◆ FELINE GROOVY: 24 Purrfect Tracks For Kool Kats(ACE 2008)Various Artists竪笛を吹くベージュ色のネコとコンガを叩く黒ネコのイラストが可愛いアルバム(「Feelin' Groovy」のパロディ)は副題に「クール・キャットのための完璧なる24トラック」とある通り24曲のネコ・ソングを収録した正真正銘の「ネコード」。1950年代後半から60年代半ば(1955~66)にリリースされたR&B、ソウル、ジャズ、フォークなどの多くはモノラル録音だが(ステレオ6曲を含む)、ネコ好きの音楽愛好家には垂涎のアイテムである。Tom Jonesが歌う同名映画の主題歌
〈What's New Pussycat?〉(1965)、ファブ・フォーがカヴァしたことでも知られるLittle Willie Johnの
〈Leave My Kitten Alone〉(1959)、Peggy Leeのネコの声色入りの〈Sneakin' Up On You〉(1965)、Jimmy Smithの同名アルバムからのシングル
〈The Cat〉(1964)‥‥など、聴きどころも少なくない。「他のどのCDよりもネコの鳴き声(meows)が多い」と書いてあるように、ミャ〜ミャ〜と愛くるしくも騒がしい。シングル盤の写真や曲解説だけでなく、ネコのイラストやフォト、グッズなどを満載した猫づくしブックレット(16頁)も愉しいにゃあ。
◆ MADE OF BRICKS(Fiction 2007)Kate Nash赤いドレスを身に纏った女性(Kate Nash)が振り返って「レンガ造りの家」へ案内する。前庭には馬や球体、円錐形に苅った植え込みと大きな雛菊の花。そして三角屋根の上に黒ネコの小さな姿が見える。猫ジャケ史上最小のネコちゃんかもしれない。そのカヴァ(ブックレット)を開くと、左頁に歌詞、右頁に家の窓から見えた5つの部屋が現われるという趣向。浴室に干してある洗濯物、地下室に置いてあるギターやキーボード、寝室に散らばったアナログ・レコードやポラドイド、サンドウィッチ、台所の棚やテーブルの上の食器類、応接間の壁に架かった金縁額装のモノクロ・イラスト‥‥お世辞にも整理整頓されているとは言い難い独身女性の室内だが、よく見ると鏡に向かって口紅を塗ったり、地下の階段を降りたり、ベッドの上で転寝したり、黄色い手袋を嵌めて食事の後片づけをしようとしたり、ソファに坐って紅茶を飲んでいるKate Nashが写真を切り抜いて貼ったコラージュであることに気づく。もちろんアルバム・カヴァの赤いドレスの女性も、バスルームにいる3匹の黒ネコも同じくコラージュである。
◆ HOME SWEET MOBILE HOME(Verve Forecast 2010)Nellie McKay黄色い向日葵が咲き乱れる野外で空色のソファの前に立って、赤いポータブル・プレイヤでNellie McKayのレコードを聴こうとしているピンク・キャットのカヴァと水辺のビーチチェアに寝そべっているネコの裏カヴァは繋がった
「1枚の絵」である。英ロンドン生まれの女性SSWの5thアルバムは裏・表カヴァに男女ネコをレイアウトした猫ジャケ(Doris Dayのカヴァ集
《Normal As Blueberry Pie》(2009)は犬ジャケだった)。Nellie McKayはマティス風の絵を自ら描いただけでなく、ピアノ、オルガン、マリンバ、ウクレレ、サックス、クラリネット、チェロ、パーカッション、シンセを演奏するなど、八面六臂の大活躍。しかし、パステルカラー調の明るい色彩や2匹のネコ、アルマジロ、カエル、トカゲなどに目を奪われていると足元が瓦解するだろう。何故ならグランジ風のサウンドとダウナーなヴォイス‥‥9・11をテーマにした〈Bruise On The Sky〉で幕を開けるのだから。1960年代からタイム・ワープして来たようなファッションとブロンド・ヘアのNellie McKayはロック、ジャズ、レゲエ、カプリソ、ブルースなど多種多彩な音楽でリスナーを魅了する。
◆ JUST LIKE THE FAMBLY CAT(V2 2006)Grandaddy青いダウンジャケットを着て、斜め右に伸びる車道に佇むネコの後ろ姿。尻のポケットには魚が一尾‥‥これから旅立とうとするのか、アルバム・カヴァには夕焼けや夕陽、緑の並木道、キツネや小鳥、アンプを積んだピックアップ・トラックなどがコラージュされている。家ネコに一体何が起こったのか?‥‥〈What Happened…〉で子供たちが無邪気に問いかける。失踪して行方不明になったのか、迷子になったのか、それとも死んでしまったのか。Jeez Louiseの想い出、過ぎ去ってしまった夏‥‥元スケートボーダーだったJason Lytle率いるGrandaddyのラスト・アルバム(4th)はメランコリックな喪失感に包まれている。もし人語を喋れたら別れ際に言い遺すことがあったかもしれないし、何かを訴えたかもしれない。しかし、多くのネコたちは黙ったまま、ひっそりと消えて行く。ネコの後ろ姿はアルバム・カヴァを描いたJason Lytleの心情と重なる。それだけに〈Where I'm Anymore〉の「meow, meow, meow, meow...」というコーラスが哀切に沁み入る。
◆ HELPLESSNESS BLUES(Sub Pop 2011)Fleet Foxes機敏な狐たちのデビュー・アルバム(2008)はピーテル・ブリューゲル父の〈ネーデルランドの諺〉
(The Blue Cloak 1559)をカヴァに使っていた。「名画シリーズ」なのかしらと思っていたら、2ndアルバムはトビー・ライボウイッツ
(Toby Liebowitz)のモノクロ・イラストにカラー着色したカヴァだった。円筒型の鏡に歪んだ画像を投影することで正常な像を映し出す17世紀のアナモルフォーシスを模したような「脳内イメージ」
