SSブログ

魔法不思議旅 [m u s i c]

  


  • 「ミス・ター、シ・ティ、プリス・マン、シッ・ティン、プリ・ティ」/ ジョンは少し言葉の順序を違えてみた。「可愛く坐って、警官みたい」(sitting pretty like a policeman)となったが、それから先には進めなかった。これはいずれ何かの唄〔註:I Am The Walrus〕の基礎にはなるだろうと彼は言ったが、そのときはまだ発展させるには及ばなかった。次に唄が必要になったとき、これを引き出すことができるだろう。「何かの紙っ切れに書きとめておいた。いつも覚えておく自信がないので書きとめるのだが、でも忘れはしないよ」/ 彼はその日、ほかの歌詞も書きとめていたが、それは気が狂ったみたいな言葉で、別のリズムに添えるためであった。「一粒のコーンフレークの上に坐って、男が来る(man to come)のを待っている」といった調子。私は、ジョンが「荷車が来る」(van to come)と言ったのだと思ったが、そうではなかった。しかしその歌詞も悪くない、それを使ってみようかなと、彼は言った。
    ハンター・デイヴィス 『ビートルズ』


  • ◎ Magical Mystery Tour(Parlophone 1967)The Beatles
  • 1967年12月26日に英国BBCで初放映された映画『Magical Mystery Tour』は日本では翌年、武道館でプレミア上映された(1968.9.28)。メンバー4人と家族、親類、友人たちが大型バスに乗って行き先の分らない遊覧旅行をするというストーリ性の希薄な内容よりも、観客の中から失神者が出たことの方が驚きだった。当時はスクリーン上にファブ・フォーが映し出されただけで気を失って失禁してしまう娘や少女たちがいたのだ。英オリジナル盤は2枚組EPで、1枚に3曲ずつ収録(Side 1-2、Side 2-1)されていた。そのためか、米編集盤(Capitol 1967)のA面とは曲順が異なっている。B面に収録された3枚のシングル盤のクオリティも人気も高いので、後に「オリジナル・アルバム」扱いされるようになったものの、EP2枚とシングル3枚を抱き合わせた折衷アルバムであることには変わりがない。4人がセイウチなどに仮装したアルバム・カヴァだけでも(トリミングを施さずに)、英EP盤の「カヴァ」を踏襲して欲しかった。

  • ● Magical Mystery Tour
  • ミステリー・ツアーのオープニングに相応しい華やかな主題歌。「Roll up, Roll up」 という呼びかけ、「招待」(invitation)や 「予約」(reservation)というコーラスが、これから出発するバス小旅行を盛り上げる。ファブ・フォーの録音現場に居合わせていたハンター・デイヴィスが「ある夜、7時半にEMIのスタジオに着いたとき、彼らの手許にあったのは、この題名と数小節の音楽だけであった」と書いているように、アルバム・タイトル曲は即興で作られた.。Paulのピアノとベース、JohnとGeorgeのギター、外部ミュージシャンの演奏するトランペットが高らかに響き、Ringoのドラムスだけでなく、マラカス、カウベル、タンバリンなどのパーカッションも騒がしいほど賑やかに鳴る。バスが右へ通り抜ける効果音も大型トラック並みの迫力だ。ただ高揚感を煽るだけでなく、エンディングのピアノ・ソロが映画のサウンド・トラックのようにロマンティックな余韻を残す。

  • ● The Fool On The Hill
  • Paulのピアノとリコーダー、JohnとGeorgeのバス・ハーモニカに外部ミュージシャンのフルートが加わる眠気を誘うような牧歌的な曲。トニックから2度上がって7thへ行くコード進行(D→Em7)がボサノヴァを想わせるように、どこか優雅で物憂げな午後のティータイムを連想させなくもない。どこからサビが始まるのか分らないほどスムーズに繋がって行くメロディ・ラインが心地良い。「But the fool on the hill see the sun going down...」 というフレーズにはジョージ・マーティンも「誰にもこのようなフレーズは思いつかないだろう。これはポールの水平思考を、天才ぶりを示すよい例と言える」と舌を巻いている。「丘の上のバカ」とは一体誰なのか?‥‥地動説を主張して処刑されたガリレオ・ガリレイやマハリシ・マヘッシュ・ヨギがモデルだという説もあるけれど。

