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スニーズ・シンクス 2 0 1 2 [b l o g]



  • ステンシルはこつこつといつものように探索する手を止めて、今もし生きていたら76歳になっている彼女の姿を思い浮かべてみた。──何か新しいプラスチックでこしらえられた色つやのよい皮膚、両眼はガラス製で光電管が埋め込まれており、それが純銅線でできた視神経に銀電極で連結されている。そして、その視神経はダイオード組織によって最高度に精妙にできた脳につながっている。ソレノード中継点が彼女の神経節で、サーボ発電機が彼女の非の打どころのないナイロン製の四肢を動かし、作動油がプラチナ製の心臓ポンプによって酪酸塩の動脈と静脈に送り込まれているのだろう。おそらく──ステンシルも「全病連」の連中と同様、時には下品な想像をすることがあった──ポリエチレン製の見事な膣には完全な圧力変換装置さえもはめ込まれていることだろう。その装置のホイーストン・ブリッジの腕部はすべて1本の銀線につながれていてそれが彼女の頭骸に埋め込まれた計数器の正確な記録計に直接快楽電圧を供給する。
    トマス・ピンチョン「恋するV.」


  • 7年目のスニンクス(sknynx)は59件の記事をアップした(2011.12~2012.11)。月5回というスローペースのブログだが、昨今の月日の流れは地球の自転・公転が高速化しているのではないかと疑うくらいに早い。何も出来ずに右往左往している間に年の瀬を迎えてしまったという焦燥感や虚無感に苛まれる。スローライフだから相対的に外界の動向が速く感じられるのか、それともスピードアップすれば逆に止まって見えるのか‥‥。「不思議な少年」のように一瞬でも時を止めることが出来たらと想うけれど、十代の頃の時間はウンザリするほど退屈で遅々として進まなかった。記憶の中の過去はスローモーション化してしまうのだろうか。スニンクスは8月に記事400件となったけれど、思ったほどの達成感はない。1つ1つの記事を深く掘って構築しないと時間の洪水に流されて、大津波の後の陸地のように何も残らないのではないかと危惧する。この7年間に消えて行ったブロガーや記事も少なくないのだから。もちろん、残す価値があるのか?‥‥という根源的な問いかけも聞こえて来るけれど。

    回文シリーズは〈逃げた花畑に〉〈花粉撒布か?〉〈服毒6度9分〉〈貧相ゾンビ〉の4件をアップ。9月に300回文を達成し、スピンオフ的な「なぞなぞ回文」も30回となった。フルネーム回文やネコ回文は意識的に作っているが、改めて見直すと時事ネタやロンドン五輪を題材にした回文だけでなく、ブログ記事から派生したものも多数含まれていることに気づく。回文(言葉遊び)は、ある意味で無意識裡の産物なので、その時に考えていたことや興味ある事象などが色濃く反映される。ベラドンナ、オリンパス、なでしこジャパン、ツイッター、アップル、都市伝説、スヌーピー、スピネッタ、マウンテン・ライオン、いけふくろう、くノ一、ヒカリエ、おかしなあの子、ドログバ、ビョーク、リオデジャネイロ、ロベルト、クリンゴン‥‥1年以上を経ても、3・11を想わせる回文が入っていることにも驚く。「回文と本文はフィクションです」と断っているけれど、浮世離れしたようなストーリには同時代エッセイ風の色合いもあるわけだ。

    石ノ森シリーズは〈魔法世界のジュン〉〈千の目を持つ女〉〈幻魔大戦前夜〉〈サイボーグ 009〉の4作をアップした。「ジュン」はCOMの連載後も掲載誌を変え、主人公の年齢を下げて描き継がれた。マンガの枠組みを解体して表現を広げた実験的作品は40年の歳月を経て高く評価されている。「千の目先生」は女子高に赴任して来た女教師が活躍する超能力学園もの。少女誌の連載ということもあってか、ヒロインも美しく理想的な女性として描かれている。「幻魔大戦」は続編が「新幻魔大戦」としてSF誌に連載された後、平井和正の原作から離れ、新構想の下で再び少年誌に掲載された。〈サイボーグ 009〉は「ミュートス・サイボーグ編」までで、名作の誉れ高い「地下帝国ヨミ編」以降は今後順次アップして行く予定。同郷の後輩・大友克洋も発言していたように、石森章太郎のSFは「超能力」と切っても切れない関係にある。「ジュン」は超能力少女がジュンに見せる夢や幻覚のようでもあるし、「009」の最強ゼロゼロナンバーは001である。死んだ後も残留思念となって弟の身を護る姉の強烈なイメージは大友克洋の「Fire-ball」にも投影されているはずである。

