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猫のダルシー [c a t 's c r a d l e]



  • 生態学者、鳥類学者、数百万人にのぼる愛鳥家の大多数は、飼い主の有無にかかわらず、野外のネコを殺戮マシン(下線引用者)と見ている。多くの生物学者は、この侵略的外来種による捕食が実際に多くの野鳥と哺乳類の個体群の壊滅的ともいえる減少スパイラルの原因になっていると確信している。一方で飼い主のいないネコの世話をする数万もの善意の人々と 、家畜であるイエネコを飼って、野外に出す数百万にものぼる人々は、全員がネコを知性ある動物として大切に思っている。こうした人たちは、ネコを樹木や雲と同じく秩序ある自然の一要素とみなし、風景の一部としてとらえている。ネコ擁護派の人たちは「私たちの国は動物を愛する人たちの国です。ネコ好きの国でも鳥好きの国でもありません」と語る。しかし、ネコ愛護と野鳥愛護の支援者の間には対立が生じており、愛猫家や愛鳥家が認めようが認めまいが、動物たちにとってその対立は文字通り生死に関わる闘いである。
    ピーター・P・マラ+クリス・サンテラ 「ネコによる大量捕殺の実態」


  • ◆ あたしの一生(飛鳥新社 2000)ディー・レディー
  • 雌猫ダルシニア(ダルシー)の物語。生後7週目に 「あたし」 は 「あたしの人間」(ディー・レディー)の飼い猫となる。彼女が「あたし」を所有しているのではなく、「あたし」 に従属しているという母猫ナターシャの教えをダルシーはポール・ギャリコの『猫語の教科書』を読んでいるかのように実践する。ダルシーの一人称視点で語られる自伝だが、漱石の猫(吾輩)のように読心術に長けているわけではないので、度重なる引っ越しやクリスマス休暇、キャンピング旅行など、フリーランスの教師と想われる 「あたしの人間」 の私生活が具体的に描写されることは殆どない。車に轢かれて失った尻尾、妊娠と流産、「神様からの贈り物」 だった子猫バートルビー(ハーマン・メルヴィルの「代書人バートルビー」に由来?)の病死、性悪子猫タイバルトとの確執、肝臓病による食事制限など‥‥1989年7月6日の朝、安楽死したダルシー(享年17歳4カ月と1日)はバートルビーの隣に埋葬された。文庫版(小学館 2016)はジュディー・キングのイラスト16点を完全収録している。

  • ◆ 猫に学ぶ(みすず書房 2021)ジョン・グレイ
  • 英政治哲学者ジョン・グレイによる 「ネコ科の哲学」(Feline Philosophy 2020)。ショーペンハウワー、モンテーニュ、エピクロス、パスカル、アリストテレス、スピノザ、ニーチ ェ、トマス・ホッブズなどの哲学。フロイトやアーネスト・ベッカーの精神分析、米新聞記者ジョン・ローレンンスのメイオー、サミュエル・ジョンソンのホッジ、コレットのサア、パトリシア・ハイスミスのミング、谷崎潤一郎のリリー、メアリー・ゲイツキルのガッティ ーノ、ニコライ・ベルジャーエフのムリ、ドリス・レッシングの黒猫、トマス・ハーディのテスなどの愛猫を引用して、人間と猫との親密な関係や相違を考察する。「猫は自分の本性に従って生きるが、人間はそれを抑圧して生きる」 「猫は、昼の光りのなかで生きる夜行動物だ」 「猫の倫理はいわば無私の利己主義者である」 「猫の世界には自爆戦士はいない」 「猫にと って人間から学ぶものは何ひとつないが、人間は、人間であることにともなう重荷を軽くするにはどうしたらよいかを、猫から学ぶことができる」 「猫が教えてくれるのは、意味を探し求めることは幸福の探求に似た、ひとつの気晴らしにすぎないということだ」。

  • ◆ ハニオ日記(扶桑社 2021)石田 ゆり子
  • 『ハニオ日記 I 2016-2017』は2016年10月10日から始まる。2016年春 、石田ゆり子は生後約1週間の仔猫兄弟3匹を保護した。ハニオ(茶トラ)とタビ(白足袋)と、後に坂谷由夏に引き取られることになるメイ。ハニタビ兄弟は雪(ゴールデンレトリバー)とビスク先輩(チンチラゴールデン)に迎え入れられ、石田邸で一緒に暮らすことになる。おかーさん(ゆり子)のミルクまみれの日々。2017年正月、ビスク先輩がライオンカットされて戻 って来たが、ハニオは新入りの「りすさん」だと思っていて気づかない。1月25日にタビち ゃんが風邪で入院。3月25日、16年間一緒に暮らしたビスクが永眠する。1年前に保護された日から逆算して5月1日にハニタビ兄弟は1歳の誕生日を迎えた。10月23日、「階段の手すりの下の隙間から滑り落ちた」 ハニオが左足の太腿を骨折してしまう。「ハニオ日記」 の主な書き手は、おかーさん(ユ)とハニオ(ハ)で、時々タビ(タ)とビスク(ビ)が混じる。石田ゆり子は飼いネコたちの思いを想像しながら、一人称ネコ視点で日記を綴る。

