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ネコと歩けば [a r t]



  • 中央区の月島から佃までをまずは見てみることにする。月島にたどり着くまで地下鉄を乗り継いで大江戸線の月島にて下車。地上だけではなく地下鉄の路線も込み入ってくる。橋を渡らずに到着してなんとなく拍子抜けして地上に出る。さてネコだが、この辺りの高層マンションは戸数が1000戸を越えるという。いわゆるペット可の物件も増えているらしい。佃島の公園にネコがいると聞いて行くが見当たらず、折り良く水飲み場にいたヒトに出会って尋ねてみると「今年の初めだったかな、棒を持ってきて殴り殺してしまったヒトがいたそうだよ」と返事されて、いきなりこちらまで棒で殴られたような心持ちとなる。そのネコはよくヒトに慣れていたそうだが気の毒なことをした。アメリカでは動物虐待は禁固刑に当たる。ヒトが増えればいろいろあるだろう。ネコには対応できないことも起こってくる。その結果いのちを落とす。ネコはおちおち外を歩けなくなってしまうだろうか。
    岩合 光昭 『ネコに金星』


  • 「ねこ歩き 岩合光昭写真展」(日本橋三越 2013)に行って来た。3年前、同じ会場で開催された「ねこ」(2010)ではチケット売場で愛猫の写真を提出すると入場料が割引されて、会場の外壁に貼り出されるという粋なサーヴィスがあったが、今回はお気に入りのネコ写真を持参した来場者がエレヴェータ前のパネル「みんなでネコとも」に貼り出す。上部がネコの輪郭に切り抜かれた入場券もペラペラで栞には使えそうもない。その代わりに会場内で図録・写真集『ねこ歩き』(クレヴィス 2013)を購入すると、同じく上部がネコの形になった特製栞「なんとかなる」が付いて、岩合さんのサイン会やギャラリートークにも参加出来る。予定にはないゲリラ・サイン会も随時行なわれているが、確実にサインを貰うつもりならば「ギャラリートーク&サイン会」のある日に行ったほうが良いかもしれない(サインに添えられる「ネコ・イラスト」は手描きではなくスタンプである)。栞だけが目的ならば、オリンパス・カメラが展示されている出口近くに公認サイト「Digital Iwago」の栞(ネコ2、パンダ、ジュゴン)がカメラ・カタログ(宮﨑あおい)と一緒に置いてある。

    会場(日本橋三越本店・新館7階ギャラリー)内は結構混雑していた。入場者の男女比は7対3で女性の方が多いかな。「本展は、イワゴーさんが近年訪れた国々や日本のネコたちの最新未公開作品を中心に222(にゃんにゃんにゃん)点を展示」とチラシの裏に記してあるように、前回の「ねこ」と重複する写真は殆どない。そう広くはない通路の両側の壁に大・中・小のパネルが架けられている。撮影場所とキャプションを記した白いプレートも添えられる。2枚上下に展示されている場合はパネルの間に2つのプレートが横に並ぶ(右のプレートを少し下にズラしてあるので、鑑賞者が混乱することはない)。本展覧会は3つの章で構成されている。第1章 世界を歩く(ギリシャ / イタリア / トルコ / モロッコ / アメリカ / キューバ)、第2章 日本を歩く(春 / 夏 / 秋 / 冬)、第3章 わが家のネコたち(海ちゃん / にゃんきっちゃん / 柿右衛門 / ケナ)。最終コーナでは岩合さんからの「ヴィデオ・メッセージ」(5分)も上映されていた。

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    「世界を歩く」はギリシャの青い空と海から始まる。エーゲ海に浮かぶ小さな島々‥‥サントリーニ島、ミコノス島、イドラ島など、南欧の真っ青な空や白い家並みにはネコが良く似合う。イタリアのアグリジェントやシチリア島、カプリ島、古代遺跡や石畳の街角、オリーヴの木の下、トルコのイスタンブール、モロッコのマラケシ、アメリカのキーウェストやメンフィス、キューバのハバナ‥‥。ジャンプ、観察、偵察、散歩、匂い付け、睡眠、求愛、子育て、食事、毛繕い、挨拶、戯れ合い、木登りなど、人種や衣裳は様々でもネコは変わらない。日本と決定的に異なるのは風景である。家屋、石畳、遺跡、モスク、砂漠など、異国の景色の中に溶け込んだネコたち。風景の一部となった小さなネコの姿を発見する時、不変的なネコの暮らしが胸に沁みて来る。ネコの世界は戦争や紛争、テロ、核兵器や原発、公害や地球温暖化とは無縁の動物だったはずだ。それらから生じた恐怖や不安も、すべて悪しき人類が造り出したものである。ネコは民主化運動や反原発デモに参加したりはしない。ただ人間たちに寄り添って生きて行く。

    「日本を歩く」は撮影地別ではなく、春・夏・秋・冬の四季に分けて展示してある。鹿児島、愛知、静岡、栃木、福岡、高知、熊本、沖縄、長野、群馬、東京、宮城、山口、広島、京都、奈良、山形、青森、香川、佐賀‥‥約10年かけて日本全国47都道府県のネコたちを撮ったという岩合さんの最新作が並んでいる。桜島や桜、シーサー(沖縄)、漁港や農村など、背景が日本の風景になると被写体のネコも「和風」に見えて来るから不思議である。時間軸で構成されたネコ写真は西から東へ、南から北へ移ろって行く。都内23区では耳先カット(不妊、去勢済みの印)のノラネコが目立つけれど、岩合さんの撮ったネコたちは両耳が綺麗に立っている。これ以上、都会のノラネコを増やさないための処置と言えば聞こえは良いが、遠くない未来に街からノラの姿が消えて1匹もいなくなることを意味している。人間がネコにしていることは地球の人口増加を抑制するために成人男女の生殖器官を取り去ることと同じである。もし、そのような未来が訪れた時、処置済みの男女に一体どのような目印を付けるのかしら?

