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黄色い潜水艦 [m u s i c]

  


  • 僕はアッシャー家の屋根裏でベッドに横になっていた。眠りに入る前や目覚める前に心地よい「トワイライト・ゾーン」があるだろう。あれが好きなんだ。1日の仕事を終えて、もう少しで眠ってしまいそうなとき、この宙ぶらりんの国が訪れる。そんなとき、子供向けの曲が書けないかなと思っていろいろイメージしていたら、黄色が頭に浮かび、その次に潜水艦が頭に浮かんだんだ。これはなかなかいいと思ったよ。おもちゃのような、とても子供っぽい潜水艦だ。そのときからリンゴの歌にしようと考えていたから、あまり音域が広くない歌にした。頭の中でメロディーを考え、ストーリーを考え始めた。年老いた船乗りが子供たちに、昔黄色い潜水艦に乗って行ったところのことを話して聞かせるんだ。ほとんど僕が書いた曲だと記憶している。まどろみの中でできたリンゴのための歌なんだ、ジョンも手伝ってくれたと思う。歌詞がだんだんわけが分からなくなってくるからね。でも、コーラスとメロディーとヴァースは僕だよ。あのころよくやっていた言葉遊びで、わざと文法を間違えたりしている。
    ポール・マッカートニー 『イエロー・サブマリン航海記』


  • ◎ Yellow Submarine(Apple 1969)The Beatles
  • 映画『イエロー・サブマリン』(1968)の制作にファブ・フォーは殆ど関与していない。ユナイテッド・アーティスツとの契約で3本の映画を作らなければならないのに、4人には3本目を撮る暇がなかった。NYのプロデューサ、アル・ブロダックスが「最小限の労力で3本目の映画を作る方法がある」とブライアン・エプスタインに提案する。「アニメ・ザ・ビートルズ」(The Beatles)を制作していたTVCが〈Yellow Submarine〉を映画化することになるが、アメリカナイズされたTVアニメに批判的だったファブ・フォーは余り乗り気ではなかった。映画に極力関わらないことにした彼らは新曲4曲の提供と映画のラストに実写で登場するだけに留めた(アニメ・キャラの吹き替えも本人ではなく声優が演じている)。しかし、TVCのスタッフたちは子供向けのアニメではなく、《Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band》(1967)のサイケデリックな世界観を映像化した長編アニメを作ろうと意気込んでいた。試写を観たファブ・フォーは態度を改める。アルバムは映画公開から遅れること6カ月、A面にオリジナル6曲、B面にジョージ・マーティンのオーケストラによるインスト7曲を収録した変則的なサントラ盤としてリリースされた。

                        *

    ★ Yellow Submarine
    PaulがRingoのために書いた合唱歌はファブ・フォーの中でも最もポピュラーな曲の1つである。「We all live in a yellow submarine.」というサビのコーラスは子供たちが口ずさめるほどに広く親しまれている。Johnの生ギター、Paulのベース、Georgeのタンバリン、Ringoのドラムス。Ringoのヴォーカルを3人とゲストやスタッフがコーラスでサポートする。音の出る絵本のような空想世界。波、グラス、ブラスバンド(マーチのレコードからの借用)、泡、機関音、圧縮空気、鐘、汽笛などの効果音も愉しいけれど、レコーディングも大騒ぎだったらしい。お香を焚いてマリファナの臭いを胡麻化し、真夜中近くには大太鼓を胸に抱えたマル・エヴァンス(Mal Evans)を先頭に、ブライアン・ジョーンズ、マリアンヌ・フェイスフル(Marianne Faithfull)、パティ・ボイド(Pattie Boyd)など、招待されたゲストたちが一列になってスタジオ内をジグザグに練り歩いたというのだから。水の中で歌っているような声を録音したいというJohnのリクエストに応えて、コンドームに包んだマイクを水の入った牛乳ビンの中に沈めたというボツ・アイディアも笑える。

    ◆ Only A Northern Song
    『イエロー・サブマリン』のために提供した新曲4曲の1つだが、実際は《Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band》のセッション中にレコーディングされていた「ボツ曲」だった(Georgeは友人クラウス・フォアマンの家で作った〈Within You Without You〉をジョージ・マーティンと録音して名誉挽回した)。Georgeのヴォーカル(ダブルトラック)、ハモンド・オルガンにPaulのベース、Ringoのドラムスで、ギターは使用していない。トランペット、グロッケンシュピール、ティンパニー、ピアノ、ハーモニウムの逆回転などの効果音が入り混じったサウンドはサイケデリック色が濃い。曲タイトルと歌詞はファブ・フォーの楽曲(著作権)を管理する「ノーザン・ソングス」(Northern Songs)への痛烈な皮肉になっている。2つの4トラック・テープ・レコーダをシンクロさせてレコーディングしたためにミックス作業に難航して、旧アルバムは疑似ステレオだった。リマスター盤(2009)にはオリジナル・モノ・ヴァージョンが初収録されている。

