◆ NOTHING TO FEAR(A&M 1982)Oingo Boingoオインゴ・ボインゴ(Oingo Boingo 1979-1995)はティム・バートンの映画音楽作曲家として知られるダニー・エルフマン(Danny Elfman)が率いていたニュー・ウェイヴ・バンド。ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムス、キーボードに、3ピースのホーンセクションを加えた8人組はアメリカのXTCという趣き。2ndアルバムのカヴァ・イラストは2本足で直立している猫エイリアンみたいな黒斑灰色のネコとクリスマスツリーの下にいる極彩色のイグアナが会話しているように見える。両手を差し伸べているので、「Nothing To Fear」 というタイトルは宇宙猫人の発した言葉なのかもしれない。アルバム・カヴァを描いたジョ ージアン・ディーン
(Georganne Deen)はシュルレアリスム系の女性アーティストで、公式サイトには摩訶不思議な絵画がアップされている。裏カヴァにはマッチョなポーズを決める白塗り顔のDanny Elfman(ヴォーカル)と呆れ顔のSteve Bartek(ギター)の2人が写っている。化猫や骸骨に魅せられたダニーの変態パフォーマンスは若気の至りかしら?
◆ PASCAL PINON(Morr Music 2010)Pascal Pinonパスカル・ピノン(Pascal Pinon)はアイスランド・レイキャヴィク出身のアウスズヒルヅル(Ásthildur)とヨフリヅル(Jófríður)による双子姉妹デュオ。ユニット名が双頭のメキシコ人フリークス(サーカス芸人)の名前パスカル・ピノン(Pasqual Pinon)に由来することからも、可愛いだけじゃないという2人の強い思いが込められている。14歳の時に自主制作したデビュー・アルバムの再発盤のカヴァにはパステルカラーのパッチワークに鼻先を黒く塗って、口の両端にヒゲを描いた全身黒づくめの子供がコラージュされている。黒いネズミに見えなくもないけれど、左右の耳が尖っているので(ネズミならばミッキーマウスの耳のように丸くなっているはず)、黒猫のコスプレのように見える。黒ネコやロビン少年みたいな黒マスクの子供(裏カヴァ)には女性写真家クリスタマス・クローシュ
(Kristamas Klousch)の「バステト」
(Bastet)を想わせる妖しさも秘めている。
◆ TOURIST HISTORY(Kitsune 2010)Two Door Cinema ClubTwo Door Cinema Clubは2007年、北アイルランド・バンガー / ドナガディーで結成されたインディ・ロック・バンド。 Alex Trimble(ヴォーカル、ギター、シンセ、ビーツ)、Sam Halliday(ギター)、Kevin Baird(ベース)のドラムレス・トリオで、バンド名は地元の映画館「Tudor Cinema」をSam Hallidayが言い間違った(誤って発音した)ことに由来する。デビュー・アルバムのカヴァには夜間のフラッシュ撮影で瞳が緑色に発光したトラ縞ネコ(王冠を冠っている)が写っている。いわゆる「ネコ写真」としては失敗作だが、凝 っているのは透明プラケースにプリントされた「TWO DOOR CINEMA CLUB」という太字ロゴの 「C」 と 「O」 だけが細い円形文字になっていて、「DOOR」 の「OO」がネコの両目を白く囲み、まるで丸眼鏡をしているように見えること(アルバム・タイトルも「T◯URIST HIST◯RY」となっている)。さらにカヴァを兼ねた4枚綴り歌詞カードに記載されている曲ナンバー、曲目、歌詞の「0・C・O」も同じように表記するという凝りようである。
◆ MALINALLI(Elefante En La Habitacion! 2016)Maria Pienマリア・ピエン(Maria Pien)はブエノスアイレス・アルマグロ生まれの生ギター弾き語りタイプのSSW。ブックレット仕様(限定500部)の初回限定盤(2014)のカヴァは蛙や蝶や手などを描いた2色イラストだったが、ジャケ違いの再発・通常盤は黒地に女性の横顔や家屋、椅子‥‥そして妖しいネコちゃんが描かれている(デビュー・アルバム
《La Vuelta Manzana》(2012)の
「裏カヴァ」にも2匹のネコがいた)。歌詞や楽譜、ギター・コード、イラストなどが掲載された豪華版のブックレット(48頁)も欲しくなるけれど、エルダ・ブロージョ(Elda Broglio)による「猫ジャケ」も超可愛い。三面デジパック仕様、全10曲・28分。M字開脚した股間をテレキャスターで隠したカヴァ・アルバム
《Afuera El Sol Estalla》(2018)ではエレクトリック・サウンドに進化している。
