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猫のバディ [c a t 's c r a d l e]



  • LE SAC DES FILLES(Source 2002)Camille
  • 女の子たちのハンドバッグの中は?‥‥「CAMILLE」というリング付きネーム・プレート、洗濯バサミ、ヘア・クリップ、ダーツの矢、使用済みのコンドーム、万能ナイフなどがバッグから溢れ出し、花の髪飾りの周りに蝶々が羽ばたく。右手でバッグを持ちながら左手をバッグの中に入れている若い女性のイラストを注意深く見つめれば、この絵が室内の壁に直接描かれていることに気づくだろう。アルバム・カヴァは「壁画イラスト」を写真に撮ったものなのだ。壁の段差に描かれた黒ネコには不自然な立体感がある。証拠品のように、丸椅子の上の空き瓶や出窓に置かれた空き缶の中に絵筆がハサミやハンマーやミニチュアカーなどと一緒に入っている。白いハンマー〜開いたハサミ〜黒ネコ〜黒い万能ナイフという右端からの視線誘導は攻撃的なイメージを隠喩する。オルゴールが奏でるメロディから始まるワルツ曲(三角関係?)、キャバレー・ミュージック、アクースティック・ギター弾き語り風の三重唱、軽快なボサノヴァ(食器類の割れる破壊音が強烈!)など、パリ14区生まれのSSW、Camille Dalmais(24歳)のデビュー・アルバムです。

  • UH-OH!(Asphodel 2001)Tipsy
  • アーモンド型の大きな目、隈取りのようなアイシャドー、テントウ虫のイヤリング‥‥まるでムロタニツネ象の「地獄くん」や、鴻池朋子の「ナイフ少女」の眷族みたいなデカ目少女ではないか(ちょっと違うか?)。イラスト少女の睛に魅入られていると、彼女の手前で丸く引っくり返っている小さなトラ猫(肥ったミツバチにも見えなくない)を見逃しそうになる。少女と子猫と草花と樹々。スケールを無視したデペイズマンがポップでキッチュな夜をカラフルに演出する。Tipsyは米サンフランシコ出身のDavid Gardner & Tim Digullaのエレクトロ・ラウンジ・ユニット。生演奏とサンプリング音と混じり具合がスムースで、手描きとCGがシームレスに融合しているアニメのように心地良い。自宅で満喫する南国リゾート気分。まったりした無国籍インスト・ミュージック。3人の日本人女性がヴォイス参加している。東京ディズニーランド(トゥモローランド)のBGMに使われていたそうなので、Tipsyの曲とは知らずに耳にしている人も少なくないでしょう。

  • DUDE DESCENDING A STAIRCASE(Sony 2003)Apollo 440
  • アニメ「Tom & Jerry」のトムを想わせるネコが階段を降りて来る。どこかで見たような既視感に襲われてアルバム・タイトルを確認したら大当たり!‥‥「nude」→「dude」(洒落者、気取り屋、都会っ子)のダジャレだったのだ。アンソニー・オウスガング(Anthony Ausgang)のアクリル画〈Dude Descending A Staircase〉(1999)をトリミングしてアルバム・カヴァに使用しただけでなく、タイトルも引用している。マルセル・デュシャンの〈階段を降りる裸体〉(Nude Descending A Staircase 1912)はサロンに出品しようとした時に委員会から批判(タイトルの変更を要求)されて撤収、NYアーモリー・ショー(1913)に出品された際には「屋根瓦の爆発」と嘲笑されるなど、スキャンダラスな話題を提供した。キュビスムからも未来派からも冷遇された「裸体」(Nude)だったが、88年後の粋なネコ(Dude)はタイトル通りにシャレている。

  • LADYHAWKE(Modular 2008)Ladyhawke
  • 《Where You Been》(1993)のバケモノじみた男は腰のベルトに短銃を差してヒッチハイクしていたが、Ladyhawkeは玩具のピストルをパンティに挿んでスーパー・ファミコンに興じている。ブロンド髪にバンダナを巻いて素肌に白いシャツを纏った、立ち膝姿勢でプレイする娘の周りに3匹のネコたちが屯する。野性味溢れる精悍なネコたちに惹かれて購入したけれど、「猫ジャケ」じゃなかったら素通りしていたかもしれない。歌詞ブックレットの中にはLadyhawkeやネコたちだけでなく、コウモリやプテラノドン、アタリ社製のコンピュータ・ゲーム、UFO‥‥などのイラストも描かれている。目や口の部分だけ切り取った白いケープを頭からスッポリ被ったネコたちの姿は、まるで「オバケのQ太郎」みたい(オバQは犬嫌いだった)。アルバムのアートワークを手掛けたのはSarah Larnachという女性イラストレータ。ニュージーランド出身のLadyhawkeことPhillipa Brownのデビュー・アルバムは大味なエレクトロ・ポップで魅力に欠けるけれど、「猫ジャケ」の秀作として記憶に残るはずです。

