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アルゼンチン音楽を聴こう [r e w i n d]

  • SILVER SORGO (Interdisc 2001) Spinetta

  • カエターノ・ヴェローソにも似た中性的なヴォイスが麗しい。メジャー7thのメロウなオープニング曲、流麗なハチロク(8分の6拍子)、婉然なるバラードと続く。良い気分に浸っていた健全なリスナーを4曲目後半の「音跳び」(不良CD?)が奈落の底に突き落とす。オーソドックスなロック基本形態なのに、澄み切った空気の中の陽光に煌めきのように、その存在を際立たせる。夢見がちな午睡の陶酔感と青空に突き抜ける覚醒感の混淆。曖昧な身体と鋭敏な意識の交錯。消滅する肉…#01



  • CUERPO (Union De Musicos 2003) Florencia Ruiz

  • デビュー作《Centro》(2000)は自主制作CDーR(6曲)、2ndの本作は9曲入り、最新作《Correr》(2005)は全11曲という風に、頭文字Cの6文字タイトルに拘泥るアルゼンチン音響派の歌姫。愛猫ベニータとの2ショット・カヴァ‥‥敢えて余白を取ってトリミングした写真が猫と人の親密性を強調する。フロレンシア・ルイスのギターとキーボード、サンプラーに、チェロ、ヴァイオリン、コントラバス、ピアノなど、必要最小限の小宇宙に静謐なヴォイスが神秘的に響く。音数…#02



  • AHORA (Asterisco 2003) Sebastian Escofet

  • 歪んだタイヤ、折れたスポーク、錆び付いた駆動部‥‥白地をバックにした一輪車から中身を類推するのは難しいかもしれない。4つ折りした1枚の歌詞カードと思いきや、開いてみると3面立体の内側に歌詞がプリントされていた‥‥アルゼンチンのインディ・レーベルならではの洒落た仕掛けである。ドリーミングな曲調、優しい囁きヴォイス、サウンドも洗練されていて、音響派という名に相応しい。Robert Frippの門下生だったFernando Kabusackiや若きマルチプレーヤのEzequiel…#03



  • 39° (Los Anos Luz 2007) Lisandro Aristimuno

  • 熱に魘されて描いた絵は平熱に下がってから見直すと、夢から醒めた時のように色褪せてしまうものだが、何か尋常でないものの残滓が妖気のように浮遊していたりする。「39度」と題されたアルバムはLisandro Aristimunoが高熱を発して寝込んでいた時に書き留めたアイディアが元になっているという。チ ェロ、チャランゴ(Charango)、チューバ、トロンボーン、トランペットなどが奏でる優雅なフォルクローレで始まり、次第に奇妙なエレクトロニカ色へ染まって行く。タップダ…#04



  • Miniatura (Independiente 2010) Lucio Mantel

  • 魚貝類やボタンなどを集積コラージュしたアルチンボルド風のトロンプ・ルイユは猪や犀の横顔のようにも見える。Lucio Mantelの2ndアルバムは少々グロテスクに見えなくもないカヴァとは対照的にロマンティックな詩情で溢れている。Lucio Mantelのギター弾き語り、Andy Inchaustiのパーカッションにヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ヴィブラフォン、チューバ、トロンボーン、クラリネット、フルートなどのオーケストラを融合させた優雅で麗しいサウンドに…#05



  • MARGARITA Y AZUCENA (Los Anos Luz 2007) Mariana Baraj

  • 女性パーカッション奏者の《雛菊と百合》は全曲カヴァ集ながら、チリ、ボリヴィア、アルメニア、ケニア、キューバ、母国アルゼンチン‥‥という風に、第三世界の楽曲を好んで選曲・アレンジしているところに強い意志を感じる。フリー・インプロヴィゼーション風の攻撃的な〈Maldigo Del Alto Cielo〉、7拍子の〈Agua Negara〉、歪んだアナログ・シンセが暴れる変則ビートのタイトル曲〈Margarita Y Azucena〉、Tete Espindolaのヴォイス・パフォーマンスを想わせるBobb…#06



  • LOS SENDEROS AMARILLOS (Sony BMG 2008) Loli Molina

  • ブエノス・アイレス生まれの女性SSW、Loli Molinaちゃんのデビュー・アルバム(当時20歳)。いわゆる生ギター弾き語りタイプの自作自演歌手で、あどけなさの残る顔立ちから発する舌っ足らずのロリータ・ヴォイスはVanesa Paradisを想わせなくもない。Nico Cotaのプロデュースによるアルバムは土臭いフォルクローレではなく、都市生活者のための洒落たポップス。ローズ・ピアノ、ウーリッツァー、ムーグ・シンセ、メロトロンなどの柔らかなエレクトリック・サウンドに包…#07



