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白いアルバム 2 [m u s i c]

  


  • ◎ White Album(Apple 1968)The Beatles
  • 《ホワイト・アルバム》のカヴァは厳密に言うと「真っ白」ではなかった。エンボス加工された「The BEATLES」のロゴの右下に通し番号が刻印されていたのだから。「限定ナンバー」 と呼ばれているものの、いわゆる番号入りの限定盤ではないし、固有のシリアル・ナンバーでもなかった。通し番号には数多くの重複があったのだ。曰く、英国盤は7桁で、米盤は数字の前にプレフィックスの「A」が付き、日本盤は「A」から始まる6桁だったとか諸説紛紛としていて、真相は薮の中という感じである(たとえば英国盤は12カ所のプレス工場で個別に1からナンバリングしたために「0000001」は12枚も存在するという)。そもそも「限定ナンバー」としての本来の意味や価値は無いに等しい。アルバムをデザインしたリチ ャード・ハミルトンによると、1枚1枚のレコード・ジャケットにシリアル・ナンバーを打ち、それぞれが限定盤であるかのように見せるというものだった。《ホワイト・アルバム》の初回プレスの限定盤が数百万枚出回ることを考えれば、何とも皮肉なアイディア」だった。手許にある国内盤LPのシリアル・ナンバーは「No. A021851」である。

  • ● Birthday
  • 後半(C面)のオープニングを飾るのは〈Back In The U.S.S.R.〉(A面1曲目)と同じく、操的で騒がしいパーティ・ソング。1968年9月18日、ファブ・フォーとスタッフ一同は〈Birthday〉のセッションを中断してPaulの家へ行き、TVで初放映された音楽映画を観たという。『女はそれを我慢できない』(The Girl Can't Help It 1956)はジェーン・マンスフィールドをヒロインにしたコメディ映画で、ジーン・ヴィンセントやエディ・コクラン、リトル・リチャードなどのライヴ映像が数多く挿入されていた。往年のロックンローラーを観た興奮が冷め切らぬうちにスタジオに戻った4人は、レコーティングを再開して完成させたという。JohnとPaulのツイン・ヴォーカルで、派手なギター・リフも力強い。オノ・ヨーコやパティ・ボイド(Pattie Boyd)も「誕生日のパーティ」にコーラス参加している。

  • ■ Yer Blues
  • 3/4から4/4へリズム・チェンジして、再び3/4に戻る変則ブルース・ナンバーだが、60年代後半に英国で流行ったブルース・ロックを揶揄しているという。「Yes I'm lonely wanna die」という歌詞も強烈で、歪んだノイジー・ギターと渾然一体化したJohnの悲痛な叫びが目の前に迫って来る。臨場感溢れるサウンドは録音場所と無関係ではなさそうだ。広いスタジオではなく、コントロール・ルームに隣接する狭苦しいテープ倉庫でライヴ・レコーディングしたのは、肩の触れ合うような小空間で演奏することで音楽のパワーが増すというJohnの意向によるもの。ブルースの呪縛に囚われたような3拍子から、ロックンロールへ解き放たれる瞬間がカッコ良い(曲は再び3拍子に戻ってフェイド・アウトする)。Eric Claptonがギターで参加しているのではないかという噂はGeorgeがEricから譲り受けたレスポールを弾いているからかもしれない。

  • ● Mother Nature's Son
  • Paulの単独録音曲(アクースティック・ギター、バス・ドラム、ティンパニー)で、トロンボーンやトランペットなどのブラスがオーヴァ・ダビングされている。〈Blackbird〉と同じくカッター・ファミリーとスリー・フィンガー・ピッキングを折衷させたギター奏法だが、Dフォームを移動させるコード・ワークは難易度が高い。「クロウタドリ」の応用篇といったところだろうか。印象的なイントロや2番目から入るベース・ラン(E→G#→B→E)、サビのスキャットやラストのハミングも小粋で洒落ている。マハリシ・マヘッシュ・ヨギの人間と自然の関わりについての講義「母なる自然の驚異」の影響下で書かれた曲だとされる。