  • ◇ Flying
  • 『Magical Mystery Tour』の映画音楽として4人で共作した初のインストルメンタル曲(作曲者名はHarrison-Lennon-McCartney-Starkey)。主旋律はJohnが弾くメロトロン(トロンボーン)で、Georgeのギターにアクースティック・ギターやハモンド・オルガンが鳴っている。12小節から成るブルース形式のインスト・ナンバーだが、途中から4人のコーラスが入り、後半は逆回転やテープ・ループによるサイケデリックなサウンド展開となる。妙に男っぽいコーラスが異質で、ジャズっぽい大人の雰囲気もある。モノ・ミックス段階では9分以上もあったというから、特定のシーンで使われることを想定して作られたBGMだったのかもしれない。英オリジナルEP盤では5曲目(Disc 2-2)に収録されていて、裏面のラスト曲〈Blue Jay Way〉に続く。

  • ◆ Blue Jay Way
  • 1967年8月、米カリフォルニア滞在中に書かれた曲で、ハリソン夫妻がロサンジェルスに借りていた家の通りの名前に由来する。友人のデレク・テイラー(元アップル広報官)を待つ間に、借家に置いてあった小さなハモンド・オルガンで作ったという。「LAに霧が立ち籠めて、僕の友達は道に迷ってしまった」(There's a fog upon L.A. / And my friends have lost their way)と冒頭の歌詞にあるように、いつまで経っても姿を現さない友人夫妻を待つ心境が歌われている。Georgeのハモンドと演奏者不詳のチェロが印象的で、意外にもギターは一切使用していない。殆どワン・コード(C)の曲だが、リズム変化(2/4、3/8)や逆回転テープなどのエフェクトが不穏で不気味なサウンドを醸し出す。霧の中で迷子になってしまった不安と、その安否を気に懸けながら待ち続ける心情が夢の中の出来事のように渾然と溶け合っている。

  • ● Your Mother Should Know
  • ロンドンの自宅にあるハーモニウムで作った曲で、母と娘の世代間のギャップを歌っているという。Paulのピアノとベース、Johnのハモンド・オルガン、Georgeのタンブーラ、Ringoのドラムス‥‥タンバリンの音も聴こえるが、比較的なシンプルなサウンドになっている。左チャンネルから聴こえるPaulのヴォーカルは1番の歌詞を2度繰り返した後で、3番は右チ ャンネルにパンニング移動し、4番でダブルトラック(ADT)化する。「あなたの母親の生まれる前のヒット曲に合せて踊ろう」という歌詞の通り、どこかノスタルジックで懐かしいシャッフル系のリズムになっている。全6曲中、この曲を含めた3曲(4人共作のインスト〈Fliying〉を入れると4曲)がPaulの作曲であることからも、映画『Magical Mystery Tour』がPaulのアイディア〜主導で始まった企画だったことが窺われる。

  • ■ I Am The Walrus
  • セイウチ(walrus)と卵男(eggman)が歌詞の中に出て来ることでも有名なJohnの曲。2人とも『鏡の国のアリス』に登場するキャラだが、改めて言うまでもなくハンプティ・ダンプティ(Humpty Dumpty)の元ネタはマザー・グースの唄にある。「コーンフレークの上に坐って荷車(van)を待っている」 「蟹のロッカー、魚の妻、好色な尼僧」 「エッフェル塔に登るセモリナ小麦粉の鰯」」‥‥といったシュルレアリスティックな歌詞以上にサウンドもサイケデリック・カラーに彩られている。Johnのウーリッツアー、 Gerogeのギター、Paulのベース、Ringoのドラムスにヴァイオリン、チェロ、クラリネット、ホルンのストリングス、マイク・サムズ・シンガーズの男女混成コーラス、テープループなどが加わった摩訶不思議なサウンドには似非クラシックの響きさえ感じられる。後半のラジオ音声はJohnがチューニングしたシェークスピアの『リア王』だったという。余計なことだが、歌詞を訳してくれた英文科の女子大生は淫らな少女がパンティ(knickers)を脱いじゃうところで、子供に和訳して良いものかどうか困惑していました。

