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猫のチェシャ [c a t 's c r a d l e]



  • じつは昔、チェシャチーズというチーズがあって、その片面に歯をむきだして笑っているネコの顔が描かれていたのだ。ネコの残りの部分は省かれていたので、笑い以外はすっかり消えてしまったという印象を受けるのである。〔‥‥〕チェシャチーズ・メーカーが笑っているネコを自社製品の商標にしようと考えたのは、「チェシャネコのように笑う」という表現がまったく別の理由ですでに使われていたからであった。それは5世紀ほど前に流行っていた「チェシャ・キャターリングのように笑う」という言い回しの省略形であった。キャターリングはリチャード3世時代の必殺の剣士で、その不気味な笑いで知られた王室御料林の保護官であった。キャターリングはやがて省略されて「キャット」となり、とくに意地の悪い笑いを浮かべる人は「チェシャキャットのように笑う」と言われた。キャロルは恐らくその言葉を知っていたであろうが、笑いが体より後まで残ると述べているところをみると、実際に影響を受けたのは剣士よりもむしろチーズの方だったと思われる。
    デズモンド・モリス 「なぜチェシャネコのようににやにや笑うというのか」


  • LE CHESHIRE CAT ET MOI(Mercury 2009)Nolwenn Leroy
  • 《チェシャ猫と私》というアルバム・タイトルは『アリス・イン・ワンダーランド』を想わせる。「不思議の国のノルウェン」?‥‥フェロー諸島出身のSSW、Teitur Lassenのプロデュース。Rupert Hineが〈Le Cheshire Cat〉のコーラスと〈Cauchemar〉の作曲で参加、Nico Muhlyが弦楽四重奏のアレンジを4曲担当。全11曲38分の小品ながら、Nolwenn Leroyの優しいヴォイスを生かしたチェンバー・ポップスになっている。動物好きらしく、2ndアルバムでは4羽の孔雀に、ライヴ・アルバムでも白鳥、兎、梟、山猫たちに囲まれていた(流し目は彼女のトレードマーク?)。ジャケ違いの「限定盤」はプラス2曲。13枚のカラー・イラスト&歌詞カード付きで、絵本のように愉しめる。少女コミック風のNolwenn嬢はチェシャ・キャットのように可愛く笑っているが、彼女に抱かれている丸々と肥ったネコは何故か困惑顔。ネコというよりも灰色の仔タヌキちゃんに見えるのですが‥‥。

  • CONGRATULATIONS(Sony 2010)MGMT
  • NYブルックリンのデュオMGMTの2ndアルバムは大波がネコの横顔になってサーファー・ネズミ(?)に襲いかかる「ネコード」。どこかで前に見たことのあるようなネコ・イラストだなぁと思ったら、Apollo 440の《Dude Descending A Staircase》(2003)と同じくアンソニー・オウスガング(Anthony Ausgang)によるアクリル画だった。「伊達ネコ」はマルセル・デュシャンの〈階段を降りる裸婦〉のパロディになっていたが、一見してネコとは分からないくらいに「ビッグ・ウェイヴ」が図案化されている。32頁ブックレット付きの「限定盤」は同梱されている500円硬貨大の穴あき「ネコイン」でカヴァを擦ると、あ〜ら不思議にゃん!?‥‥という超バカバカしい趣向。Sonic BoomとMGMTの共同プロデュース。Jennifer Herrema(RTX)さんが2曲でゲスト・ヴォーカル参加。12分を超える長尺曲〈Siberian Breaks〉や〈Brian Eno〉という人を喰ったパンク・ナンバーもあります。

  • RIGHT ON(Ministry Of Sound Recordings 2008)Lottergirls
  • 陶製の置き物に彩色したのだろうか?‥‥躰全体をクリーム色、両耳と口唇と足先をピンクに塗っているので可愛いけれど、余りネコらしくない(タラコ唇のネコがいるかしら)。独エレクトロ・トリオTerranovaのプロデュースで、リード・ヴォーカルにNYのヒップポップ女王、Princess Superstarを迎えたLottergirlsのデビュー・アルバム。ディスコ・パンク〜エレクトロ・ハウスが小気味良い。Romeo Void、X-ray Spex、Roxy Music‥‥という選曲も通好みだし、The GlimmersやRudi Moser(Einsturzende Neubauten)など、ゲスト陣も豪華。かつて女装のゲイ・モデルと噂されて、女性であることを証明するために独PLAY BOY誌でヌードになったという逸話を残したAmanda Learのヴォイスを〈I Can Hear Music〉で聴けるだけでも嬉しいのに、「猫ジャケ」 とは感無量です。Amazon UK(MP3 Download)の《Right On》はCDと同趣向のジャケ違いだが、金髪少女の傍に黒猫がいる。Princess Superstarもネコ好きなのかもしれない。