  • ■ Everybody's Got Something To Hide Exept Me And My Monkey
  • 鳴り続けるハンド・ベルやブラジルのシェイカー、チョカルホ(chocalho)の音が騒がしいロック・ナンバー。「me and my monkey」は自分とヨーコのことを指しているとJohnが自己解説している一方で、「モンキー」(monkey)がヘロイン中毒依存状態を表わす隠語であることから、周囲から孤立していた2人の状態を歌ったのではないかというPaulのような意見もある。「モンキー」がヤク中毒者なのかヨーコなのかは兎も角、Johnの背中に乗っているのは間違いないようだ(「have a monkey on one's back」は「麻薬中毒に陥っている」という意味)。「come on, take it easy」 というフレーズがマハリシ・ヨギの口癖だったように、歌詞も彼の講義からの引用だという。ファブ・フォーの全楽曲(213曲)の中で最長タイトルというオマケも付いている。

  • ■ Sexy Sadie
  • マハリシ・マヘッシュ・ヨギ(Maharishi Mahesh Yogi)の「セクハラ疑惑」に腹を立てたJohnがリシケシュを去る際に作った曲だが、導師を名指しで批難する直截的なタイトルと歌詞をGeorgeに諌められて改変した。後にアップル・エレクトロニクス部門のマジック・アレックス(Alexis Mardas)によるデッチ上げであるらしいことが判明してから、セクシャルな女性に対する官能的な歌へと変貌する。不穏なコード進行(G→F#→Bm)、エフェクト処理されたPaulとGeorgeのコーラス、印象的なピアノなどがJohnのヴォーカルを包み込んで、不思議な魔力を醸し出している。1993年、15年振りにマハリシと再開したGeorgeが、この件のことで謝罪したというエピソードがあることから鑑みても、「セクハラ疑惑」は捏造だったのだろう。

  • ● Helter Skelter
  • Paulがピート・タウンゼント(Pete Townshend)のインタヴュー記事に触発されて書いたラウドでヘヴィなハード・ロック。27分を超える長尺テイクもあったという逸話も残る文字通りのハード・ワーク・セッションだったことはRingoがエンディングで 「指にマメが出来ちゃった!」(I've got blisters on my fingers!)と叫んでいることからも想像に難くない。〈Strawberry Fields Forever〉や〈Hello Goodbye〉など、1度フェイド・アウトして再びフェイド・インする凝った曲構成になっているが、意図的なものではなく、単に演奏時間が長いので便宜的に「中略」した可能性もある。「ヘルター・スケルター」 とは回りながら降りて行く螺旋状のスベリ台のことで、〈Helter Skelter〉や《White Album》に収録された他の曲にチャールズ・マンソン・ファミリー(Manson Family)の起こした忌まわしい「シャロン・テート(Sharon Tate)殺人事件」を示唆するような歌詞は1つもない。

  • ◆ Long, Long, Long
  • Georgeの囁くようなヴォーカルをフィーチャーしたアクースティックなワルツ曲だが、ラウドでヘヴィなハード・ロックの後では、さらに小さく弱々しく聴こえる。「"you"とは神のことだ」と自ら明かしているように、後のソロ・アルバムで神への愛を歌った〈My Sweet Lord〉や〈Give Me Love〉への細やかな萌芽が感じられる。生ギターがシタールっぽい響きを奏でている。エンディング近くのノイズはPaulの弾いていたハモンド・オルガンの回転式レズリー・スピーカの上に置いてあったワイン・ボトルが揺れる音だという。この種の偶然の産物を失敗だと思わず、逆に面白がって積極的に採り入れるところがファブ・フォーらしい。Johnは録音に一切関与していない。

  • ■ Revolution 1
  • 1968年5月30日、「白いアルバム」のレコーディング・セッションで一番最初に取り上げられた曲で、彼らには珍しく同じタイトルの曲が3種類存在する。シングル盤B面とアルバム・ヴァージョンと実験的なミュージック・アート作品‥‥。〈Hey Jude〉のカップリング曲としてテンポを速めてハード・ロックに仕立てた〈Revolution〉はリメイク版で、〈1〉となっているのはオリジナル・ヴァージョンの意味である(後述するサウンド・コラージュ版が何故〈9〉なのかは不明。少なくとも〈3~8〉が存在したわけではない)。〈1〉はドゥワップ風のコーラスが入ったスロー・ヴァージョンになっているけれど、歌詞面では「オレを数に入れないでくれ」(you can count me out)の後で「入れて」(count me in)と歌っているところに違いがある(シングル・ヴァージョンでは「you can count me out」と歌っている)。イントロの効果音(SE)はタイプライターを打つ音だという。