  • ◆ 猫は知っていた(ポプラ社 2010)仁木 悦子
  • 植物学専攻の大学生・仁木雄太郎と音大生悦子(私)兄妹が箱崎医院に間借り下宿することになる。入院患者の失踪、院長夫人の母親と看護婦の殺害‥‥引っ越し先の病院で起こった連続殺人事件を仁木兄妹が解明する。仁木悦子の第3回(1957年)江戸川乱歩賞受賞作は60年以上前に発表されたミステリ。本作中にラジオ、電話、テープレコーダーなどは登場するが、TV、携帯電話、ヴォスレコーダーは存在しない。防空壕、太陽灯、張り物(和服の糸を解いて洗濯し、糊付して縫い直す作業)、炭屋、練炭火鉢、国電、ヨジーム・チンキなど、若い読者には説明しないと意味不明の言葉も出て来る。現在とは異なる生活様式や環境には隔世の感もあるけれど、中・高校生でも読めるジュヴィナイル風の作品で、犯行のトリックや犯人の動機には普遍性がある。院長の娘(園児)の可愛がっている黒猫チミも不本意ながら重要な役割を担っているが、三毛猫ホームズのようにヒントを示唆するわけではない。

  • ◆ 三毛猫ホームズの推理(光文社1978)赤川 次郎
  • 都内で発生した 「女子大生殺し」。犠牲者は友人のアパートで売春をしていた羽衣女子大の学生だった。三田村茂警視に調査を命じられた女性&高所恐怖症の刑事・片山義太郎は学部長室で森崎智雄の飼猫ホームズと出会う。その夜、内側から閂で閉ざされたプレハブ小屋(食堂)で資産家の森崎が殺害される。恋人の女子大生・吉塚雪子、弟の富田和生、阿部俊三学長、大中兼一教授、学生寮管理人・小峰老人、A建設工事主任・今井公三、片山の妹・晴美 、同僚の林刑事などの登場人物が複雑に絡み合う。新校舎建設に関わる賄賂疑惑、売春斡旋グループ、密室トリックの謎、女子大生連続殺人犯の正体‥‥主人を失って片山兄妹に飼われることになった「名探偵ホームズ」が事件解決のヒントを片山に示す人気シリーズ第1作。「第9回日本ミステリー文学大賞受賞記念出版」 の愛蔵版(光文社 2006)は 「赤川次郎ロング・インタビュー」、特別書下ろし短篇「三毛猫ホームズのいたずら書き」などを収録。

  • ◆ わたしはドレミ(亜紀書房 2021)平野 恵理子
  • ドレミは長年の友人レリーさんの紹介で、リリーさん(石田ゆり子)から貰われて来たキジ白猫(5歳)。エリー(平野恵理子)と2人(母一人子一人)暮らしの日々を一人称ネコ視点で描いている。ドレミという名前はエリーの大好きなライ・クーダーが歌っていたウディ ー・ガスリーのフォーク・ソング〈Do Re Mi〉から採られたという。ネコの思考はヒトには理解不能なので擬人化して想像するしかないけれど、そこで著者の観察眼と自己批評性が試される。ネコの生態・行動から気持ちを推測・想像して、自らを冷静に批判するわけだ。エリーの膝の上で対面して食べるおやつは至福の時間。「CIAOちゅ~る」 を夢中で食べていると「ドレちゃん、お顔が怖いよ~」と言われる。一心不乱に集中している時は動物の野生や人間の本性が表情に出るようだ。ドレミが熱心に毛繕いをしている時も、エリーに「ドレッティー、化け猫みたいな顔してるぞ~」と呼ばれてしまう。「飼い主のつぶやき・日記」 を併録したイラスト・エッセイ。