◆ CATZILLA(Chinese Man 2017)Baja Frequencia個体の大小は比較によって決まる。たとえば蟻のように小さな異星人たちにとって、可愛い黒猫ワッフルも怪獣ゴジラにも匹敵する大脅威となる。口から黄色い放射熱線を吐く巨大黒ネコはネコとゴジラの合体獣(Catzilla)で、裏カヴァにはタイトルとアーティスト名が 「猫コシラ」 「低周波」」と表記されている。駄洒落ならば「猫ジラ」とするところだが、日本語が分かっているようで分かっていない? ‥‥バハ・フレケンシア(Baja Frequencia)は仏マルセイユのDJ、AzuleskiとGoodjiuのデュオで、ゲスト・ヴォーカルを招いてクンビア、アフロ、レゲエ、ヒップホップなどを混ぜ合わせたトロピカル・ベース・ミュージックを作る。「猫コシラ」も放射熱線攻撃を止めて踊り出す愉しさである。8曲入りEP《Catzilla》に続く、1stアルバム
《Hot Cats》(2019)も 「猫ジャケ」(Frank Zappaのアルバム
《Hot Rats》(1969)のパロディ・カヴァ)だった。
◆ BULLS AND ROOSTERS(Nettwerk 2017)Together Pangea「牡牛と雄鶏」というアルバム・タイトルなのに牛も鶏もいない。黄色でコーディネイトされた祭壇めいた空間に4人のメンバーが写っている。裏カヴァには誰もいなくなったマットの上で白っぽいネコちゃんが寝そべっているではないか。もしかして?‥‥と思ってアルバム・カヴァを見返すと、草色の四角いマットの上で胡座を掻いてフェンダー・ムスタングを抱えているWilliam Keegan(ギター、ヴォーカル)の背後にネコが隠れていた。(危うく
「猫ジャケ」を見逃すところだった)。Together Pangeaは2009年に米カリフォルニア・サンタクラリタで結成されたインディ・ロック・バンド。仕事が上手くいかず、酔い潰れた男が意識を失って地獄へ落ちる
〈The Cold〉、同棲する男女の諍いを描いた
〈Money On It〉、疾走するガレージ・パンクの
〈Better Find Out〉、グランジ風のタイトル曲〈Bulls And Roosters〉‥‥全13曲・37分。歌詞ブックレット(8頁)付き。
◆ WAX CHATTELS(Captured Tracks / Flying Nun 2018)Wax ChattelsWax Chattelsは「Guitarless Guitar Music」を標榜するニュージーランド・オークランドのノイズ・ロック・トリオ。デビュー・アルバムは僅か2日間で、殆どライヴ・レコーディングされたという。Amanda Cheng(ベース、ヴォーカル)、Peter Ruddell(オルガン、ヴォーカル)、Tom Leggett(ドラムス)という男女混成トリオでギターレスのノイズを撒き散らす。暴走パンクの〈Stay Disappointed〉、紅一点のAmandaがダウナーなヴォーカルから一転して絶叫する
〈It〉、ノイズの洪水で溺れそうになる〈Career〉、アナログ・シンセ・ノイズがシューゲイズっぽく聴こえる〈Parallel Lines〉‥‥全10曲、39分。歌詞ブックレット(8頁)付き。米テネシー・ノックスヴィル出身のアンダーグラウンド画家ザカリ ー・ウィドグレン(Zachary Widgren)のカヴァ・アートは峻立する山の上空に威嚇するようなネコの顔が浮ぶモノクロ画である。チェシャ・キャットは笑みだけを残して虚空から消えるが、ワックス・シャトルズの怒りも消えない。
◆ NEVER FOR EVER(Fish People 2018)Kate Bush白鳥、蝙蝠、鯨、蝶、鳩、鰐、小鳥、魚、猫‥‥風に吹かれて舞い上がったスカートから、多種多様な動物や魑魅魍魎たちが溢れ出て来る。ピーテル・ブリューゲルやヒエロニムス・ボスの絵の中から抜け出して来たような奇怪な生物たちも混じっているようだ。《多くの人たちは、私のスカートからすべてのアイディアが出て来るのは面白いと思います。でも、良いものも悪いものも音楽として私から流れ出ます。酷い下痢のように出ます! その多くは性的な欲求として、私の中から出て来ることを示唆しています。私の胃の中の‥‥私の排泄物なのかもしれませんが‥‥》とKate Bushは英音楽誌に語っている(Sounds magazine, August 30, 1980)。ニック・プライス(Nick Price)のカヴァ・イラストはスカートを背後から扇風機で煽った彼女の写真を元に描かれているが、英挿絵画家アーサー・ラッカム(Arthur Rackham)の「風の中のウンディーネ」
(Undine in the Wind)にも酷似しているという。ネコはカヴァに描かれた多くの動物の中の1匹にすぎないけれど、〈Egypt〉の「ネコ女王」(Pussy Queen)に敬意を表して「猫ジャケ」に加えたい。