  • ● Honey Pie
  • 1925年にタイムスリップした主人公(Paul)が架空の銀幕ヒロインのハニー・パイに恋するラヴ・ソング。北イングランド出身の労働者だった恋人が渡米して映画女優になるというロマンチックなストーリになっている。「今や彼女は大ブレイク!」(Now she's hit the big time)というナレーション部分にスクラッチ・ノイズを入れて、蓄音機から流れる78回転レコード風の音響効果を演出。ジョージ・マーティン(George Martin)がアレンジしたというサックスとクラリネットの音色も古き良き時代を偲ばせる。オールド・ジャズやヴォードヴィル・ミュージックを嫌っていたJohnがGeorgeも絶賛するギター・ソロを弾いているところも可笑しい。〈Wild Honey Pie〉(A-5)との関連性は不明である。

  • ◆ Savoy Truffle
  • 大の甘党で、歯痛に悩まされていたEric Claptonのことを揶揄った曲。「Creme tangerine and montelimat」 「A ginger sling with a pineapple heart」 など、歌詞の大部分はタイトルも含めて、その友人が食べていたマッキントッシュ社の「Good News」というチョコレートの箱の裏蓋に書かれていた名前から採っている。甘いチョコばっかり食べていると虫歯になって、全部抜くことになっちゃうよ!「食は人なり」(You know that what you eat you are)というメッセージとも、たわいのないナンセンス・ソング(「Obla-Di-Bla-Da」というチョコまである?)とも解釈出来るが、甘く蕩けるチョコなのに何故かハードなブラス・ロックなのだ。クリス・トーマス(Chris Thomas)がディストーション処理したバリトン&テナー・サックスのアレンジをして、オルガンも弾いている。〈Long, Long, Long〉と同じく、Johnは不参加。この曲を繰り返し聴いていると「白いアルバム」が巨大なホワイト・チョコレートに見えて来たりして。

  • ■ Cry Baby Cry(~Can You Take Me Back?)
  • TVコマーシャルのキャッチコピーから採ったタイトル、マザー・グースの〈6ペンスの唄〉(Sing A Song Of Sixpence)をパロディ化した王様と女王の歌詞、『不思議の国のアリス』を想わせるシュールなストーリ‥‥John流に換骨奪胎された夢物語のように聴こえる。本人は「ゴミの1つ」と一蹴していたが、デヴィッド・カンティックは「世俗的な家事をこなすおとぎ話の王侯貴族という不気味なキャスト、真夜中の降霊会、姿の見えない子供の一団へのくり返し、〈Cry Baby Cry〉は夢ににたゴースト・ストーリー的雰囲気をそなえた曲である」と褒めている。印象的なハーモニウムを弾いているのはジョージ・マーティン。エンディング後にJohnの奇妙な夢物語を補完するように、Paulの30秒弱のノン・クレジット曲(Can You Take Me Back?)が挿入されている。この小曲でLennon-McCartneyのアルバム収録曲を同数(13曲ずつ)に揃えたのではないかしら?

  • ■ Revolution 9
  • 「Number Nine, Number Nine...」という男性ヴォイスが謎の呪文や秘密の暗号のようにリフレインされる実験的なサウンド・コラージュにして、The Beatlesの全楽曲中の最長曲(8分22秒)である。〈Revolution 1〉で切り捨てられたアウトロ部分にJohn & Yokoの作ったテープ・ループやヴォイス、ノイズ、具体音などを重ねた「革命」についてのミュージック・アートで、モノクロのドキュメント映像を視聴しているような錯覚に陥る。ヴァージョン違いを期待したリスナーは見事に裏切られる。〈Revolution〉は最後まで出て来ないのだ。「裸になりなさい」(You become naked)というヨーコのインストラクションも挿入される〈Revolution 9〉はポピュラー・ミュージックというよりも、美術館で鑑賞するコンテンポラリー・アートに近い。John & Yokoのアヴァンギャン作品としてではなく、The Beatlesのアルバムに収録されたことに大きな意義がある。「9」はJohnにとって特別な数字‥‥。奇しくもというか、彼の誕生日も命日も9日だった(最新リマスターCDの発売日も2009年9月9日でしたね)。

  • ★ Good Night
  • Johnが当時5歳だった息子ジュリアンのために書いた子守唄。ヴァイオリン、フルート、クラリネット、ヴィブラフォン、ホルン、ハープ、ヴィオラ、チェロ、コントラバスなど総勢35名からなるオーケストラをバックに、マイク・サムズ・シンガーズという8人編成の男女混成コーラス隊を従えたRingoが甘く優雅に、哀愁を込めて歌う。スコアを書いたジョージ・マーティンはチェレスタ(celesta)とピアノを弾いている。3人のメンバーが録音に参加することはなかったが、Ringoの歌入れには立ち合っていたという。「ホワイト・アルバム」のエンディングとして、これほど相応しい曲もない。執拗に繰り返される「ナンバー・ナイン」──9枚目のアルバム(米編集盤の《Magical Mystery Tour》(Capitol 1967)は勘定に入れない!)という符牒なのかもしれない──という「呪文」が耳タコ状態になって、変調を来したファンも溜飲を下げたことでしょう。皆さん、おやすみなさい。良い夢を‥‥。

