SSブログ

キュービック・キューブ [a r t]

  • © 2023 MNAM-CCI

  • だがこの作品は同時に、人間による自然の征服の情景でもある。森のなかの裸の人物たちのなかでも、左端の人物は木を切っている最中である。スピロス・パパペトロスは、その論考「レジェの風景画におけるモデル・科学・伝説」において、こうした姿のなかに、タイヤのかたちをしたミシュランのイメージ・キャラクターであるビベンダムとの共通点を読みとっている。スピロス・パパペトロスは、次の二つの点において、レジェの描く裸体画がビベンダム〔下線引用者〕に類似すると指摘する。第一に、レジェの作品に描かれた人物たちは、ビベンダムのように人工的で無機的な幾何学化された肉体を与えられている。そのため彼らは、幾何学化され結晶化された周囲の埴生の表象のなかに溶け込んでいる。パパペトロスはここに、カモフラージュと似た効果を見出している。ただしレジェは、人間に自然を模倣させて隠すカモフラージュとは異なり、人間とそれをとりまく埴生という二つの「自然」に、鉱物のようなモデルを適用した。タイヤ人間とレジェの森のなかの人物たちに共通する第二の点はまさにそこにある。ビベンダムもまた、その原材料は、加工前はアフリカのゴムの木という自然の事物だった。自然から人工的に化学物質をつくり出し工業製品をつくり出す、自然の搾取と近代的生活へのこの驚くべき同化とを、パパペトロスは、人間と自然とがともに幾何学化され結晶化されたレジェの《森のなかの裸体》にも読みとっているのである。
    松井 裕美「キュビスムの文法と詩学」


  • ■ キュビスム展 美の革命(国立西洋美術館 2023-2024)
  • 急に思い立って、会期末の夜間開館日に行って来た。コロナ禍が終息したからなのか(それとも意外に人気がないのか)、予約制と入場制限も撤廃されたようなので、当日券販売の窓口の列に並んでストレスなく入れた(スーパーのレシートみたいなペラペラの入場券には閉口)。しかも都内の美術展にしては程良い混み具合で、ゆっくりと鑑賞することが出来た。ブラックとピカソのグレーや褐色系のキュビスム絵画は地味かもしれないと思っていたけれど、ロベール・ドローネーやフェルナン・レジェの色彩はカラフルで明るい。驚いたのは殆どの作品が「撮影OK」だったこと。以前は撮影可の作品にだけカメラ・マークがあったのに、今展は数点の作品に撮影不可のXマークがあるだけ。スマホの一般普及に伴って、美術館の鑑賞スタイルは一変した。面白いのは写真を撮っている人たちは原画を肉眼で熱心に見ていないこと。解説パネルや説明文をメモ代わりに撮っている人もいたりして。当方はスマホを持っていないので、ネコ撮り専用のミラーレス・カメラ(NEX-5N)で撮りましたが。

    見どころは 「50年ぶりの大キュビスム展、本場パリ・ポンピドゥーセンターから50点以上が日本初出品」 「ピカソ12点×ブラック15点、初期の代表作で、スリリングな造形実験を追体験」 「ポンピドゥ ーセンターの人気作品、4メートルの大作《パリ市》も日本初公開&撮影OK」。《キュビスム以前──その源泉 / 「プリミティヴィスム」 / キュビスムの誕生──セザンヌに導かれて / ブラックとピカソ──ザイルで結ばれた二人(1909-1914)/ フェルナン・レジェとフアン・グリス / サロンにおけるキュビスム / 同時主義とオルフィスム──ロベール・ドロネーとソニア・ドローネー / デュシャン兄弟とピュトー・グループ / メゾン・キ ュビスト / 芸術家アトリエ「ラ・リュッシュ」/ 北欧からきたパリの芸術家たち / 立体未来主義 / キュビスムと第一次世界大戦 / キュビスム以後》という14のセクションで、1910年代初めに起こった芸術運動を包括的に展示。出口ブースではフェルナン・レジェとダドリー ・マーフィーの制作した映像作品〈バレエ・メカニック〉(1923-24)が上映されている。

