◎ STICKS & STONES MAY BREAK MY BONES NAMES NEVER HURT ME (Reverent)No-Neck Bllues Band透明アクリル板、黒いCDトレイ(白いCD盤)、ベニヤ板の3枚を帯状の紙枠が囲む。左右上・三面開きの変形(八角形)スリーヴで、裏面のベニヤ板には「NNCK」の焼印が押されている。オリジナル盤はJohn Faheyのレーベル「Reverent」からのリリース(現在は彼らの
「Sound@One」から再発)。NYの即興音楽集団、No Neck Blues Bandは灰色の岩オブジェのようにも、石像の横顔のようにも見えるアルバム・カヴァのように捉えどころがない。4曲しかクレジットされていないが、全7曲・75分以上に渡ってインプロヴィゼーションが繰り広げられる。脱力したサウンド、クレイジーなヴォイス、無秩序な演奏‥‥ブルーズ、フォーク、ロック、ジャズ、ワールド・ミュージックという既成のジャンルから逸脱する不思議な音楽。ポスト・モダンな脱構築ミュージックでしょうか?
◎ BY THE BLUE(Stuck)Rosie Brown《もしRoni Sizeがドラム・マシンの代わりにJoni Mitchellを発見していたら創っていたかもしれない音楽》という英Q誌の4つ星レヴュー(CDケースに貼ってあるステッカー)が目を惹く女性SSWのデビュー作。とりわけ声質やメロディーが似ているわけではないけれど、Joni Mitchellを引き合いに出したのは言い当て妙でかもしれない。アルバム・タイトルからして「Blue」だし、〈Big Blue Building〉なんていう少女っぽい曲もある。Joni独自のギター奏法──変則チューニングのリズムは70年代当時バックを務めていたWeather Reportの面々が彼女の方に合せていたというくらい独特のものだった──をより高度なテクニックで再現した曲もあったりして、一種異様なグルーヴ感を生む。その辺の急進的なサウンドがドラムンベースの革新者Roni Sizeを連想させるのだろう。Q誌のレヴューは彼が彼女を発見しなかったのは残念というニュアンスも暗に隠されているような気もして来た。
◎ DOCOCCIX ATE O PESCOCO(Maianga)Elza Soaresアフロヘアーの可愛い娘かと思ったら、ピーター〜美川憲一(コロッケ?)似のバアさんだった(ジャケ写真に騙されちゃいました!)。そりゃ、若い娘の方が良いけれど、音楽をルックスや年齢、性別、人種で差別はしません。Chico Buarqueのサンバ、Jorge Benjorのファンク、Caetano Veloso / Gilberto Gilのラップ〈Haiti〉に殺られます。参加ミュージシャンもMarcos SuzanoやCarlinhos Brown、変態音楽集団Karnak〜Funk Como Le GustaのHugo Hori、Chico Science&Nacao Zumbiの2nd&3rdアルバムをプロデュースしたBiD‥‥と多彩。ヒップホップ色も濃厚で、サウンドは刺戟的。MPBの底力を見せつける。ボーナス・トラック2曲を控えたラスト曲、Elza Soaresのヴォイス・パフォーマンスとMarcos Suzanoのパンディロだけのメドレーは圧巻です。
◎ NUMBERS LIFE(Tigerbeat 6)Numbersベースレスの3人組、Numbersの紅一点インドラ・ドゥニス(Indra Dunis)はドラムを叩きながら絶叫するのだろうか。Gang Of Fourみたいなギター・リフ、低音部を支えるアナログ・シンセ、パンキッシュな女性ヴォーカル‥‥DevoとThe B-52'sの「隠し子」なのか、君たちは。デビュー・アルバムはKid606(Miguel De Pedro)が運営する「Tigerbeat 6」からミャオ〜。全10曲・19分!‥‥これでフル・アルバムなのと訝しがるリスナーもいるかもしれない。アナログ時代の収録時間は40分前後だった。デジタル化で約2倍の80分弱に伸びたとはいえ、徒に長ければ良いというわけではない。あなたの人生の「演奏時間」と同じように。
◎ SWIFT(Mute)SFT棘のある甘酸っぱい果実のようなポップス貴公子King Of Luxembourg。2枚のアルバムを2in1CDにコンパイルした
《Sir / Royal Bastard》(el 1989)は今でも「永遠の少年」のように耀きを失っていないし、1990年に突如、Mr. Loveletterと改名してカムバックした時も狂喜乱舞したものだった。ラファエル前派の好んで描く超美形中世騎士のような佇まいのポップス王子は架空のアイドル。その一方で、デレク・ジャーマン監督作品のOSTなどをSimon Turner(SFT)名義で手掛けてきた経緯がある。《SWIFT》(CD+DVD)は50分で世界一周する疑似ワールド・ミュージックの旅。一部ヴォーカルも入った20篇の断片がランダム再生(推奨)を待っている。映像版のDVDもCDと同一の音楽に適度にシンクロ&カットバックするように編集されているので、最後まで飽きさせない。音楽に附随するヴィジュアル・メディアは今までCDの空きスペースにPVやライヴ映像をCD−ROM形式で提供されることが多かったが今後はDVDが、その役を担って行くだろう。CDに付いたオマケ特典映像集?‥‥それともDVDに音楽CDが付いて来る?