◆ WALLOP(Warp 2019)!!!(Chk Chk Chk)ピンクと深緑に色分けされた対角線上を1匹の子猫が目を光らせて左上から右下へ歩いている‥‥ !!!(Chk Chk Chk)の8thアルバム《Wallop》は「打ちのめす」という意味。ニック・オファー(Nic Offer)がドラムマシンを弄っていた時、飼いネコのパーシーが気を惹くために彼の頭を叩いたことに由来する。「ワロップ」とは猫パンチのことなのだ。パーシーちゃんは一緒に遊んでくれない飼主に怒り心頭して堪忍袋の緒(尻尾?)が切れてしまったかもしれない。「ちなみに、ネコ好きですか?」という質問に、Nic Offerは次のように答えている。《好きかどうかがわからない、というのが問題だよね。ネコは、人間の脳をおかす病気を持っていて、その病気にかかると人間はネコの中毒になってしまうという。そうなるんだよね? よくわからないけど、俺もその病気に感染していることはたしかだ。俺は初めて会ったときからネコが大好きだ。今回のアルバム・カヴァーの主役となったパーシーも大好きだ。ちょうどこのアルバムの制作に入るときに、子ネコのパーシーをもらってきたから、パーシーは今作に本質的に関連していたのさ》
(eleking interview, August 30, 2019)
◆ FEEL THE MUSIC(Anthology Recordings 2017)Various Artists / Paul MajorPaul Major(Endless Boogie)はレコード・ディーラー&コレクターのパイオニア。半世紀以上に渡って、音楽業界から見捨てられた奇妙で気味の悪い音楽を発掘・蒐集しているという。Ray Harlowe & Gyp Foxの〈Run〉は壊れたブルーズ・ロック。Justyn Reesの〈Behold〉は浮世離れしたサイケ・フォーク。The Yays & Naysの〈Let It All Hang Out〉はギター弾き語りゴスペル。Merkinの〈Ruby〉はポップ・ロック。Sebastianの〈Passages〉は感傷的なバラード、Joint Effortの〈Blue Lightning〉はアシッド・フォーク、Jerry Solomonの〈Denied〉は執拗にディレイ加工されたヴォイスが薄気味悪い。Dariusの〈I Feel The Need To Carry On〉はBread風のソフト・ロック‥‥全12曲・46分。なぜ「猫ジャケ」なのかは分かりませんが、アルバムを聴いていると、必死に何かを訴えている不憫な捨てネコのようにも思えて来ました。
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necord / 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / sknynx 868
Nothing To Fear
- Artist: Oingo Boingo
- Label: A&M Super Budget
- Date: 1990/10/25
- Media: Audio CD
- Songs: Grey Matter / Insects / Private Life / Wild Sex (In The Working Class) / Running On A Treadmill / Whole Day Off / Nothing To Fear (But Fear Itself) / Why'd We Come / Islands / Reptiles And Samurai
Pascal Pinon
- Artist: Pascal Pinon
- Label: Morr Music
- Date: 2010/12/07
- Media: Audio CD
- Songs: Undir Heiðum Himni / Árstíðir / Baldursbrár / Ósonlagið / Djöflasnaran / I Wrote A Song / New Beginning / Moi / Sandur / Kertið Og Húsið Brann / En Þú varst Ævintyri
Malinallie
- Artist: Maria Pien
- Label: Elefante En La Habitacion!
- Date: 2014/04/15
- Media: MP3
- Songs: Sol de Septiembre / Madera y Mano / Le Jardin / Lunes por la Madrugada / Los Hermanos / Una Palabra / Malinalli / El Muerto en la Heladera / Bachicha / El Sapo
