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折々のねことば 12 [c a t 's c r a d l e]




  • 折々のねことば sknys 111

    羊、猫、熊、パンダ、兎、それから。
    川野 芽生


  • 雲雀草(私)は命が尽きる前に手記を書く。**女学園は全寮制の一貫校で、外界から隔離されている。彼女たちには苗字がなく、卒業すると二度と学園には戻れない。図書館で出会った人気者の月魚は寡黙な友人。3年生(9歳)の時に「友達にならない?」と誘われた雨椿とは親友だった。お菓子を焼いてくれたり、羊や猫などの縫いぐるみを贈られたりする仲だったが、月魚との関係に嫉妬した雨椿とは気不味くなって行く。卒業後、別々の職場で働くことになり、雨椿から頻繁に手紙が来るようになった。恐怖と嫌悪を感じた雲雀草は三通目からは開封しなかった。交際を申し込まれた同僚に誘われて飲み会に行った時、彼の友人から雨椿が病死したと知らされる。「卒業の終わり」 から。
    2022・7・21


  • 折々のねことば sknys 112

    するとあたしのネコ、ジョナスが花の中から現れ、あとからついてきた。
    シャーリイ・ジャクスン


  • メリキャット(18歳)は姉コニー、伯父ジュリアン、飼い猫のジョナスと一緒に、母親の生家で暮らしている。村で一番美しいロチェスター屋敷では6年前、両親のジョンとルーシー、弟トマス、伯母ドロシーの4人が毒殺されるという惨劇が起きていた。夕食を作ったコニーが殺人容疑で逮捕されたものの、裁判で無罪となって釈放された。それ以来、村人たちは悪意に満ちた噂を立て、姉妹は屋敷内に隠れ住むようになった。妹は美しい姉を邪悪な訪問者たちから護っていたが、ある日曜日、従兄チャールズが屋敷を訪れたことで、姉妹の隠遁生活に亀裂が生じる。ジョナスは人間たちの醜悪な笧に捉われることなく、ネコらしく自由気儘に生きている。『ずっとお城で暮らしてる』から。
    2022・9・11


  • 折々のねことば sknys 113

    ペルシアネコの平板な顔や大きな目に魅力を感じるのは、このネコがいとしいと感じさせる子ネコの顔をずっともち続けているからである。
    ロジャー・テイバー


  • 英ナチュラリスト・生物学者はブリーダーの行きすぎた新種改良に警鐘を鳴らす。「ネコにとっては絶えざる不快にさえなるような極端な形状を、どうして生みだしたがる者がいるのだろうか?」 ヴィクトリア朝時代の猫画家ルイス・ウェインは《大きな目と扁平な顔をしたペルシアネコの子ネコを描き続けた。多くの飼い主が彼らの子供の代理に抱く感傷を描くことで人気を博していたのである。この子供たちはピーター・パンと同じで、けっして成長しない》。ネコが 「飼い馴らされる際に行動の未発達な特質が求められたのである」 。高層アパートの柔らかな人形ラグドールや無毛猫スフィンクスは人に依存する猫と、猫に従属する人の歪な関係を露わにする。『猫たちの世界旅行』から。
    2022・9・11


  • 折々のねことば sknys 114

    大炊頭はひざの上の美しい黒猫のあたまを撫でながら、春の日の庭をながめていた。
    山田 風太郎


  • 寛永九年(1632)、大老・土井大炊頭の近習・椎ノ葉刀馬は公儀忍び組の査察役を内密に命ぜられた。伊賀・甲賀・根来の中から、最も優れた忍び組を選ぶことだった。三派の代表忍者、根来忍者・虫籠右陣、伊賀忍者・筏織右衛門、甲賀忍者・百々銭十郎の披露する魔術的なエロ忍法に刀馬は衝撃を受けた。彼の意に反して大炊頭は甲賀忍者を公儀忍び組に選抜した。江戸から逐電した右陣と織右衛門は甲州へ向かい、駿河大納言・徳川忠長に巧妙に取り入る。冷遇されている弟を煽動して、兄家光の暗殺を是認させる奸計だった。刀馬・銭十郎は寝返った右陣・織右衛門と凄惨な死闘を繰り広げることになるが、その裏に大炊頭の怖しい深謀遠慮があった。風太郎忍法帖『忍びの卍』から。
    2022・9・21


