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パリンド・キャット 2(ネコ回文集) [p a l i n d r o m e]



  • 小説『猫の客』についても触れたことを、ここでも同じく思い出したのでまたしつこく書くと、猫が好きである自分が好き、という人が嫌いである、私は。猫が好きでないのではない。そういう人を好きになれないでいたのだ。そんな私は、猫を好きになるずっと以前に、写真を撮ることを好きになっていた。/ カメラを持って写真を撮る人の中には、写真そのものよりもカメラという機械を好きな人。そして、写真を撮っている自分が好き、そういう人もいる。彼らを冷たい目で眺めているはずの自分も、しかし時にはそちら側に淫しているような気になってひやりとする。いけない! と思う。/ 夢中になったなにかを撮りながら、その「なにか」にその実心を寄せていない、という態度は、被写体よりもカメラを構えるこちらのほうが偉いと誤解しているのと、同じことである。そういう風な心持ちで撮った写真はなかなかどうして、無条件にいい、と思わされるものにはならないはずなのだ。
    木村 衣有子 『猫の本棚』


  • ▢ 溶けたい日々が「ネコ日和」‥‥ピリピリ呼び子、音が響いたけど
    「ネコ日和」とは一体どのような日なのか?‥‥五月晴れの麗らかな午後、日向で微睡むネコたちの姿が思い浮かぶ。久しぶりに立ち寄ったI袋駅前公園。春の嵐や低温日などの不順な天候が響いて、今年(2013)は花見の機会を逸してしまった。桜も散った4月末の夕方、公園の奥の植え込みの陰に隠れていたネコたちも次第に姿を現わす。通りがかった人たちもケータイやiPadや一眼レフを手にして写真を撮り出す。水天宮神社の前で何の前触れもなく始まった「ネコ撮影会」に心和む。ネコの見る夢を想像して作った回文のようなマジカルな時間が流れる。夢の中で溶けたネコは何に変わるのだろうか。ジャングルのトラたちは木の周りを駆け回ってバターになったけれど、公園のネコたちは夢の中で大好物のチーズになってしまったのかもしれない。「ネコ日和」という言葉は田口久美子のネコ・エッセイ集『書店員のネコ日和』(ポプラ社 2010)から採った。

    ▢ キティがスパ入浴。薬用ユニ・バス快適
    元来ネコは水を嫌う習性だというけれど、飲み水の器の中に入れた前肢を弾いて床にジャクソン・ポロック風の抽象画を描く子ネコもいるし、入浴中の飼主の後を追って浴槽に飛び込んで来るネコもいる。お風呂大好きのキティちゃんは毎朝、毎夜、湯船の中でリラックス。もちろん浴室の中は浴槽(ユニ・バス)を含めてピンク色で統一されている。回文ストーリの主人公はネコの飼主ではなく、飼いネコ自身。ネコの視点(1人称)で描かれた饒舌体。全国の温泉地巡りが趣味で、家にいる時はユニ・バスに天然温泉入浴剤や薬用ハーブを入れてプチ温泉気分を味わっているという趣向。サンリオ・キャラのハロー・キティを擬人化というか擬猫化しているわけだが、美少女アイドルの独白風パロディにもなっているかしら。吉行理恵の「湯ぶねに落ちた猫」のイメージも借りている。

    ▢ MacBook Pro、子猫寝転ぶ、靴拭く妻
    〈臨死のマック抱く、妻の心理〉という村上春樹の回文が元ネタになっている。「マック」だけではデスクトップなのかノートブックなのか、マッキントッシュ(Mac)の機種を特定出来ないし、賞味期限切れの某ハンバーガーを思い浮かべてしまう粗忽者もいないとは限らない。MacBook Pro(マックブック・プロ)ならばスリスリしたくなるシルヴァー・ボディの肌触り、白く光るリンゴ・マーク、黒いベゼルに映える液晶パネル画面、環境センサーで光るキーボードなど‥‥コンピュータ以上の愛情を妻がマックに抱いたとしても不思議ではないでしょう(回文ストーリでは逆に亭主の方がマック愛に耽溺している)。Mac OS Xのコードネームがネコ科動物の名前だったり、「マックの中に住んでるネコ」など、マックとネコの相性も良好です。余談ですが、回文作成者(sknys)も2011年秋に10年間愛用して来たノートブック(iBook)に別れを告げて、MacBook Proに買い替えました。