(mind-map)である。同心円上に配置された人物や顔、家屋、風景、鳥、複葉機、両掌の中の貴石などに混じって、何故か1匹の黒猫が描かれている。キツネたちのアルバムなのに
「ネコード」なのだ。彼らの名前がFleet Foxesではなく、Fleet Felinesならば納得も行くのだが‥‥。CDサイズ(紙ジャケ仕様)の小さなイラストでは精悍な猫ちゃんが見難いと危惧したのか、特大サイズの原画ポスター(白黒、57×57cm)が封入されている。
◆ A SPARE TABBY AT THE CAT'S WEDDING(Gecophonic 2010)Moon Wiring Club青いシルクハットを被り、赤い蝶ネクタイを締めた青年(?)が左手に2枚のカードを持っている。4羽の蝶々が舞い、王冠を戴いたネコの顔が背後霊のように浮游する‥‥この猫ジャケは第2版
(2nd Edition)で、初回盤
(1st Edition)には女性と1匹のネコが描かれていた。収録曲は全く同じなのに、なぜアルバム・カヴァだけを差し替えたのだろうか。背後霊猫が2匹に増えたのはタイトルのスペア(spare)か、第2版かのどちらか(あるいは両方 ?)を意味しているのだろう。いずれにしても宇野亜喜良風のデカ目イラストは人目を惹く。Ian Hodgsonのプロジェクト、Moon Wiring Clubは1960〜70年代に英国で放送されたTVドラマや映画などの音源をサンプリングしているという。サンプル・ループ化された俳優の台詞とアナログ・シンセの結合はノスタルジックでミステリアスなトリップホップの旅へリスナーを誘う。ちなみに本作は英WIRE誌の年間ベスト・アルバム
(2010 Rewind)の37位に選出された。
◆ BUZZZ(Ipecac 2008)Tipsyネコ好きのアーティストやメンバーが在籍するバンドのアルバム・カヴァには猫のモチーフが繰り返し登場することが少なくない。たとえば
Chapterhouseや
Themselvesと同じように米サンフランシコ出身の2人組、David Gardner & Tim Digullaのエレクトロ・ラウンジ・ユニットの3rdアルバム・カヴァも
《Uh-Oh!》(Asphodel 2001)に引き続いてネコのイラストが描かれている。3人の水着娘、馬型ピアノに股がる子供、ウッドベース男、空飛ぶ蓄音機やトランペット、ラッパを吹く3天使、カスタネット・カエル、巨大黒蛸ドラマ ーなど‥‥奇天烈なキャラたちに混じって1匹の美白ネコが爪を立ててキーボード(シンセ)を弾く。右金目にピンクの星形メイク、黒ブラジャー、網タイツ、S字の長い尻尾という艶やかな容姿。キーボードには
「KEROMAN」というロゴが!‥‥《Buzzz》は日本人イラストレータによるアートワークだったのだ。カヴァだけに留まらず、エレクトロニカ系女性アーティストの
Coppe'などもゲスト・ヴォーカルで参加している。赤色を基調にした摩訶不思議な「ケロマン・ワールド」の舞台は地球ではなく、火星だったりして‥‥。
◆ 30 DE FEBRERO(Kasba 2011)Samueliko Y Los Guailers
列車内でアクースティック・ギターを弾くネコ男。両側の座席に坐っている乗客たちもウシ女やイヌ男‥‥獣頭人身の異形者たちだが、特殊メイクや着ぐるみ仮装などではなく、写真の合成コラージュである。ブックレット(歌詞カード)の裏表紙にも同じくコラージュしたネコ顔のメンバー6人がギターやベースを弾き、ドラムを叩いている。表カヴァのネコ男がリ ーダーのSamuelikoで、裏のネコ男たちがLos Guailersなのだろう。Samueliko Y Los Guailersはスペイン・バルセロナで活躍するミクスチャー系ルンバ・ロック・バンド。サルサ、スカ、ロック、ヒップホップ、ファンク、サンバ、ルンバ、レゲエ、フラメンコなど、雑多な音楽を撹拌、咀嚼した陽気で騒がしいサウンド(スペイン語歌詞)はMano NegraやManu Chaoに通底するものがある(某クリアランスセールで見つけた掘り出し「ネコード」です)。
◆ MODERN ART(Missing Piece 2011)Matthew Sweet丸顔のネコ(白黒写真)の上に赤茶色の円(半透明のステッカー?)を被せ、「MATTHEW SWEET」 というアーティスト名とアルバム・タイトル・ロゴの一部を重ね、さらに変色したセロテープがネコの鼻筋を縦断するように貼ってある。左上腕部に
「ラムちゃんのタトゥ」を入れているほどの巨漢のジャパニメーションおたく、Matthew Sweetのアルバムはアーティスティックな猫ジャケという趣き。逆回転テープ・ループ、サイケデリック・ロック、The Byrds風の12弦ギターが鳴り響くパワー・ポップ‥‥Matthew Sweetのギター、ベース、ピアノ、オルガン、メロトロン、パーカッションにドラムスとリード・ギターを加えた3ピース編成のサウンドも擬古調のアート・ワークと同じように凝っている。全12曲入りCD(2枚組アナログ盤は13曲)の他に、3曲をプラスした限定盤の
「Barnes & Noble Exclusive」や
「Exclusive B-Sides Disc」付きの2CDセットもリリースされている。
◆ ART(Dox 2011)Benny SingsオランダのSSW、Benny Singsの4thアルバムは本人がネコを胸に抱いているシンプルな猫ジャケだが、憔悴したような青い目のBenny Singsと澄んだ薄緑色の目をしたネコちゃんの表情の対比が面白い。大人しく抱かれる前に一騒動あったのか、デジタル時計を嵌めた右腕や左手には引っ掻かれたような赤い傷痕がある。Benny Singsはヴォーカルや作詞・作曲だけでなく、アレンジ、プロデュース、録音、ミックス、楽器演奏、プログラミングまでを1人で熟してしまうマルチ・ミュージシャン。オリジナルEU盤は全9曲と収録時間が短いけれど、US盤