                        *

  • 彼らはまず、十全な像を完成させる以前に画家が思い描く、解剖学や幾何学的な図式に新たな芸術表現の可能性を見出した。次に、観察にもとづく形態や、不条理な形態を加えることで、知覚困難な独自のイメージを生み出すに至った。こうしてピカソにとっても、ピュトー ・グループの芸術家たちにとっても、キュビスムの作品は鑑賞者に「見る」ことへの問いかけを要請するものとなった。彼らは、本来であれば芸術家や職人のみが知り得た表象生成の一過程を捉えた。そして、完成した像が身を結ぼうとする瞬間の未完成のイメージに、すでに完成した作品としての地位を与えながら、図式と図式化との対話のなかで像を思い描く画家の創造的なプロセスに、作品の鑑賞者を参与させようとした。それは、文法体系が自明ではない文書の読解への参加を鑑賞者に呼びかけるような試みだと言える。なぜならば、作品に描かれたものを認識するためには、そのなかに隠された解読可能な「単語」や「統語法」を手探りで探し出し、未知の「文字」を読み解かなければならないからである。
    松井 裕美「幾何学による解剖・解体と「概念の現実」の誕生」


  • キュビスム(Cubisme)とはセザンヌの「自然を円筒、円錐、球として扱う」という言葉に触発されたパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックが試みた20世紀初めに起きた芸術運動である。多視点から見た対象を分割して、二次元のカンヴァス(画面)に再構成する空間コラ ージュだった。遠近法による風景画や写実主義の肖像画に慣れ親しんだ目には難解な半抽象画のように見える。作品の前に立つ鑑賞者は絵画から(具象・抽象画を問わず)、様々なイメージを脳裡に思い浮かべる。キュビスム絵画のモチーフとなったギターやヴァイオリンなどの楽器からは元の形態を想像することは容易だが、分解された女性像からモデル本来の容貌を想像するのは難しいかもしれない。それでも対象を多視点から描写して分解・再構成したキュビスム絵画から、画家が描いた元の対象物やモデルとなった人物の姿を想像する愉しみがある。画家が描いたのとは真逆の過程を辿って、リアルな対象に肉薄するのである。

    ピカソの〈女性の胸像〉(1907)はアフリカの彫像や仮面を想わせるし、〈肘掛け椅子に座る女性〉(1910)はアルチンボルドやフランシス・ベーコンのように集積・抽象化されている。ジョルジュ・ブラックの〈果物皿とトランプ〉(1913)にはハートとクラブの札や葡萄の房が描かれているが、パピエ・コレや騙し絵のように再現された木目模様の果物皿は幾何学的に壊れたたように分割されている。マルセル・デュシャンの〈チェスをする人たち〉(1911)に至ってはナイト(馬)とポーンの駒らしきものは認められるものの、対戦している2人の人物は半透明の黒い影のようにしか描かれていない。ロベール・ドローネーの〈パリ市〉(1910-2)は三美神やエッフェル塔がプリズムのように切子状に分割された色鮮やかな大作。マリー・ローランサンの〈アポリネールとその友人たち(第2ヴァージョン)〉(1909)は中央に当時の恋人だった詩人ギヨーム・アポリネール、その右奥にピカソ、左端に詩人ガートルード・スタイン、右下に彼女自身が描かれているが、アポリネールの前で振り向いて右を見ている謎の動物は猫ではなく、ピカソの愛犬フリッカだという。