  • BEATS AND BREAKS FROM THE FLOWER PATCH(Kindercore 1999)Kitty Craft
  • 赤や黄色やヴァイオレット‥‥タンポポやスミレの草花が咲く花畑でミツバチやテントウ虫と戯れる可愛い子猫ちゃん。裏面にはオレンジ色の花とピンクの蝶々、盤面には木に昇って降りられなくなった(跳び降りようとしている?)ネコ。CDショップで思わず「ジャケ買い」しちゃった女性も少なくないでしょう(『猫に恋して』の著者・高田理香さんも「ジャケットの仔猫のあまりの可愛らしさにノックアウトされて思わず購入。完全に "ジャケ買い" です」と書いています)。優しいブレイク・ビーツと懐かしいアナログ・ノイズの記憶の中で「子猫工芸」(Kitty Craft)こと、Pamela Valfer嬢が夢見るように歌う。初夏の昼下がり、午睡の夢?‥‥〈Make It With You〉のバックトラックみたいだったり、Stereolab風のドリーミングなポップスだったり‥‥。国内盤のアルバム・タイトルは《お花畑より子猫がヒョッコリ Beats And Breaks》

  • BLACK EYE(Enclave 1996)Fluffy
  • Raincoats、Slits、Go-Go's、Bangles‥‥女性ロック・バンドは長続きしない。その理由の1つに、結婚(という形態を選択するかどうかは兎も角)→ 出産 → 育児という女性ならではのジェンダーがあるからだろうか。仕事(音楽)か家庭(子育て)かという二者択一を迫られて、前者を選ぶ女性は少ないでしょう。ロンドンで結成された4人組の女パンク・バンドFluffyもオリジナル・アルバムを1枚リリースしただけの短命(1994-98)に終わってしまった。3人組のBabes In Toylandと比較すると楽曲は単調だし、技巧的でもヴォーカルに強烈な個性があるわけでもない。レディース・パンクとしてはAmanda Rootesのヴォイスが可愛すぎたのかもしれない。凶暴そうな黒ネコが白ネズミを捕獲して食べようとしている弱肉強食のアルバム・カヴァ(イラストにもモノクロ写真にも見える)は、Kitty Craftの仔猫ちゃんとは真逆のシチュエーション。ネコ好きには黒ネコの寄り目がコミカルに映るけれど、ネズミ好きの人には見るに耐えない残虐シーンなんでしょうね。

  • MY NAME IS BUDDY(Nonesuch 2007)Ry Cooder
  • 俺の名前はバディ。小さなスーツケースを抱えて放浪の旅に出た赤ネコ。旅の仲間はネズミのレフティとヒキガエルのトム。チャーリー叔父さんにネズミは友達だから捕ってはダメだ って言われていたからね。炭鉱組合のストライキに加わって投獄されたり、農場でブタのJ ・エドガー・フーヴァ(元FBI長官の名前だ!)と出会ったり、コヨーテが彷徨する砂漠で「緑色の犬」(エイリアン?)と遭遇したり、ジュークボックスから流れるHank Williamsの歌に共鳴したり、赤狩り事件に巻き込まれて捕まったり、バンドのツアーにリズム・ギタリストとして参加して歌ったり、投票所から邪険に追い出されたり、教会でカメラを持った女性から5ドル寄付してもらったり‥‥。Ry Cooderは赤ネコのバディと仲間たちに成り変わって歌い演奏することで、1930年代以降のアメリカ史を寓話的に描き出す。バディと仲間たち物語と歌詞を収録したブックレット(52頁)付きのハードカヴァ仕様なので、音楽を聴きながら読む「ネコ本」としても愉しめる。2005年に亡くなった愛猫バディと仲間たちに捧げられたアルバムである。合掌。

  • I CAN WONDER WHAT YOU DID WITH YOUR DAY(Jagjaguwar 2009)Julie Doiron
  • 姉弟だろうか。青い空と緑の草原を背景に白いロングドレスの少女と半袖シャツの少年が並んで立っている。左の少女はピンク色のネコ耳と黒いヒゲ、右の少年はバットマンの覆面と黒いマントでコスプレしている(ハロウィンの仮装パーティかしら?)。それも完成した絵に後から描き足した「イタズラ書き」のように見えるところが可笑しい。少年が正義のヒーロー、バットマンならば少女はキャット・ウーマンという役どころだろうか(3面見開き紙ジャケの裏面にネコ耳少女が長剣を担いでいるイラストが描かれているので、冒険ファンタジーごっこなのかもしれない)。Julie Doironはカナダ出身の女性SSWだが、アルバムでは12曲中8曲を3ピースのバンド・スタイル。Julie(ヴォイス&ギター)、Fred Squire(ドラムス&ギター)、Rick White(ベース)という編成で録音している。30分余りのアルバムの中に2009年のポスト・ロック的な息吹きが詰まっている。

