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折々のねことば 6 [c a t 's c r a d l e]




  • 折々のねことば sknys 051

    あの可愛いばかりの小さな生命体が醸し出す存在感そのものが、じつはボクにも家族にも、とてつもない「励み」と「潤い」を与えていたことになりはしまいか。
    矢口 高雄

  • 1989年、庭に迷い込んで来た1匹の三毛猫。ある深夜、仕事場から帰宅した著者は寝酒の肴(紅鮭缶)で釣って室内へ招き入れた。矢口家の飼い猫「ナッコ」となった彼女は前半の10年を「ナッコ」として、後半の13年は隣家の「ミーコ」として暮らし、2010年1月29日に生涯を全うした(享年23歳)。サブタイトルに『ボクを癒してくれた 「役立たず」 のナッコ』とあるように、ナッコの死後「ペットロス」の悲しみと虚脱感に襲われた著者が彼女との出会いから別れまでを綴った「愛猫記」。マンガ家らしく、生前のナッコを撮った写真は1枚も採用せず、イラストや1コマで愛猫の姿を描いている。猫マンガ『ふるさと「タマの失踪」』を併録したエッセイ『三毛猫がくれた幸福』から。
    2011・11・01


  • 折々のねことば sknys 052

    一般に作家と猫は相性がいいと言われるが、その理由を問われた彼女は皮肉たっぷりにこう答えた。「だって物書きなら、手を止めて、犬の散歩に行きたいなんて思わないでしょう」
    アリソン・ナスタシ

  • 著者がインタヴューした当時、アーシュラ・K・ル=グウィンは動物愛護協会から譲り受けたパード(Pard)という黒っぽい雄猫を飼っていた。彼女が手紙や小説などを書いている時、感情的に入れこみすぎると、パソコンの隣の机の上で寝ていたパードは落ち着かなくなるのか、マウスの上に乗ってゴロゴロと喉を鳴らし始めるという。「あなたもためしにマウスに猫を乗せたままパソコンで何か書いてみてごらんなさい」 と語る。彼女が猫を愛するのは「美しくて、面白くて、自尊心が高くて、ミステリアスだから」 。見開き左右2頁に写真と文をレイアウトした作家45人と愛猫のアルバム『文豪の猫』から。ル=グウィンは 「My Life So Far(我が半生)」 というパードの伝記を書いている。
    2019-04-01


  • 折々のねことば sknys 053

    「こんばんは、キティー。あたしはソーニャよ。指の臭いを嗅ぎたい?」
    ジーン・ウルフ

  • ブリッジ・パートナーの妻が友人の妻に電話して、4人目のプレイヤーとして適当な年格好のフリーな女性を紹介してくれるように頼んだ。手違いで呼ばれたソーニャとクレ ーン ・ヴェッスルマンは互いに好意を持つようになる。ところがパートナーの妻が脳腫瘍で死んで、夫はバミューダに隠棲した。そしてヴェッスルマンも家に引き蘢ってしまう。最後のカード・ゲームから4カ月後、ソーニャはヴェッスルマンからディナーに誘われる。大邸宅の玄関ベルを鳴らすと、キティーがドアを開けた。女優ジュリー・ニュ ーマーに似た背の高いの裸の娘だった。遺伝子操作で生まれたネコ娘と同居する裕福な青年が貧しい娘に求愛する「ソーニャとクレーン・ヴェッスルマンとキティー」から。
    2011・11・21


  • 折々のねことば sknys 054

    ニューヨークは声をあげて笑った。
    それでも、イギリスの従兄であるチェシャ猫のように、体が消えたあとも〈猫〉のにやにや笑いは漂っていた。独房にいる老人の笑い顔ではなかった。あの老人は笑わない。
    エラリイ・クイーン

  • NYマンハッタンを5カ月間、震撼させた連続絞殺魔〈猫〉。9人の犠牲者の首に巻きついていた絹紐・タッサーシルク(男は青、女はピンク色)の謎。なぜ殺された女性は全員独身者なのか、なぜ電話帳に登録されている人物だけが標的になるのか、なぜ被害者の年齢が若くなって行くのか?‥‥10人目の被害者(マリリン・ソームズ)の殺人未遂で現行犯逮捕された「犯人」は自白して罪を認めた。収監された〈猫〉は「ただのいかれた老いぼれ」だった。1人の精神異常者にすぎなかった。感謝祭を迎えるNYには活気が戻って、市民は声を上げて笑った。ところが独房の老人は第1の殺人(アーチボルト・ダドリー・アバネシー)が起きた日時の完全なアリバイがあった。『九尾の猫』から。
    2015・10・26