                        *

  • エルンストの作品におけるもうひとつの重要な特徴は、《花嫁としての解剖体》のような機械化された女性の解剖学的イメージが、ある種のエロティックなオブジェとして登場する点である。機械的な肉体に投影されたエロスと破壊的エネルギーの二重のイメージが、マルセル・デュシャンにも共通のものであった点は、香川檀やデイヴィッド・ホプキンスも指摘しているところである。だがエルンストの女性像の場合には、内面と外面との解消されることのない対立が、デュシャンの女性像にも増して、見るものにジレンマを与える。《花嫁としての解剖体》では、眼を閉じた機械仕掛けの女性の夢に誰も手を触れることができない。芸術家にすら彼女の夢に近づくことは許されていない。彼女の身体は解剖されその内部を晒しているにもかかわらず、彼女の内面はそのまぶたの裏に秘められたままである。この女性は、機械としての肉体を持ちながら、同時に固有の内面世界も有する存在であることが示されているのだ。/ 内面と外面との葛藤はこうしてエルンストの作品の重要なテーマとなる。
    松井 裕美「キュビスムと第一次世界大戦」


  • □ もっと知りたいキュビスム(東京美術 2023)松井 裕美
  • 「画家の生涯や変遷をたどりながら各年代を特徴づける名作をじっくり鑑賞」 する 「もっと知りたいシリーズ」 の1冊。いわゆる美術入門書(アート・ビギナーズ・コレクション)だが、その薄さ(B5判・80頁)に反して内容は濃い。パブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラック、マリー・ローランサン、アンドレ・ドラン。アルベール・グレーズとジュリエット・ローシ ュ、ジャン・メッツァンジェ、アンリ・ル・フォーコニエ、デュシャン一家。フェルナン・レジェとナディア・レジェ、ソニア・ドローネー、フアン・グリス、オーギュスト・エルバン、アンドレ・ロートなどのキュビストたちだけでなく、イタリア未来派、ドイツの青騎士とバウハウス、ロシア・アヴァンギャルド、ヴォーティシズム(渦巻派)、ダダなど、「キュビスムの普及と多様化」 にもページを割いている。「キュビスムというモダンなシンフォニーを完成させるのに欠かせない楽器の一つが、鑑賞者である私たち自身の想像力」 なのだ。

  • □ キュビスム芸術史(名古屋大学出版 2019)松井 裕美
  • 『もっと知りたいキュビスム』の著者による学術論文。「幾何学による解剖・解体と「概念の現実」の誕生 / キュビスムの文法と詩学 / キュビスムと第一次世界大戦 / 新たなる「秩序」へ向けて / 第二次世界大戦前後の政治社会とキュビスム」(全V部・10章)。プロト・キュビスムから分析的キュビスム、幾何学をめぐる言説と 「概念の現実」、解剖学から「概念の現実」(第I部)など、パブロ・ピカソの素描などから、解剖学的な図式から幾何学的な表現へ抽象化して行く過程を分析・総合して、現実の表象空間を描いたキュビスムの実験、その乱反射する多面性を解き明かす。キュビスムとは 「現実と虚構、現在と過去、イメージとテクストをつなぐ場としての表象空間を構築し、その構築のプロセスまでも完成作品のなかに示す芸術なのであり、現実という概念をめぐって異なる次元で試みられた数々の実験が出会うようなダイアグラムとしての表象空間」(自著紹介)である。A5判(692頁)、カラー口絵(16頁・25点)、図版(217点)、巻末の詳細な注や索引(127頁)なども充実している。