  • ◆ 庭猫スンスンと家猫くまの日日(小学館 2021)安彦 幸枝
  • 家猫と庭猫の間には見えない境界が存在する。ネコと暮らした17年間を記録した写文集(巻末にエッセイを収録している)。安彦家の庭に来るようになった雄猫は鼻炎で鼻を鳴らしていることからスンスンと名づけられた。友人たちと共同生活していた家に棲み着いた雌猫は熊笹の茂みから現われたので「くま」と呼ばれていた(鼻炎とエイズキャリアのスンスンと「くま」の同居は難しい。2匹を1階と2階に住み分けさせる)。友人が保護して「くま」と一緒に暮らすことになった子猫ピーヤ、タローとミニミニ兄妹(ミニミニは友人に引き取られる)。近所の家の庭で亡くなったスンスンは火葬されて庭に埋められた。実家の2階の寝室で息を引き取った「くま」の遺骨もスンスン畑に埋められて、「スンスン大根くま大根」 に生まれ変わる。「くまの喉仏は恋人たちが手をつないでダンスをしているようなかたちをしていた」 。ノラ猫アフとサブの写真集『庭猫』(パイ インターナショナル 2015)もある。

  • ◆ ネコ・かわいい殺し屋(築地書館 2019)ピーター・P・マラ+クリス・サンテラ
  • 鳥類学者とサイエンスライターによる 「ネコ戦争」(Cat Wars 2016)はイエネコを外来捕食者という視点で科学的に検証する。人間に虐げられた被害者ではなく、希少野鳥類などを絶滅させた「殺し屋」としてのネコの実態解明は愛猫家にとっては耳の痛い話である。本書はニュージーランド・スティーブンス島に灯台守の1人として移住したデビッド・ライアルの雌猫ティブルス(1894年に初上陸)とその子孫がスチーフンイワサザイなどの「あらゆる野鳥に大惨事をもたらした」という「イエネコによる絶滅の記録」から始まる。ネコによる野鳥類の絶滅、人間や動物に媒介する感染症(ペスト、バルトネラ菌、狂犬病、トキソプラズマ症、ネコ白血病)、野放しネコ(free-ranging cats)の駆除を主張する愛鳥家とネコ愛護派の対立。著者はノラネコを捕獲・不妊去勢・再放逐するTNR(Trap-Neuter-Return)にも否定的である。屋内でネコを飼って外に出さないことが唯一の解決策なのかもしれないけれど、外ネコが1匹もいなくなった近未来社会を想像するだけでゾッとする。

  • ◆ 名画のなかの猫(エスクナリッジ 2018)アンガス・ハイランド+キャロライン・ロ‥‥
  • 英グラフィック・デザイナーとグラフィック・アート・ジャーナリストの共著。猫が描かれた古今東西の名画(105点)と猫の格言(18篇)で構成されている。フランシスコ・デ・ゴヤ、デイヴィッド・ホックニー、レオナルド・ダ・ヴィンチ、パウル・クレー、バルテュス 、藤田嗣治、歌川国芳など著名な画家の「猫絵画」だけでなく、マイナーな画家たちの作品も多数掲載されている(山田緑は表紙カヴァの〈百閒先生の猫〉を含めて8点収録)。猫絵画の選定はアンガス・ハイランド、解説文はキャロライン・ロバーツが執筆している。《からだを丸めたフランツの白猫は、片耳をピンと立てて周囲を警戒している。目の色は確認できないが、白猫だからおそらく青色か黄色、あるいは左右で色が異なるオッドアイだったはずだ。青い瞳なら聴覚に障害があったかもしれないし、オッドアイならもしかすると、「デヴィッド・ボウイ」 という名前だったかもしれない》(フランツ・マルク 白猫 1912)

  • ◆ 世界の美しい野生ネコ (エクスナレッジ 2016)フィオナ&メル・サンクイスト
  • 「ネコ科の37種は1000万年もの進化によって8つの系統(近縁種のグループ)に枝分かれした」という。ヒョウ、ベイキャット、カラカル、オセロット、オオヤマネコ、ピューマ、ベンガルヤマネコ、イエネコの8系統(36種)を時系列順に写真と文で紹介・解説する大型ネコ科動物図鑑。大型ネコに分類されていたピューマは最新の遺伝子研究で、約350年前にチ ーターから枝分かれしたことが分子遺伝学者によって確認された。イエネコは5種に分類されている。飼い猫やノラ猫として人間と共存するイエネコ(Domestic Cats)。南アフリカとナミビアに棲息する足裏が黒くて小さなクロアシネコ(Black-Footed Cat)。ユーラシアからアフリカに分布するヨーロッパヤマネコ(Wildcat)、サハラや中東の砂漠や岩場で生活する耳の大きなスナネコ(Sand Cat)。アジアの草原や湿地帯で暮らすジャングルキ ャット(Jungle Cat)。生き生きとしたネコ科動物たちの美しい写真に魅惑される。豆知識を満載した囲みコラム(45篇)も興味深い。

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    あたしの一生: 猫のダルシーの物語

    あたしの一生 猫のダルシーの物語

    • 著者:ディー・レディー(Dee Ready)/ 江國 香織(訳)
    • 出版社:小学館
    • 発売日:2016/03/08
    • メディア:文庫(小学館文庫)
    • 目次:プロローグ / お互いを見初める / 遊ぶ / いやなこと / 一緒に旅をする / 生活習慣の確立 / 淋しさに耐える / 訓練 / 痛いめにあう / クリスマスをべつべつにすごす / 喪失感というもの / 猫の神様に会う / 共存すること / のら犬との対決 / 喪失感というもの / 人間の悲しみ / 災いにあう / 再び孤独を選ぶ / もういちど、はじめから / 理想の暮らし / 互い...