  • 折々のねことば sknys 115

    猫は飛ぶ夢を見ても、おれも空を飛びたいとは思わないであろうが、人間は空を飛びたいと思うのである。
    岸田 秀


  • ものぐさ心理学者は「時間は悔恨に発し、空間は屈辱に発する」という。無意識には時間がない。ライオンは欲望を抑圧しないが、人間は欲望を抑圧する。《人間は無益に自他の生命を殺傷する唯一の動物である。雄が雌を強姦する唯一の動物である》。欲望を抑圧したことで悔恨が生じ、その欲望を過去に縛りつけることで、過去と現在の間に生じる時間を発明した。子宮内には空間も存在しない。幼児は自己と自己ならざるものを区別する。自己の領域が徐々に狭められて行くことで屈辱を感じる。自己ならざるものに転化した対象を閉じ込める容器として空間を発明した。人間が空間を征服したがるのは知覚機能の発達よりも、運動機能の発達が遅れるからである。『唯幻論大全』から。
    2022・10・11


  • 折々のねことば sknys 116

    ネコは、なにごともなかったように「にゃあ」となくだけだった。
    星 新一


  • エス氏は郊外の林の奥の家で、ネコと一緒に暮らしていた。ネコを心から可愛がって、大切にしている。ある夜、玄関のドアを叩く音がした。ドアを開けて外を見ると、それは手ではなかった。薄茶色で細長いワニの尻尾やタコの足のようだった。エス氏は気を失う。立体的なトランプのような体型の異星人だった。薄茶色の細長い腕が頭の天辺から伸びている。カード星人が家に入ると、ネコが「にゃあ」と鳴く。カード星人とネコはテレパシーで話し合う。人間は奴隷の役をする生物、その地位に不満を持って反逆するまでの知恵はない生物だとネコが断じる。ウソ発見器を使って検査した異星人はネコの主張を信じ、宇宙船に乗って夜の空に消えた。ショート・ショート「ネコ」から。
    2020・5・6


  • 折々のねことば sknys 117

    隙あらば猫は、物語の中へ入っていく。
    庭の垣根をくぐり抜けるように
    いともたやすく簡単に。
    町田 尚子


  • 『隙あらば猫』は「町田尚子絵本原画展」の図録・書籍。横長・左開き・赤糸綴じ本で背表紙がない(A5横判 168頁)。絵本、装画、挿絵などから抜粋したダイジェスト版。絵の中に紛れ込んでいる小肥りのグランピー・キャット、著者の愛猫・白木ピッピ(不機嫌顔のスコティッシュ・フォールド)を見つける 「ウォーリーをさがせ!」 みたいな激ムズ・クイズ。最新インタヴューや未掲載・初収録作品。描き下ろしミニ絵本 「白木のピョン」(8頁)も挿み込まれている。アクリルガッシュで描かれた絵はマットな質感で、少女や動物は詩的な佇まい。猫の毛並みは目立たない。立体的な画面構成、ドローンのように自在なアングル。そして思いがけないところに抜け目なく猫が潜んでいる。
    2022・10・1


  • 折々のねことば sknys 118

    毎朝グスタフは、まだ静まりかえっている庭にでて花の世話をする。
    こんな時間におともをするのは僕だけさ。僕のことがお気にいりだからね。
    ひょっとすると、グスタフが僕のおともをしているのかも‥‥。
    ベレニーチェ・カパッティ


  • 夏目漱石の「吾輩」と同じように、グスタフ・クリムトの愛猫(僕)が主人の人生を一人称で語る絵本。イタリア人女性画家オクタヴィア・モナコ(Octavia Monaco)の描く鮮やかな色彩や女性の衣服の装飾的な模様はクリムト調だが、人物やネコたちはシュ ールにデフォルメされている。子供向けに描いたらしく、本来はレオノール・フィニやレオノーラ・キャリントン直系の女性シュルレアリストである。クリムトは8匹ものネコを飼い、アトリエの庭に咲く薔薇の手入れをしていた。カラフルな花々は魅惑的な女性たちの肖像画を飾り、風景画にも描かれているが、不思議なことにネコと自画像を描くことはなかった。モナコはネコたちとクリムトを描きまくる。『クリムトと猫』から。
    2020・5・6


  • 折々のねことば sknys 119

    この絵を見つめていると、しっぽが踏まれたときに聞こえてくるあのなんとも表現しがたいミャーーーオというかん高い叫びが聞こえてくる気になる。夕焼けに輝くノルウェ ーのフィヨールドがさらに異様な雰囲気を醸し出している。
    シュー・ヤマモト