    ▢ 低温夜、稚児寝る夜。「ネコちゃんおいで!」
    「SF史上最高の猫」の誉れ高いガミッチ(Gummitch)君は飼主夫婦のことを〈馬肉のせんせい〉〈ネコちゃんおいで〉という渾名をつけている。馬肉を食べさせてくれる夫ハリー・ハンターと「ネコちゃんおいで」と呼びかける妻ヘレンというわけだ。フリッツ・ライバーの「跳躍者の時空」(河出書房新社 2010)は天才子ネコのガミッチを主猫公とするSF連作の1作目だが、ネコ・アンソロジー集『魔法の猫』(扶桑社 1998)に収録された「跳躍者の時空」では〈馬肉の大将〉(Old Horsemeat)、〈ネコこっちおいで〉(Kitty-Come-Here)と訳されていた。スーパー子ネコが幼ない長女シシーの魔の手から〈赤ん坊〉を守るために何をしたかを想うと目頭が熱くなる。ガミッチの活躍に魅了されてからは外でネコを見かけると、つい「ネコちゃんおいで」と女飼主のように呼びかけてしまう。外ネコたちは天才ネコ(IQ160)のように人語を解するわけではないので、必ずしも尻尾を振って近寄って来るとは限らないのだが。

    ▢ 捏ねる粘土、ふわふわフトン寝るネコ
    ある稲荷神社の裏口から奥へ入ったところにある空き地に数匹のネコたちが屯していた。首輪をした飼いネコや野性味溢れるノラたちが集う空間。雑草の蔓延った場所には粗大ゴミや廃材なども捨てられていた。元は敷き布団か掛け布団だったのだろうか、白い綿の上に1匹のネコが鎮座している。余程居心地が良いのか、、近づいても逃げ出す気配は全くない。柔らかいクッションやふわふわ座布団の上はネコにとっても、お気に入りの場所なのに違いない。中学校の美術室‥‥机の上に座布団を敷いて、ネコにモデルになってもらう。生徒たちは中央のネコを円形に丸く囲んで思い思いに粘土を捏ねる。ネコ回文に「ネコ」「寝る」という言葉が入ってしまうのは、ある意味で避けられないことなのかもしれない。「ねこ」の語源は「寝子」という説もあるくらいなのだから。

    ▢ オリンパス、ネコ飛ばし、都市はどこ?‥‥寝ず番リオ
    オリンパスの「飛ばし」事件は兎も角、S神井川にネコを投げ捨てる不届きな輩がいる。たまたま目撃した人が通報すれば消防車が現場に駆けつけて、消防隊員が川に落ちたネコを救出するのだが、川上で雨が降って水嵩が高く勢いが激しい時には川下へ流されてしまうこともあるらしい。事細かな区の条例や行き過ぎた監視カメラの設置には反対だが、一民間人の手に負えない動物虐待常習者には、それ相当の罰則が適用されてしかるべきだと思う。佃島公園のネコが人に棒で殴り殺されたと聞いて「棒で殴られたような心持ち」になった動物写真家の岩合光昭氏も『ネコに金星』(新潮社 2013)の中で「アメリカでは動物虐待は禁固刑に当たる。ヒトが増えればいろいろあるだろう。ネコには対応できないことも起こってくる。その結果いのちを落とす。ネコはおちおち外を歩けなくなってしまうだろうか」と書いている。あるヴォランティアの女性も「私は絶対に赦さない」と怒りを込めて語っていた。

    ▢ スラム・ネコ通り、もう懲り懲りコウモリ男眠らず
    「スラム・ネコ通り」が一体どこにあるのか、実在するストリートなのかどうかも分からない。恐らく「バットマン」の舞台となったゴッサムシティのような市街地の郊外に「コウモリ屋敷」が建っていて、その裏通りにノラネコたちが群棲しているというシチュエーションだろう。治安悪化や経済格差で荒れ果てた街はスラム化してしまう。住民たちが市外に逃げ出し、ゴースト・タウンとなった街にはコウモリ男とネコだけが残された。「コウモリ邸」へ通じる道は、いつからか「スラム・ネコ通り」と呼ばれるようになった。野生化したドラネコ軍団の鳴き声に日夜苛まれて、不眠症に陥ったコウモリ男爵。「猫ストーカー」ではなく、逆に猫にストーカーされているような憂鬱な気分。仇敵ジョーカーやキャット・ウーマンと闘えるような精神状態は保てない‥‥この物語(回文ストーリ)はダーク・ヒーローものではなく、トラジコメディである。