  • Solo (Independiente 2010) Andy Inchausti

  • 両手を水平に広げてスカイ・ダイヴィングするパイロット。ギター、コンガ、ドラム、ハイハット、スティック、親指ピアノなどの楽器だけでなく、眼鏡をした黒い犬までが茜色の空から舞い落ちて来るアルバム・カヴァ。Santiago Vazquezの率いる「赤い爆弾魔」、打楽器集団ラ・ボンバ・デ・ティエンポ (La Bomba De Tiempo)のメンバー、アンディ・インチャウスティ(Andy Inchausti)のソロ・デビュー・アルバム。Santiago Vazquez(タブラ、エフェクト)に加えて、…#08



  • POR LOS MARES (Sofia Escardo 2011) Sofia Escardo

  • 折り紙の舟に乗って眠る女たちの髪の海を渡る男、石蹴り遊び図の描かれた石畳の奥に座る5人のストリート・ミュージシャンと水色のドレスの女とシルクハットにステッキの男‥‥メキシコの画家ベンジャミン・バリオスのイラストを表・裏2面に使ったアルバム・カヴァが実は1枚の絵であること、紙の舟で航海する男の絵が7人の人物のバックに描かれた壁画であること(人頭鳥身のハーピィや黄色い蝶が描かれている)が同封された「オリジナル・ポスター」(35×23cm)で分かる…#09



  • Milagros (Union De Musicos 2013) Milagros Torrecilla

  • ミラグロス・トレッシージャはアルゼンチン・フォルクローレ歌手。デビュー・アルバムはMilagros Torrecilla(クアトロ、チャランゴ、ギター、パーカッション)、Leo Gutierrez (ギター、ヴォーカル)、Mariana Baraj (ヴォーカル、パーカ ッション)、Lucas Nikotian(アコーディオン)という編成でレコーディング。アクースティック・ギターによる〈He De Seguir〉、タンゴ調の〈Puentecito De La Picoda〉 、Juan Pablo Alvarezが伝統楽器の笛、アエロフォノス(aero…#10



  • 2853 (Epsa 2015) Amel

  • 某レコード・ショップで白くハレーションしたネコちゃんを見つけた。ホワイトアウトした雪景色の中のネコのように気高く凛々しい。国籍もジャンルも分からずに「猫ジャケ」買いして驚いた‥‥Amelはアルゼンチン・ブエノス・アイレス出身の5人組。奇しくも2012年に死去したルイス・アルベルト・スピネッタ(Luis Alberto Spinetta)の弟グスタヴォ(Gustavo Spinetta)と甥ゴンサロ(Gonzalo Pallas Spinetta)が在籍しているロック・バンドだったから(ゴンサロは姉アナ…#11



  • UN VASO DE AGUA (Eden Srl 2015)Candelaria Zamar

  • 藍色や緑色の絵具を溶かしたような白い空間に映るラファエル前派風女性の横顔ポートレイト‥‥Candelaria Zamarはアルゼンチン・コルドバ出身の女性SSW。デビュー・アルバム「水のグラス」は24秒の〈Intro〉を含めた全9曲、26分という短さだが、清冽な透明感に溢れている。彼女の弾くピアノ、ローズ・ピアノ、シンセ、ウーリッツアに不穏なサンプリング(ノイズ)やエフェクト、口笛、ウクレレ、多重録音されたコーラスやスキャットなどを加えた音数の少ないサウン…#12



  • MUDAR (Independiente 2016) Melina Moguilevsky

  • アルゼンチン・ブエノス・アイレス生まれの女性SSW、メリ ーナ・モギレフスキー(Melina Moguilevsky)が2ndアルバムをリリースした。Tomás Fares(ピアノ)、Lucio Balduini (ギター)、Ezequiel Dutil(コントラバス)、Martín Rur (クラロン、クラリネット、サックス、口笛)、Mario Gusso (ドラムス&パーカッション)の5人編成に、トランペットとトロンボーン、フルート、チェロとグロッケンシュピールのゲスト・ミュージシャン加わって、彼女の可愛らしいソプ…#13



  • HALO (Crammed Discs 2017) Juana Molina

  • 1人だけで録音した《Wed 21》(2013)から3年半、フアナ・モリーナの7thアルバムは宅録から、スタジオ・レコーデ ィングへ1歩踏み出した。テキサス郊外のスタジオで録音したアルバムにはライヴ・サポート・メンバーのOdin Schwartz (ベース、シンセ、ギター)とDiego Lopez de Arcaute(ドラムス)が参加している。John Dieterich(Deerhoof)がギターを弾いた〈In The Lassa〉、6拍子の〈Paraguaya〉と〈Estalacticas〉、7拍子の〈Cosoco〉など。アルバム…#14



