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マインド・ボム(1 9 8 9) [r e w i n d]



  • ◎ TECHNIQUE(Factory)New Order
  • New Orderの5thアルバムはスペイン・イビザ島と英リアル・ワールドのスタジオで録音されたこともあってか、アシッド・ハウス色が濃い。先行シングル〈Fine Time〉のカヴァにカプセル錠剤のシルエットが使われたことからも、ドラッグ・カルチャーにドップリ浸かったというイメージに拍車をかけた。お世辞にも決して上手いとは言えない演奏、Bernard Sumnerの下手クソなヴォーカル、Peter Hookのリード・ベースに「テクニーク」という逆説的なアルバム・タイトルをつけるところが彼ららしい(Joy DivisionもNew Orderもナチス・ドイツ関連の際どいネーミングだった)。The Cureっぽいメロディ・ラインの〈All The Way〉、フェアライトやTVゲームのシューチング音など派手な効果音が飛び交う〈Mr Disco〉、ギター・ブレイクが〈悲しみのジェット・プレイン〉(Leaving On A Jet Plane 1966)に酷似していると、作者のJohn Denverから訴えられたエピソードもあるという〈Run〉‥‥。明るくはないけれど暗くもない、薄明かりの彼方に幽かな光明が垣間見えるアルバムである。

  • ◎ ORANGES & LEMONS(Virgin)XTC
  • XTCのアルバム・タイトルは「前作」の収録された曲の歌詞の中に隠されているという法則があるらしい。その例外に漏れず「Orange and Lemon」《Skylarking》(1986)所収の〈Ballet For A Rainy Day〉の一節から採られている。英米人の多くが想い浮かべるのは柑橘系フルーツの甘酸っぱくて瑞々しいイメージではなく、マザー・グースで歌われる残酷で不条理な「首切り人」の方であろう。一般的にはTod Rungren (前作のプロデューサ)に封じ込められた鬱憤を晴した傑作アルバムという評価だが、それ以上に彼らが変名バンド(The Dukes Of Stratosphear)の名義でリリースしたサイケデリック・アルバムからの影響も少なくない。60年代後半のサイケ・ロックのエッセンスが惜しみなく注ぎ込まれているのだ。中近東〜アラブっぽいエキゾチックなサウンドが爆発するオープニングの〈Garden Of Earthly Delight〉からして尋常ならぬ気配が漲り、気合いが籠っている。〈The Mayor Of Simpleton〉〈Here Comes President Kill Again〉〈Poor Skeleton Steps Out〉〈Scarecrow People〉‥‥といったタイトルだけからも、Andy Partridgeの辛辣な視線が感じられる。全15曲60分という構成もCD時代のフォーマットを先取りしていた。

  • ◎ HEART OF UNCLE(Globe Style)3 Mustaphas 3
  • 紅一点のLavra Tima Davizを含めてメンバー全員がムスタファ(Mustapha)姓を名乗る3 Mustaphas 3は英国の6人組だった。彼らの名前や衣裳からはバルカン・ミュージックを想わせるが、ヒンディ、フランス、スペイン、スワヒリ、マケドニア、ギリシア、英語の7ヵ国語で歌われる音楽は怪しげなワールド・ミュージックとしか言いようがない。全14曲中オリジナルは2曲のみで、多くのカヴァやトラディショナル曲には摩訶不思議なアレンジが施されている。Lavra嬢がヒンディ語で歌うアラビックな〈Anara Hooon〉にはスライド・ギターが入っているし、彼女(フランス+スペイン語)とSavah Habas Mustapha(仏語)がデュエットした〈Tros Fois Torois〉はトランペットやサックスも鳴り響いて、カリビアン・ミュージックっぽい。民族楽器のガイデ(gajde) やカヴァル(kaval)、ブルガリアのタンブーラ(tambura)が奏でる7拍子のインスト曲〈Sitna Lisa〉、Lavraがスワヒリ語を操る6拍子の〈Moma O〉‥‥。元歌を知っていれば2倍愉しめる、変態音楽愛好家のための無国籍音楽かしら?