  • ● Hello, Goodbye
  • 1967年11月24日にリリースされた16枚目のシングル。「yes, no」 「stop, go」 「goodbye, hello」‥‥相対する反意語による反復は男女間の意見の齟齬を歌っているようにも聴こえる。PaulのピアノとGeorgeのギターが目立つが、ヴィオラやハモンド・オルガン、ハンドクラップ、一度音が途切れた後の 「マオリ・フィナーレ」(Maori Finale)ではボンゴ、マラカス、コンガ、タンバリンのパーカッションが入って来る。ギターの音色やJohnとGeorgeのコーラスなどは後期ファブ・フォーを代表する明快なサウンドで、B面の収録曲に甘んじたサイケデリック色の濃い〈 I Am The Walrus〉との落差が大きい。この曲から米編集盤のB面となる。若年ファンの無駄な出費を抑えるために、先行発売したヒット・シングル曲をアルバムに収録しないという方針はマネージャーとプロデューサー、ブライアン・エプスタインとジョージ・マーティンの意向によるものらしい。

  • ■ Strawberry Fields Forever
  • 1967年2月17日にリリースされた14枚目のシングル(英国では〈Penny Lane〉との両A面)。リヴァプールの孤児院「ストロベリー・フィールド」という古いスクリーンに映し出された少年時代の心象風景。Johnと共に過去へタイムスリップすることで、子供の目線で世界を見つめることになる。Paulのメロトロンとベース、Johnのアルペジオ・ギター、Ringoのドラムスの「スローで瞑想的なヴァージョン」とトランペットやチェロの入った「熱狂的でパーカッシヴなヴァージョン」を繋ぎ合わせたことで唯一無二の傑作となった。キーもテンポも異なる2つのテイクを1つに結合(演奏開始から1分後)させたのはJohnの無理難題に挑んだジョージ・マーティンとエンジニアの功績である。中盤以降で奏でられるソードマンデル(swarmandal)の響きも美しい。フェイドアウトした後のリズム・トラックはメンバーやスタッフが付け足したもので、「クランベリー・ソース」(cranberry sauce)というJohnの呟きが「僕はポールを埋葬した」(I buried Paul.)と聴こえたことから、「ポール死亡説」(Paul is Dead)という "都市伝説" が生まれることになる。

  • ● Penny Lane
  • 〈Strawberry Fields Forever〉のカップリング曲で、アメリカではA面扱いでリリースされた。恐らくPaulの対抗意識からだろう‥‥〈苺畑〉と同じく少年時代を回想する趣向になっている。Johnが抽象的な思索に耽るのとは対照的に、Paulは記憶の中の人物や風景を脚色して描く。散髪した客の写真を飾っている理髪店主、雨が降ってもレインコート(mac)を着ない銀行家、女王陛下の写真をポケットに入れている消防士、ポピーの花を売っている看護婦‥‥「ペニー・レイン」はリヴァプール郊外の通りの名前だが、実際に歌われている場所は近くの環状交差点(ペニー・レイン・ロータリー)だという。Paulのピアノを中心にトランペット、オーボエ、コントラバス、フルートなどを加えたチェンバー・ポップで、間奏やエンディングで聴こえるピッコロトランペット(piccolo trumpet)の軽やかな音色が際立っている。青空が広がる郊外の風景の中に「フィンガー・パイ」(finger pies)というセクシャルなスラングを忍ばせるところもPaulらしい。

  • ■ Baby, You're A Rich Man
  • JohnとPaulの2つの未完成曲、〈One Of The Beautiful People〉(Aメロ)と〈Baby, You're A Rich Man〉(サビ)を合体させた正真正銘のLennon-McCartneyの共作曲。それぞれ自分の作曲したパートを歌っている。JohnとPaulのピアノ、Johnの饒舌なクラヴィオライン(clavioline)、Paulの奔放なベース、Georgeのギター、Ringoのドラムスとタンバリン‥‥メンバー3人に加えて、ミック・ジャガー(Mick Jagger)がコーラスで参加しているという。アニメ映画『Yellow Submarine』(1968)のために録音された新曲ということもあってか、混沌としたサイケ色よりも親しみやすいポップ・ソングという趣き。〈All You Need Is Love〉のB面シングルとしてリリースされたが、《Yellow Submarine》(Apple 1969)のサウンドトラック・アルバムには重複を避けるためか収録されなかった。