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    年間ベスト・アルバム10(rewind)を休止して始めた「ファブ・フォー」はThe Beatlesのオリジナル・アルバム(14枚)を解説して行く新シリーズ。試聴アルバムは最新リマスターCD(2009)を使用しているが、読むべきファブ・フォー関連の資料が多すぎて、思った以上に時間がかかる。レコーディングの詳細については主に『ザ・ビートルズ全曲バイブル』(日経BP社 2009)を参照している。どの解説本や回想録も同じようなエピソードが語られているものの、細部で微妙に異なるところが悩ましい。〈白いアルバム〉〈魔法不思議旅〉〈胡椒軍曹倶楽部楽団〉〈修道院通り〉‥‥というように、記事タイトルは原題を直訳した日本語になっている。デビュー50周年の2012年はアニメ映画『Yellow Submarine』やTV映画『Magical Mystery Tour』のデジタル・リストア版DVD&Blu-rayが出たり、2009年リマスター盤のアナログBOX(14枚組)がリリースされたりと、ファブ・フォーの話題に事欠かない(日本では深夜枠で「Magical Mystery Tour」などもTV放映された)。

    iTunes(11.0)が10月30日に公式リリースされた。アルバム・カヴァが横に並ぶ外観、サイドバーを隠したシンプルなアピアランスはOSX(10.7)以降に準じるもので、完全な刷新リニューアルである(Lionのファインダと同じく、サイドバーを表示させることも可能)。シングル盤のように1曲ずつ聴くのには不向きだが、アルバム単位で管理するのに適している。アルバム・カヴァの色合いに応じて文字色や背景色が変化するなど、アップルらしい洒落たギミックに満ちているし、新ミニ・プレイヤの横幅も3段階に可変出来るなど細部にも凝った洗練されたデザインになっている。イコライザ設定のサウンドも変わったような気もするけれど、「Perfect」と称されるデフォルト(Manual)の設定をプリセットしておくと良いかもしれない。iTunesストアで曲を購入することはないが、全曲試聴(Preview All)にしてミニ・プレイヤだけをデスクトップに表示しておくだけで、アルバム1枚を約十数分間で聴くことが出来る。さらに日本以外の国に設定することで、英米だけでなくフランス、ブラジル、ギリシャ‥‥など、世界各国の音楽を自由に試聴可能となる。

    年末恒例の愉しみの1つは英米各メディアが発表する年間ベスト・アルバムにある。NMEやSPINなどの音楽誌、Pitchforkに代表される音楽サイト、iTunesやAmazonなどの配信・通販サイト、TVやラジオ局、さらに新聞各紙や一般誌なども加わって百花繚乱の賑わい。これほどまでに多種多様なメディアの年間ベスト・アルバムを一望に俯瞰出来るのはネットならではの恩恵だと思う(本来ならば雑誌を購入しなければ分からない紙媒体のチャートも公開されている)。各メディアの年間ベスト・アルバムを集計して総合的な順位をつける音楽サイトさえあるのだ。英WIREの年間ベスト1に驚いたり、英Guardianの小出しベスト10に苛立ったり‥‥個人的なベスト10(Rewind 2012)の選出に悩みながら、慌ただしい年の瀬に各メディアのリストを矯めつ眇めつ眺めるのも愉しい。上位に選ばれたアルバムから逆に各サイトの嗜好が分かったりもする。もちろん、未聴・未入手のアルバムを発見して、リアル店舗に走ることも少なくないのだが。

      Beats Per Minute's Top 10 Albums Of 2012
    • Flying Lotus - Until The Quiet Comes
    • Chromatics - Kill For Love
    • Andy Stott - Luxury Problems
    • Frank Ocean - Channel Orange
    • Tame Impala - Lonerism
    • Jens Lekman - I Know What Love Isn't
    • Kendrick Lamar - good kid, m.A.A.d. city
    • How To Dress Well - Total Loss
    • Julia Holter - Ekstasis
    • Swans - The Seer





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    ネコ関連(cat's cradle)では〈猫のアート〉(necord)1つしかアップ出来なかったのは心残りだが、「キトゥン・カヴァーズ」「キャット・アート」という2つの猫パロディ集を紹介した。名アルバムや名画の中でポーズするネコたちの姿を見るのは愉しい。ネコ写真はミラーレス一眼に買い替えてから撮影時間の幅も広がり(暗闇でも撮れる高感度番長)、順調に撮れている。旧サイバー・ショットで撮ったネコ写真(9枚)を蔵出し初公開する「サイバー・キャット」も毎月末に掲載中。「ネコ・ログ」で紹介している都会のネコたちも延べ240匹を越えた。3・11後、ネコという愛すべき小動物が、この世界に存在していて本当に良かったと思う。もしネコが地球から1匹もいなくなったとしたら、色彩が失われたモノトーンの世界になったように感じるだろう。もちろんネコではなく、犬でも兎でも猿でもパンダでもコアラでも良いのだが、人間が動物(ペット)たちによって癒される時代に生きていることを深く実感する。長年連れ添った亭主ではなく、ペットと一緒の墓に入りたいと切望する既婚女性の気持ちも分からなくない。

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    • Author: sknys
    • Articles: 423
    • Page View: 1,350,224
    • Date: 2012/12/16
    • Media: Internet


    V. 2

    V. 2

    • 著者:トマス・ピンチョン / 三宅 卓雄・伊藤貞基・中川ゆきこ・広瀬英一・中村紘一(訳)
    • 出版社:国書刊行会
    • 発売日:1989/07/01
    • メディア:単行本
    • 目次:さまざまな若者同志のつどい / ファウスト・メイストラルの告白 / あまり面白いことも起こらない / ヨーヨーの紐は精神の状態と分ること / 恋するV. / さよなら(サーハ)/ ヴァレッタ / エピローグ 1919年

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