    ● All Together Now
    2本のアクースティック・ギターによるPaulの弾き語り曲。サビにはファブ・フォーだけでなく、スタジオに居合わせたスタッフなどのコーラスが入る。ハーモニカ、ホルン、トライアングル、ギロなどが入ったドラムレスの愉しい歌。徐々にテンポ・アップして行き、エンディングで手拍子や歓声(笑い声)が入ってパーティ気分を盛り上げる。アニメ映画用の曲ということで、Paulは子供たちにも歌えるような童謡風の歌詞やシンプルなメロディ、親しみやすいサウンドを意識したらしい。「ピノキオ」 や「白雪姫」のような古典的で心温まるデ ィズニー風のアニメ映画をイメージしていたPaulはサイケデリックでアーティスティックな『イエロー・サブマリン』に落胆したという。「子供向けの素晴しいアニメ」というPaulの希望は叶わなかったけれど、60年代後半の熱気を反映した傑作になった。Paulが気に入らなかったのはハインツ・エーデルマン(Heinz Edelmann)の描いた自分のキャラが他のメンバーよりも気味悪かったからではないでしょうか。

    ■ Hey Bulldog
    1968年2月11日、ニュー・シングル〈Lady Madonna〉のプロモーション・ヴィデオを撮影する予定でスタジオ入りしたファブ・フォーは、その合間に新曲を1日で録音し終えてしまう。Johnのヴォーカルとピアノ、Paulのベースとコーラス、Georgeのギター、Ringoのドラムスによる豪快なロック・ナンバーで、ピアのやギターのリフがカッコ良いし、エンディングの犬の鳴き真似もクレイジーで騒がしい。『イエロー・サブマリン』のために提供した新曲の中では最も際立ったものだったが、映画では何故か「ヘイ・ブルドッグ」と呼ばれる4頭犬のシーンは最終的にカットされてしまい、リニューアル版(1999)で復活するまで「行方不明になったビートルズの曲」と言われていたという(犬の歌はあるのに「ネコ・ソング」がないのはネコ派のファンには残念なところですね。ファブ・フォーはLittle Willie Johnの〈Leave My Kitten Alone〉をカヴァしているけれど)。

    ◆ It's All Too Much
    「To your mam!」という掛け声に続いて、ギターのフィードバック・ノイズが空間を切り裂くイントロ‥‥Georgeのヴォーカルとギター、Johnのハモンド・オルガン、Paulのベース、Ringoのドラムスに外部ミュージシャンのトランペットやバスクラリネットを加えたサイケデリック・ロック。ノイジーなギター・ソロ、パーカッシヴなクラップハンド、変幻自在のドラミングなどが祝祭的なインナースペースを創り出す。〈All You Need Is Love〉と並び、映画『イエロー・サブマリン』の大団円に相応しい。6分を越える大作は過剰なまでに溢れ出る愛を謳う。君の瞳の中に光輝く愛を見つけて、内面世界を旅するという歌詞には65年のLSD体験や後のインド滞在中に行なうことになる瞑想修行に通じるものがある。アニメ映画に批判的だったPaulも子供向けではなく、Johnの〈Hey Bulldog〉やGeorge〈It's All Too Much〉のような楽曲を提供していれば、もう少し聴き応えのあるアルバムになったのではないかと惜しまれる。

    ■ All You Need Is Love
    1967年6月25日、初の衛星中継TV番組「OUR WORLD」で、世界26ヵ国へ向けて演奏されたメッセージ・ソング。英国では12日後の7月7日に15枚目のシングルとしてリリースされた。「愛こそはすべて」という単純明快な歌詞に反して、Aメロは4/4と3/4が交互に繰り返される変則リズムになっている。Johnのハープシコード、Paulのダブルベース、Georgeのヴァイオリンにサックス、トロンボーン、トランペット、フリューゲルホルン、アコーディオンなどを配した編成。コーラスにはミック・ジャガー、キース・リチャーズ、キース・ムーン、マリアンヌ・フェイスフル、エリック・クラプトン、パティ・ハリソン、ジェーン・アッシャー(Jane Asher)、グレアム・ナッシュ、ハンター・デイヴィス(Hunter Davies)など豪華ゲストが参加している。イントロのフランス国家〈ラ・マルセイエーズ〉、エンディングのバッハ〈インヴェンション8番ヘ長調〉、グレン・ミラー〈イン・ザ・ムード〉、イングランド民謡〈グリーンスリーヴス〉、Johnの〈Yesterday〉と〈She Loves You〉を引用するジョージ・マーティンの編曲も愉しい。映画ではブルーミーニーズの秘密兵器「空飛ぶ手袋」(Flying Glove)との対決シーンで歌われる。

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    《Yellow Submarine Songtrack》(Apple 1999)はリニューアル版『イエロー・サブマリン』の公開に合せてリリースされた。いかにも中途半端だったサントラ盤の不備を30年後に刷新するものだった。旧アルバムのA面に収録されていた6曲に、映画の中で使われた9曲を加えて、アビー・ロード・スタジオのピーター・コビン(Peter Cobin)がリミックス&デジタル・リマスタリングしている。たとえば〈Yellow Submarine〉の波の音が左右に流れ、〈Hey Bulldog〉の迫力が増し、〈Eleanor Rigby〉のヴォーカルは中央に定位する。〈Only A Northern Song〉もステレオ・ヴァージョンとなった。《Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band》や《Revolver》(1966)だけでなく、〈Nowhere Man〉〈Think For Yourself〉という《Rubber Soul》(1965)の収録曲も違和感がない。ソングトラック盤を聴いていると、実写をコラージュした〈Eleanor Rigby〉や色彩が乱舞する〈Lucy In The Sky With Diamonds〉のアニメーションが今でも色褪せることなく甦る。

