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ミルキー・ナイト(1 9 9 9) [r e w i n d]



  • ◎ SAMBA PRA BURRO(Trama)Otto
  • Mundo Livre s/aのパーカッション奏者によるソロ・デビュー作。ブラジル発のドラムンベース・アルバムとして注目を集めたが、サンバやマンギ・ビート、ヒップホップやレゲエ / ダブを基にしたサウンドは超高速直線的な英国産オリジナルではなく、柔らかい曲線を描く。同じサッカーでも欧州と南米、プレミア・リーグとブラジル国内とではプレイ・スタイルが全く異なるように。意表を衝くパスや独創的なドリブルで相手を翻弄するセレソンのように。Otto自身のヴォーカルに加え、ボサ・ノヴァの巨匠の娘Bebel Gilbertoや、Mundo LivreのリーダーFred 04(Zero Quatro)がゲスト参加。Apollo 9(Planet Hemp)のプロデュース。「未来世紀ブラジル」を予感させる近未来サウンドだったけれど、本家のドラムンベースが失速して新世代ブラジル音楽も停滞?‥‥21世紀はアルゼンチン音響派〜エレクトロニカの花が開くことになる。

  • ◎ APPLE VENUS VOLUME 1(Cooking Vinyl)XTC
  • 確執が噂されていたヴァージン・レーベルから離脱し、Dave Gregoryも抜けて2人組になってしまった新生XTCのアルバム。「Volume 1」とあるように、2000年にリリースされた《Wasp Star》と対になっている(Vol.1アクースティック、Vol.2エレクトロニック)。サウンドがアメリカナイズされ、Andy Partridgeのソング・ライティングもマンネリ化していた前作《Nonsuch》(Virgin 1992)に較べるとリフレッシュされている。ウィリアム・アンダーソンの著作が元ネタと思しき〈Greenman〉、「君の辞書の中に僕の言葉はない」と皮肉たっぷりに妻の4レター・ワード(hate、kick、fuck、slap、cold、shit)を引く〈Your Dictionary〉‥‥。Colin Mouldingの2曲も相変わらず冴えている。孔雀の羽1枚だけのシンプルなスリーヴ、インナー(CDトレイ内)のアップル・シルエットも可愛い。この2枚のアルバムがXTCの新たな出発ではなく「終焉」だったことは長年のファンの1人として、とても残念である。

  • ◎ BEETHOVEN CHOPIN KITCHEN FRAUD(Siesta)Loveletter
  • デレク・ジャーマン監督作品の音楽を担当していたことで知られるSimon Fisher Turnerにはルクセンブルグ王(The King Of Luxembourg)というコスプレ・キャラが存在した。ドリーミィでメランコリックでビター・スウィートな、でも少し狂っている美少年?‥‥デビュー・アルバム《Royal Bastard》(el 1987)に収録されたThe Monkees〈Valleri〉(途中からマカロニ・ウエスタン調になっちゃう!)や、P.I.L.〈Poptones〉の白昼夢のようなカヴァ曲は秀逸だった。ラファエル前派や少女マンガの世界から抜け出て来たような美形騎士ジャケットの2nd《"SIR"》(1988)から10年後(《"SIR" / Royal Bastard》の2in1CDは1989年のリリース)に、あのルクセンブルグ王が還って来た!‥‥Mr.ラヴレターと名前を変えて。

    Loveletter名義の新作は仏elレーベルの流れを汲むスペインsiestaからのリリース。かつての盟友Louis Philippeのアレンジで、ノイズ混じりの捩れたポップ・ワールドを完璧に再現している。全14曲(自作1曲を除く)のカヴァ・アルバム。Quincy Jones、Bee Gees、Syd Barrett、Electric Prunes、The Associationなど‥‥選曲のセンスも洒落ている。サイケデリックな〈Apples & Oranges〉や狂った子供たちの〈Wind Up Toys〉。映画『ミニミニ大作戦』(1969)のサントラ曲〈On Days Like These〉のキス擬音(ズズー、ズズーズ、ズズズ)や〈Rose Petals Incense & A Kitten〉の仔猫の鳴き声(ミャ〜〜〜オン、ブルブルブルブルブル‥‥)に昇天ちゃうのだ。甘酸っぱく切ない青春時代の「記憶」(シュミラクル)が甦ります。

  • ◎ KOL YISHAMA(Polydor)Nourith
  • Nourith嬢のデビュー・アルバムは衝撃的だった。アクースティック+アラビック風味という今までありそうでなかったアイディア、伝統音楽と現代的なポップスの混じり具合いの比率が絶妙で、ワールド・ミュージック愛好家たちのハートを鷲掴みにする。8ビートから逸脱するポリリズム、アラブ系歌唱独特の巻舌コブシ回し、ニュー・エイジ〜アンビエント〜プログレ風の音像‥‥そして何よりもNourith自身のエキゾティックな容貌に惹かれたのだ(まるで山岸凉子や森川久美先生が描く耽美女性キャラみたいではないか)。前半は平静を装っていても、唯一英語で歌われる7曲目の〈Universal Hobo〉以降、彼女のミステリアスな魔力に抗えなくなる。Kate Bushを彷佛させずに措かない〈Aye At〉、Nourithのルーツである古典音楽に挑戦した「3000年前の楽曲!」という〈Shabehi〉‥‥Eric Serraが手懸けた〈Ela〉は2コーラス目のスネアが入って来る瞬間と、間奏部の彼女のアラブ風ギミックに魅惑される。

