のねことば sknys 083

    わたしはエスペラント語で「猫、猫」すなわち「ムムーンヌ‥‥。ムムーンヌ‥‥」と、優しく呼びかけた。
    フィリップ・ラグノー


  • 1974年、パリのル・マレ地区ヴィラルドゥワン通りのアパルトマンに引っ越して来たフ ィリップ・ラグノー(わたし)とカテリエンヌ・アングラッド夫妻は1匹の黒猫と出合う。エスペラント語で「猫」を意味する「ムムーンヌ」と夫は名づけたが、女の子だと思った妻が「ラ・ムーンヌ」に改名。ところが去勢した牡猫だと分かって、牡猫ムーンヌに戻る。夫妻がチュニジアへヴァカンス旅行に出かけた後、留守宅の3階に閉じ込められてしまったムーンヌの救出劇。宝石商会の地下室に閉じ込められたムーンヌが屋根の上に姿を現わす。牝猫に誘惑されて、ブルー・フォックスの毛皮と睦み合う。白黒猫ティティとの縄張り争いなど、牡猫に懐柔された夫妻の実話『黒猫ムーンヌ』から。
    2018・8・21


  • 折々のねことば sknys 084

    ある日散歩から帰る途中、レオは大きなライオンに見られているのに気がついた。
    リンダ・ヴォルフスグルーバー


  • 《甘やかされた飼いネコに悩みなどない。餌はいつでも皿の上。撫で回されブラシをかけられ、とても快適な毎日。雨が降るとソファの上で寝る。目の前でネズミが鬼ごっこしたって知らん顔。いつだってお腹は一杯だ。たまに重い腰を上げ、ちょっと散歩に出るくらい。何もかも退屈》していたレオは 「ザンジバール・サーカス、百獣の王エドワルド」 の特大ポスターに出合う。ライオンの勇姿に心を奪われたレオは同じネコ科動物として、一度くらい百獣の王になってみたいと思う。自分が強く大きくなった気がしたレオはライオン気取りで街から出て行くが‥‥家に帰ったレオは怠惰なネコではない。ライオンらしさに目覚めて、ネズミ1匹見逃さない。絵本『ねこだけどライオン』から。
    2016・9・6


  • 折々のねことば sknys 085

    「お米が炊上がって、その美味しそうに湯気が立つご飯に最初のしゃもじを入れてそれが猫の餌なんてどうかなあ」
    竹宮 惠子


  • 1971年秋、萩尾望都はキャベツ畑で1匹の子猫を拾う。まだ目も開いていなくて、ピーピー鳴いていた。「大泉サロン」 で飼うことになった子猫はバタと命名された。50年前は飼主の意識も低く、知識も乏しかった。ペットを家族の一員として迎えて一緒に暮らすという生活様式もなかった。キャットフードも一般に普及していない。萩尾望都が牛乳で育て、竹宮惠子が炊きたての白米に鰹節を乗せた「ねこまんま」を食べさせたことは責められない。「萩尾さんとなら結婚してもいいと思う」 と告白するくらい親密だった2人の少女マンガ家は2年後に同居を解消して決別してしまう。モーさまが蜜月時代の楽しい記憶まで封印してしまったのは哀しい。青春回想記『一度きりの大泉の話』から。
    2021・6・5


  • 折々のねことば sknys 086

    くまの喉仏は恋人たちが手をつないでダンスをしているようなかたちをしていた。
    安彦 幸枝


  • 安彦家の庭に来るようになった雄猫は鼻炎で鼻を鳴らしていることからスンスンと名づけられた。友人たちと共同生活していた家に棲み着いた雌猫は熊笹の茂みから現われたので「くま」と呼ばれていた。友人に保護されて 「くま」 と一緒に暮らすことになった子猫ピーヤ、タローとミニミニ兄妹。家猫と庭猫の間には見えない境界が存在する。鼻炎とエイズキャリアのスンスンと「くま」の同居は難しい。近所の家の庭で9カ月後に死んだスンスンは火葬されて、実家の庭に埋められた。2階の寝室で息を引き取った「くま」の遺骨もスンスン畑に埋葬されて「スンスン大根くま大根」に生まれ変わる。写真家がネコと暮らした17年間を回想した写文集『庭猫スンスンと家猫くまの日日』から。
    2021・6・19