  • 『キャット・アート』は絵画の中に描かれた猫ではなく、絵画の中の人物をネコに変えた「パロディ名画集」。古代 ー 中世 ー 東洋、ニャネッサンス、バロック、新古典主義〈ニャオクラシック〉、ロマン主義、写実主義、印象主義〈印象派〉、20世紀美術‥‥〈ニャスコー壁画〉(紀元前18000)からルネ・マグニャットの〈猫の子〉(1964)まで、古今東西の猫名画124点を収録。少女マンガのヒロインみたいなデカ目で愛らしいネコたち。ピエット・ニャンドリアンやジャクソン・ポニャックなど抽象猫画もある。猫美術評論家ウィスカー・キティーフィールドの巻頭エッセイ「人間と猫の相互理解と文化交流について」や作品解説も愉しい。「叫び エドワード・ニャンク 1893」 から。
    2013・7・11


  • 折々のねことば sknys 120

    おしゃれなネコのわたしはフリーダ・カーロの代表的な自画像に誘発されているの。
    最高のマジックリアリズムと同じで、
    この人の色彩豊かな描写にはファンタジーの要素が込められてるわ。
    ニア・グールド


  • 古代エジプト→ビザンティン→ルネサンス→ロココ→印象派→後期印象派→点描画法→象徴主義→フォーヴィズム→キュビズム→ダダイズム→デ・ステイル→マジックリアリズム→アール・デコ→シュルレアリスム→象徴表現主義→コブラ→ポップアート→ミニマリズム→グラフティ→ヤング・ブリティッシュ・アーティスト。バステト女神からダミアン・ハーストまで、21の芸術運動を年代順にネコたちが代表作のモデルとなって解説する美術入門書。モンドリアンが始めた新造形主義の 「デ・ステイル」、フリーダ・カ ーロの 「マジックリアリズム」、短命に終わった美術集団 「CoBrA」、バスキアのグラフィティ、「YBAs」 など新しい視点もある『21匹のネコがさっくり教えるアート史』から。
    2020・5・6

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    朝日新聞の朝刊コラム「折々のことば」(鷲田清一)のネコ版パロディ「折々のねことば」第12集です。引用した言葉に解説文(171字以内)を添えるという〈折々のことば〉のフォーマットを踏襲しつつ、ブログ記事らしく字数(312字以内)を増やして、出典や紹介文へのリンクも張りました。メリキャットの愛猫ジョナスはネコらしく振る舞い、土井大炊頭の黒猫も権力者の謀略や隠密と忍者たちの凄惨な死闘はどこ吹く風と言わんばかりに寛いでいます。エス氏の飼い猫はカード星人とテレパシーで会話し、グスタフ・クリムトの愛猫は主人の思い出を一人称(僕)で語ります。ロジャー・テイバーの猫画家ルイス・ウェインへの考察は鋭く、不機嫌顔の白木ピッピは飼主・町田尚子のタブローの中に抜け目なく潜んでいます。シュー・ヤマモトの「ネコ名画」はオリジナルを参照しなくても愉しめますが、ニア・グールドのネコ・イラストはそれぞれのスタイル(技法)で描かれていても、原画を模倣しているわけではないので、元の絵画を知らないと面白さが半減してしまうかもしれません。

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    唯幻論大全

    唯幻論大全 岸田精神分析40年の集大成

    • 著者:岸田 秀
    • 出版社:飛鳥新社
    • 発売日:2013/01/25
    • メディア:単行本
    • 目次:自我論 / 歴史論 / セックス論 / あとがき / 初出一覧

    21匹のネコがさっくり教えるアート史

    21匹のネコがさっくり教えるアート史

    • 著者:ニア・グールド(Nia Gould)/ 上杉 隼人(訳)
    • 出版社:すばる舎
    • 発売日:2019/06/16
    • メディア:単行本
    • 目次:古代エジプト / ビザンティン / ルネサンス / ロココ / 印象派 / 後期印象派 / 点描画法 / 象徴主義 / フォーヴィズム / キュビズム / ダダイズム / デ・ステイル / マジ ックリアリズム / アール・デコ / シュルレアリスム / 象徴表現主義 / コブラ / ポップアート / ミニマリズム / グラフティ / ヤング・ブリティッシュ・アーティスト / ...

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