  • CRAZY FOR YOU(Mexican Summer 2010)Best Coast
  • 黄色い空、太平洋に沈む赤い夕陽、緑の芝生に植えられた椰子の木、海上に浮かぶネコのコラージュ、「BEST COAST」というバンド名の中に嵌め込まれたサンタ・モニカ周辺の地図‥‥Best Coastのデビュー・アルバムは米西海岸を強く意識させる。LAの男女デュオ、Bobb Bruno(ギター、ベース&ドラムス)とBethany Cosentino(ギター&ヴォーカル)はノスタルジックな60年代風サーフ・ロックを奏でる。Fenneszが《Endless Summer》(2001)で「過ぎ去った夏」の心象風景を抽象的に描いたように、Best Coastは原色のポップ・アートで「終わらない夏」を描く。ローファイ・ポップなサウンドだが、たとえば〈Honey〉の重く引きずるようなビートがグランジを想わせるように、浅薄で浮ついたところはない。Bethany嬢は愛猫家としても有名で、飼いネコのスナックス(Snacks)ちゃんがスリーヴを飾っている。Bobb Brunoの謝辞欄にはCarla Bozulich(Evangelista)やNils Cline(Wilco)などの名前もある。現在は元The Vivian GirlsのAli Koehler(ドラムス)が加入してトリオ編成になっているらしい。

  • THE NO MUSIC OF AIFF' S...(Anticon 2003)Themselves
  • 英ヒップホップ・デュオThemselves《The No Music.》(2002)のリミックス・アルバム。Themselves(Jel & Doseone)を含む12組のミュージシャンが12曲のリミックスを手掛けている。青い模様の赤い円の中にネコ写真をコラージュしただけの素っ気ないアートワ ークだが、ネコとThemselvesの頭部と胴体(筋肉組織)、Osama(bin Laden)とメンバー&フレンズ探しゲーム、キリストの顔をネコに挿げ替えたタブロー(額装画)など、インナー・スリーヴのコラージュの方が凝っている。Why?がリミックスした〈Poison Pit〉やHoodの強烈な〈Livetrap〉など、変態ヒップホップが炸裂!‥‥〈Hat In The Wind〉のヴォイスはネコの鳴き声っぽい。CDには映像特典として〈Poison Pit〉の長尺PV(14分15秒)も収録。2人が道端で発見したネコの死骸(頭部だけが白骨化している)、台所で死んでいた飼いネコ!‥‥このヴィデオを視ると、「猫ジャケ」の意味が分かって来る。「彼ら自身」はヒップホップ界のWeenかしら?

  • CAMPFIRE CLASSICS(Dell'orso 2009)Sibrydion
  • SibrydionはOsian & Meilir Gwynedd兄弟を中心とする英ウェールズ出身の5人組。夜の森で焚き火をしているネコとフクロウ。妹と一緒に母親を見舞ったジム・キャロルも枕元でで寝ているデブ猫(23歳)がフクロウのようだったと書いているように、猫と梟の親和性は高い。焚き火の右でギターを弾いているフクロウと左で音楽を聴いているネコは互いに流し目で惹かれ合っているように見えるけれど、ネコの胴体には楕円形の穴が空いているのだ。フクロウは美しいメロディを奏でてネコを誘う。ネコもギターの音色に耳をそばだてるが、耳から入った音楽は虚ろな空洞を通り抜けてしまう。「どうして、お腹に穴が空いているの?」‥‥フクロウが不思議に思って問いかけると、ネコは「穴あき猫」になった顛末を語り出す。ある日、森に侵入した密猟者に捕まって、毛皮を剥ぎ取られてしまったの。瀕死状態の私を発見した森の魔女は怒り狂って、その密猟者の皮膚を剥いで八つ裂きにしたの。毛皮を奪い返した魔女は魔法で私を元の姿に戻そうとしたけれど、お腹の部分の毛皮だけが足らなかったの。三味線の皮に使われてしまった後だったのよね‥‥。