  • 折々のねことば sknys 087

    夫の次は猫を看取るのか、と思った。深い井戸の底に降り立って、暗がりの中、自分の傷口を舐めながら、しばらく養生して行くつもりだった。これ以上深い「底」はない、とも思っていた。だが、まださらなる先に「底」があるのかもしれなかった。
    小池 真理子


  • 最愛の夫(藤田宜永)に先立たれた作家は喪に服して1年間、亡き伴侶との過去の記憶や現在の心境を綴る。ある日、食欲旺盛で活動的な飼い猫(14歳)が突然食事をしなくなった。「私」 は週明けに動物病院へ連れて行く。先代猫から世話になっている獣医師が全身検査をしてくれた。この小さな診察室にも死に神がいる。「私にとって夫の闘病というのは、その死に神と闘うことだった」 が、意外にも猫の検査結果は「異常なし」。食べなくな ったのは肛門腺が化膿した痛みのせいだった。「夫の闘病と死は、私の中から胸躍る感覚を奪っていた」 のに 「動物病院からの帰路、燦々と降り注ぐ春の陽差しを浴びながら、私は忘れかけていた深い幸福に酔いしれた」。エッセイ『月夜の森の梟』から。
    2021・4・10


  • 折々のねことば sknys 088

    「ドレッティー、化け猫みたいな顔してるぞ〜」
    平野 恵理子


  • ドレミはリリー(石田ゆり子)さんから貰われて来たキジ白猫(5歳)。エリー(平野恵理子)と2人(母一人子一人)暮らしの日々を一人称ネコ視点で描く。名前はウディ ー・ガスリーのフォーク・ソング〈Do Re Mi〉から採られた。ネコの思考はヒトが想像するしかないので、著者の観察眼と自己批評性が試される。エリーの膝の上で食べるおやつは至福の時間。「CIAOちゅ~る」 を夢中で食べていると「ドレちゃん、お顔が怖いよ〜」と言われる。一心不乱に集中している時、動物の野性や人間の本性が表情に出るようだ。ドレミが熱心に毛繕いをしている時もエリーに「化け猫」と呼ばれてしまう。「飼い主のつぶやき・日記」 を併録した猫イラスト・エッセイ『わたしはドレミ』から。
    2021・8・30


  • 折々のねことば sknys 089

    神様からの贈り物は、バートルビーだった。
    ディー・レディー


  • 生後7週目に 「あたしの人間」(著者)の飼い猫となった雌猫ダルシニア(ダルシー)の物語。飼主が「あたし」を所有しているのではなく、「あたし」 に従属しているという母猫ナターシャの教えをダルシーはポール・ギャリコの『猫語の教科書』を読んでいるかのように実践する。車に轢かれて失った尻尾、妊娠と流産、「神様からの贈り物」 だった子猫バートルビー(ハーマン・メルヴィルの「代書人バートルビー」に由来?)の病死 、性悪子猫タイバルトとの確執、肝臓病による食事制限‥‥1989年7月6日の朝、安楽死したダルシー(享年17歳4カ月と1日)はバートルビーの隣に埋葬された。文庫版『あたしの一生』(小学館 2016)はジュディー・キングのイラスト全16点を完全収録。
    2021・8・28


  • 折々のねことば sknys 090

    青い瞳なら聴覚に障害があったかもしれないし、オッドアイならもしかすると、「デヴィ ッド・ボウイ」 という名前だったかもしれない。
    アンガス・ハイランド+キャロライン・ロバーツ