                        *
    • ■ John Lennon ● Paul McCartney ◆ George Harrison ★ Ringo Starr
                        *


    White Album

    White Album

    • Artist: The Beatles
    • Label: EMI UK
    • Date: 2009/09/09
    • Media: Audio CD(2CD)
    • Songs: Birthday / Yer Blues / Mother Nature's Son / Everybody's Got Something To Hide Except Me And My Monkey / Sexy Sadie / Helter Skelter / Long, Long, Long / Revolution 1 / Honey Pie / Savoy Truffle / Cry Baby Cry / Revolution 9 / Good Night


    ザ・ビートルズ全曲バイブル ── 公式録音全213曲完全ガイド

    ザ・ビートルズ全曲バイブル ── 公式録音全213曲完全ガイド

    • 編者: 大人のロック!
    • 出版社:日経BP社
    • 発売日: 2009/12/07
    • メディア:ハードカヴァ
    • 目次:英米公式全作品の系譜 / 公式録音全213曲徹底ガイド(2トラックレコーディング時代〜ライヴ演奏スタイルでの録音/ 4トラックレコーディング時代 1〜アレンジの幅が広がりサウンドに深み / 4トラックレコーディング時代 2〜バンドの枠を超えた録音の始まり / 4トラックレコーディング時代 3 〜ロックを芸術の域に高める/ 8トラックレコーディング時代へ〜サウンドと作品の多様化 / 8トラックレコーディング時代〜原点回帰...と円熟のサウンド)/ 録音技術の変化と楽曲解析方法


    THE WHITE ALBUM ── ホワイト・アルバム徹底解析 THE BEATLES

    THE WHITE ALBUM ── ホワイト・アルバム徹底解析 THE BEATLES

    • 編集・著作:nowhere編集室+ザ・ビートルズ・クラブ編集室
    • 出版社:プロデュース・センター出版局
    • 発売日:2008/11/22
    • メディア:大型本
    • 目次:ポール・マッカートニーが語る ジョンとジョージの魂に支えられて /始まり 〜 In The Beginning / アルバム・データ / 楽曲解説〜革命の30曲 / ホワイト・アルバム前夜 / それぞれのホワイト・アルバム / 当時の各紙評論&関係者の評 / サー・ジョージ・マーティンによるプロデューサーのスヽメ / 中古盤ハンター的ホワイト・アルバム / カラー写真 / ホワイト・アルバム・グッズ紹介 / 年表 / 笑撃! ホワイト・アルバムは1枚組で...よかった?

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    コメント 4

    ノエルかえる

    こんにちわ、
    白いアルバム、後編をありがとうございます。
    by ノエルかえる (2012-03-24 20:53) 

    sknys

    ノエルかえるさん、コメントありがとう。
    「限定ナンバー」も「No.9」も謎ですが、
    「Good News」の裏蓋の画像を見つけちゃった^^
    http://4.bp.blogspot.com/-RokYwl9406o/TgqiSuVDxTI/AAAAAAAAA7Q/GJX61ORl52I/s1600/savoytruffle.jpg
    by sknys (2012-03-24 23:04) 

    ノエルかえる

    こんにちわ、
    「 Good news 」の裏蓋画像! 面白いです。
    先日、テレビの日曜美術館で、イギリスの Slipware を紹介していましたけど、それを思い出させました。
    私の好きな XTC も、チョコレートの箱を見て、「 Great Fire 」を思いついたのだったと思いますが。
    by ノエルかえる (2012-03-25 12:05) 

    sknys

    チョコの抽象的なデザインは焼きもの(Slipware)の柄だったのか。
    《Chips from the Chocolate Fireball》という変タイトルも謎ですね^^

    左上の「Savoy Truffle」(菱形)から時計回りに「Toffee & Cherry Cup」「Coconut & Caramel」「Pineapple Treat」「Montelimart」「Ginger Sling」「Almond Sundae」「Nougatine Cup」「Toffee Creme Brazil」「Coffee Dessert」「Creme Tangerine」‥‥と書いてある。
    by sknys (2012-03-25 23:52) 

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