    ハニオ日記 I 2016-2017

    ハニオ日記 I 2016-2017

    • 著者:石田 ゆり子
    • 出版社:扶桑社
    • 発売日: 2021/05/31
    • メディア:単行本(ソフトカヴァ)
    • 内容:女優石田ゆり子が5年間に渡って点描し続けた日々の記録。彼女と動物たちの「なんでもない」毎日。「日々は続いていく。悲しみも喜びも飲み込んで。そして今日も朝日は昇るのです」この本で著者が伝えたかったことは、この言葉に尽きる‥‥

    猫に学ぶ──いかに良く生きるか

    猫に学ぶ いかに良く生きるか

    • 著者:ジョン・グレイ(John Gray)/ 鈴木 晶(訳)
    • 出版社:みすず書房
    • 発売日:2021/11/04
    • メディア:単行本
    • 目次:猫と哲学 / 猫はどうして必死に幸福を追求しないのか / 猫の倫理 / 人間の愛 vs 猫の愛 / 時間、死、そして猫の魂 / 猫と人生の意味 / 謝辞 / 註 / 訳者あとがき

    わたしはドレミ

    わたしはドレミ

    • 著者:平野 恵理子
    • 出版社:亜紀書房
    • 発売日: 2021/05/22
    • メディア:単行本
    • 目次:わたしはドレミと申します / 大寒の朝 / 日めくり / 朝のブラシ / 体重測定 / ごはん / おやつ / 怖い顔 / 期待には応えない / 回覧板の手さげ / わたしの寝場所 / 眠り猫 / わたしのトイレ / お引っ越し / お客さん / 雪 / エレガントな足取りで / プレイ / たかいたかい / 京壁のキズ / キーボード / テンブクロ / 脱走 / プリンセス天功事件 / ムンちゃん / お医者...

    ネコ・かわいい殺し屋──生態系への影響を科学する

    ネコ・かわいい殺し屋 生態系への影響を科学する

    • 著者:ピーター・P・マラ(Peter P. Marra) / クリス・サンテラ(Chris Santella)
    • 出版社:築地書館
    • 発売日:2019/04/09
    • メディア:単行本
    • 目次:イエネコによる絶滅の記録 / イエネコによる絶滅の記録 / 愛鳥家と愛猫家の闘い / ネコによる大量捕殺の実態 / 深刻な病気を媒介するネコ――人獣共通感染症 / 駆除 vs 愛護――何を目標としているのか / TNRは好まれるが、何も解決しない / 鳥、人そしてネコにとって望ましい世界 / どのような自然が待ち受けているのか? / 注 / 訳者あとがき / 参考...


    名画のなかの猫

    名画のなかの猫

    • 著者:アンガス・ハイランド+キャロライン・ロバーツ(Angus Hyland & Caroline Roberts)/ 喜多 直子(訳)
    • 出版社:エクスナレッジ
    • 発売日:2018/03/14
    • メディア:単行本(ソフトカヴァ)
    • 目次:ルシアン・フロイド / エリザベス・ブラックアダー / フランシスコ・デ・ゴヤ / デイヴィッド・ホックニー / フランツ・マルク / セバスティアーノ・ラッツァーリ / 作者不詳 / レオナルド・ダ・ヴィンチ / 虚谷 / キキ・スミス / モリス・ハーシュフィールド / ピーター・ブレイク / パウル・クレー / クリストファー・ウッド / バルテュス / 藤田嗣治 / 歌川国芳 / エドゥアール・マネ / クリストファー・ネヴィンソン / コルネリス・ヴィッセル / エドワード・ボーデン / アミ・フィリップス...


    世界の美しい野生ネコ

    世界の美しい野生ネコ

    • 著者:フィオナ&メル・サンクイスト(Fiona & Mel Sunquist)/ 山上 佳子(訳)
    • 写真:テリー・ホイットテイカー(Terry Whittaker)
    • 出版社:エクスナレッジ
    • 発売日:2016/07/30
    • メディア:単行本(ソフトカヴァ)
    • 目次:ヒョウ系統 / ベイキャット系統 / カラカル系統 / オセロット系統 / オオヤマネコ系統 / ピューマ系統 / ベンガルヤマネコ系統 / イエネコ系統

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