  • ◎ MLAH(Off The Track)Les Negresses Vertes
  • 早すぎる死によって中心メンバーを失ったバンドの存続は難しい。Chico Scienceを交通事故で亡くしたNacao Zumbiの例を挙げるまでもなく、残されたメンバーには艱難辛苦の険しい道が待っている。New Orderが成功したのはIan Curtisの自殺と共にJoy Divisionの名前を潔く葬り去ったからなのかもしれない。フランス・パリで結成された8人組は生ギター、ベース、ピアノ、パーカッションにアコーディオンやトロンボーン、トランペットなどが鳴り響くアクースティックなワールド・ミュージックを演奏する。中心メンバーHelnoのヴォーカルはメランコリックなJoe Strummerみたいで魅力的だった。パンク・ロック、ジプシー・ミュージック、ライ、シャンソンなどが混じり合い、その上澄みだけを掬い取ったようなエレガントさも秘めていた。2ndアルバム《Famille Nombreuse》(1991)をリリースした後、ヘロインの過剰摂取によるHelnoの死(1993)以降も活動を続けていたが、彼の抜けた穴を埋めることは出来なかった。

  • ◎ DISINTEGRATION(Fiction)The Cure
  • Robert Smith率いるThe Cureの8thアルバムは70分を超える大作となった。冗長とも思えるアルバムを気に入っているのは〈Love Song〉という全米で大ヒットした曲が入っているからである。シンプルなラヴ・ソングの間奏(ギター・ソロの直前)で、Robert Smithが「Fly Me to the Moon」と口ずさむところは何百回繰り返し聴いても昇天しちゃう(「引用」と「パロディ」と「パクリ」は異なる。「引用」にはオマージュとリスペクトが、「パロディ」には諧謔と諷刺があるけれど、「パクリ」には露骨な剽窃と厚顔無恥しかない)。本当に月へ飛び立つような浮游感に包まれて、夢心地になるのだ。ゴシックでダンサブルなThe CureはNew Orderとの共通点も少なくないのだが、メランコリックでロマンチックなところはシューゲイザーにも一脈通じるものがある。派手な縞模様の脚を持つ蜘蛛男(The Spiderman)が今夜のディナーとして「私」を食べに来るという〈Lullaby〉、10分近い長尺曲の〈The Same Deep Water as You〉など‥‥Robert Smithの世界に耽溺してね。

  • ◎ MIND BOMB(Epic)The The
  • Matt Johnsonのソロ・プロジェクトだったThe Theは3rdアルバムで4人編成のバンドへと進化した。James Eller(ベース)、David Palmer(ドラムス)のリズム・セクションに加え、最も注目すべきは元The SmithsのJohnny Marr(ギター)の加入だったことは言うまでもない。タイトなリズム隊に挑発的なギターが絡み、揺るぎないヴォイスが冴え渡る。コーラン(テープ)が薄く流れるオープニング〈Good Morning Beautiful〉、「ISLAM is rising」と歌われる〈Armageddon Days Are Here (again)〉‥‥。湾岸戦争から9・11後のイラク戦争までの世界情勢を予言したかのようなMatt Johnsonの透徹した幻視力に震撼させられる。余りにも研ぎ澄まされた精神と思考によって時空を超えたことで、21世紀に入ってから長い沈黙を余儀なくされたのは当然の帰結かもしれない。Sinead O'Connerとデュエットした〈Kingdom Of Rain〉、偏見や誤った情報のダイエットを目指して目を見開き、想像力を開放せよと歌う〈Beat (en) Genaration〉‥‥。The Theの黙示録的なアルバムから20年以上経った現実世界(未来社会)の惨状は目を覆いたくなるほどだが。

  • ◎ CLUB CLASSICS VOL.1(10)Soul II Soul
  • 「グラウンド・ビート」でクラブ・ミュージックを一世風靡したSoul II Soulのデビュー・アルバムは20年以上を経た今日聴いても色褪せずに新しい。その革新的なリズム・サウンドゆえに凡百のフォロワーに真似されて瞬く間に浸透〜拡散してしまったが、オリジネイターならではの輝きは衰えるどころか黄色い閃光を放っている。しなやかで強靭、洗練されていて汗臭くない。Massive Attackが仄暗いダブの日陰ならば、Soul II Soulは明るいレゲエの陽射しというところだろうか。Jazzie B.、Caron Wheeler、Nellee Hooper、Reggae Philharmonic Orchestra‥‥〈Keep On Movin'〉に参加したミュージシャンたちの中にGota(屋敷豪太)の名前があったことも忘れずに記憶しておこう。オリジナル・アルバムに〈Back To Life〉のアカペラ・ヴァージョンしか入っていないのは残念だが、「10周年記念アルバム」(Virgin 1999)にはB面やヴァージョン違いなど6曲が追加収録されている。