  • ◎ 60 SECOND WIPE OUT(DHR)Atari Teenage Riot
  • 昨年(2007)の暮れ、アップルストア(渋谷)に立ち寄ったら、ちょうどAlec Empireの店内ライヴが始まるところだった。デジタル・ノイズの嵐!‥‥駆けつけたファンは狂喜乱舞でも、一般客にとっては騒音以外の何者でもない(営業妨害?)。ATR名義の3rdアルバムはタイトル通りの内容で、9曲入りのライヴCD(Philadelphia 1997)がオマケに付く。ハードコア・パンク、インダストリアル、ヒップホップ、ラップ、テクノ、ダブ、ドラムンベース‥‥すべてに「ノイズ」という香辛料が大量にブチ込まれている。赤唐辛子色に染まった激辛料理みたいに。絶叫女性ヴォイスにはライオット・ガルー(Riot Grrl)と相通じるものがある。Andy Wallaceのミックス、Kathleen Hanna(Le Tigre)も参加しています。近未来戦闘レース・ゲーム『WIPEOUT』のBGMには過激すぎるかもしれません。

  • ◎ ULTRA ー OBSCENE(XL)Breakbeat Era
  • ドラムンベースの革新者Roni Sizeが結成した新プロジェクト、Breakbeat Eraのデビュー ・アルバム。Roni Size、DJ Die、Leonie Laws(ヴォイス)の3人組で、かつてのトリップホップ・ユニットのように女性ヴォーカルがフィーチャーされている(ポスト・トリップホップを狙った?)。「超ワイセツ」というタイトルに反し、硬質でストイックなトラックが全15曲・74分以上に渡って繰り広げられる。トリップホップのように暗鬱でも淫靡でも耽美でも変態でもゴシックでもない。実験的な暗黒舞踏というよりはアクロバティックな曲芸や体操競技に近い。つんのめるようにシンコペーションする高速ビートと重低音ベース‥‥ドラムンベースが穿った風穴から近未来の音楽が聴こえたような気がしたのは20世紀末の一瞬の「幻聴」だったのか。ハードカヴァ風ジャケットの手触りは悪くないのだが。

  • ◎ COBRA AND PHASES GROUP PLAY VOLTAGE IN THE ...(Duophonic)Stereolab
  • Stereolabが存在しなかったら、The Bird & The BeeもSoy Un Caballoもデビューしなかったかもしれない。The Bird & The BeeSoy Un Caballoもデビューしていなかったかもしれない。《トマト・ケチャップ皇帝》(1996)に引き続いて、John McEntireとJim O'Rourkeの2人が楽曲のほぼ半分ずつをメンバーと共同プロデュースしている。Stereolabの面白さは変幻自在のリズムにある。6拍子の〈The Free Design〉、5拍子(サビ部分は7拍子)の〈Blips Drips And Strips〉など。「この曲で踊れる?」 と悪戯っぽく微笑む実験好きの少年の姿が思い浮かぶ。Lætitia Sadierの愛想の欠片もない低温ヴォイスに、Mary Hansen(2002年に交通事故で彼女を失ったのは痛かった)の可憐なコーラスが彩りを添える。エレクトロニカというよりもポスト・ロックの未来の記憶が埋め込まれている。全15曲・75分45秒の大作。年間ベスト・アルバムの枠を超えた傑作でしょう。

  • ◎ ULTRAMEN(Rock It! 1998)Ultramen
  • ブラジル国内では日本のアニメや特撮SFドラマが頻繁に放映されているらしく、 来日したLenineが「ナショナルキッド」の主題歌をライヴで披露したとか、Moskaのアルバム・スリーヴの中に「鉄人28号」が掲載されていたとか‥‥笑える話も少なくない。6人組のミクスチャー・バンド、ウルトラメンの連中も「My name is Ultramen is not Ultraseven」と〈So Now I Let You Go〉の中で宣言しているくらいだから、相当の特撮オタクなのかもしれない。ヒップホップとヘヴィメタ・ギターの食い合わせの悪さが夜店の焼ソバ(辛子マヨネーズ入りウルトラ麺?)みたいな猥雑野卑な魅力になっている。ファンク、ラップ、メタルで決めたかと思うと、ラスト曲でレゲエ / ダブの澱みに深く沈んだりする闇鍋悪食体育会系ノリが癖になりそう。日本のウルトラおたくは彼らの存在を知っているでしょうか。

