謎秘めたキリコ [a r t]
ジョルジョ・デ・キリコ 「無意味の形而上学」
自らコスプレ・自己演出した 「自画像・肖像画」(SECTION 1)。デ・キリコの彫像と自画像を左右に対置させた〈自画像〉(c.1922)、古典主義の画法で描いた〈17世紀の衣装をまとった公園での自画像〉(1959)、黒い半袖衣服を着た2番目の妻イザベラ・ファーの肖像〈秋〉(1935)。1909年10月イタリア・フィレンツェのサンタ・クローチェ広場で受けた啓示(未視感)から始まった「形而上絵画」(SECTION 2)。青黒い空、塔、彫像、アーケード、長く伸びた黒い影などが誇張された遠近法上に配置された 「イタリア広場」 シリーズの〈バラ色の塔のあるイタリア広場〉(c.1934)や〈イタリア広場(詩人の記念碑)〉(1969)。第一次世界大戦中の1915年、フェッラーラの病院の配属されたデ・キリコが制作した 「形而上的室内」。2つの建築構造の開口部、金髪の胸像、黒地に白線で描かれた脳を露わになって目を閉じた人物の横顔と円のイメージ、逆さまになった魚のデッサン、茶色の木目、文字や記号が書き込まれた〈運命の神殿〉(1914)など。
緑色の開口窓、定規などの製図用具、青い背景と円柱のシルエット、額に嵌ったビスケットと海図を室内にコラージュした〈福音書的な静物Ⅰ〉(1916)、ミケランジェロの描いた腕(額装)の奥に三角定規などの製図用具を配した左右に開口部のある新形而上絵画〈「ダヴィデ」 の手がある形而上的室内〉(1968)。ミューズ、予言者、詩人、哲学者、画家など様々な人物を演じる 「マヌカン」 はデ・キリコ絵画を代表するイメージである。黒字に白線の描かれたカンヴァスを見つめる手のないマヌカン(『20世紀少年』の 「ともだち」 や『新世紀エヴァンゲリオン』の 「使徒」 を想わせる)の〈予言者〉(1914-15)、黒い空洞の顔に三角定規が鼻のように垂直に立つ赤いマヌカンと背後の白いマヌカンの〈形而上的なミューズたち〉(1918)、ギターを弾く人物と背中に寄り添う卵形の人物をルノワール風に描いた〈南の歌〉(c.1930)、下半身が彫像と化した赤い頭部の後ろ向きマヌカンと膝の上に頭部を抱いて青い箱に座ったマヌカンの〈不安を与えるミューズたち〉(c.1950)など。
ジョルジョ・デ・キリコ 「無意味の形而上学」
1919年ローマ・ボルゲーゼ美術館を訪れ、ティツィアーノの作品の前で偉大な絵画についての2番目の啓示を得たデ・キリコは形而上絵画という 「描かれたイメージ」 から、「技術への回帰」 というマティエールの探求へ向かう。「剣闘士」 「考古学者」 「室内風景と谷間の家具」 など、新たなテーマを見出した 「1920年代の展開」(SECTION 3)。室内に2階・3階建ての家が配置されたデペイズマン風の〈緑の雨戸のある家〉(1925-26)、黒っぽい仮面の男、マヌカン、裸の剣士が闘う〈剣闘士〉(1928)、上半身にギリシャ神殿が描かれた2人の胴長人物がソファに座って肩を組む〈考古学者たち〉(c.1927)。ルネサンスやバロック期の古典絵画へ傾倒した 「伝統的な絵画への回帰──「秩序への回帰」 から 「ネオ・バロック」 へ」(SECTION 4)。 妻イザベラ・ファーのヌードを古典的な画法で描いた〈〈風景の中で水浴する女たちと赤い布〉(1945)、上半身ヌードの〈眠れる少女(ヴァトーの原画に基づく)〉(1947)など。
晩年に形而上絵画を再解釈・再構成した「新形而上絵画」(SECTION 5)。形而上的室内の左側の壁に架かっている画中画(塔、アーケード、彫像の形而上絵画)、右側の壁の窓から見える古代ギリシャ風の神殿、床に描かれた波立つ海面で若者が小舟を漕ぐ〈オデュッセウスの帰還〉(1968)、誇張された遠近法の室内に黒い太陽の影が描かれた画中画と製図用具、床の上の黒い三日月、左右の窓に太陽と三日月が見える〈燃えつきた太陽のある形而上的室内〉(1971)。地階から2階を巡る3フロアにはジャン・コクトー『神話』のための版画連作(リトグラフ)と油彩から成る 「挿絵──〈神秘的な水浴〉」(TOPIC 1)。金・銀メ ッキを施したブロンズ像の 「彫刻」(TOPIC 2)。『アムピオン』 『ニオベの死』『降誕祭のためのラウダ』などの衣装スケッチとバレエ『ブルチュネッラ』(1931)の衣装を展示した 「舞台美術」(TOPIC 3)も組み込まれている。 1階と2階の上りエレヴェータ前の通路では 「キリコの見たイタリア」(約2分)を映したヴィデオが上映されていた。