    ▢ 3トン犀にキャット、危険激突、山羊兄さん頓挫
    対戦型格闘ゲーム「鉄拳シリーズ」のCGムーヴィ(Tekken 6 Ending)にパンダに股がった凌暁雨(リン・シャオユウ)が三島高専の校門前に停車している白いリムジンに激突するシーンがある。折しもリンと同じようにリムジンに衝突しそうになって自転車から転げ落ちて弁当を台無しにした風間飛鳥とクルマに乗っていたリリ・ロシュフォールの口論〜バトルが始まっていたところだった。「遅刻、遅刻〜〜〜〜ッ!」と叫びながら暴走するリンとパンダをネコと犀に、リリと飛鳥を山羊兄さんに変えたスラップスティック回文。ネコや山羊兄さんが通うアニマル学園高等部は校則が厳しいことで有名なのだ。お茶目な白黒模様に騙されて可愛いと思っているパンダも獰猛なクマの一種なので、全速力で目前に逼って来ると怖い。もっとも角のある3トン犀の方が危険度は高いかもしれないけれど。

    ▢ 未遂で事故死?‥‥奇面館。猫と5年間メキシコ・シティ住み
    「奇面館」の晩餐会に招待された6人の客人たちは全員が面妖な仮面を被って素顔と氏名を隠している。その仮面パーティの直前に〈奇面の間〉で首を吊って死んでしまった館主。自殺なのか、事故なのか(余興の「自殺未遂パフォーマンス」に失敗した?)、それとも密室殺人事件なのか?‥‥奇面館主人に招かれていたゲストの1人と1匹、迷宮探偵とペットのネコが怪事件を推理する回文シリーズ「綾取猫人と黒猫コロネの事件簿10」。怪事件と名推理はあっても「解決編」のない回文ミステリだが、今回の事件で1つだけ解明されていることがある。かつて館主が「猫と5年間メキシコ・シティ」に住んでいた屋敷が「黒猫館」と呼ばれていたことである。「黒猫館」で主人と一緒に暮らしていたという黒猫とコロネちゃんの関係は母と子なのでしょうか。言うまでもなく『奇面館の殺人』(講談社 2012)のパロディになっています。

    ▢ 9月彦根、魔夜、狼が大山猫引っ掻く
    ひこにゃんが夜回り中に神社の境内で目撃した狼と大山猫の壮絶な闘い。オオカミや大山猫(Lynx)が日本国内に棲息しているのかは不明ですが、ひこにゃんだって「ゆるキャラ」なんだから、「ネコ駅長」のように実在しているとは言い難い。「スニーズ回文」は本文(回文ストーリ)も含めてフィクションと断っているので問題は何もないけれど。ゆるキャラ・ブームの背後には少ない元手で一攫千金の経済効果を目論む役所や地元の商売人根性が透けて見える。ひこにゃん人気に便乗して2匹目、3匹目のドジョウを狙った雨後のタケノコみたいに安易で安直な「ゆるキャラ」たちは悪乗りではないか(「なぞなぞ回文 #32」に登場したくまモンはキモ可愛いけれど)。ひこにゃん回文には森の中で偶然出会った大山猫と仲良くなったという「後日談」もあります。あなたも「猫ストーカー」になって、ひこにゃんの後を尾けて行けば幻の大山猫に出遭えるかもしれません。

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    • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい

    • 回文アンソロジー・シリーズ4‥‥ネコ回文を集めてみました。各回文をクリックするとオリジナル・ストーリが読めます^^

    • 文庫版『私は猫ストーカー』(中央公論新社 2013)は『私は猫ストーカー』(洋泉社 2005)と『帰って来た猫ストーカー』(2008)を合本・再編集した完全版です
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    猫の本棚

    猫の本棚

    • 著者:木村 衣有子
    • 出版社:平凡社
    • 発売日:2011/07/23
    • メディア:単行本
    • 目次:まえがき / 猫文学を読む / 猫を知る / 出典・引用一覧/参考文献 / あとがきにかえて──かまめしねこの名前


    私は猫ストーカー 完全版

    私は猫ストーカー 完全版

    • 著者:浅生 ハルミン
    • 出版社:中央公論新社
    • 発売日:2013/01/23
    • メディア:文庫
    • 目次:はじめに「猫のあとをつけてみたい」/ あなたにもできる猫追いの手引き / 実録・猫ストーカーファイル / あとがき / 透明な革命・穂村 弘

    タグ:palindrome cats
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