  • C'EST COM... COM... COMPLIQUE(Bureau B 2009)Faust
  • 「猫ジャケ」コレクションと称してトラやヒョウ、ライオンなどネコ科の大型肉食動物のアルバム・カヴァを紹介しているサイトやブログは猫頭豹肉、「ネコ科(か?)ジャケ」と改めるべきじゃないかしら。独クラウトロック(Krautrock)を代表するFaustの最新作はネコとトラのコラージュ・ジャケ。木の上のネコがトラをからかう。地上のトラはネコを威嚇する。木は見ているだけで何もしない。シンプルな三角関係。そこにベルやグリル、セメント・ミキサーの金切り音、真空管の爆発が加わったら、『それは、複、複、複雑化してないの?』という意味のアルバム・タイトルで、表題曲には複雑系のノイズが聴こえる。現在のFaustはオリジナル・メンバーのZappi Wemer Diermaier(ドラムス)とJean-Herve Peron(ベース&ヴォイス)の2人に、仏エクスペリメンタル / ポスト・ロック・バンドUlan BatorのAmaury Cambuzat(ギター)を加えたトリオ編成。木の上のコラージュ・ネコは不思議顔の「まこ」に似ていなくもない。

  • HOW MANY BANDS DOES IT TAKE TO SCREW UP A BLONDIE TRIBUTE? (Sympathy For The Record Industry 2001)Various Artists
  • 女の子の部屋は散らかっている。壁にはDeborah Harryのポスター、チェストの上には怪獣のフィギュア、半開きの引き出しから靴下がハミ出し、ピンク色のベッドの上にはワンワンの縫いぐるみ、水色の絨緞の上にポータブル・ステレオと電話機が置かれ、化粧道具やバッグ、日記帳、Blondieのアナログ・レコードなどが散らばっている。ここはブロンディおたく少女の部屋だったのだ。青いヘア・ブラシをマイク代わりにして音楽に合わせて歌う「なりきりハリー!」。少女の傍らで、青いネコが目を瞑ってウットリと聴き入っている。ネコには飼主の精神状態と一体化して寄り添う特性があるというけれど、同じ表情の少女とネコは一心同体で微笑ましい。女の子バンド48組48曲を2CDに収録した「コンピレーション・アルバム」をリリースしたこともある米インディ・レーベルからのブロンディ・トリビュート・アルバム。総勢24組の無名ガールズ・バンドがBlondieの曲をカヴァする。恐らくアメリカ国内には彼女たちの何十倍、何百倍の女性バンドが存在するのだろう。インナーにはDeborah HarryとChris Steinの自筆メッセージも添えられている。

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    • 「ネコード 3」はネコ・イラスト・ジャケ集です

    • アルバム・タイトルの ◆ をクリックすると、拡大された 「猫ジャケ」 が表示されます

    • 記事タイトルの右に一覧カタログのリンク・ボタン(肉球アイコン)を付けました

    • 猫のバディと仲間たちの物語は泣けるにゃあ
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    Le Sac Des Filles

    Le Sac Des Filles

    • Artist: Camille
    • Label: EMI
    • Date: 2003/01/28
    • Media: Audio CD
    • Songs: 1, 2, 3 / Paris / Demeure d'Un Ciel / Ex / Mon Petit Vieux / Ruby / Sac des Filles / Homme Deserte / Je Ne Suis Pas Ta Chose / Elle S'En Va / Ou Je Suis Nee


    Uh-Oh!

    Uh-Oh!

    • Artist: Tipsy
    • Label: Asphodel
    • Date: 2001/03/06
    • Media: Audio CD
    • Songs: Hard Petting / Papaya Freeway / Hey! / Sweet Cinnamon Crunch / Neon Tetra / Wig Out / Reverse Cowgirl / Swallowtail / Moisture Seekers / Kitty Takes a Ride / Fur Teacup / Pink Mood / Bunny Kick / Suez Motel / XXXmas / Seaweed / Zombie's Mood / Eclipse Of ...


    Dude Descending A Staircase

    Dude Descending A Staircase

    • Artist: Apollo 440
    • Label: Import [Generic]
    • Date: 2003/06/23
    • Media: Audio CD(2CD)
    • Songs: Dude Descending A Staircase / Hustler Groove / Disco Sucks / N'Existe Pas / Electronic Civil Disobedience / 1, 2, 3, 4 / Escape To Beyond The Planet Of The Super Ape / Time Is Running Out / Children Of The Future / Diamonds In The Sidewalk / Something's Got To Give ...


    Beats And Breaks From The Flower Patch

    Beats And Breaks From The Flower Patch

    • Artist: Kitty Craft
    • Label: Kindercore
    • Date: 2000/03/28
    • Media: Audio CD
    • Songs: Par 5 / Inward Jam / One Fortune Smile / Alright / Half Court Press / Mama's Lamp (American Mix) / Locked Groove / Down For / Shine On / All To You / Caught High


    My Name Is Buddy

    My Name Is Buddy

    • Artist: Ry Cooder
    • Label: Nonesuch
    • Date: 2007/03/06
    • Media: Audio CD
    • Songs: Suitcase in my Hand / Cat and Mouse / Strike! / J. Edgar / Footprints in the Snow / Sundown Town / Green Dog / The Dying Truck Driver / Christmas in Southgate / Hank Williams / Red Cat Till I Die / Three Chords and the Truth / My Name is Buddy / One Cat, One Vote...

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