  • EL BUEN GUALICHO (Casa Del Arbol 2017) Natalia Doco

  • ナタリア・ドコ(Natalia Doco)はアルゼンチン・ブエノス ・アイレス生まれの女性SSWで、2011年から活動の拠点をパリに移している。アルゼンチン音響派のアクセル・クリヒエール(Axel Krygier)によるプロデュースの2ndアルバムは仏レーベルからリリースされた。フォルクローレやクンビア、フレンチ・ポップスなどをスペイン語やフランス語で歌う摩訶不思議な世界‥‥女占星術師風のアルバム・カヴァは近寄り難いけれど、ツンデレ系の可愛いヴォイスに一瞬で惹き込ま…#15


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    「ミュージック・マガジン」(2019年5月号)の創刊50周年記念ランキング「ブラジル音楽 オールタイム・アルバム・ベスト100」の便乗・相乗り企画〈ブラジル音楽を聴こう1・2〉に続く第2弾は 「ラティーナ」(2019年5月号)の特集「アルゼンチン音楽を聴こう」。栗本斉、高橋健太郎など5人の座談会と40人の選者(座談会の5人を含む)による 「これからアルゼンチン音楽を聴く人のための〈私の5枚〉」 が掲載されている。雑誌媒体では紙面の制約があるけれど、ブログ記事にするには「5枚」では少ないので、3倍に拡張した。アルゼンチン音楽との出会いは今は亡き「ヴァージン・メガストア新宿」だった。ここで初めて聴いたJuana Molina《Segundo》(Blabla 2000)の衝撃は今でも鮮明に記憶している。21世紀以降にリリースされたアルバムの中から1アーティスト(バンド)・1アルバムという縛りで15枚を選出。〈ブラジル音楽を聴こう〉と同じく、順位はつけずに年代順とした。

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    • アルバム・タイトルは試聴可能なサイト、画像はAmazon.co.jp.にリンクしました
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    ラティーナ2019年5月号

    ラティーナ2019年5月号

    • 特集:アルゼンチン音楽を聴こう
    • 出版社:ラティーナ
    • 発売日:2019/04/20
    • メディア:雑誌
    • 執筆者:栗本斉 / 高橋健太郎 / 杉本亮 /五十嵐あさか / 石郷岡 学 / 伊藤亮介 / 稲葉昌太 / 宇戸裕紀 / 岩川光 / 楳田愛 / 江利川侑介 / 河合宏知 / 岸田繁 / 久間珠土織 / 清川宏樹 / コトリンゴ / 斉藤欽也 / shhhhh / 清水久靖 / 下田悠子 / Jongaleiro / 鈴木一哉 / ソリヤマ / 谷本雅世 / 中川理沙 / 中村智昭 / 中村信彦 / 成田佳洋 / 橋本徹 / 松山晋也 / マノスケ / 濱瀬元彦 / 古川麦 / 山田竜輝 / 山本勇樹 / ヨシザワ "モー...


    アルゼンチン音楽手帖

    アルゼンチン音楽手帖

    • 著者:栗本 斉
    • 出版社:DU BOOKS
    • 発売日:2013/06/07
    • メディア:単行本
    • 目次:まえがき「オーガニックでボーダレスなアルゼンチン音楽の世界へ」「21世紀のアルゼンチン音楽」/ 第1章 水 -Aqua- / 特別寄稿 橋本徹「素晴らしきメランコリーのアルゼンチンをたずねて三千里」/ ...

    コメント(4) 

    コメント 4

    ぶーけ

    今年は花粉が長くて、5月の初めまでひきずりました。
    ようやく、いい季節になって、ご機嫌です。^^
    アルゼンチンはタンゴ以外全く知りません。
    sknysさん、守備範囲が広いですね。
    by ぶーけ (2019-05-18 15:30) 

    sknys

    天候不順のせいか、まだ体調は戻っていません。
    このまま鬱陶しい梅雨に突入しそうです^^;
    タンゴだけじゃない、アルゼンチン音楽
    ‥‥試しにスピネッタを1曲聴いてみませんか?
    https://rougerthanatos.bandcamp.com/track/el-enemigo
    by sknys (2019-05-19 00:23) 

    ぶーけ

    聴いてみました。
    う~ん、ごめんなさい。悪くはないです。
    私ストライクゾーンが狭いので。m(__)m
    暑くなりましたね。ぐったりです。
    by ぶーけ (2019-05-23 19:52) 

    sknys

    「アルゼンチン・ロックの至宝」と称されるスピネッタは2012年に逝去。
    享年62歳‥‥本当のレジェンドになってしまった。

    「エロスとデカダンスに塗り固められたこんな世界を表現できるのは、
    おそらくデヴィッド・ボウイとスピネッタくらいしかいない」
    栗本 斉 『アルゼンチン音楽手帖』

    音量低めですが、PVヴァージョンもあります^^;
    https://www.youtube.com/watch?v=eoVswSyXmCc
    by sknys (2019-05-23 22:59) 

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