  • AN INTERLUDE TO THE OUTERMOST(Kraak 2007)Kiss The Anus Of A Black Cat
  • 左耳が千切れた黒ネコの写真は『Animal Right』(1989)という本から採られたという。耳の先をカットしたネコは日本では避妊手術済みの印だが、首紐の先の壷(岩?)に繋がれている黒ネコの耳は明らかに動物虐待された傷痕である。Kiss The Anus Of A Black CatはStef Irritantを中心とするベルギー産のロック・バンドで、チェロの重低音が厳かに響くワルツ〈Salt〉や9分を越える〈Cornflowers For Our Brothers〉など、硬派でストイックなサウンドに身が洗われ、引き締まる。動物行動学者のデズモンド・モリスによると、ネコが後ろを向き頭を下げて尻を高く上げるポーズは母ネコに肛門を確認して欲しいという意志表示だという。そんな時は「大丈夫、綺麗になっているよ」と話しかけて、お尻をポンポンと叩くことにしている。いくらネコ好きだからといっても、母ネコみたいに子猫のアヌスをペロペロ舐めたりしないように‥‥。

  • BLACK HILL: MIDNIGHT AT THE BLIGHTED STAR(Lumberton Trading 2008)Human Greed
  • 地上で骸骨化した亡霊が倒壊した建物の間を彷徨い、天上でネコたち(犬や小鳥)が見下ろし、白いドレスを着た髑髏ネコ少女が舞い降りる‥‥デビュー・アルバム《Consolation》(Omnempathy 2005)のペロペロ・キャンディを左手に持っているネコ娘(日本の女子高生?)や、Angels Of Heart《We Are Him》(Young God 2007)の誕生日プレゼントの骨を右手に持った犬少年(裏ジャケには左手に警棒を携えたネコ警官が描かれている)など、Deryk Thomasの描く特異な幻想画は1度見たら忘れられない。英スコットランドのHuman GreedはMichael BeggとDeryk Thomasのユニット。メランコリックなエクスペリメンタル〜ドローン世界を約1時間に渡って繰り広げる。Julia Kent(Antony And The Johnsons)、Fabrizio Modonese Palumbo(Larsen)、David Tibet(Current 93)などがチェロやヴォイスでゲスト参加している。

  • THE CARLTON CHRONICLES(Misra 2005)South San Gabriel
  • 仲良く並んで月を見ている白と黒2匹のネコの後ろ姿‥‥《The Carlton Chronicles: Not Until the Operation's Through》は、Ry Cooderの《My Name Is Buddy》(2007)にも似たネコのカールトン(Carlton)の物語である。ツバメのロン(Ron)に対する相反する複雑な感情。ライヴァル犬のラモン(Ramon)と飼主(Owner)。カールトンはネコ友だちのキティーフォン(Kittyphone)にロンの死を自慢げに語る。しかし、カールトンの心は虚しさで憔悴してしまう‥‥「ボクの攻撃性がボクを悩ますことになるなんて」。米テキサス出身のSouth San GabrielはWill Johnson(Centro-Matic)の別プロジェクト。Neil YoungやSufjan Stevensに通底する抒情的なフォーク・ロックを奏でる。ヴァイオリンやヴィブラフォン、バンジョー、マンドリン、ペダル・スティール、スライド・ギターなど、柔和で優しいサウンドに包まれる。