  • ■ All You Need Is Love
  • 1967年6月25日、初の衛星中継TV番組「OUR WORLD」で、世界26ヵ国へ向けて演奏されたメッセージ・ソング。英国では12日後の7月7日に15枚目のシングルとしてリリースされた。「愛こそはすべて」という単純明快な歌詞に反して、Aメロは4/4と3/4が交互に繰り返される変則リズムになっている。Johnのハープシコード、Paulのダブルベース、Georgeのヴァイオリンにサックス、トロンボーン、トランペット、フリューゲルホルン、アコーディオンなどを配した編成。コーラスにはミック・ジャガー、キース・リチャーズ、キース・ムーン、マリアンヌ・フェイスフル、エリック・クラプトン、パティ・ハリソン、ジェーン・アッシャー、マイク・マッカートニー、グレアム・ナッシュ、ハンター・デイヴィスなど豪華ゲストが参加している。イントロのフランス国家〈ラ・マルセイエーズ〉、エンディングのバッハ〈インヴェンション8番ヘ長調〉、グレン・ミラー〈イン・ザ・ムード〉、イングランド民謡〈グリーンスリーヴス〉に、Johnが歌う〈Yesterday〉や〈She Loves You〉などが引用されるジョージ・マーティンの編曲も愉しい。

                        *
    • ■ John Lennon ● Paul McCartney ◆ George Harrison ◇ Instrumental
                        *


    Magical Mystery Tour

    Magical Mystery Tour

    • Artist: The Beatles
    • Label: EMI UK
    • Date: 2009/09/09
    • Media: Audio CD
    • Songs: Magical Mystery Tour / The Fool On The Hill / Flying / Blue Jay Way / Your Mother Should Know / I Am The Walrus / Hello, Goodbye / Strawberry Fields Forever / Penny Lane / Baby, You're A Rich Man / All You Need Is Love


    ザ・ビートルズ全曲バイブル ── 公式録音全213曲完全ガイド

    ザ・ビートルズ全曲バイブル ── 公式録音全213曲完全ガイド

    • 編者: 大人のロック!
    • 出版社:日経BP社
    • 発売日: 2009/12/07
    • メディア:ハードカヴァ
    • 目次:英米公式全作品の系譜 / 公式録音全213曲徹底ガイド(2トラックレコーディング時代〜ライヴ演奏スタイルでの録音/ 4トラックレコーディング時代 1〜アレンジの幅が広がりサウンドに深み / 4トラックレコーディング時代 2〜バンドの枠を超えた録音の始まり / 4トラックレコーディング時代 3 〜ロックを芸術の域に高める/ 8トラックレコーディング時代へ〜サウンドと作品の多様化 / 8トラックレコーディング時代〜原点回帰...と円熟のサウンド)/ 録音技術の変化と楽曲解析方法


    増補完全版 ビートルズ 下

    増補完全版 ビートルズ 下

    • 著者:ハンター・デイヴィス(Hunter Davies)/ 小笠原豊樹・中田耕治(訳)
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日:2010/07/02
    • メディア:文庫
    • 目次:ビートルマニア / アメリカ / イギリス、そして再びアメリカへ / 旅公演の終り / ブライアン・エプスタインの死 / ドラックからマハリシまで / 友人たち、両親たち / ビートルズ帝国 / ビートルズとその音楽 / ジョン / ポール / ジョージ / リンゴ / 結び / 1985年版あとがき / 訳者ノート(旧版)/ 付録A──過ぎ去りし人々の思い出:2009年版 / 付...録B──ビートルズのディスコグラフィ / 感謝の言葉 / 解説

    コメント(0)  トラックバック(0) 

    コメント 0

    コメントを書く

    お名前:
    URL:
    コメント:
    画像認証:
    下の画像に表示されている文字を入力してください。

    トラックバック 0