  • ◎ "SIR" / ROYAL BASTARD(El)King Of Luxembourg
  • ラファエル前派絵画や少女マンガの世界から抜け出て来たような美形騎士。「ルクセンブルグ王」にコスプレしたSimon Fisher Turnerの2in1CD(全23曲・74分19秒)には甘美な少年時代や甘酸っぱい青春時代の記憶が詰まっている。1stアルバム《Royal Bastard》はカヴァー集、2nd《"Sir"》はオリジナル曲中心となっているけれど、ヒネくれたノイズ混じりのポップス感覚は2枚に共通している。Television Personalitiesの〈ドリアン・グレイの肖像〉、途中から狂躁的なマカロニ・ウエスタンに脱線するThe Monkeesの〈Valleri〉、Harpers Bizarreのラヴ・ソング〈Mad〉、暗鬱な白昼夢のようなP.I.L.の〈Poptones〉、The Turtlesの大ヒット曲〈Happy Together〉‥‥。紙ジャケ仕様の国内リマスター盤(2006)はバラ売りなので、量か質かの悩みどころ(輸入CDは「廃盤」かしら?)。10年後にLovletterと名前を変えてリリースした復活アルバム《Beethoven Chopin Kitchen Fraud》(Siesta 1999)も必聴です。

  • ◎ FREEDOM(Reprise)Neil Young
  • Neil Youngの音楽にはアクースティックとエレクトロニックの2つに引き裂かれた分裂傾向がある。ナイーヴな弾き語りフォークと爆音ノイズ・ロックのアンビヴァレンスな鬩ぎ合い。相反する指向性を異和感なく1つのアルバムに共存させたのが《Rust Never Sleeps》(1979)だった。それは〈My My, Hey Hey〉と〈Hey Hey, My My〉という同一曲の生ギターとエレキ・ヴァージョンをアルバムの最初と最後に配置するアイデアだった。10年後の《Freedom》も同じく〈Rockin' In The Free World〉の2ヴァージョン(弾き語りライヴとロック)で挟む構成になっている。90年代の〈Hey Hey, My My〉と呼ばれる由縁でもある。8分を超える長尺曲の〈Crime In The City〉、轟音ギターが炸裂する〈Don't Cry〉、Linda Ronstadtとデュエットした〈Hanging On A Limb〉、カントリー・ミュージックの〈Someday〉、唯一のカヴァ曲〈On Broadway〉、ロマンティックなピアノ曲〈Wrecking Ball〉、サイケデリック・ロックの〈No More〉‥‥など、同名曲でサンドイッチされた10曲もヴァラエティに富む。人民服に身を包んだアルバム・カヴァ(写真)は「天安門事件」(1989)への抗議表明である。

  • ◎ THE SENSUAL WORLD(EMI)Kate Bush
  • 当時の潮流を反映したワールド・ミュージック色の濃いアルバム。The Trio Bulgarkaと共演した3曲は比較的地味な楽曲の中にあって異彩を放っている。ブルガリア女声コーラス隊は〈Deeper Understanding〉というコンピュータとの対話を描いた曲の中のバック・コーラスとして最初に登場する。それに較べると、Kate Bushのワールド・ミュージック観とも受け取れる〈Never Me Mine〉は、ワールド・ミュージックとの距離という面で根源的な問いかけを孕んでいる。魅惑的な歌の中で《これこそ私の求めていたものだ / 私の必要とするものだ》と歓喜した後で、《でも決して私のものにはならない》と諦観するのだから。ワールド・ミュージックが近くて遠い存在であることを確認した彼女は、〈Rocket's Tail〉で異文化との全面対決に挑む。これは「共演」というような生温い関係ではなく、ケルト民族の末裔とマケドニアの魔女たちの戦闘のようにも聴こえる。ブルガリアの3人組は手強いけれど、「ケルトの妖精」と化したKate Bushも負けてはいない。お互いが背負っている「音楽」や「文化」の総重量や相違点を慮れば、「ロケット空中戦」の様相も呈して来る。

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    • 輸入盤のリリース〜入手順

    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです

    • 《The Sensual World》は〈赤い靴のヴードゥー〉から再録しました(一部改稿)
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    Mind Bomb

    Mind Bomb

    • Artist: The The
    • Label: Sony
    • Date: 1989/06/19
    • Media: Audio CD
    • Songs: Good Morning Beautiful / Armageddon Days Are Here (Again) / The Violence Of Truth / Kingdom Of Rain / The Beat(en) Generation / August & September / Gravitate To Me / Beyond Love


    TechniqueOrange & LemonsHeart of Uncle

    MlahDisintegrationVol. 1 - Club Classics 10th Anniversary

    Sir / Royal BastardFreedomThe Sensual World

    タグ:rewind the the Music
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