Tourist History
- Artist: Two Door Cinema Club
- Label: Kitsune
- Date: 2010/03/09
- Media: Audio CD
- Songs: Cigarettes In The Theatre / Come Back Home / Undercover Martyn / Do You Want It All? / This Is The Life / Something Good Can Work / I Can Talk / What You Know / Eat That Up, It's Good For You / You're Not Stubborn
Catzilla
- Artist: Baja Frequencia
- Label: Chinese Man
- Date: 2017/10/06
- Media: MP3
- Songs: El Palo / Piranha / Que Calor / Badman A Badman / Know Who You Are / Ride On / Shenhai Dance
Bulls & Roosters
- Artist: Together Pangea
- Label: Nettwerk Records
- Date: 2017/09/22
- Media: Audio CD
- Songs: Sippy Cup / The Cold / Kenmore Ave. / Money On It / Better Find Out / Peach Mirror / Gold Moon / Friend Of Nothing / Stare At The Sun / Southern Comfort / Bulls And Roosters / Is It Real? / Alison
Never For Ever(2018 REMASTER)
- Artist: Kate Bush
- Label: Warner Music
- Date: 2018/11/16
- Media: Audio CD
- Songs: Babooshka / Delius / Blow Away / All We Ever Look For / Egypt / The Wedding List / Violin / The Infant Kiss / Night Scented Stock / Army Dreamers / Breathing
Wax Chattels
- Artist: Wax Chattels
- Label: Captured Tracks
- Date: 2018/05/18
- Media: Audio CD
- Songs: Concrete / Stay Disappointed / It / Gillian / In My Mouth / Shrinkage / Career / NRG / Parallel Lines / Facebook
Wallop
- Artist: !!! (Chk Chk Chk)
- Label: Warp
- Date: 2019/08/30
- Media: Audio CD
- Songs: Let It Change U / Couldn't Have Known / Off The Grid / In The Grid / Serbia Drums / My Fault / Slow Motion / Slo Mo / $50 Million / Domino / Rhythm Of The Gravity / UR Paranoid / This Is The Door / This Is The Dub
Feel The Music
- Artist: Various Artists / Paul Major
- Label: Anthology Recordings
- Date: 2017/10/27
- Media: Audio CD
- Songs: The Travesty Of My Life / Run / Behold / Let It All Hang Out / Ruby / Passages / Blue Lightning / Saturday Thought / Denied / Where Do Clouds Go? / Captain Zella Queen / I Feel the Need To Carry On
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