  • 『名画のなかの猫』は英グラフィック・アート・デザイナーとジャーナリストの共著。猫名画と猫の格言で構成されている。ゴヤ、ダ・ヴィンチ、パウル・クレー、バルテュス、歌川国芳など著名な画家の有名な「猫絵画」だけでなく、マイナーな画家たちの作品も数多く掲載。「ヨーロッパの前衛美術界に彗星のごとく現われたフランツ・マルクは 、第一次世界大戦に出征し、戦死するまでの短い生涯で、ウマやキツネ、トラやシカなど、実にさまざまな動物を描いた」 「からだを丸めたフランツの白猫は、片耳をピンと立てて周囲を警戒している。目の色は確認できないが、白猫だからおそらく青色か黄色、あるいは左右で色が異なるオッドアイだったはずだ」(フランツ・マルク 白猫 1912)。
    2021・9・11

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    朝日新聞の朝刊コラム 「折々のことば」(鷲田清一)のネコ版パロディ「折々のねことば」第9集です。引用した言葉に解説文(171字以内)を添えるという〈折々のことば〉のフォーマットを踏襲しつつ、ブログ記事らしく横書きに変えました。具体的には拙ブログ記事の冒頭に引用したネコに纏わる文章の中からキーになる「ねことば」を抜き出して、8行の短文(312字以内)を添えるだけなのに、これが意外に愉しかったりして‥‥小説やエッセイの中から気に入った文章(400字前後)を単に引用するよりも、新聞記事の見出しやTV番組のCM前のワンフレーズみたいな短い言葉の方がキャッチーで耳目を惹くし、紹介文で「ねことば」の意図や真意を深く読み解ける。日付は「ねことば」やネコ本などを引用・紹介した記事の投稿日としたので、「折々のことば」 のような時系列順になっていません。「折々のねことば」 に興味を持った読者が引用文や引用元の「ネコ本」を読んでくれると嬉しい。

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    • 「折々のねことば 081~090」 は引用・紹介文、出典名はアマゾンにリンクしました

    • 「CATWORDEX」(折々のねことば 2005 - 2022)を更新しました

    • 「ねことば 087」 は 「食欲のない猫と胸躍る思いは」(朝日新聞 be)から引用しました。『月夜の森の梟』(朝日新聞出版 2021)は11月に刊行される予定です
                        *

    わたしはドレミ

    わたしはドレミ

    • 著者:平野 恵理子
    • 出版社:亜紀書房
    • 発売日: 2021/05/22
    • メディア:単行本
    • 目次:わたしはドレミと申します / 大寒の朝 / 日めくり / 朝のブラシ / 体重測定 / ごはん / おやつ / 怖い顔 / 期待には応えない / 回覧板の手さげ / わたしの寝場所 / 眠り猫 / わたしのトイレ / お引っ越し / お客さん / 雪 / エレガントな足取りで / プレイ / たかいたかい / 京壁のキズ / キーボード / テンブクロ / 脱走 / プリンセス天功事件 / ムンちゃん / お医者...

    名画のなかの猫

    名画のなかの猫

    • 著者:アンガス・ハイランド+キャロライン・ロバーツ(Angus Hyland & Caroline Roberts)/ 喜多 直子(訳)
    • 出版社:エクスナレッジ
    • 発売日:2018/03/14
    • メディア:単行本(ソフトカヴァ)
    • 目次:ルシアン・フロイド / エリザベス・ブラックアダー / フランシスコ・デ・ゴヤ / デイヴィッド・ホックニー / フランツ・マルク / セバスティアーノ・ラッツァーリ / 作者不詳 / レオナルド・ダ・ヴィンチ / 虚谷 / キキ・スミス / モリス・ハーシュフィールド / ピーター・ブレイク / パウル・クレー / クリストファー・ウッド / バルテュス / 藤田嗣治 / 歌川国芳 / エドゥアール・マネ / クリストファー・ネヴィンソン / コルネリス・ヴィッセル / エドワード・ボーデン / アミ・フィリップス...

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