  • 折々のねことば sknys 055

    虎を描いて猫に堕す、と覚えてゐたけれど、本当は、虎を描いて犬に類す、らしい。
    丸谷 才一

  • 「虎を画きて狗に類す」(「後漢書」 馬援伝)は虎を描いたつもりなのに、犬に見えてしまうという古事成語。兎に角、絵が下手なことの喩えである。でも逆に「猫を描いたのに虎に見えたら、これは名人なのか。やはり下手なんでせうね」と著者は混ぜっ返し、友人の珍説を引く。江戸時代の日本に野生の虎は棲息していなかったので、《圓山應擧の虎の絵は自分の家の飼猫を見て写生したにちがひないさうである。そのせいで、猛獣でありながらどこか優しい風情があつてよろしい》‥‥伊藤若冲の愛嬌のある「虎図」は中国の「猛虎図」を模写したらしい。「実際の虎を見て写生」 した大橋翠石の虎と較べると、應擧や若冲の描いた「虎」は可愛いにゃん。エッセイ集『猫のつもりが虎』から。
    2020・8・11


  • 折々のねことば sknys 056

    私が何でこんなことを云ひ出したかと云ふと、他人は知らず、私は実にしばしば自分にも尻尾があつたらなあと思い、猫を羨しく感ずる場合に打つかるからである。
    谷崎 潤一郎

  • 執筆中や思索に耽っている時に、家人が入って来て細々した用事を訴える。もし「私」に尻尾があれば、尾先を2〜3回振って追い払える。より痛切に尻尾の必要性を感じるのは訪客の相手をさせられる時である。客嫌いの作家は気の合った同士や敬愛している友人に久しぶりに会うような場合を除き、自分から喜んで人と面談することはない。いつも嫌々会っているので、漫然たる雑談の相手をしていると、10〜15分もすれば会話に飽きて来る。一方的に喋る客人の聞き役になり、《私の心はともすると遠く談話の主題から離れてあらぬ方へ憧れて行き、客を全く置き去りにして勝手気儘な空想を追ひかけたり、ついさつき迄書いてゐた創作の世界へ飛んで行つたりする》。「客ぎらひ」 から。
    2017・1・21


  • 折々のねことば sknys 057

    あの時自分の中にあった人間の恐ろしさ身勝手さを知ったのです。
    長嶺 ヤス子

  • 1980年2月19日の深夜、原宿で野良ネコを轢いてしまった著者は一瞬、轢き逃げや置き去りを考えたという。それ以来、捨てネコや犬(猫150匹、犬13匹)を保護するようになる。ネコの国のシャナは踊りの名手。秋の全国ダンス・コンクールを前にしたシャナはライヴァルの同級生ルナを国境沿いの川に突き落とそうとするが、逆に川に落ちて不思議な渦に巻き込まれる。路上でクルマのヘッドライトに目が眩んで撥ね飛ばされたシ ャナはマミーの「低い丘の上に建つ、森に囲まれた西洋館」で看病される。愛犬ピピの病死とマミーの死。彼女の遺志を継いだシャナは多数のネコたちを館に引き取って暮らす。ネコを捨てる人間の身勝手さ、捨てネコの死を寓話的に描く『シャナ物語』から。
    2011・11・1


  • 折々のねことば sknys 058

    私はあるホテルの洗面所で金髪の小猫を洗っている。でもそれが猫かどうかはっきりしなくて、レオノーラかもしれない、だぶだぶでそろそろ洗ったほうがいいコートを着ているから。
    レメディオス・ヴァロ

  • 「私」 は石鹸水で猫を洗い続けるが、誰を洗っているのか分からないので、動揺して戸惑 っている‥‥1908年カタロニア生まれのレメディオス・ヴァロは結婚後パリへ移住。その後バルセロナに戻ったものの、スペイン内戦から逃れて再びパリに渡り、第二次大戦下メキシコへ亡命した。同じような境遇のレオノーラ・キャリントンと仲良くなる。「レメディオス・バロ展」(1999)に合わせて出版されたシュルレアリスム画家の「眠れぬ夜のための断片集」にはキャリントンとの親密な交遊が描かれている。ヴァロは54歳で亡くなったが、その後キャリントンは半世紀近く生き続けた。「夢のレシピ」 と記述・自動筆記、手紙と戯曲の草案、自作解説、インタヴューを纏めた『夢魔のレシピ』から。
    2020・7・25


  • 折々のねことば sknys 059

    ひとりの美女が猫をなでているのを見て知らん顔をすることなど、文字通り不可能なことなので、ただただこの不可能さゆえに(そうでなかったら、あとどれほどぐずぐずしていたことか)、とうとうジョヴァンカルロはこう言った。「暑くなったね」
    トンマーゾ・ランドルフィ