  • ◎ ISOPOR(Plug)Pato Fu
  • デビュー・アルバム《Rotomusic De Liquidificapum》(Cogumelo 1993)がヨーロッパ経由で紹介されたことからも分かるように、Pato Fuはブラジル発でありながら欧米のギター・ポップ・バンド(渋谷系?)に限りなく近い。ポルトガル語で歌っていなければUSインディーズかスウェーデン産のグループかとも見誤り兼ねない?‥‥などとシタリ顔でいると、とんだシッペ返しを受けてしまう。1曲目が英語どころか日本語で歌われているのだから。紅一点のFernanda Takai嬢は日系ブラジル3世だが、日本語に精通しているわけではない。それでもドメスティックで記号化したJーPOPの日本語とは全く別の言語として日本人の琴線に響く。〈Made In Japan〉はアメリカ製のアンプの部品が殆ど「日本製」だったことにビックリしたという内容で、その前半部に「ゲンバク」への言及がある。2つの核爆弾によって敗戦を余儀なくされた日本が戦後の高度成長〜工業製品の輸出でアメリカに「アダを返している」というわけだ。

    〈Made In Japan〉の後半に「NASA」(米国航空宇宙局)が登場するのは、日米宇宙開発協力〜日本人宇宙飛行士たちの活躍を暗に指しているのだろう。彼らは宇宙から帰還した自国パイロットたちの精神状態が良くないことに危惧感を抱いたNASA当局によるモンゴロイドの「人体実験」と看做すべきだし、月面から青い地球を眺めてみたいという無邪気な夢を語る人も少なくないけれど、その光景を現実に目の当たりにしたら正常な精神の持ち主は発狂するのではないか。そもそもNASA以前に「日米軍事同盟」という頸木が重く横たわっているし、沖縄に象徴される米軍基地問題(米兵の犯罪)がある。日本人の「現実」をPato Fuのメンバーは知っているのだろうか?‥‥いや、そうではない。日本語で歌われているのはアイロニカルな日本国・日本人像だろう。傑作なPV〈Made In Japan〉のオチは、アメリカ(NASA)の戦闘ロボットの中身も「日本製」だったのだから。マナ・マナ♪

  • ◎ AFTERGLOW(Heavenly)Dot Allison
  • 夕闇の中に浮かび上がる金髪女性の横顔。物憂げに歩道に座って気怠そうに路上を歩く。黄昏は逢魔の時間?‥‥〈Colour Me〉や〈Close Your Eyes〉の蠱惑的なヴォイス(目を閉じて / 私を太陽まで連れて行って / ゆっくりと燃えるわ / 天国で一緒になるの)に瞬殺されちゃう。Dot Allisonのソロ・デビュー・アルバムはダビーでダウナー系のトリップホップで、Magnus Fiennesとの共同プロデュースしている。〈Tomorrow Never Comes〉は儚げな妖精の囁き。〈Message Personnel〉でKevin Shields(MBV)のノイズ・ギターが鳴っていると書くと、食指の動く人もいるかもしれない。Emiliana Torriniのデビュー・アルバム《Love In The Time Of Science》(Virgin)やSolex《Pick Up》(Matador)との比較で迷ったけれど、Dot Allisonの容姿の方が勝ったということで‥‥ミステリアスな金髪美女に弱いのよね。

                        *
    • ◎ 輸入盤リリース→入手順 ● Compact Disc規格外のCCCDは除外しました

    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです

    • Nourith《Kol Yishama》は〈フレンチな娘たち〉からの転載(一部改稿)です
                        *




    Cobra And Phases Group Play Voltage In The Milky Night

    Cobra & Phases Group Play Voltage In The Milky Night

    • Artist: Stereolab
    • Label: WEA International
    • Date: 1999/09/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Fuses / People Do It All The Time / The Free Design / Blips Drips And Strips / Italian Shoes Continuum / Infinity Girl / The Spiracles / Op Hop Detonation / Puncture In The Radak Permutation / Velvet Water / Blue Milk / Caleidoscopic Gaze / Strobo Acceleration / ...


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    Kol Yishama60 Second Wipe OutUltra-Obscene

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    コメント 3

    yubeshi

    なかなかコメント出来なくて申し訳ないです。
    Apple Venusがふさわしいのでこの記事にします。
    私はシングルにもなったEaster TheatreとI Can't Own Herが好き。
    孤高のXTCの中でも孤高な他に類を見ないアルバム。今でも結構聴きますよ。
    by yubeshi (2008-04-14 21:48) 

    yubeshi

    で、何故Apple Venusがふさわしいのかと言うと、照れくさいのですが謝罪と感謝を述べたいからです。
    ごめんなさい、ありがとう。
    by yubeshi (2008-04-14 21:50) 

    sknys

    yubeshiさん、コメントありがとう。
    《Apple Venus》はメルヘンチックというか、浮世離れしていますよね^^
    箱庭的な《Skylarking》から解放された大らかさがある。

    君が近くにいると困難さを感じたり、
    カモメの鳴き声が強迫観念になったりする内気な若者の
    結婚〜離婚という背景に思いを馳せると、
    〈Your Dictionary〉も味わい深い(苦い?)^^;

    いつも記事を読んでもらって、こちらこそ感謝しています。
    英語に素敵な言い方がありました。
    I can't thank yubeshi enough.
    by sknys (2008-04-15 23:11) 

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