パリ五輪開催中の平日に観覧したためか、展示場内は余り混雑していなかった。2階出口にある物販売場も空いていて、美術館内で良く目にするレジ前に並ぶ長い列もなかった。いつもは冷やかして素通りするだけなのだが、一時品切れ中だったヒグチユウコのコラボ・グッズ(缶バッジ3種)が再販売されていた。ギュリコ(G. D. Gurico)の〈形而上絵画に潜むギュスターヴたち〉(2024)はスーザン・ハーバートやスヴェトラーナ・ペトロヴァの 「猫名画」 のように、デ・キリコの〈不安を与えるミューズたち〉の中に 「ギュスターヴくん」(下半身が蛸足の猫キャラ)が入り込んだオマージュ・アート。右奥の影の中の彫像がひとつめ(みつめ?)ちゃんになっていたり、赤いマヌカンの円柱化した下半身が蛸足になっていたり、手前にある長方体がギュスターヴくんの表紙の本になっていたりする。「ギュリコ缶バッジ」 は遠景のエステンセ城に現われた巨大な、赤いマヌカンの後頭部の孔から顔を覗かせる、座ったマヌカンの腕に抱かれて睡るギュスターヴたちをトリミングした3種がある。
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長尾 天 「オデュッセウスの帰還」
長尾 天 「「神の死」 の後を生きる」
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- 「我が生涯の回想録」 は『ジョルジョ・デ・キリコ』(水声社 2020)から引用した
- 「会場限定」 という惹句に誘惑されて 「ギュリコ缶バッジ RD」 を購入しちゃいました
- 「デ・キリコ展」(山田五郎 オトナの教養講座)を参照しました(期間限定公開です)
- トビカンは全面禁止だったのに、「神戸市立博物館」 は写真撮影OK作品が9点もあるじゃないの! これって一体どういうことのなの? 誰か教えて欲しいにゃん 。>﹏<。
metaphysical chirico / cubic cube / schiele's career and chapter / klimt's cats / okanoue toshiko / higuchi yuko circus / munch's sons / sknynx 1222
- アーティスト:ジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico 1888-1978)
- 会場:東京都美術館
- 会期:2024/04/27~08/29
- 主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館 / 朝日新聞社
- 概要:初期から描き続けた自画像や肖像画から、画家の名声を高めた 「形而上絵画」、西洋絵画の伝統に回帰した作品、そして晩年の 「新形而上絵画」 まで、世界各地から集まった100点以上の作品でデ・キリコ芸術の全体像に迫る大回顧展です
- 著者:長尾 天
- 出版社:東京美術
- 発売日:2024/05/01
- メディア:単行本(アート・ビギナーズ・コレクション)
- 目次:はじめに / 父の死 ── 旅の始まり / 形而上絵画 ── 「謎としての世界」 を描く / 技術への回帰 ── マティエールの追求へ / オデュッセウスの帰還 / おわりに / 作品索引 / 主要参考文献
ジョルジョ・デ・キリコ 神の死、形而上絵画、シュルレアリスム
- 著者:長尾 天
- 出版社:水声社
- 発売日: 2020/12/25
- メディア:単行本
- 目次:はじめに / 無意味の形而上学 / 「神の死」 を描く / 「神の死」 の後を生きる / おわりに──「神の死」 の後を生きる /【附論】西洋近代美術における 「神の死」 とシュルレアリスム試論 / 文献略記一覧 / 註 / 主要参考文献 / 図版一覧 / あとがき
- アーティスト:ヒグチユウコ(G. D. Gurico)
- 販売:ボリス雑貨店
- 発売日:2024/06/01
- メディア:ギュリコ缶バッジ 3種(BK / RD / GR)
- 内容:アーティストのヒグチユウコさんが、本展のためにアートワークを描きおろしました。デ・キリコの《不安を与えるミューズたち》からインスパイアされた作品に、ヒグチさんの絵本に出てくる「ギュスターヴくん」が描きこまれています。描き下ろしのアートワークを使用した缶バッジが3種類登場します
2024-08-11 00:06
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