(US Edition)は3曲プラスした12曲入り。打ち込み風のビートに乗ったファルセット・ヴォイスが耳に心地良い。儚い夢のように唐突に終わる。それにしても一体何故、Matthew SweetとBenny Singsの猫ジャケのアルバム・タイトルが期せずして「Art」なのだろうか?‥‥もしかしたら、ネコという存在自体が生きる「アート」なのかもしれない。
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- お気に入りの猫ジャケ10枚を紹介する「ネコード」シリーズ第6集です
- アルバム・タイトルの ◆ をクリックすると、拡大された 「猫ジャケ」 が表示されます
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Feline Groovy: 24 Purrfect Tracks For Kool Kats
- Artist: Various Artists
- Label: Ace Records UK
- Date: 2008/04/08
- Media: Audio CD
- Songs: Three Cool Cats / Cleo / Kitty Kat / El Pussy Cat / Cat Hop / The Siamese Cat Song / Alley Cat / Cat Nip / Sweet Pussycat / Leave My Kitten Alone / Sneakin' Up On You / The Cat / What's New Pussycat / Walkin' My Cat Named Dog / The Cat / The Cat Came Back / Love Ki...
Home Sweet Mobile Home
- Artist: Nellie McKay
- Label: Verve Forecast
- Date: 2010/09/28
- Media: Audio CD
- Songs: Bruise On The Sky / Adios / Caribbean Time / Please / Beneath The Underdog / Dispossessed / The Portal / Bodega! / Coosada Blues / No Equality / Absolute Elsewhere / Unknown Reggae / Bluebird
A Spare Tabby At The Cat's Wedding
- Artist: Moon Wiring Club
- Label: Gecophonic
- Date: 2011/05/10
- Media: Audio CD
- Songs: Autumn Theatricals / Feline Ascension Time / The Queen Speaks / House of Tricks / Woodsmoke & Treacle / Slumberwick Dreams / The Victorian Butter Boat / The Owd Wedding March / Concealed Playroom / You Fancy Magician / Missing Familiar / The La...
Buzzz
- Artist: Tipsy
- Label: Ipecac
- Date: 2008/11/07
- Media: Audio CD
- Songs: Midnight Party / A Night On The Town / Lipstick Tree / Sweet Spot / Swingin' Spaceman / Chocolate Moon / Chop Socky / Electric Blue Eyelashes / Kitty's Daydream / Kadonka / Big Business / Good Little Demon / See The Beauty, Touch The Magic / Wet Rainbow / ...
Modern Art
- Artist: Matthew Sweet
- Label: Missing Piece
- Date: 2011/09/27
- Media: Audio CD
- Songs: Oh, Oldendaze! / Ivory Tower / She Walks The Night / When Love Lets Go I'm Falling / Ladyfingers / A little death / Late Nights With The Power Pop / Baltimore / My Ass Is Grass / December Dark / Modern Art / Sleeping
Art(Us Edtion)
- Artist: Benny Sings
- Label: Dox Records
- Date: 2011/11/08
- Media: Audio CD
- Songs: Big Brown Eyes (radio edit) / Dreams / Each Other / Realize / Can You Believe Its Magic / All We Do For Love / Downstream / Honey Bee / Tonight I'll Know / Can We Try / One II / This Is A Samba
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by sknys (2013-08-18 19:39)