  • BORN TO BE A MOTORCYCLE(Asthmatic Kitty 2005)Bunky
  • もしレーベル・マークも「ネコード」として数えて良いならば、「Fat Cat」「Studio Ghibli」のアルバムは全部「猫ジャケ」になってしまう。お尻とシッポを高く上げて威嚇している黒ネコ・アイコンの「Asthmatic Kitty」も同様だが、正真正銘の「猫ジャケ」は意外に少ない。米サン・ディエゴの男女デュオ、Bunkyのアルバム・カヴァには芋虫のようなEmily Joyceと蓑虫みたいな格好でギターを弾くRafter Robert、オルガンを弾いている謎の人物と共に、立ってベースを弾くネコが描かれている(ヘタウマ・イラストなので辛うじてネコに見えるというレヴェルですが)。Emily & Rafterの2人が友人たちやネコの手を借りて(?)作ったデビュー・アルバムはトランペットやサックス、トロンボーンなどのブラスが入った賑やかで騒々しいローファイ・ロックになっている。ちなみに「Bunky」はウサギ(bunny)とサル(monkey)の造語だとか。それで、Rafter Robertはウサ耳を着けているのね。

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    • お気に入りの猫ジャケ10枚を紹介する「ネコード」シリーズ第4集です

    • アルバム・タイトルの ◆ をクリックすると、拡大された 「猫ジャケ」 が表示されます

    • 記事タイトルの右に一覧カタログのリンク・ボタン(肉球アイコン)を付けました
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    Le Cheshire Cat Et Moi

    Le Cheshire Cat Et Moi

    • Artist: Nolwenn Leroy
    • Label: Mercury
    • Date: 2009/12/08
    • Media: Audio CD
    • Songs: Le Cheshire cat & moi / Faut-il, faut-il pas? / Mademoiselle de la gamelle / Feel Good / Cauchemar / Valse au sommet / Parfaitement insaisissable / You get me / Textile schizophrenie / Amis de jours de pluie / Safe & sound / Ici c'est moi qui commande / Aucune idée


    Congratulations

    Congratulations

    • Artist: MGMT
    • Label: Sony
    • Date: 2010/04/13
    • Media: Audio CD
    • Songs: It's Working / Song For Dan Treacy / Someone's Missing / Flash Delirium / I Found A Whistle / Siberian Breaks / Brian Eno / Lady Dada's Nightmare / Congratulations


    Right On

    Right On

    • Artist: Lottergirls
    • Label: Ministry of Sound Recordings
    • Date: 2008/07/01
    • Media: Audio CD
    • Songs: Never Say Never / The Day the World Turned Dayglo / Moped / Stay Out / Love is Dope / Renegade / I Can Hear Music (La Coma ost) / Dreamhome / Bonfini / Lotterboy / 9 Inch / Can't Go for Love


    Crazy For You

    Crazy For You

    • Artist: Best Coast
    • Label: Mexican Summer
    • Date: 2010/07/27
    • Media: Audio CD
    • Songs: Boyfriend / Crazy for you / The End / Goodbye / Summer Mood / Our Deal / I Want To / When The Sun Don't Shine / Bratty B / Honey / Happy / Each and Everyday / When I'm With You


    Born To Be A Motorcycle

    Born To Be A Motorcycle

    • Artist: Bunky
    • Label: Asthmatic Kitty
    • Date: 2005/03/01
    • Media: Audio CD
    • Songs: Baba / Yes/No / Funny Like The Moon / Gotta Pee / Boy/Girl / Chuy / Cute Not Beautiful / Glass Of Water / Heartbunk / Lipstick Life

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    コメント 2

    お針子姫

    猫ジャケだから、ネコード!
    CDでもレトロな感じに聞こえますね。
    ネコってつくと素敵に感じてしまいます。

    チェシャネコのことわざの意味がよくわからなかったのですけれど
    怖い人の笑い方だったのですね。
    どんな笑い方なのかなってずっと思っていたのです。
    チェシャネコの姿を想像できるようになりました。
    出てきたらちょっと怖いかも・・・。
    チェシャチーズ見てみたいな。
    by お針子姫 (2011-03-23 23:41) 

    sknys

    お針子姫さん、コメントありがとう。
    「ネコード」(necord)にはアナログLPを想わせる
    ノスタルジックな響きがありますね。

    チェシャチーズの「ネコ商標」が見つかりません。
    チェシャ・キャターリング(Chesire Caterling)の肖像画も
    見たいような、見たくないような^^;

    〔‥‥〕で省略したデズモンド・モリスの文章は下記の通りです。
    「ルイス・キャロルはこれらのチーズをよく知っていたのであろう。だがもしかすると、彼はもっと昔の種からそのアイディアをとったのかもしれない。」
    by sknys (2011-03-24 23:36) 

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