    「わが家のネコたち」では岩合家のネコたちが紹介される。お寺の住職から貰い受けた海(kai)ちゃんは岩合夫妻が初めて飼った特別なネコだった。写真集『海ちゃん』(講談社 1984)や『ママになったネコの海ちゃん』(ポプラ社 1986)などの著作もある(詳細は〈ネコの海ちゃん〉を参照)。白ネコのにゃんきっちゃんは娘さんの飼い猫で時々、八ヶ岳の麓にある岩合家に遊びに来るという。苦手な木登りをしたり、お風呂に入っている表情が可愛い。野性味溢れる三毛ネコの柿右衛門ちゃんはノラだったらしい。彼女は『ネコさまとぼく』(新潮社 2008)の表紙にもなった岩合さんの目蓋をピンクの肉球で指圧している写真で有名になった。長毛種のケナちゃんもタヌキのように立派な尻尾が愛らしい。岩合さんは会場内で上映されている「ヴィデオ・メッセージ」の最後で40年以上に渡ってネコを撮り続けている理由を明解に語る。「皆さんにネコの味方になって欲しいのです」「今、動物たちは虐げられているから」と。会場を1歩出ると、そこは物販(物欲?)ブース!‥‥ネコ好きには堪らないネコグッズの数々が待ち構えていた。にゃんにゃんにゃん。

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    『ネコと歩けば』(辰巳出版 2013)は隔月刊誌「猫びより」に連載中の「岩合光昭の猫」に、未掲載写真を加えて再構成した大型写真集。宮城・田代島、北海道、神奈川・湘南、長野、京都・丹後、高知、山形、山梨、奈良、広島・宮島、石川・能登、山口、愛知‥‥13府県のネコたちが風景の中に優しく溶け込む。漁港や牧場、富士山、駅舎、舟屋などを背景にした日本のネコたちの心和む。写真のキャプションと府県別のネコ・エッセイ付き。「ハートのしっぽ」や高知県香南市のニラ農家(山猫母)で飼われている弥哉ちゃんも客演。巻末の「思い出の猫たち」では震災前の田代島での忘れられない体験、「島の陽の当たる坂道でネコたちに囲まれて過した時間」が語られる。写真集の最初と最後が田代島のネコたちという構成に込められたメッセージも心に沁み入る。岩合さんには震災後のネコたちの姿も撮って欲しい。2013年8月には『岩合光昭写真展~ねこ~』(渋谷ヒカリエ)と『ネコライオン』(東京都写真美術館)が開催されます。

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    • 「岩合光昭の世界ネコ歩き」(NHK BSプレミアム)の写真ヴァージョンというか、「ねこ歩き」の方が本家本元にゃのだ^^;

    • 東京(日本橋三越)は終了しましたが、松山、札幌、福岡‥‥と全国巡回予定です

    • 『ネコと歩けば』(辰巳出版 2013)の紹介文をを追記しました(2013. 7. 25)
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    ねこ歩き(岩合光昭写真展)

    ねこ歩き(岩合光昭写真展)

    • 会場:日本橋三越
    • 会期:2013/05/29~06/10
    • メディア:写真
    • 展示テーマ:世界を歩く(ギリシャ / イタリア / トルコ / モロッコ / アメリカ / キューバ)/ 日本を歩く(春 / 夏 / 秋 / 冬)/ わが家のネコたち(海ちゃん / にゃんきっちゃん / 柿右衛門 / ケナ)


    ねこ歩き

    ねこ歩き

    • 著者:岩合 光昭
    • 出版社:クレヴィス
    • 発売日:2013/05/29
    • メディア:単行本(ソフトカバー)
    • 目次:世界を歩く(ギリシャ / イタリア / トルコ / モロッコ / アメリカ / キューバ)/ 日本を歩く(春 / 夏 / 秋 / 冬)/ わが家のネコたち(海ちゃん / にゃんきっちゃん / 柿右衛門 / ケナ)/ おわりに


    ネコと歩けば

    ネコと歩けば

    • 著者:岩合 光昭
    • 出版社:辰巳出版
    • 発売日:2013/04/13
    • メディア:大型本
    • 目次:宮城・田代島 / 北海道 / 神奈川・湘南 / 長野 / 京都・丹後 / 高知 / 山形 / 山梨 / 奈良 / 広島・宮島 / 石川・能登 / 山口 / 愛知 / 思い出の猫たち


    ネコに金星

    ネコに金星

    • 著者:岩合 光昭
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:2013/01/28
    • メディア:文庫
    • 目次:宮崎 / 三重 / 和歌山 / 山梨 / 富山 / 白川郷 / 茨城 / 山口 / 千葉 / 徳島 / 兵庫 / 東京 / 岩合光昭 金星インタビュー / あとがき / 解説(赤川 次郎)

    タグ:art iwago cats
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