  • 大学生の詩人ジョヴァンカルロは郷里Pに帰省して、叔父の旧家で夏休暇を過ごす。団欒中に顔見知りらしい少女グルーが来客する。歓待した叔父一家には見えないのだが、少女のスカートから覗いていたのは細い足首と優雅な脚ではなく、「山羊の蹄」 だった。2人の前に飼い猫がトラのような足取りで姿を現わして、グルーの膝の上に飛び乗る。彼女は猫を地面に下ろし、手を放す前に残酷な、熟練した手つきで猫の最も敏感なところを撫でた。ある月夜、若者は山羊少女に山奥の谷間へ誘われる。廃墟となった暗闇の小屋から秘密の通路を抜けて、広い洞窟で山賊たち(死者)と出遭う。番人ナポレオン(若者の祖先)との戦い。勝利の酒宴。水辺に「母たち」が現われる『月ノ石』から。
    2020・2・6


  • 折々のねことば sknys 060

    猫は生まれながらのハンターである。ペットなどではない。だから家で飼うという発想をもったことはなかった。
    高橋 三千綱

  • 何十年か前、作家は十代の女子を数名引き連れて沖縄に行き、1カ月間サヴァイバル訓練をしたことがあった。ある時ジャングルを散策していた女子が罠にかかった血塗れの猫を見つけた。針金の罠を外そうとすると、敵と看做して反撃して来る。手を傷だらけにして罠を外したが、足の曲がってしまった猫は歩けないので、リックサックに入れて山小屋に戻って来た。女の子たちが手当てをして身体中に包帯を巻かれた猫は雪だるまのように目玉だけを剥き出していた。4日目の夜に逃亡して、数日後に戻って来た。鼠を咥えた猫が硝子の嵌まっていない窓の桟にいた。助けてくれた少女を見つけると、ニ ャーと鳴いてジャングルに帰って行った。鼠は猫のお礼だった。「猫はハンター」 から。
    2021・2・21

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    朝日新聞の朝刊コラム 「折々のことば」(鷲田清一)のネコ版パロディ「折々のねことば」第6集です。引用した言葉に解説文(171字以内)を添えるという〈折々のことば〉のフォーマットを踏襲しつつ、ブログ記事らしく横書きに変えました。具体的には拙ブログ記事の冒頭に引用したネコに纏わる文章の中からキーになる「ねことば」を抜き出して、8行の短文(312字以内)を添えるだけなのに、これが意外に愉しかったりして‥‥小説やエッセイの中から気に入った文章(400字前後)を単に引用するよりも、新聞記事の見出しやTV番組のCM前のワンフレーズみたいな短い言葉の方がキャッチーで耳目を惹くし、紹介文で「ねことば」の意図や真意を深く読み解ける。日付は「ねことば」やネコ本などを引用・紹介した記事の投稿日としたので、「折々のことば」 のような時系列順になっていません。「折々のねことば」 に興味を持った読者が引用文や引用元の「ネコ本」を読んでくれると嬉しいな。

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    • 「折々のねことば 051~060」 は引用・紹介文、出典名はアマゾンにリンクしました

    • 〈OCCASIONAL CATWORDS〉(折々のねことば 2005 - 2021)を更新しました
    • マンガ家の矢口高雄さんは2020年11月20日に亡くなりました(享年81歳)。合掌

    • 「折々のことば」 休載中(2021・2・3~)は「折々のねことば」で渇きを癒そう^^;
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    三毛猫がくれた幸福 ボクを癒してくれた「役立たず」のナッコ

    三毛猫がくれた幸福 ボクを癒してくれた「役立たず」のナッコ

    • 著者:矢口 高雄
    • 出版社:講談社
    • 発売日: 2010/09/28
    • メディア:単行本(ソフトカヴァ)
    • 目次:まえがき / 出会いの季節 /『ふるさと 「タマの失踪」 』/ 二股ぐらし / 別離の朝 / あとがき
    マンガ万歳 ── 画業50年への軌跡

    マンガ万歳 ── 画業50年への軌跡

    • 著者:矢口 高雄
    • 出版社:秋田魁新報社
    • 発売日:2020/09/28
    • メディア:単行本(聞き書きシリーズ・時代を語る)
    • 目次:プロローグ / 狙半内に生まれて / 忙しかった少年時代 / 描き続けた銀行員時代 / 漫画家の道、疾走 / 三平君と共に歩む / 題材はふるさとにあり / 高まる漫画への評価 / お気に入りの1作「ユリッペにドキドキ」/ 年譜

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