◎ HATE(Mantra) The Delgados〈愛こそはすべて〉(1967)の35年後に「憎しみ」を歌わなければならない時代が訪れようとは!‥‥John Lennonの魂も浮かばれない。9・11〜イラク戦争が起こらなかったら産まれなかったアルバム。〈All You Need Is Hate〉は悪意に彩られた逆説的な歌詞にも拘らず、曲調は麗しい。Alun WoodwardとEmma Pollock、男女2人のヴォーカル曲を交互に配する構成。ロック・グループにしては珍しく半数を3拍子系のリズム曲が占める(それが彼らの特徴なのだが)。オーケストラの大胆な導入、混成コーラス隊の参加、パーカッシヴ&ノイジーなDave Fridmannのプロデュース‥‥美しくも儚いクリスタル工芸品のようなデルガドス的世界も、薄汚れた「憎悪」が支配する9・11以降の世界と同じく、苦痛や苦悩に満ち溢れている。ここもユートピアではない。2006年に突然の解散!‥‥HPも閉鎖されてしまった。
◎ YANQUI U.X.O.(Constellation)Godspeed You! Black Emperor今まさに投下されたクラスター爆弾から俯瞰した「航空写真」と大手レコード会社(コングロマリット)と軍事産業の癒着を告発した相関図式の表・裏スリーヴがアルバム・タイトル以上にGY!BEの立場を鮮明に物語っている。歌のないインスト・ミュージックが荒涼とした地上の世界観を啓示する。インディ界の必殺録音請負人Steve Albiniが手掛けたことで、地下100メートルの核シェルター内で録られたようなサウンド(音圧)が現実世界をトポロジカルに反転させる。瓦礫に埋もれた都市部、穴ボコだらけの農村地帯、言葉を剥ぎ取られたムキ出しの地表‥‥人類の消え去った後の世界を1体のヒューマノイドが彷徨う。薄汚れたモニタを視ているのは誰?‥‥罅割れたタイムカプセルの中のCDを聴くのは誰?
◎ CELLE QUI TUE(Trema)Robertデビュー・アルバム
《Sine》(Columbia 1993)のインナー・スリーヴで脱いじゃったフレンチ・ロリータも10年の月日を経て、デカダン・耽美なゴスロリ姫と化してしまった。ウィスパー・ヴォイスにMatheu Saladinのエレクトロ・サウンドが馴染む。エレクトロニカ版のMylene Farmerでしょうか?(彼女より若い!)‥‥純白レースのドレスにライフル銃は危険すぎるかもしれません(森の中のパンチラ風ロベールは、クロード・ヴェルランドの幻想絵画みたいで、ゾクゾクします)。新たに4曲をプラスした《Celle Qui Tue》の改訂ヴァージョンや、デビュー作の3rdエディションが2007年2月に、新曲・リミックス・PV・インスト(MP3)を追加収録した
《Six Pieds Sous Terre》(DEA 2005)のコレクター盤、全曲英語詞ヴァージョンのニュー・アルバム
《Princess Of Nowhere》も1月にリリースされたばかりだ。
◎ TRIBALISTAS(Phonomotor)TribalistasMarisa Monteのライヴ・アルバム
《Barulhinho Bom》(EMI 1996)に付いていたスタジオ録音盤(7曲入りCD)はオマケの域を超えた素晴しい内容だった(惜しむらくは収録時間が短い!)。Carlinhos Brown等のブラジル勢とArto LindsayらNY派ミュージシャンが拮抗したハイ・テンションのハイブリッド音楽──この勢いでフル・アルバムに臨めば、とてつもない傑作が産まれるに違いない‥‥と期待していたのに、4年後に発表された彼女の5thアルバム
《Memorias, Cronicas...》(2000)は拍子抜けするくらいオーソドックスなものだった。C. Brownに、元旦那のArnaldo Antunesを加えた3人組、Tribalistas名義のアルバムもキナ臭い世界の情勢とは裏腹な──セレソンのW杯優勝が多少なりとも影響しているんでしょうか?──なごみ系アクースティック・サウンドに仕上がっている。それが良くないのかと問われれば話は逆で、良質なポップ・ソングが並ぶ。ソロ・アルバムではアヴァギャン&ハードコア化しちゃうカッパ男も今回は眠気を誘う穏やかなバリトン・ヴォイスを披露しているし、Elza Soaresのアルバムで大活躍していたC・Bも裏方に徹している。
◎ TRAVELOGUE(Nonesuch)Joni MitchellJoni Mitchellのラスト・アルバム(?)はフル・オーケストラをバックに過去の自作曲をセルフ・カヴァ再演するというコンセプトの集大成的作品(CD2枚組)で、彼女自身の描いた「絵画」を鏤めたカラー・ブックレット入りのブック型CDパッケージと別冊の「歌詞集」が美麗ケースに収まっている。ニュー・ヴァージョンとして生まれ変わった全22曲は単なるリミックスや再録の枠を超えて、流行りの「歴史改変小説」のような彼女の過去の細やかな改変──「カフカがドン・キホーテに与えた影響」というボルヘス流のタイム・パラドックスを、9・11とは全く別の方法で試みる。記憶の中の過去がフル・オケのフィルタ越しに混淆し、変色して行く。彼女のヒット曲‥‥〈Help Me〉も〈Big Yellow Taxi〉も〈Black Crow〉も入ってないけれど、〈Amelia〉や〈Woodstock〉や〈The Circle Game〉には心が震えます。