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    • ■ John Lennon ● Paul McCartney ◆ George Harrison ★ Ringo Starr

    • 〈Yellow Submarine〉と〈All You Need Is Love〉は再録(一部改稿)です

    • 『Yellow Submarine』(New English Library 1968)の日本語訳版は出ないの?
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    Yellow Submarine

    Yellow Submarine

    • Artist: The Beatles
    • Label: EMI
    • Date: 2009/09/09
    • Media: Audio CD
    • Songs: Yellow Submarine / Only A Northern Song / All Together Now / Hey Bulldog / It's All Too Much / All You Need Is Love // Pepperland / Sea Of Time / Sea Of Holes / Sea Of Monsters / March Of The Meanies / Pepperland Laid Waste / Yellow Submarine In Pepperland


    Yellow Submarine Songtrack

    Yellow Submarine Songtrack

    • Artist: The Beatles
    • Label: Capitol
    • Date: 2012/06/04
    • Media: Audio CD
    • Songs: Yellow Submarine / Hey Bulldog / Eleanor Rigby / Love You To / All Together Now / Lucy In The Sky With Diamonds / Think For Yourself / Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band / With A Little Help From My Friends / Baby You're A Rich Man / Only A Northern Song / All You N...eed Is Love / When I'm Sixty Four / Nowhere Man / It's All Too Much


    イエロー・サブマリン航海記

    イエロー・サブマリン航海記

    • 著者:ロバート・R・ヒエロニムス(Robert R. Hieronimus)/ 清川 幸美(訳)
    • 出版社:ブルース・インターアクションズ
    • 発売日:2006/09/22
    • メディア:単行本
    • 目次:『イエロー・サブマリン』はいかにして「穴の海」に消えたか / ビートルズは映画制作にほとんどかかわらなかった / まどろみの中から現れた「イエロー・サブマリン」は、大帝国を誕生させた /『イエロー・サブマリン』の真のデザイナー、ハインツ・エーデルマンに「イエロー・サブマリン・アートの父」の称号を / オール・トゥゲザー・ナウ──『...


    ザ・ビートルズ全曲バイブル ── 公式録音全213曲完全ガイド

    ザ・ビートルズ全曲バイブル ── 公式録音全213曲完全ガイド

    • 編者: 大人のロック!
    • 出版社:日経BP社
    • 発売日: 2009/12/07
    • メディア:ハードカヴァ
    • 目次:英米公式全作品の系譜 / 公式録音全213曲徹底ガイド(2トラックレコーディング時代〜ライヴ演奏スタイルでの録音/ 4トラックレコーディング時代 1〜アレンジの幅が広がりサウンドに深み / 4トラックレコーディング時代 2〜バンドの枠を超えた録音の始まり / 4トラックレコーディング時代 3 〜ロックを芸術の域に高める/ 8トラックレコーディング時代へ〜サウンドと作品の多様化 / 8トラックレコーディング時代〜原点回帰...と円熟のサウンド)/ 録音技術の変化と楽曲解析方法

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    コメント 2

    ノエルかえる

    こんにちわ、
    実は、今朝、この御記事を読んで、
    「イエロー・サブマリン」の歌詞を改めて見て、訳してみました。
    マッカートニーの回想では、「潜水艦」なのですけれど。
    歌詞だけ読むと、潜水艦には思えなくて、、
    と言うか、歌詞からは、ある町の港から黄色い潜水艦に乗り込んで、
    航海に出掛けて、楽しく暮らした、と言うストーリーが見えなくて、
    、、
    若者は皆、the sun 栄光目指して、sailed on 滑り出したけど、
    ほとんどの者は、green 青二才で失敗して、
    yellow submarine 黄色い海底に沈んだけど、
    それはそれで、まあいいさ。
    と言うストーリーが、私の頭には浮かんで来たのです、
    、、、
    by ノエルかえる (2013-07-22 22:35) 

    sknys

    ノエルかえるさん、コメントありがとう。
    映画『イエロー・サブマリン』はPaulの子供向けの歌を
    サイケデリックなポップアートに描き変えたわけですが、
    「We all live in a yellow submarine」という歌詞は不可解だなぁ。
    潜水艦の中で一生暮らして行くような息苦しさが感じられて‥‥。

    この引きこもりというか、内向的な歌詞は〈I'm A Loser〉や
    〈Help!〉〈Strawberry Fields Forever〉などに通じる
    Johnのテイストではないかしら。
    そう解釈すると『イエロー・サブマリン』も気味の悪い物語に思えて来ます。
    by sknys (2013-07-24 00:25) 

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