  • □ DADA ピカソびっくり キュビスム(朝日学生新聞社 2011)DADA日本版編集部
  • 「DADA」 は1991年フランスで創刊された子供向けの美術雑誌(DADA la premiere revue d'art)。「その定評あるアート誌から日本の子ども向けに適した号を厳選し、翻訳書籍化」 した 「フランス発 こどもアートシリーズ」 として全8巻(ピカソ、モネ、ルソー、ルノワール、ダ ・ヴィンチ、ターナー、セザンヌ、マティス)が刊行された。第1巻はピカソの〈アヴィニョンの娘たち〉(1907)に焦点を当て、「キュビスム」 と呼ばれる20世紀初頭に席巻した芸術運動を平易に解説する。「生き続けるキュビスムの娘たち」 と題して、青の時代、バラ色の時代から、分析的〜総合的キュビスム、そして古典主義へ変遷するピカソ。モンドリアンやマレーヴィッチのモダン・アートまで包括する。巻末の 「アトリエ キュビスム」 では色々な角度(正面・横・斜め)から見た目・鼻・口・耳を描いて福笑いのように並べる 「キ ュビスムの肖像画」、様々なアングルから撮ったイスの写真を切り貼りする「キュビスムの写真」を作成して、キュビスムのパピエ・コレやコラージュを子供たちにも実践してもらう。

                        *
                        *


    キュビスム展 美の革命

    キュビスム展 美の革命

    • アーティスト:ポール・セザンヌ / パブロ・ピカソ / ジョルジュ・ブラック / マリー・ローランサン / ロベール・ドローネー / フェルナン・レジェ / マルク・シャガール / ...
    • 会場:国立西洋美術館
    • 会期:2023/10/03~2024/01/28
    • 主催:国立西洋美術館 / ポンピドゥーセンター / 日本経済新聞社 / テレビ東京 / BSテレビ東京 / TBS / BS-TBS / TBSグロウディア
    • 内容:50年ぶりの大キュビスム展、本場パリ・ポンピドゥーセンターから50点以上が日本初出品 / ピカソ12点×ブラック15点、初期の代表作で、スリリングな造形実験を追体験 / ポンピドゥーセンターの人気作品、4メートルの大作《パリ市》も日本初公開&撮影OK


    もっと知りたいキュビスム

    もっと知りたいキュビスム

    • 著者:松井 裕美
    • 出版社:東京美術
    • 発売日:2023/10/05
    • メディア:単行本(アート・ビギナーズ・コレクション)
    • 目次:キュビスム誕生 / 様々な芸術家たち / キュビスムの普及と多様化 / コラム


    キュビスム芸術史 20世紀西洋美術と新しい〈現実〉

    キュビスム芸術史 20世紀西洋美術と新しい〈現実〉

    • 著者:松井 裕美
    • 出版社:名古屋大学出版会
    • 発売日:2019/02/28
    • メディア:単行本
    • 目次:序章 / 幾何学による解剖・解体と「概念の現実」の誕生 / キュビスムの文法と詩学 / キュビスムと第一次世界大戦 / 新たなる「秩序」へ向けて / 第二次世界大戦前後の政治社会とキュビスム / キュビスムの生と死 / 終章


    DADA ピカソびっくり キュビスム

    DADA ピカソびっくり キュビスム

    • 著者:DADA日本版編集部 / 水上 美樹(編)/ 今井 敬子(訳)
    • 出版社:朝日学生新聞社
    • 発売日:2011/09/17
    • メディア:単行本(フランス発こどもアートシリーズ 1)
    • 内容:DADAは1991年にフランスで創刊された子ども向けの美術雑誌です。個人ばかりでなく、多くの学校や図書館で定期購読され、教育指導にも使われています。2009年には、教育界によい影響をもたらした出版物に与えられるラベル賞を受賞しました。その定評あるアート誌から日本の子ども向けに適した号を厳選し、翻訳書...


    キュビスムって何?

    キュビスムって何?

    • 番組:オトナの教養講座
    • 出演:山田 五郎 / ウリタニさん(瓜谷 茜)
    • 企画・編集・イラスト:東阪企画
    • 配信日:2023/10/03
    • メディア:YouTube
    何が描いてある?

    何が描いてある?

    • 番組:オトナの教養講座
    • 出演:山田 五郎 / ウリタニさん(瓜谷 茜)
    • 企画・編集・イラスト:東阪企画
    • 配信日:2023/10/06
    • メディア:YouTube

    タグ:art cubisme
    コメント(0)