《Travelogue》というアルバム・タイトルが〈Amelia〉──近年ちょっとしたプチ「アメリア」ブームで、恩田陸の『ライオンハート』(新潮社 2000)や、宮部みゆきの『クロスファイア』(光文社 1998)にも出て来ます──の歌詞の一節から採られているのもメチャ嬉しい。Disc1に収録されているCDーROM(Enhanced)もシンプルな造りながら良く出来ていて、壁に掛った17点の「タブロー」が360°左右に横スクロールして行く「J・M画廊」とか、全22曲分の歌詞をBGMに流しながら1曲づつ閲覧出来る「リリック」の小部屋とか、ヴィジュアル面でも愉しませてくれる(Macのデスクトップ上に歌詞を表示したままBGMとして聴きながら、J・Mについての文章を書く)。噂によると音楽業界に嫌気がさしたJ・Mは今後一切の音楽活動(レコーディング)を停止するという。個人的には念願の来日公演(新宿厚生年金会館 1983)も観られたし、今こうして素敵なアルバムを心行くまで聴けるわけだし、殆ど悔いはないですね。これからは心置きなく画業に集中して下さい。日本国内で個展が開催されたら、また観に行きますから。
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- ◎ 輸入盤リリース→入手順 ● Compact Disc規格外のCCCDは除外しました
- 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行くリワインド(rewind)・シリーズの2002年版です
- NNCKのジャケ画像(Amazon.com)が間違っています。正しいジャケは ▢、ベニヤ板の裏ジャケは ▢
- 「Chico Science & Nacao Zumbiのデビュー作をプロデュースした」のはBiDではなくLiminhaでした。お詫びして訂正します(2007/04/04)
- Joni Mitchellのトリビュート・アルバム《A Tribute To Joni Mitchell》(Nonesuch)がリリースされました(4/24)。参加ミュージシャンが豪華ですね
- FREE MAN IN PARIS - Sufjan Stevens
- THE BOHO DANCE - Bjork
- DREAMLAND - Caetano Veloso
- DON'T INTERRUPT THE SORROW - Brad Mehldau
- FOR THE ROSES - Cassandra Wilson
- A CASE OF YOU - Prince
- BLUE - Sarah McLachlan
- LADIES OF THE CANYON - Annie Lennox
- MAGDALENA LAUNDRIES - Emmylou Harris
- EDITH AND THE KINGPIN - Elvis Costello
- HELP ME - k.d. lang
- RIVER - James Taylor
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rewind 2006 / ruby blue 2005 / milk man 2004 / michigan 2003 / travelogue 2002 / sknynx / 076
Travelogue
- Artist: Joni Mitchell
- Label: Nonesuch
- Date: 2002/11/19
- Media: Audio CD (2CD)
- Songs: Otis And Marlena / Amelia / You Dream Flat Ties / Love / Woodstock / Slouching Toward Bethlehem / Judgement Of The Moon And Stars (Ludwig's Tune) / The Sire Of Sorrow / For The Roses / Trouble Child / God Must Be A Boogie Man / Be Cool / Just Like This ...Train / Sex Kills / Refuge Of the Roads / Hejira / Chinese Cafe / Cherokee Louise / The Dawntreader / The Last Time I Saw Richard / Borderline / The Circle Game
元ルクセンブルグ王、ご健在でしたか!(でも、ちょっと老けたかな)
ジョニミッチェルが引退していたとは知りませんでした。サイドバーのYouTube、しんみりと拝見しました。
・・・・・・う〜ん、他知らない・・・どれがお勧めですか?
by yubeshi (2007-04-02 22:44)
yubeshiさん、コメントありがとう。
元ルクセンブルグ王の顔写真(HP)は見たくなかったなぁ。
美青年のイメージがガラガラと音を立てて崩れて行きます^^
Joniの新作がネット配信のみでリリースされるという噂もありますが。
後半にPat Metheny のソロがあるので、
《Shadows & Light》(DVD)のライヴ映像ですね。
そう来ると思って、ゆべし猫舌男爵のためにマル秘「覗き部屋」
‥‥じゃなかった、RoBERTのPVを用意しました^^;
サイドバーの「FAVORITE ー VIDEOS」をクリックしてね。
by sknys (2007-04-02 23:52)